学園一年生 1 初授業と風呂での密談
今週から通常授業が始まる。
フルで授業をとるなら午前二科目、午後二科目だ。
学園内が広いため、移動時間が考慮されているのと、休憩時間も長い。休憩が長いのは生徒同士の交流に重きを置いた学風だからだろう。
こちらの世界でも7日で一週間。こちらの曜日の呼び方は週により呼び方が変わる特殊なものなので、便宜上前世の曜日で把握している。
月、金曜日は武術で固められている。週2回武術の日があることになる。
武術の科目は、服を着替える必要があるため、同日にしているのだろう。
1〜3限は各種武器の鍛錬、4限は剣で、技能差でクラス分けがされている。
1時限目 武術槍にベアトリス、武術弓にラファルが参加、3時限目 武術大剣にフエゴが参加している。
ラファルは武術科目は受けないつもりでいたようだが、父のユアンが得意とする弓を受けるようにしたらしい。
フエゴも、剣だけで良いと思っていたが、時間が余る分、新しい武器に挑戦したいということで、体格に合った大剣の科目をとることにしたようだ。
4限の武術最高クラスには俺、フエゴ、テールが参加する。
ベアトリスとラファルは、専門武器のみ使用することから、武術クラスには参加していない。
傍目で確認するとマリアは武術初級クラスに参加するようだ。
今日は初日なので打ち合いはないだろう、と思っていたが、最高クラスなので、肩慣らしに打ち合うことになった。
食堂で話していた際、早く打ち合ってみたいと思っていたフエゴが、テールに相手を申し込む。
俺も双剣使いのテールと戦ってみたいが、フエゴに先を譲る。
2人が向き合い礼をし合い、打ち合いが始まる。
少しお互いに様子を見ているようで慎重に始まるが、すぐに激しい打ち合いとなる。
あくまでも練習のため、お互い木剣だが、通常持っている剣を模してある。
テールが持つ双剣は、一般的な剣より短く、軽量にして手数を増やす戦い方のようだ。
一方、フエゴは大剣のように両手を使わなければいけないサイズの大型の剣を片手で振り回し、左手には盾を持っている。
あれほどのサイズの剣であれば通常は大振りになってしまうが、フエゴ自体が大柄で筋力があるので軽々と振るっている。
テールの攻撃はリズムが独特で、素早さもあり、最初はフエゴが防戦一方に見えたが、盾をうまく使い、軽めの剣を弾いていた。
速さに慣れてからはフエゴの方が押してきた。
木剣といえど、一撃が重いためテールは受け止めずに避けなければならない。
恐らく受け止めようとするとテールの剣が折れるだろう。
「降参!やっぱ本当の武器じゃないと分が悪いよ!」
「木剣じゃなくても、簡単に折れそうですが?」
「うちの鍛治技術で打った剣はもっと軽いから攻撃しやすいし、技術があればフエゴの剣を受け流しても折れないから。もちろん、真正直に受けたら折れちゃうけどね」
「それはぜひ、真剣を使ってやってみたいですね。」
こいつらは戦闘狂か?と心の中で突っ込みつつ、俺も戦ってみたくてうずうずする。
「テール、次は俺とやろう。」
「お手柔らかにね。」
といいつつ負ける気はない、という表情だ。
礼をして、開始。
わかってはいたが、俺とテールはスピードタイプ。
相手の攻撃は受け流しつつ、手数多く攻撃するスタイルだ。一撃はお互いに重くない。
先程のフエゴの時と違い、木剣でも受け止めることが可能だ。
先程フエゴとテールの打ち合いを見た後だが、外から見ているより双剣は厄介だ。
体を回転させるようにしながら、思わぬタイミングで第二撃、第三撃と繰り広げられ、休む暇がない。
連続した打撃を噛んで受け流していき、反撃のタイミングを計る。
ここだ。
連撃の合間の僅かな隙をつき、剣を振り下ろす。
決まったと思ったが、双剣を交差させ、俺の一撃を受け止めるテール。
が、受け止めたテールの木剣の一本が折れる。
「そこまで」
いつの間にか俺たちの打ち合いを見ていた講師が終了の合図をかける。
その声で俺とテールは剣を下ろす。
「やっぱりシャルルも強いね。2人に負けてるようじゃ俺もまだまだだな。頑張らないとね。」
「木剣じゃなければ分からないがな。」
最後に放った一撃を受け止められたのだ。
剣の鍔があれば弾かれていたのは俺の方だっただろう。
最高クラスに所属している者は俺たち以外には3人だけ。アカサンドリアの者だけだった。
3人とも打ち合ったが、このクラスにいるだけあって良い腕をしている。
2人は剣を使っていたが、1人は短槍を使用しており、突き攻撃が鋭くてなかなか厄介だった。
打ち合ってみて分かったが、俺、フエゴ、テールは他の3人よりも数段強い。
その後、俺たちのクラスは、他の初級、中級、上級クラスの練習風景を見ながら講師に解説を受けることになった。
上級クラスの者は20人程度。
このクラスも今日は軽く打ち合い、の筈が怪我をしている者が多い。怪我をしないように打ち合うにも技術がいるのだ。俺もフエゴと練習を始めた当初はよく怪我をした。横でアランが見ていて、危なそうな時は止めてくれたから大きな怪我はしなくて済んだが。
中級、初級クラスは型から。
並んで型の稽古をすると上手下手が一目瞭然だった。初級クラスに至っては、初めて剣を握ったであろう者が数人いる。初心者も含め、初級クラスの者は周りを見ながら見様見真似で型の練習をしている。恐らく今日は型がどんなものかを中級クラスに混じって経験し、次回から、一つ一つの型をひたすら振るわされるのだろう。体に綺麗な型を覚え込ませるのが大事だ。
初級クラスにマリアがいた。完全に素人だ。平民の女性が剣を習う機会などなかったのだろう。
ここから3年でドラゴン退治か。よほどの才能がないと厳しいだろうな。
「やはり初級クラスになると酷いものですね。」
「誰でも最初はあんなものだ。卒業する頃には形になっていて欲しいがな。」
俺の視線に気付いたフエゴが声をかけてくる。
全体を見回していたテールも声をかけてくる。
「こうやってみるとサファリアの女の子はあまり剣を習わないんだね」
「そうだな、我が国では女性は武器を持つことはほとんどない。ここにいる女生徒達はアカサンドリアの者ばかりかもしれんな。」
「鍛治の国だから、貴族でも武器商を営んでいる家が多いからね。剣の使い心地を自ら試すために女性でも剣を習う者が多いんだよ。」
道理で武術のクラスなのに女性が多いわけだ。4分の1くらい女性がいる。
「あんまり見ていると邪魔になりそうだね」
最高クラスの俺たちが見ていると俺たちを気にして手が鈍っている者が多いので、大人しく去る。
最高クラスの6名が集合し、講師の茶色の髪の男が改めて自己紹介をする。
「最高クラスを受け持つ、ジャックだ。3年間よろしく頼む。
このクラスは6名いるが、そっちの3名はもう教えることがないくらいの腕前だ。とはいえ、お前たちも他者からは群を抜いている。自信を無くさないようにな。」
「まさか、"出来損ない"がこんなに強いとは」
アルカンタラの3人のうち1人がぽそっと呟いた言葉が聞こえた。
講師は離れて立っていたが、俺とテールは比較的近い位置にいたので聞こえていた。
チラッとテールの方を見ると聞こえていないように講師の方から視線を外さない。
「6人とも、良い腕前なので、次回からは多対一の戦い方を教えていこうと思う。各国間での戦争が長期間起きておらず、対人の戦闘が殆ど起きないとはいえ、領地内の小競り合いは発生している。
魔物の群れに襲われた時にも役立つはずだ。2年以降は魔物との戦いも行っていくが、この1年間は対人戦に集中して学んでもらうつもりだ。本日は以上になる。」
とジャックが締め括る。
「・・・・聞こえていたんだろう?国では"出来損ない"と呼ばれているのか?」
俺は他に聞こえないようテールに囁く。
「お恥ずかしながら、出来損ないの第五王子と呼ばれております。殿下」
「茶化すな。」
「お誘いとあれば、風呂場ででも」
他に聞かれたく内容か。
「では帰寮したらいくか。汗かいたしな。」
「じゃあ俺も」
とフエゴが入ってくる。
「いいのか?」
とテールに尋ねる。
「フエゴだったらいいよ。聞かれても。」
「だけどフエゴは長風呂禁止ね。倒れられたら俺とシャルルが大変だからね。」
とニヤリと笑うテール。
「・・・気をつける。」
一度失態を犯しているフエゴは大人しく頷く。
*******
帰寮後、風呂に向かう。
サファリアの者が来ることはないし、アカサンドリアの者も大半は夕食後にくるため、夕食前の風呂は密談には最適だ。
まあ、密談は部屋ですれば良いのだが。
何となく風呂効果で口が滑りやすくなる気がする。リラックスして話すので堅苦しくない、という利点がある。
テールが話す内容に俺は大凡の予想がついている。
フエゴは気付いていなそうだったので、教えてよいのかテールに先程確認するため、聞いてみたが同席しても良いようだった。
「早いね。」
脱衣場に入るとちょうど着替え終わったテールがいた。
「ああ、汗で濡れたままだと気持ち悪い。」
「そこに居られると着替えづらいんだが」
「あ、ごめんね。先入ってるねー。」
絶対わざとやっているだろう。こちらをニヤニヤ見ていたテールが今気づいたように浴場の扉を去っていく。
「あ、シャルル様」
フエゴが脱衣場に入ってくる。
「ちょうど今テールが浴場に行ったところだ。さっさと着替えて入ろう。」
「では、俺はこちらで!」
気を遣って観葉植物の向こうで着替えるフエゴ。
「あれー?2人一緒に入ってきたんだー?一緒に着替えていたの?着替え覗いた?」
「馬鹿なことを言うな」
俺は相変わらず冗談しか言わないテールを嗜めて風呂につかる。
突っ立って怒りに顔を見て赤くするフエゴを見て、ため息をつく。
「フエゴもいちいちコイツの冗談を間に受けるな。」
やれやれ。
落ち着いて3人で湯に浸かる。
「で、"出来損ない"とはどういうことだ?」
フエゴがまたのぼせない内に本題に入ってしまおう、と思った俺は直球で切り出す。
出来損ない、という言葉にギョッとするフエゴ。
俺が言われたのかと思ったらしい。
「フエゴ、心配しなくても俺のことだよ。俺は国ではどの王子よりも何もできない、"出来損ない"と呼ばれているんだ。」
と、悪口を言われているというのに嬉しそうに笑うテール。
「その話の前提として、アカサンドリアの王位継承権について話をするよ。フエゴは暑くなったら風呂から出るようにね」
長くなる話になるようで、フエゴにはのぼせないよう注意をするテール。
アカサンドリア王には3人の妃がいる。
正妃、第二王妃、第三王妃。
正妃と第二王妃には2人の王子、第三王妃には1人の王子がいて、全員の王子は生まれた順から第一王子、第二王子と呼ばれていくが、その呼び名と王位継承権の順位は異なるとのこと。
王位継承権については正妃の子が最優先され、その後第二王妃の子、第三王妃の子の順になる。
今の王太子の第一王子は正妃の第一子。テールは正妃の第二子で、第五王子でありながら、王位継承権は第二位となる。第五王子、ということで王位継承権も五位かと思っていた。
「第三王妃は元から、自分の子供に王位を継がせたいという野心はないんだけど、第二王妃は実子が二位、三位の王位継承権を持っていたからあわよくば第一王子を蹴落として自分の息子を次代の王にしたいと願っていた。そんな時に俺が産まれたのだから面白いはずがない。」
第一王子だけを陥れれば手に入るはずだった王位継承権が、2人を蹴落とさないといけなくなった。絶望的な状態だ。
もう一点問題があり、幼少期のテールは神童と呼ばれるほど才能に恵まれ、テールを担ぎ上げて王にしよう、という派閥が出来たことだ。聡い子供だったテールはそのことを察知し、それからは自分をダメな子だと見せかけるようにしたらしい。
「まんまと上手くいったよ。幼い頃に賢くても、成長するに従い凡人になる、というのはよくある事だから、俺を担ぎ上げようとしていた貴族達はガッカリしながらも離れていった。幸い兄上は性格的にも、能力的にも非の打ちどころのない立派な方だ。兄上が王となるため俺は全力でサポートしようと思っている。」
長い話になったので、フエゴだけでなく俺もテールも足だけ湯につけて風呂の周りの石に腰掛けている。
「馬鹿なフリをしているだけってことですか?」
「まあ、本当に馬鹿かもよ?でもその方が憂いがなくていいでしょ。」
いつも通りヘラリと笑う。
「他国の俺たちにそんな話しても良いのか?」
「まあ、アカサンドリアの内情なんて調べようとしたら簡単にわかる話だからね。これから3年も一緒にいるんだし早めに話しておこうと思っただけ。今日のアカサンドリアの生徒の発言が良い機会になったよ。」
「剣の腕を自国のものに見せても良かったのか?」
「まあ、剣の腕前だけではそんなに気にされることはないでしょ。シャルルとフエゴとちゃんと戦ってみたかったんだよねー。やっぱり強いやつと戦うのは楽しいよね。」
年相応に笑うテール。
「あ、でも、他の授業はそういう理由でサボるから、俺がサボってても怒らないでよね。って言いたかったんだ。」
「わかった。が、本当に出ないのか?」
「大体のことはもう学んだことだしね。たまには出るかもしれないけど、知ってることを習うのは退屈だから昼寝でもしてるよ。」
何でもないことのように言うテール。
まあ本人が言うなら俺が気にすることではない。
「で、その面倒くさいキャラも作り物か?」
「最初はそうだったんだけどねー。でも、ずっと演じてきたからもうこれが俺になってる。諦めてこのまま仲良くしてね。」
「キャラは変わらないのか、、、」
残念そうに言うフエゴ。俺も残念だ。
「そろそろ夕食の時間だな、上がろう」
一見交友関係が広そうに見えるテールが同国の友人を持たない理由がわかった。
自分の事をあまり知られたくないのだろう。
第二妃派閥のものや、自分を王に担ごうとするもの、誰が敵にまわるかわからない自国の貴族の中では気が休まらないだろうな。
テールに少しくらいは優しくしてやろう、と思った。
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