大風呂 学園初日
フエゴに断られたので一人で大風呂に向かうことにした。
剣で汗を流した後一度自室に戻り、案の定デリアに反対される。
はしたないだの危ないだの言われるが、風呂だけは譲れないのでここは折れない。
嫌々ながら風呂着やら着替えやら用意してくれた。
本気で逆らう気なら風呂着の準備などしていなかっただろうから形式的な嗜めをしたかっただけのようだ。
デリアから風呂着を預り、大風呂の入り口を入る。
入り口は暖簾はなく、普通に男性と書かれた扉だ。すこし残念になる。
入り口を入ったところの脱衣場のようなスペースで風呂着に着替える。脱衣場は着替えることに配慮してあるようで樹木の観葉植物が目隠しになるよう植えてある。
脱衣場にも衛兵がいるのは盗難防止と、間違えて異性が入らないようにしているのだろうか。
チラ見されているように感じるのは自意識過剰なのか。
浴場スペースの扉を開けると湯気で視界が遮られる。
服を着て入るスタイルだからか、洗い場がない。
湯気の間に目を凝らすと石造りの露天風呂、といった感じだ。
風呂周りには桶が所々にせっちしてあるので掛け湯をする。剣を振るって汗ばんでいるので、そのまま入りたくはない。
風呂に足をつけると、ちょうどいい温度だ。
体全体湯に浸かる。
「んー!!」思わず声が漏れる。
前世以降13年ぶりの風呂だ。
今世も小さなバスタブはあるが、体を洗うような桶、という位置付けだ。
これほど広くて伸び伸びと身体を伸ばせてお湯に浸かる、という状態の風呂は無かった。
学園に通ったサファリアの民はこれを取り入れようとしなかったのだろうか。そもそもフエゴのように、入ろうともしなかったのか。
久しぶりの感覚を堪能していると
「珍しいな、サファリアの者が風呂に入るとは」
と声をかけられ、人がいると思っていなかった俺は身構える。
「その金色の髪、王族か?」
と言いながら湯気の中から近づいてくる人影。
俺は声を出さずにいる。湯気で視界が悪かった、気を抜いていた、とはいえ、浴場の中に人の気配がなかったのだ。何度も魔物を狩りに出でいる俺は、魔物はもちろん人の気配は敏感に察することができる。何者だ?
「ん?女?いや、男か?」
近づいた人影は気にせず俺に話しかけてくる。
警戒を解かずに様子を見る。
「何ピリピリしてんだ?ただ話しかけただけで襲ったりするつもりはねえよ。俺は男色の気はねえから安心しな。」
間近に迫った男は俺よりも身長があり、一見細身ながらしなやかな筋肉を持つ豹のような男だった。褐色の肌に茶色の髪。髪は慣れていてどんな髪型かはわからないが長髪ではなさそうだ。
間近に立っていて目視できるのに気配がない。どういうことだ?とすっかり混乱した俺は言葉を発せずその男と向かい合いながら立ちすくんでいる状態だ。
「何なんだよ?口きけねえのか?
あ、わかった。お前あれだろ、王族なのに風呂きちまって、見られて恥ずかしいから固まったんだろ?」
とにやにやしてくる。
「風呂に入ることは恥ずかしくはない」
と、挑発のようなからかい言葉に反論する言葉が出る。
「なぜお前は気配がしないのだ?」
危険かもしれないが、聞かずにはいられない。
少し驚いたような顔をし、またにやけ顔を返してくる。
「・・・へえ、さすが王族だな。
お前、名前は?」
「先に自分の名を名乗れ」
ムカついて礼儀を諭す。
と、
フワリと近づき抱きしめられ、
「テール・ロドリックと申します、シャルル王子」と囁かれ、俺は思わず突き放す。
ベシャン、と湯にテールが落ちる。
「何なんだよ!」
つい素が出る。
濡れた男同士で抱き合うとか何の冗談だ。勘弁してくれ。
湯の中のテールは大爆笑している。口に湯が入ってむせたりしているがしったことか。
「アカサンドリアの第五王子のテール・ロドリックで間違いないか?ふざけた性格のようだな。」
「そうだよ。まあ隣国の王子同士なかよくやろうぜ。」
なんかこいつムカつくなあ。
「静かに湯に浸かりたいから早く上がってくれると助かる」
と言ったのになかなかあがらず絡まれる。
不良キャラじゃなかったのか、お前は。面倒くさいやつだな。
王子という身分だからか元々のキャラか、テールは俺に敬語を使わない今世初めての人物となった。
扱いが適当なのは気になるが、思わぬところで早々に攻略対象者と会えたので俺の攻略としては良かったのだけど。弄りキャラは前世はもちろん、第一王子として生まれた俺の周りに存在しなかったので関わり方がよくわからない。




