入園式
学園に到着して3日目。ようやく入園式だ。
この2日、土の攻略対象者であるテールがのせいで精神が疲労した。
自分でノートに不良キャラと記載していたが、不良というより遊び人キャラじゃないか。
主人公のマリア目線なので、女に対する時は違うのかもしれない。
テールと接していると本当に疲れるので、もうマリアとくっついて2人で頑張ってほしい、と思ってしまう。
まだゲーム主人公のマリアと会えていないので、どんな子かわからないが、ゲームな感じではいい子だと思う。
ゲームでは主人公はプレイヤーの選択肢の選び方で性格は違うものになってしまうが、まあ、通常の選択肢通りならいい子だろう、そうであってくれ、と願うしかない。
学園の入園式は制服で出席し、その後寮に戻ってパーティーの準備、パーティーに出席というのが今日の流れだ。
確かゲームでは入園式だけだったので、マリアは平民だからドレスもなくパーティーに参加していないのだろう。
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入園式は、学園の校舎の大ホールで行われる。
出席者は新入生だけでなく、在校生もだ。
数百人の生徒と、講師陣。
結構な人数だが、大ホールの席にはまだ余裕がある。
大ホールは半円状の建物で、円の断面部分の真ん中にステージがあり、そこで学園長やら、お偉方の挨拶が行われている。
俺たち生徒は半円部分に設けられた椅子に座り、有り難い話を延々ときかされる。
生徒の席は前はフラットだが、後ろの方は高台になるよう階段状になった席だ。コンサート会場みたいだな、と考えながら演説を聞く。
この後、新入生の挨拶をしなければいけないため、最前列で待機しながら聞くので寝ることはできない。
こういったお偉方の挨拶は長いし、同じような話になるのはなんでなのだろうか。
彼等は毎年新入生を迎え入れているのでどうしてもマンネリ化するのだろう。
「新入生代表 サファリア王国 第一王子 シャルル・ド・リュミエール 壇上へ」
ようやく名前が呼ばれ、壇上へ上がる。
壇上は明るく照らされているが、生徒席は暗く、誰がどこにいるかも髪色もわからない。
「サファリア王国 第一王子 シャルル・ド・リュミエールだ、よろしく頼む。」
まずは自己紹介。軽く皆を見回すが、寝ているものはいないらしい。優秀だな。
「俺はサファリア王国で生まれ育ち、アカサンドリアとは友好国でありながら今まで接することはなかった。この学園は先の挨拶で先生方が述べられたように、二国間の友好を深める目的で創立されている。在学期間は3年と短いが、交友を保てると嬉しく思う。文化の違いはあるだろうが、この機に知ることが出来るし、お互いの文化や考え方を知ることにより、今後もお互いを思いやっていけると信じている。俺だけじゃなく、もちろんこの学園に入学した皆にもお互いのことを思いやる気持ちを持ってもらいたい。
また、両国の関係性を強めるだけでなく、学園で勉学、武力を向上することにより、国の要人として能力を高め、国力向上に努めていこう。
実りある3年間となるよう、各人、努力を怠らぬよう努めてくれ。
俺からは以上だ。」
長くても聞き飽きるだろうから短くまとめた。
拍手の中、俺は壇上を降りた。
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入園式は終わり、寮に戻って軽食を口にして着替え。
忙しいな。
パーティー会場となる学園のホールは先程入園式が行われた会場の裏側で、そちらも半円状らしい。
合わせると円状になる構造だ。
着替えの場がないので、一度寮に引き揚げさせられた。
俺は男性なので軽食を口に出来たが、女性は身支度に時間がかかるので、何も口にしていないかもしれない。女性は大変だな、と考えながらデリアが身支度を済ませてくれる。
ベアトリスに送ったシンプルな葡萄の葉がモチーフのアクセサリーに合わせ、俺のカフスボタンのデザインも葡萄の葉だし、胸元に刺すハンカチーフ、蝶ネクタイも葡萄の葉の刺繍が織り込まれている。
入園式なのでシックな濃い紫色のスーツに白いシャツにしている。デリアが、ベアトリスの侍女のセーラと打ち合わせているので、色味も問題ないと思う。
「良くお似合いですよ、シャルル様。会場の女性達がお倒れないと良いのですが。」
「面白いことを言うな。ベアトリスのせいで会場の男性貴族が骨抜きにならないことを祈ってくれ。」
デリアの冗談に軽口を返す。
先に会場前まで行き、ベアトリスの馬車を待つ。
会場の入り口はパーティー会場へ向かう馬車が次々とやってくる。
この人数で、移動が馬車なので仕方ないが、混み合い方がすごい。
会場入り口前のロータリーは、こういうことがあるため10台は馬車を停められるようになっているものの、ひっきりなしにやってくる馬車が満席で停められ、中から人が降りるまでにも時間がかかるため、馬車を停めるまでに渋滞ができている。
とはいえ、捌くスタッフも慣れた光景なのだろう。
渋滞列も順調に進み、お目当ての家紋が入った馬車が着いたので近づいていく。
「エスコートに参りました。」
ベアトリスが馬車の扉を開けて、俺の手を取り、降りてくる。
思わず息を呑む。
結い上げた長い髪は全て纏められ、折れそうな細い頸が露わになっている。
俺と同色のドレスは豊かな胸元も、背中も露出しており、その首筋から胸元にかけて俺の贈った葡萄の葉と蔓をモチーフにしたシャンパンゴールドのネックレスが飾られている。耳にも、ゆらゆらと揺れる葡萄の葉のイヤリングが揺れている。
ドレスは胸元が開いたベアトップで、くびれたウエストまではシンプルて、腰から下はドレープがきいたボリュームのあるデザインだ。
「まいったな、、、」
「どうされました、シャルル様?何かおかしいのでしょうか、、、」
固まる俺に顔を青褪め自分の姿を慌ててきょろきょろと確認するベアトリス。
「逆だよ。可愛すぎて他の男に見せたくない。帰ろうか。」
こんなに美しい婚約者を他の男の目に晒すのは耐えきれない。連れて帰ろう。
「シャルル様、ご冗談はやめてくださいませ。新入生代表挨拶をされた方が欠席してはいけませんわよ。」
揶揄われていると受け止めたようだ。本気なんだけど。
渋々とベアトリスの手をひいて会場に向かう。
ベアトリスは真っ直ぐ前を向いて進んでいたが、俺は彼女をずっと見ていた。
身長差があるから上から見る形になるので、その細い頸とか、背中のラインとか、胸元とか。
「布地がすくなすぎるんじゃないかな、、、」
「何かおっしゃいまして?」
聞こえていなくてよかった。
「今日は俺から離れないでねって言ったんだよ。」
もう13歳で、大人っぽいデザインのドレスを着るのが普通だとわかってはいるのだが。
本人が気付いていない分、余計に心配だ。
魅力的すぎて、思春期の少年には危険物だ。
パーティーの間はずっと一緒にいなければならない。
案の定、パーティー会場に入ると俺たち2人に会場の視線が集まった。
男性も女性もため息と共に崩れ落ちる者が続出している。
できるだけ目立たぬよう、会場の隅に移動する。
「シャルル様もベアトリス様も今晩は特に大変お美しいですね。」
フエゴが近づいてきた。
フエゴは燕脂色のスーツにフリル付きの白いシャツを合わせている。
「お前も今日は正装か。珍しいな。」
「流石に今日はいつものような服では参加しませんよ。」
俺と会う時は大抵剣の練習のため、動きやすそうな格好をしている。
「フエゴの正装は珍しいですわね。貴族らしく見えましてよ」
と、ベアトリスも軽口を叩く。
「ベアトリス様まで、やめてくださいよ。」
と恥ずかしそうにするフエゴ。
「そういえば、ベアトリスは何か食べたか?時間があまりなかったから食べる間がなかったのではと心配していたのだが。」
「はい。入園式から帰ってすぐ準備しておりましたので。」
「俺、何かとってきます!」
と、フエゴが気を利かせてくれた。
「あー。シャルル様ー。ベアトリス様ー。」
と、フエゴと入れ違いにラファルが近づいてきた。淡い新緑色のスーツにフリルのついた白いシャツ。
何となく、髪にフリルのリボンを着けたら似合いそうだ。
「あら、ラファル。今晩は。」
「今晩はーベアトリス様ー。」
にこにことしているラファルは、ズボンを履いていても女の子に見える。
「ベアトリス様ー。今日は大人っぽいですねー。アクセサリー、シャルル様とお揃いですねー」
「ふふ、シャルル様が贈ってくださったの。」
にこにこ笑うベアトリスとラファルは姉妹みたいにみえる。微笑ましい。
「美しい方、お名前を伺っても?」
突然テールがベアトリスの前に立つ。
俺はサッと間に入る。
「彼女は俺の婚約者だ。お前が名を知る必要はない」
「これはこれは。シャルル殿下。人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んでしまえ、という言葉をご存知ですか?」
「この場合はお前が死んでしまえ、という理解で良いかな?」
「親の決めた婚約者など、政略結婚も良いところでしょう。」
「親は関係ない。婚約者だからではなく、彼女は俺が愛する女性だ。お前が入る余地はない。」
「彼女の方はどうでしょうね?」
「いい加減になさってくださいませ!」
ヒートアップするオレらを真っ赤になったベアトリスが仲裁してくれた。
また気付いたら周りの注目を浴びていたようだ。
軽く周りを見渡すと皆目を逸らし、見なかったフリをして離れていく。
「改めまして、アカサンドリアの第五王子のテール・ロドリックと申します。これ程までに美しい方にお会いできると思わず、舞い上がってしまいました。私はシャルル王子の学友でございます」
とベアトリスに挨拶するテール。今日のテールは俺たちが着ているようなスーツを着て、髪も撫でつけている。まともにしていれば王族らしくみえる。
ベアトリスはこちらに不安気な視線を送ってくる。
「こんな奴でも第五王子だ。友人ではないし、ベアトリスは無視すれば良い。」
「ベアトリス様とおっしゃるのですね。お名前も美しい。」
しまった。
軽くため息をつき、ベアトリスが自己紹介をする。
「サファリア王国のベアトリス・ドアバックと申します。シャルル様の婚約者であり、シャルル様以外の男性と軽々しくお話するつもりはございません。シャルル様のいらっしゃらない場ではアカサンドリアの王族であろうと一言も話すことはありませんので、ご了承くださいませ。」
と、いつも通りの綺麗なお辞儀をみせた。
「いいね!益々好きになっちゃいそう!」
急にいつも通りの話し方になるテールに怪訝な表情になるベアトリス。
「ベアトリス、こいつは変な奴なので関わらないように。なにかあれば大声で叫べ。助けに行く。」
「はい!」
「俺への扱い方酷くない?」
なんて言い合っているとフエゴが料理を両手に持って戻ってきた。
テールの顔を見ると嫌そうな顔をしていた。
ベアトリスがフエゴの持ってきた料理を食べた後、数曲ダンスを踊った。
早いテンポの曲が続いた後、スローテンポの曲になり、密着した状態でゆらゆらと踊る。
今日のベアトリスのドレスは背中が空いているので、腰に回した手が直接肌に触れる。
早いテンポの曲が続いたので、しっとりと汗ばんだベアトリスの素肌に触れ、緊張が高まる。
ベアトリスも緊張しているのか、こちらを見ずに視線を落としたままだ。
こちらをみられていないことをいいことに、汗ばんだ首筋や胸元を見てしまう。
陶器のように滑らかで透き通るような白い素肌が、ダンスの熱気で薄らと赤くなっている。少し浅ばみ、湿気を帯びている。すっかり女性らしくなったベアトリスとくっついていると変な気になりそうなので、声をかけて気を紛らわす。
「10歳のころ、パーティーで踊った時も君は俯いてばかりいたね。」
あの時は何度も顔をあげてもらっては、俺が目を見つめると恥ずかしくなって下をむくのを繰り返していたな。
「恥ずかしくてお顔を見れないのですわ」
「あの時は久々に会ったが、今は顔を合わすことが増えただろう?見慣れた顔だ」
「・・・見慣れることはございませんわ」
そう言って顔をあげてくれる。
確かに見慣れることはないな。
至近距離で見るといつもと違ってみえるから不思議だ。
ぱっちりとした猫のような紫色の目は悪役令嬢の役どころらしく強くて釣り上がっている。睨みつければきつい性格に見える事だろう。俺にとっては意思の強そうなキリッとした目に見えるが。
幼かった10歳の頃より高くなった鼻筋、ピンク色の濡れたような紅を塗った唇。
「ダメだな、今日は俺が眼を晒してしまいそうだ。」
「またそんな風に仰られて。」
「冗談ではないぞ。いつも、本心から言っている。
今日の君は美しすぎる。」
眼を見開いた後顔を晒してしまうベアトリス。
「・・・ずるいです。」
伏せた目にかかる長いまつ毛を見つめてしまう。
「参ったな。眼を晒されるとまたこちらをみて欲しくなるのだが。」
「・・・今日はもう無理です。」
「それは残念だ」
客が終わってしまい、俺たちは隅の方にもどる。
「まだ居たのか」
疲れた顔をしているフエゴとラファルに反したニコニコしているテール。
「2人の世界だったね。気付いてた?会場の皆が見てたよ」
「大袈裟だな」
「ふうん、鈍感っていいよね、じゃあ俺も女の子と踊ってくるー」
そう言って去っていくテール。フエゴとラファルは明らかにホッとしていた。
「何なんですかね、アイツ。話しているだけで疲れます。」
「苦手ですー」
「すまなかったな、置いていってしまって。俺もテールの相手は疲れる。お前達はダンスは良いのか?」
2人ともダンスに興味がないらしい。
「テールが戻ってこない間に帰るか。」
「賛成ですー。」
「俺はもうちょっと飯食べていきます。アイツがずっと話しかけてくるから食べられなくて。」
「ベアトリスは友人と話さなくて良いか?」
「挨拶だけしてきても良いでしょうか?」
「俺も一緒に行こう。」
「じゃあ僕ー先失礼しますー。」
その後、ベアトリスの友人数名のところを周り、会場を後にした。
帰りは俺の馬車で一緒に寮に戻る。
「疲れたな。」
「はい、すみません、友人達が、、、」
近づいたらキャーキャーと姦しかったが、特に気にはしていない。
「いや、ベアトリスの友人よりテールの方が面倒だった。」
ふふふっと思い出して笑うベアトリス。
「シャルル様にも苦手な方がいるのですね。」
ベアトリスの兄のフェルディナンドも面倒だったが、それは言わないでおく。
「まあな。ベアトリスには近づけたくない。」
「お口の上手い方でしたわね。女性なら誰にでもあんな感じなのではないでしょうか。」
いや、あれはベアトリスだからだろう。間違いなく会場で1番美しい女性だ。あえてそのことは言わないでおく。
「本当に、あいつが近づいたら叫んで知らせるように。」
「まあ、そんな危険な方のようにおっしゃって。ご学友でしょう?」
「まだ会ったばかりだ。信頼していない。」向かい合った席でキョトンとするベアトリス。
前のめりになり膝の上に置かれた両手を握る。
「本当は閉じ込めておきたいがそうもいくまい?」
「シャルル様、、、」
ガタン、と馬車が止まる振動を感じる。
「名残惜しいな。」
掴んだ両手を話し、先に降りる。
片手を差し出して降りやすいよう誘導する。
地面に降り立ったベアトリスの手をひき、そのままもう一方の腕で抱きしめる。
あまり強く抱くと折れてしまいそうなか細い腰。
「ダンスの続きのようだな」
急に俺が手を引っ張ったため、よろけて俺の胸に顔を埋めるような体制になっている。そのまま、繋いでいる手を離し両腕で抱きしめる。
「あ、あの、シャルル様、、、他の馬車が来てしまいますわ。お離しくださいませ、、、」
「嫌だ。もう少しこのままで。」
困った顔をするのも可愛らしい。
何台か馬車が着いて、降りてくる者たちがこちらを見て顔を赤くして走るように去っていく。
抱きしめられたベアトリスはずっと顔を赤くしているが、抵抗する気はないようだ。
ずっとこうしていたいが、今日はここまでにしよう。
「ありがとう、ベアトリス。お休み。良い夢を」
「きっとシャルル様の夢を見ますわ。」
「ではまた、夢の中で会おう。」
そう言って別れた。
部屋に戻るとデリアが呆れた顔をし、シャツの胸元を指差す。
強く抱きしめていたため、ベアトリスの紅が移ってしまっていた。
「このシャツは洗わずにとっておこう。」
俺の馬鹿げた提案にデリアは深くため息をつくのだった。




