登校初日 5
風呂でのぼせたフエゴを無事部屋に送り届け、一度自室に戻る。
「おかえりなさいませ、シャルル様。随分と長く入っていらっしゃったんですね。
ベアトリス様から体調伺いの伝言をいただいておりますよ。」
魔術の科目の際は動揺し過ぎて一緒にいた3人に気を配る余裕がなかった。
しかもフエゴには、マリアを見て動揺したのがバレていたとは。
フエゴが推測してくれた見当違いの推理をそのまま利用させてもらった。
誤魔化しきれていないのはわかったが、事情を話す訳にはいくまい。
転生者で前世でゲームでやった、なんて言うと気が触れたと思われるに決まっている。予知した、とか言ったらそれはそれで大きな騒ぎになりそうだ。王子が不思議な能力に目覚めた!と国を挙げての大騒動になるだろう。
ベアトリスとテールには急に体調を崩したと言っておくのがいいだろう。デリアには、ベアトリスへ詫びの言葉と体調が治った旨伝えてもらうことにした。
今後マリアとの接触を増やそうとしたら、ベアトリスにどう思われるのか。フエゴとマリアがくっついてくれれば、フエゴの彼女と話す、という体裁がとれるので良いのだが、今日のフエゴのマリアに対する感想を聞く限りその線は直ぐには難しそうだ。
3年かけて2人が仲良くなるかもしれないが、仲良くなってからでは遅いだろう。
放っておいても勝手に色々と勉強して能力を上げてくれるとは思うが、運任せなのは怖い。
バッドエンディングでは主人公が負けた後に国を燃やすスチルで幕を閉じる。
マリア1人で戦った時も、数人で戦った時も、全滅したら、ドラゴンがブレスを吐いて国全体が燃えているようなスチルに一言BAD ENDと文字が浮かんで終わりだ。
マリアが攻略に必須なのであれば、この3年間で少しでも能力を上げておいてほしいし、攻略にマリアが必要かどうかの情報も探っておきたい。
全く気は進まないが、直接接触せざるを得ないだろう。ベアトリスに変な誤解を与えずに接する方法は何も思いつかないのだが。
そもそも、俺は学園に来てからテール以外、旧知のメンバーとしか話していない気がする。
こちらが王族だというの新入生代表挨拶で皆知っているからだろうが、一般生徒からはかなり距離を取られている。
他の生徒とは食堂の列で話したくらいではないか。
あれも、話した、というか声をかけただけ。
「王族とは孤独なものなのだな。」
とつい声に出してしまう。
デリアが伝言を伝えに行っていてよかった。
*****
夕食を食べに食堂に向かう廊下でテールに会う。
「先程はすまなかったな、急に体調が悪くなった」
「大丈夫?シャルルは身体弱いの?」
「いや、昨日読書で寝不足だっただけだ」
「なら良かった。ほら、美人薄命って言葉もあるからさ。」
「勝手に殺すな。」
と話していると食堂に着く。
「そういえば、テールは同じ国に友人はいないのか?いつも俺たちと一緒にいるんじゃないか?」
少し考えるテール。
「友人、ね。こちらの国は色々と大変でね。」と少し声を落として答える。
「ベアトリスちゃんなら喜んで友人に、いや、恋人になるんだけどね!」と明るく言ってくる。
「それは勘弁してくれ。お前を殺したくはない。」
「・・・・怖いね。シャルルは。でも面と向かって殺すと言われるなら安心だね。」
「殺すと言われて安心とは変なやつだ。」
なんだか物騒な流れになってきたな。話題を変えよう。
「そういえば、先程フエゴと風呂に入ってきたぞ。アイツは初めての風呂で、のぼせて倒れて大変だった。」
「一緒に入ったの?!」
「そうだが?」
「あー。それはご愁傷様だね。」
のぼせた相手にご愁傷様っておかしくないか?文化の違いか?
「サファリアでは大風呂の文化がないのだ。フエゴも初めて入ると言っていたのだから俺が気にかけてやらなければならなかった。」
「シャルル、鈍感だってよく言われない?」
「確かに、フエゴがのぼせるまで話し込んだのは俺の責任だ。鈍感だな。」
ため息をつかれる。
「そういう意味じゃないんだけどね。まあいいや。」
「シャルル様ー。、とテール様。」
ラファルが近づいてきた。向かいに座っているのがテールだと気づきテンションが下がっている。
「俺がいたら嫌なのかなー?ラファルちゃんは。」
「別にー。構いませんけどー。」
と言いながら俺の横に回り込むラファル。
かなり警戒している様子だ。
「ラファルを揶揄うと怖いぞ。高等魔法の使い手だぞ。」
あまりラファルを揶揄わないよう釘を刺す。ギョッとするテール。
「嘘だろ?!」
「本当だ。俺とベアトリスも高等魔法を使える。あ、ベアトリスにテールが近づいたら叫べと言っておいたが、魔法をぶっ放せの方が良かったな。」
「死んじゃうよ!おかしいだろ、13才で3人も高等魔法使えるとか。」
「そうなのか?」
「どの国でも一国で高等魔法を使える人材自体ほとんどいないのに、3人も13才の子が使えるなんて異常だよ!」
「父上も学園時代に高等魔法習得していましたよー。」
「ラファルの父は我が国の筆頭魔道士だ。」
「はあー。さすが魔法王国だね。」
「サファリアは魔法王国と呼ばれているのか?」
「知らなかったの?!あ、そうか、本とかに書かれているんじゃなく通称だから知らないか。」
テール曰く、魔法に長けた者を多く排出している我が国は他国からは魔法王国と呼ばれているらしい。
「シャルルもそうだけど、ベアトリスちゃんもラファルもフエゴも髪色他の生徒と比べても全然違うでしょ?なんでかは知らないけどサファリアの生徒の方が髪色濃いし、魔力量からしても違うじゃん」
そう言われて周りを見ると、我が国の生徒の方がアカサンドリアの生徒より髪色が濃い。寮では制服ではないのでどちらの国の者かすぐにわかる。
「うちの国が特別弱いんじゃなくて、他国も似たり寄ったりだよ。サファリアだけが濃いんだ。もちろん魔力量だけじゃなく、魔法の扱いにも長けている。常識だよ?」
「知らなかったですー。テール様は意外に良くご存知ですねー。」
「ちょっと、ラファルちゃん、俺のこと馬鹿だと思ってたでしょ?」
「はいー」
固まるテール。ラファルはわりとはっきり言う方だな、と感心する。
「アカサンドリアは他国からどう呼ばれているんだ?」
「鍛治の国とか、鉱石の国とかかなー。うちの武器は他の国よりいい出来だからね。」
「俺も剣を打ってもらおうかな。」
「毎度ありー。剣筋とか見てから国の者に伝えるね。」
特注で武器を頼む場合は色々確認して本人に合ったものにするらしい。
「ベアトリスにも、扱いやすい槍を贈りたいな」
あの細腕で振り回すには、軽い槍の方が良いだろうな。
「政略結婚とは思えないね。」
ちょっと真面目な顔できいてくるテール。
「政略結婚か、確かにそうかもな。第一王子の俺に最適な相手として選ばれた相手だ。俺はベアトリスが良かったからちょうど良かったがな。」
「ご馳走様。」
なぜかグッタリするテールと顔を赤くするラファル。
「シャルル様はー。ベアトリス様の話になるとー幸せそうな顔をされますねー。」
とラファルはニコニコしてくる。
「そうか?」
俺は自覚はない。
ベアトリスのことを考えると暖かい気持ちになるだけだ。
「無自覚って怖いね。
心配してたみたいだけど、俺は決まった相手のいる女の子にはちょっかい出さないから安心してね、
ベアトリスちゃんは可愛いから俺以外にも狙ってるヤツ多そうだけど。」
今一信用できないけど。
ベアトリスもテールに興味がなさそうなので警戒し過ぎないでも大丈夫かな、と思う。
「狙っているヤツ?」
むしろそっちが気になる。
「当たり前でしょ。同年代の貴族だけが集まってるんだよ?婚姻相手を探してる男女だらけだよ。サファリアの貴族は流石に王子の婚約者に手を出そう、ってヤツはいないだろうけど、アカサンドリアの貴族ならわからないよ?ベアトリスちゃんは魔力的にも、高位の貴族ってスペックだけでも人気があるだろうけど、ベアトリスちゃん自体あんなに魅力的なんだし、狙われない方がおかしいでしょ?」
「さっきテールが言ってた鈍感ってこと、今自覚した。」
どこかで、安心していた。
サファリアの第一王子の婚約者に粉をかけるヤツなどいないと。
だが、テールが言った通りだ。俺は油断すべきではなかった。
「やはり、閉じ込めておくべきか、、、」
「怖いよ!シャルル!」
「シャルル様ー!考え直してくださいー!」
マリアやエンディングのことばかり考えていないで、当面の課題(ベアトリスが他の男に言い寄られないような対策)も、しっかり考えていかないと。
俺の今世はハードモードすぎる。
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