ラファル 12歳 冬
僕の名前はラファル・ドルブリューズ。
王宮筆頭魔道士である父ユアンと母イフリータの息子だ。
父は類稀なる魔法の才能を持ち、若くして王宮の魔道士の中でトップになった。
魔道士は通常は高齢になるほど魔法の扱いが成熟して上手くなるので、筆頭魔道士は代々年配の魔導士にその任が与えられる。
その中で、父が筆頭魔道士になったのだから、反対意見が多く出るはずだと思うのだが、誰からも反対意見が出なかったそうだ。
圧倒的な実力はもちろん、その穏やかな性格で、王宮魔道士に慕われているということも大きかったらしい。
母のイフリータは代々、武で名高いアルカンタラ家の出だ。アラン叔父さんは現騎士団長だし、アルカンタラのお爺さまも騎士団長だったそうだ。
母も、女性だが、短期間騎士団に所属していたらしい。
父と結婚して引退したが、アラン叔父さんは母に頭が上がらないのでとてもやりにくかった、という話をしていた。
父と母が知り合ったのはアラン叔父さんの紹介だというのはわかるが、対極のような性格の2人がどういう経緯で夫婦になったのかは僕は知らない。
あまり興味も持てない。
僕の興味の対象は魔法のことや、この世界のこと、精霊のこと。
小さい頃から本ばかり読んでいて、母に連れられていくお茶会で同年代の子供たちに会っても、何も話が合わなかった。同じ歳の従兄弟のフエゴも、本や魔法には何の興味もなく、アラン叔父さんの武勇伝を語り、走り回っているような子だったので仲良くなることはなかった。
同年代の子と話すより、屋敷で本を読んでいた方がよっぽど楽しい。
10歳になって、お決まりの王族のパーティーに招待された。
王様からお祝いの言葉をかけてもらう、光栄な場だと聞いていたけどやはり僕の気持ちはときめかなかった。
初めて入る城内や、王宮は珍しくて心惹かれるものはあったけど、パーティーが始まってからは早く帰りたいな、という思いしかなかった。
しばらく、色々な人と両親が挨拶を交わしているので、僕はその横で頭だけ下げながら、途中まで読んでいた小説のことを思い返していた。早く帰って続きが読みたいなあと思っていると、急に父が誰かを見つけて移動した。
シャルル王子だ。
精霊を具現化したような方だな、というのが第一印象だった。
キラキラしていて、現実離れした美しい容姿。光の精霊が目に見えるならこんな感じなのかもな、と思った。
挨拶後、両親や叔父と話が盛り上がっていたのでまた僕は小説の内容を思い返し、ぼーっとしていたら、いつの間にかシャルル王子が僕に話しかけていた。
突然の声かけに驚いたが、帰宅後父から改めて話をきいた。普通の貴族は10歳から魔法を学ぶのに、シャルル王子はかなり前から魔法の勉強を行なっていて、魔法を学ぶ同年代の友人が欲しがっている。とのことだった。
僕だってもっと早くから魔法を学びたかったのに、父から止められていた。不公平だ、と感じた思いを父にぶつけた。
父曰く、シャルル王子はその年齢の子供とは思えないくらい精神的に成熟しており、魔法を暴走させることはない、と判断されたこと、反して僕は年相応の精神年齢であり、通常通り10歳になるまでは実技を行わないことを母と決めたことを明かされた。
「今もこうやって不満をぶつけてきただろう?」
と言われるとぐうの音も出ない。
とはいえ、そんな評価を受けているシャルル王子に興味を覚えた。どんな方なんだろう。
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初めてシャルル王子にお会いして2年、一緒に魔法の鍛錬をしてきて、魔法に関しては追いつけないという思いが強い。
元々先行して勉強されていた、というだけでなく、元々の属性による魔法の攻撃力の強さ、精霊の加護を多く持つことによる範囲の広さ、魔力量、狙いの正確さ。
12歳の今では、僕とベアトリス様も高等魔法まで習得したが、それでもシャルル様との差を感じてしまう。
ベアトリス様は、今は僕の方が魔法の扱いに長けていると思うのだけれど、彼女もシャルル様に負けないくらい精霊が近くに沢山いて、しかも闇の属性。将来はすごい魔法使いになるだろう、と思う。
僕がシャルル様との差を感じていることを本人に話すと、
魔法の種類や特性によって、戦い方のバリュエーションが変わるので、落ち込むことはない、と慰められ、僕の風魔法の活かし方について、色々と戦略を提示してくれる。そのどれもが納得できる内容で、この方の頭の中はどうなっているのだろう、と不思議になる。
王族、というのはやはり特別な存在なのかな、と感じてしまうが、ベアトリス様と接するシャルル様を見ると年相応に感じ、可愛く感じてしまう。
最初お会いした頃は、ベアトリス様をからかっていることが多かったのだが、ベアトリス様がどんどん美しく成長されると、遠慮がみえるようになった。
綺麗な彼女をどう扱って良いか戸惑われている様子をみると、同じ歳の男の子なのだ、と感じることができ、遠い存在だったシャルル王子を身近に感じるようになった。
ベアトリス様は読書家でいらっしゃるので、初めて同じ歳の子と話が弾む、という貴重な経験ができた。あまりにも本の話で長時間話し込んでしまうので、シャルル王子からは僕がベアトリス様に懸想しているのではないか、と疑いを持たれたことがあった。
シャルル王子が、言い淀みながら、僕に何かを聞こうとしているのがわかったが、いつもの彼の的確な話し方と違い、よくわからない比喩や遠回しな言い方をされて、最初何がいいたいかわからなかった。
途中でようやく、僕がベアトリス様に恋愛感情を抱いているかを聞かれていることに気づき、思わず笑いそうになった。
僕はベアトリス様に恋愛感情を抱いたことはないし、今後も抱く可能性がないことをお伝えすると、あっさりと信じてもらえた。
その時の心底ホッとしたシャルル様の顔を見て、失礼ながらこの方も人間なのだな、と思ってしまった。
僕がベアトリス様に感じているのは、友情のみだ。
とてもお美しい方だとは思うけれど、僕は美醜に興味がない。
ただ、初めて話が合う人に出会い、語り合えることに喜びを感じている。
そして、僕がベアトリス様を初めて知った場は、あの王族パーティーでシャルル様と婚約された時だった。
つまり、ベアトリス様はシャルル様の婚約者だと知った上でずっと接してきているので、畏れ多くてとてもそんな考えには至らなかった。
特にここ最近はシャルル様もベアトリス様と接する際に緊張していらっしゃるので、まるで意識せず普通に話せる間柄の僕とベアトリス様の関係をシャルル様は羨ましく感じていらっしゃるらしい。
僕とベアトリス様はお互いに恋愛感情がないから、楽しくお話しできているのだ、ということを知っている僕としては、お二人の関係性の方が微笑ましくかんじるのだけれど。
お可愛らしいお二人は、お似合いのお二人だと思う。
ダンスに興味のない僕も、あの王族パーティーの際にはお二人のダンスに見惚れてしまった。
光と闇の精霊が仲睦まじく王国を支えて行きました。めでたしめでたし。と物語の一節を読んでいるような、神秘的といってもよいような光景だった。
年が明けると、僕達は学園に入園する。
これまで以上に一緒にいる機会が増える2人が、もう少し緊張せず物語のように仲睦まじく過ごしてくれると良いな、と僕は思うのだった。




