入寮 2日目
寮生活2日目。
昨日風呂で出会ったテールのせいで気分がスッキリしない。あんな奴は今世では初めて会った。
揶揄われてペースが乱されるので、あまり仲良くなれそうもない。
テールのことを考えると頭が痛くなり、ため息をつく。
「あら、シャルル様。あまり寝れなかったのでしょうか?寝具が合わなかったのでしょうか。」
「いや、昨日会った奴のことを思い出していただけだ。寝具は問題ない。」
自室で朝食をとっているので、傍らのデリアにため息を聞かれてしまう。
なんだかベアトリスの顔が見たくなってきた。
モヤモヤした時には心の清涼剤が必要だな。
「デリア、ベアトリスに会いたいのだが、部屋に呼んでもいいのかな?」
少し考えるデリア。
「こちらよりも、開けたところの方が良いかと存じます。
食堂には屋外にテラスがございますので、そちらをお勧め致します。昼食をお誘いする形でよろしかったでしょうか?」
「それで頼む」
デリアがベアトリスへの連絡と、テラス席の確保をしてくれるというので、昼食についてはデリアに任すことにした。
入園式は明日行われるため、今日は寮でのんびり過ごすことにする。
昼食までまだ時間があるので、庭園でも散歩してこよう。
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庭園は、王宮のものよりかなり狭かったが、そこに植えられた植物はサファリアにはないものが多く、楽しむことができた。
チラホラと散歩する生徒と出会う。部屋も片付き、皆手持ち無沙汰になっているのだろう。
「シャルル王子ー。」
間の抜けたようなおっとりとした呼びかけに声をかけた主が誰かすぐに気付く。
「ラファル。よく眠れたか?」
「はいー。ぐっすり眠れましたー。」
ラファルはまだ眠そうな顔をしている。
「シャルル様もー。植物に興味がー?」
俺も眠くなってくる。
「ああ、サファリアにはないものが多いな。」
「はいー。これは薬草にもなる○○でー。こっちは虫を捕まえる草なんですよー。」
見るのは好きだが、そこまで詳しくはない俺にラファルが講義を開始した。
ラファルは植物図鑑で勉強したらしい。よく覚えているな。
午前いっぱいはラファルの植物講義が続いた。
*******
ベアトリスとの昼食に遅れないよう、まだまだ続きそうなラファルの話を切り上げ、食堂に移動する。
既にベアトリスがテラス席で待っている。
「ベアトリス、すまん、待ったか?」
「いえ、天気が良いのでこちらで本を読んでいましたの」
そう言って、開いていた本を閉じる。
「確かに、今日は気持ちの良い天気だな。」
と言いながら向かいの席に腰をかける。
ベアトリスは水色のワンピースを着て、髪にはレースのリボンをつけている。リボンは俺が贈ったものだ。
「ベアトリスの髪によく似合っているな。」
「ありがとうございます。嬉しいですわ。」
優雅に微笑むベアトリス。喜んでくれて俺も嬉しい。そんな笑顔を見ると色々贈りたくなってしまう。
「明日のパーティー用のアクセサリーも無事届いているか?」
くすくすと笑うベアトリス。
「はい。ご心配なさらずともサファリアを出発するだいぶ前に届いております。アクセサリーに合わせてドレスを仕立てておりますわ。」
「明日が楽しみだな。」
ふっと、口元が綻ぶ。
照れてしまい顔が赤くなるベアトリス。
「あまり期待しすぎないでくださいませ。」
「それは無理だな。明日は美しい婚約者を自慢せずにはいられないだろう。」
顔をますます赤くするベアトリス。
可愛いなあ。
「揶揄わないでくださいませ。」
「揶揄ってなどいないぞ。着飾っていなくても、いつも可愛いと思っているし、いつでも自慢したい。」
どこまで赤くなるのだろう。元が白い肌なので、顔の赤らみがはっきりと出てしまう。
「シャルル様、この辺りでおやめください。ベアトリス様がお困りです。」
見かねたデリアが口を挟んでくる。
ちょうど昼食も運ばれてきた。
「移動で疲れてはいないか?」
まだ顔の赤みが治まっていないベアトリスに問いかける。
「はい。昨日は到着後ゆっくり休みましたので。すっかり元気ですわ。」
俺は昨日食堂でフエゴに会った話、大風呂に入った話をした。
「まあ、大風呂ですか?どんなものなのでしょうか。他国ではお湯に浸かる習慣があると本に書いてはありましたが、想像がつきませんわ。」
意外に興味があるようだ。
俺は風呂の構造や、温泉の効能について説明し、入る時の注意点として、長く入りすぎると湯当たりをおこすことを教えておいた。
「シャルル様は博識ですのね。大風呂について、私が読んだ本ではそこまで詳しくは書いておりませんでしたわ。」
「俺も風呂という文化があると本で読んで興味が湧いて、他国の文化に詳しい者に教えてもらったんだ。」本当は前世の知識だけどね。
早速今日入りに行くと乗り気になるベアトリスに、ベアトリスの侍女セーラは、
「申し訳ありません、お嬢様。入浴着の用意をしていませんでした。」と言い、焦っている。まさかベアトリスが大風呂に興味を持つとは思わなかったのだろう。
「こんなこともあろうかとご用意しております」
とデリアから申し出てデリアからセーラに渡す段取りをしていた。
・・・デリアが優秀すぎて怖い。
「風呂に入る前にはしっかり水分をとるようにね。」
「はい。セーラ、よろしくね。」
ベアトリスも風呂好きになってくれたら王宮に浴場を作っても良いな。
*******
ベアトリスと話して癒された俺は自室に戻って、入園要綱を読み直すことにした。
寮や学園の地図と各施設の概要、校則、カリキュラムの説明が載っている。
寮も広いが学園は更に広い。
今回、俺たちが通うのは高校のようなもので、義務教育となっているが、別の校舎で更に研究を進める大学院のような研究所も存在している。そちらには研究者や魔導士になりたい一部のものが在籍しているようだ。
庭園、食堂、図書館、武術練習場、魔法練習場、森や池、馬小屋等がある。馬には俺とフエゴは乗れるがベアトリスとラファルにも練習させておいた方が良いな、と考える。
校則は俺の前世でもあった一般的な内容が定められている。前世でなかった内容といえば、決められた場所以外での魔法の禁止というものくらいだろう。
校舎を壊されては困るからだろうな。
なんとこちらの世界でも制服がある。
二国で服が全く違うことから、生徒が断絶しないように配慮されたのだろう。
我が国の服は動きづらいという理由もあるのかもしれない。
白いシャツに紺色のブレザー、チェック柄のズボンとスカート、という日本らしい制服だ。流石にミニスカートではなく膝下のスカートなのは残念だが。
運動をする際は別の衣服の着用となっており、こちらは特に揃えられてはいない。
カリキュラムについては、大学のように選択式だ。
特に魔法は生徒により入園までの習熟度にバラつきがあるため、細かく分けられている。俺の場合は魔法だけでなく、色々と英才教育を受けているので、学園で学べることが少なそうだ。1週間後にどの授業をとるか決めることになるため、その間に色々と受けてみて、とる授業を決めようと思う。
細かく要綱を読み込んでいるとかなりの時間が経過したようで、そろそろ夕食に行かれては、とデリアから声がかかった。
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フエゴとラファルが一緒にいるのを見つけ、ラファルの隣に座る。
「今晩はー。シャルル様ー。」
「ああ、座ってからで言うのもなんだが一緒に食事をとって良いか?」
「もちろんですー」
「喜んで!」
「2人でいるのは珍しいな。どんな話をしていたんだ。」
「たいした話はしてませんよ。どの授業が面白そうか、とかラファルが今朝庭園で見た草の話とか。」
「ああ、庭園でラファルから講義を受けたな。」
「ご一緒だったんですか?!」
「あ、ああ。そんなに驚くことか?散歩していたらたまたま会ったんだ。」
「俺も呼んでくれりゃいいのに、、、」
「意外だな、フエゴが植物に興味があったとは。ラファル、俺は充分学ばせてもらったからフエゴにまた教えてやってくれ。」
「わかりましたー。」
嬉しそうにしているラファルと、なぜか顔を青褪めるフエゴ。ラファルの説明が止まらないことを知っているからだろうか。
「俺も同席していい?」
突然声をかけられる。またこの男は気配を感じさせない。
「・・・テール。」
「いいよね、ありがとうー。あ、俺はアカサンドリアの第五王子のテール・ロドリック。よろしくね。」
とラファルとフエゴに挨拶しながらこちらの返事を待たずにフエゴの隣に腰掛ける。
フエゴとラファルは立ち上がり自分の名前を告げる。
「いいよいいよ、そんなにかしこまらなくて。王族と言っても俺は第五王子だから普通の貴族と変わらないってー。」
とへらへら笑いながら2人に席に着くよう促す。
説明を求めるように2人が俺に視線を送る。
「テールとは昨日、風呂であって絡まれたんだ。」
「そうそう、って、絡まれたとは人聞きが悪いなあ。親交を深めたって言ってくれない?」
「勝手に話しかけてきただけだろう?」
「酷いなあ。抱き合った仲じゃない。」
「ば、馬鹿なことを言うな、お前が抱きついてきただけだろう?!」
・・・・つい声が大きくなり、気付けばフエゴとラファルだけでなく周りの生徒達も目を丸くしてこちらを見ている。
コホン、と咳払いをすると周りの生徒は見なかったフリをしだす。
声を落としてフエゴとラファルに説明する。
「面倒くさいやつだろう?こんな感じで風呂でも絡んできたんだ。」
「酷いなあ。」
「シャルル、、、抱きつかれたというのは、、、」
フエゴが口を挟んでくる。なんだかプルプルしている。笑いを堪えているんじゃないだろうな。
「こいつ、女にも見えるだろ?どっちかなあって思ってさ。触ればわかるじゃん?硬ってーの、コイツ。細いのにかなり鍛えてるよなあ。」
「貴様、いい加減にしろ!」
フエゴがテールを睨みつける。
「・・・ふーん、なるほどねえ。フエゴ、大丈夫だよ。俺は女の子にしか興味ないし。」
とにへらと笑うテール。
なんだこのピリピリした空気は。
「俺の友人にまで絡まないでくれるか?」
「ふーん、友人、ねえ?」
「何か文句でもあるのか?」
「別にー。こっちの可愛い子は婚約者、とか?」
と言ってラファルを見る。
キョトンとするラファル。
「あのー。僕は男なんですけどー。」
「え!マジで!?サファリアはどうなってんの?王子といい、男か女かわからないじゃん!」
ダメだ、コイツといると疲れる。
「サファリアは綺麗な顔の子が多くていいよね!可愛い女の子紹介してねー。」
と言ってテールが去った後も、俺たち3人は疲れが抜けなかった。
本当はこんな時こそ風呂に入りに行きたいが、また会って絡まれたら面倒なので大人しく明日の入園式に備えて寝ることにした。




