登校初日 2
武術の科目は、自分の実技のレベルがわからない者達は講師と打ち合い、クラス分けがされるとのことだったが、俺とフエゴ、テールは最上位のクラス、ベアトリスは槍のみなので、武術練習場を後にした。
少し早いが食堂で食事をとり、午後の科目見学に行くことにした。
食堂は、寮とは違い、4人がけのテーブルが沢山設置してあり、大人数の場合は勝手にテーブルを移動させて使うようだ。
食事は大学の学食のように、自分で取りに行くスタイルだ。
「自分で取りに行くのは新鮮だな」
俺は今世で、自分で食事を取りに行く、という経験がない。
全て給仕係や侍女が運んできてくれるからだ。
「俺は平民街の食堂に行く事もあるので経験がありますよ。」
と、フエゴが自慢げに言ってくる。
「平民街に行くことがあるのか?」
「親父が平民の衛兵の指導も行っているので、ここ数年はくっついて一緒に指導しています。その後衛兵達と飲み会になることが多くて。」
まだ13歳だろう、と思ったがこの世界では10歳から飲んで良いのだ。
「俺も行ってみたいな。平民街の食堂。」
「シャルル様は、、、無理です。」
断言される。
「もちろん、平民の服を着ていくんだよ、身分を隠してな。」
「いや、そういう問題じゃなくて、、、」
「シャルル様、護衛を沢山連れていかねば無理ですわ。それでは平民街の皆様も恐縮されてしまいますでしょう?」
ベアトリスの発言にホッとするフエゴ。
「そうです!護衛なんかいたら、楽しめませんよ!平民街は賑やかなのが楽しいんです。」
確かにな、と思い断念する。
「全く、王子という身分は厄介だな。」
「シャルルの場合、王子だから、って訳じゃないと思うけど」
『テール様!!』
ベアトリスとフエゴの突っ込みが被る。
2人に睨まれてテールもニヤけながらも口を閉ざす。
よくわからないが、突くと面倒なので放置する。
ベアトリスの分も取ってこようとしたが、一緒に行くというのでトレーを持って厨房のカウンターに並ぶ。先に並んでいた生徒達が順番を譲ろうとするので嗜める。
「良い。学生という身分は同じ、国での位は無視するように。」
気を使われるのも疲れるな。
「どんなメニューがあるのだろう?」
「日替わりで数種類のようですね。セットになっていて、一度に全ての料理がトレーに置かれるようです。」
フエゴが説明してくれる。前世の記憶でよく食べていたようなセットメニューか。懐かしい。
「悩んでしまうな。」
「俺はワイバーンの肉の香草焼きにします。」
「私は菜園サラダと根菜スープのセットにしますわ」
「俺もワイバーンにしようっと。」
3人はあっさり決めていく。あまり悩むと後ろのものに悪いので俺もワイバーンにした。
この世界では基本的に肉は魔物の肉を食べる。
サファリアの王宮内には牧場があり、そこでは前世と同じように牛、豚、羊、鶏が飼われているため王族は家畜を食べる機会が多い。
街の外では家畜を育てようとすると魔物に襲われるため、ほとんど育てられていない。
そのため、魔物の肉を食べるのだ。
最初は抵抗があったが、魔物によっては家畜より美味しいものもいる。
魔物は生育地域によって、食べているものが違うので同じ魔物でも味が全く違ったりする。
このワイバーンはどこで取れたものだ?と聞くのが、このワインはブルゴーニュ産か?みたいなニュアンスなのだ。
ワイバーンは俺は戦ったことはないが、空を飛ぶし、そのワシのような足で連れ去られる事も多く、かなり強い部類の魔物だ。ただ、鶏肉を弾力を強くして、濃くしたような味はとても美味しく、高値で取引されるものらしい。
「ベアトリスはもっと食べた方が良いのではないか?」
カラフルなエディブルフラワーが乗った、大きめのサラダとスープ、パンが並んだトレーを見て、ダイエットでもしているのではないかと心配になる。
「大丈夫です。今日は朝食べ過ぎまして、まだ時間もあまり経っていないのでお腹があまり空いていないのです。」
思ったより午前の科目見学が早く終わったのでまだ腹が減っていないだけか、と安心する。
俺たち男3人はいくらでも食べられる年頃だ。
ワイバーンの香草焼きは肉自体もボリュームがあるし、サラダ、スープ、パンも付いている。
しかも3人ともパンは2倍量で注文している。
「シャルルはどこにそんなに入るのかね」
ぽそっとテールに言われるが突っ込まない。
フエゴは、昔から俺より身長も体型も上をいかれており、追いつく気配がない。
残念ながらテールにも身長は少し負けている。
俺だって細身ではあるものの、昔に比べてだいぶ筋肉がついたんだけど。ゲーム補正なのかいくら鍛えてもゴリマッチョにはなれそうもない。
いや、目指してはいないけれど。
4人でテーブルについたあたりでラファルが食堂にきた。
「早いですねー。皆さまは午前の科目見学行かなかったんですかー?」
午前の武術科目が早く終わった話をし、ラファルも食事を取りに行く。
どの科目を取ろうか、情報交換を行う。
ラファルにも魔物学を取るように勧める。学園時代に出来るだけ実戦経験を積んでおきたい。
あまり乗り気ではなかったが承諾してくれた。
ラファルはやはり植物学と文学、魔法陣学は取るつもりらしい。
フエゴはまだあまりどれを取るか決めておらず、1週間かけて全部の科目の説明を聞いてから考えるらしい。
ベアトリスは植物学と文学、魔法陣学と、ラファルと同じだ。それに、料理も取るらしい。
ベアトリスの手料理、楽しみだ。
テールも全く決めていない、というよりあまり授業に出る気がないらしい。
お互いに面白そうな授業があればまた情報交換しよう、という話になり食事を終えた。
午後は新入生全員参加の魔術科目説明があるため一緒に移動する。
魔術は、貴族であれば基本的に10歳から学習しだすが各家庭の経済状況や教育方針で全く学んでいない者もいる。
俺、ベアトリス、ラファルは最高位のクラス、フエゴは高位のクラス、テールは1番下のクラスになる。
「俺、あんまり魔法好きじゃないんだよねー。土魔法って地味でしょ?」
と言っているテールだが、敵の能力を下げる魔法があるので使えると便利だ。
「頑張れよ」
と言いながら、あたりを見回す。
新入生全員が来ているはずなので、まだ会えていない主人公マリアと水の攻略者スルスの姿がないか探す。
!マリアだ。
金色の髪は1人しかいない。
いつかは会えると思っていたが、初日で姿を確認できたのは幸運だ。
ただ、思ったより髪色が薄い。シルバーっぽい薄めの金色の髪色だ。髪色が濃いほど魔力が強いこの世界で、主人公であるマリアがあまり魔力が強くない設定なのはどうなんだろう。
思い返せば、マリア1人のルートは結局クリアできなかった。
俺はここで重大な事実に気づいた。
「光の乙女の楽園」は乙女ゲー。基本的に攻略対象者達と共にラスボスに立ち向かう。
そしてマリア1人ではかなり学業に打ち込んでも1人での攻略ルートは難易度が高かった。
つまり、マリアの能力は決して高くない、ということだ。
髪色を見るまでその事実に思い至らなかった事に愕然とする。
「シャルル様?」
放心状態の俺にベアトリスが声をかけてくる。
「何でもない、ちょっと考え事をしていてな。」
と言いつつ、俺は早く帰って楽園ノートを見直したい気持ちで一杯だった。
主人公のマリアが戦う前提で考えていたが、マリアが能力が低いとなると、マリア無しで戦うべきなのか?
それともマリアがいないと戦うこと自体できないのか?
どんな設定だったか、考えても思い出せない。
13年前にやったゲームのことなんて、大枠しか覚えていない。
「顔色が悪いですよ、シャルル様」
フエゴまで心配してくる。
多分本当に俺の顔色は悪いだろう。
「すまない、急に体調が優れなくなった。俺のことは気にしないでくれ。」
と言い残し、寮へと急ぎ帰った。
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