学園到着
リセドール学園に到着してから2日後に入園式が行われる。
到着すると学園校舎の前に、寮に案内される。生徒である俺や貴族が到着するより前に、使用人達が1週間から1ヶ月かけて各自の生活スペースである個室を整えているのだ。
寮に案内され、個室の中を主人である俺たちが確認することから生活は始まる。
「デリア、準備ご苦労」
「シャルル様、お待ち申し上げておりました。」
俺が3年間過ごす寮の部屋には、侍女が住む部屋も備え付けられており、俺の専属侍女長であったデリアがついて行きたいと申し出てくれた。
デリア自体も中級貴族で、夫と娘もいるというのに、サファリア王国から離すことに抵抗があったが、
「娘も今年から学園の生徒ですのでいつでも会えるので嬉しいですわ」
と言われて納得させられた。夫より娘なのだろう。
ただでさえ貴族用の寮なので、豪華に作られているが、俺は王族ということもあり、部屋数が多い。
部屋の入り口入ってすぐに前室があり、正面の扉をあけると応接室。
前室の左右のドアは侍女用の部屋と、給湯室に分かれている。
応接室には既に豪華な刺繍の入ったソファーや、草花の彫刻が掘り込まれたテーブルがあり、壁には燭台や、風景画が飾られている。
応接室から続くドアの先には短い廊下があり、廊下にある3つのドアからは浴室、寝室、書斎へと入れる。
何れも、俺より先に到着したデリアが整えてくれているため、不備はない。
デリアに案内されながら、一つ一つ確認していくだけでかなりの時間を要した。
「シャルル様、問題ないようでしたら寮の中をご案内いたしますが、長旅でお疲れのことと存じます。
少し休憩されますか?」
「そうだな、確かに疲れてはいるが寮の中を見てからゆっくり休みたい。あと、腹が減っているのだが」
「かしこまりました。それでは服をお召し替えになってから、食堂からご案内いたしましょう。」
旅装から、動きやすい軽装、とはいっても王子としての品格を失わない程度の服に着替えさせられ、デリアの案内で食堂に向かった。
この寮の構造は中央部分と左右に大きく分かれている。
左が女性、右が男性の居住空間、中央に共有スペースがある。
共有スペースには食堂、簡単な勉強部屋、庭園、そしてなんと温泉を活用した大風呂があるらしい!
この世界に転生してから、初めてだ。サファリア王国には大風呂の概念がなかったので、この世界にもないものだと思っていた。
デリアには反対されそうだが、絶対に入りたい。
裸で入るわけではなく、入浴用の衣服があるらしい。
服を着て入るが、男女別になっているらしい。まあ、濡れてピッタリ張り付いた服を着た女性と混浴は良くないだろう。
食堂はかなり広いホールのようで、私室とは違い木で作られたシンプルな長いテーブルと椅子が並んでいた。
決まった時間に食べるようにはなっておらず、席について侍女が厨房に注文しに行き、給仕されるスタイルのようだ。給仕専門のメイドが沢山壁際に立っている。
今は夕方なので、ここにいるのは新入生だけなのだろう。まばらに先についてる生徒がいる。
「フエゴ」
目立つ赤髪を見つけて近づいていく。
「シャルル様!もう食堂に?」
普通は長旅の後なのでもっと私室でゆっくりするところだろう、という意図を察しながら向かいに座り、返答する。
「移動で腹が減ったのでな。フエゴこそ、部屋で休まなくて良いのか?」
「ずっと座っているだけだったので逆に体が鈍ってしまいそうで。俺、私も腹が減ったもので、部屋の確認はあまりせずこちらに来てしまいました。」
見るともうフエゴの前には料理が並んでいる。
俺はデリアに適当に何か注文するように頼み、フエゴに向き直る。
「確かにな。食後に軽く打ち合うか?寮内にいい場所があれば良いが。」
「それでしたら、男子寮の裏が少し開けているのでお付き合いいただけますか?」
「もちろんだ」
それからは学園までの道中の話になった。
フエゴはアルカンタラ家が治る領が途中にあったため、俺よりも遠出をしたことがあったが、どんどんと学園が近づくにつれ、見たことのない風景に興奮して馬車の窓に齧り付いていたらしい。
「俺もだよ。学園周りは不思議な光景だったな。見たことのないような大木が聳え立つ森も火山もどれも興味深くて窓の外をずっと見ていた。近くの街にも行ってみたいな」
「休日に行ってみましょう!」
と食い気味にのってくる。
「3年もあるからな。順に行こう。」
改めてあたりを見回してみる。
ベアトリスとラファルの姿はまだない。
2人とも、きっと部屋でゆっくりしているのだろう。
服が明らかにサファリアのものではない者がちらほら居る。あれがアカサンドリアの者か。
肌の色は褐色の者もいれば、サファリアと変わらず白い肌の者もいるが、服は地球上の国では当て嵌めにくい。
RPGでいうと、盗賊が来ているような服、というべきか。麻のような素材でできた、長めのダボっとした上着を腰紐で縛っている。
下は男性がズボン、女性は膝下のスカート。とても動きやすそうだ。
思いの外、貴族感がない。
「シャルルはアカサンドリアの民は初めて、ですか?」
俺の視線に気付いたフエゴが声をかけてきた。
フエゴは敬称も敬語もいらない、と何回か言っているものの未だに俺には敬語だ。だが、時々呼び捨てになったりする。本人は無意識なので指摘しない。
「ああ。フエゴは会ったことがあるのか?」
「彼等はいい武器や防具を作るので、うちの屋敷にもよく商人がやってきますよ。」
そうだったのか。
「見た感じ、平民のような服装だが」
「彼等は洞窟で暮らすため、貴族でもあのように軽装です。式典等の重要行事の時は司祭のような正装になるそうですよ。」
「隣の国でも全く文化が違うものだな」
あまり見過ぎても失礼なので目線を戻す。
料理なんかも違うんだろうな。いつか行ってみたい。
その後、フエゴと軽く剣を打ち合った。
男子寮の裏は何もないスペースがあり、簡単な剣の練習くらいなら問題なくできた。
フエゴを風呂に誘ったが、真っ赤になり猛烈に反対された。
やはりサファリアの人間には馴染みのない大風呂文化は受け入れられないのだろうか。元日本人としてはあの良さを是非感じてもらいたいのだが。
いつか風呂の魅力をわからせたい、なんなら俺が王になったらサファリアにも大風呂を作りたい、と決意をして風呂に向かう俺であった。




