ベアトリスとのお茶会
ベアトリスとの婚約の儀が終わり1ヶ月程度。
ベアトリスはちょくちょく、王妃教育のため王宮を訪れてくれている。
たまに顔を合わすことはあるのだが、俺は俺で学ぶことがあり、ゆっくりと話をすることは出来ていなかった。
というか、考えてみると俺はまだベアトリスとしっかり話したことがない。
初対面では言葉を交わしていないし、王族のパーティーでも婚姻の儀の日も少しだけ。
なんとなくむこうも好意を持ってくれているのかな、とは思っているが、もう少し長く話してみたい。
俺は侍女長のデリアに相談してみた。
「お任せくださいませ。
それではお二人でのお茶会をご準備させて頂きます。」
しっかり話をしたい時にはお茶会の開催が貴族では一般的だということだった。
食事中は、口に物が入っているため、あまり多く語らうことができない。
食事以外の場を設けても、婚約者同士といえ、未婚の高貴な男女が一つの部屋にいることは好ましくない。
屋外で日中の茶会であれば、問題ないとのことだった。
夜会の場で2人で話をする時間をとる、というのも一般的には常套手段なのだが、夜会ではフェルディナンドが邪魔をする可能性が高い、というか確実に邪魔されるのがわかっている。
流石デリア。頼りになる。
茶会の招待客はベルナールの奥方のラファイエット、ベアトリスの2名。招待名義は母上。
母上の私的な女性のみのお茶会、という体で段取りをつけてくれるデリア。
俺はデリアの手腕に感謝するのみだった。
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お茶会当日
城内に開かれている庭園とは別に、王宮の中庭に小さな庭園があり、そちらでお茶会の準備が行われた。
白い石でできたテーブルと椅子。
10人くらいが座れそうな広いテーブルの上にはタペストリーのような黄金の刺繍が施された布が敷かれ、その上には茶菓子が並んでいる。
少し離れたところにメイドとキャスターのついた台があり、その上には紅茶や果実水、ハーブ水といった飲み物が用意されている。
母上とは、ベアトリスと2人で話してみたいと事前に打ち明けているため、母上がうまく時間を作ってくれるようだ。
「任せなさい」
と優雅に微笑まれ、面白がっているような、応援するような表情にこちらが少し恥ずかしくなってしまった。
時間通りにベアトリス達が来場し、最初は4人で挨拶と歓談、お決まりの流れを行った。
母上とベルナールの奥方ラファイエットは面識もあり、以前からしばしばお茶会を開催していたようで親しげだった。
「フェルディナンドのことは本当に申し訳ございませんわ」
とラファイエットが切り出す。
母上は分かっていなようでなんのことでしょう?という表情になっており、
ベアトリスは顔を赤くしながら
「お兄様は私が頼りないばかりに心配させているので過保護になっているのですわ。
度々失礼なことを申し上げており、申し訳ございません。」
と謝ってくる。
「あらあら、妹さまを想われているお心は美しいではありませんか。
過保護になるほど愛されていらっしゃるのね。
ベアトリス様は素敵な方ですのね。」
と母上が無垢な笑顔でくすくすと笑う。
うん、美しくなく醜く歪んでいるようにみえるけどね、
と思ったが口には出さない。
「シャルル、少しラファイエットと内密な話があります。席を外してもらえますか?」
と母上から声をかけられる。
「ベアトリス、向こうに東屋がある。少し我々は席を外そう。」
と、母上からの完璧なフォローを受け止める。
「だいぶ王宮には慣れたか?」
東屋、というより西洋のガザポといった、窓が大きく開けられた休憩場所のような建物に移動し、小さな2人がけのテーブルに向かい合う形になった後ベアトリスに声をかけた。
彼女が王宮に出入りするようになり約1か月が経つ。
「シャルル様、お恥ずかしながら私は幼少期からドアバック家の敷地からほとんど出たことがなく、まだ王宮の煌びやかな雰囲気には慣れておりません。」
と率直な意見を返される。
「ですが、侍女長のデリア様をはじめ、教師の方々、侍女の皆様とお優しく私に接してくださっていますので何不自由なく過ごさせていただいております。
日に日にシャルル様の婚約者、という重責と幸せを実感しております。
これからもよろしくお願い申し上げますわ。」
「すまないね、ベアトリス。
君は単なる貴族の妻ではなく、俺の妻になるためには、王妃としての仕事と重責を背負うことになる。
そして、婚姻の発表の際に話した通り、
通常の王妃としての役割以上に俺が王妃に求めるのは、
酷なことに戦闘能力だ。
本来王妃という重圧以外に背負わす物ではないことは重々承知している。
でも俺はそれを君に求める。
以前にも聞いたが、よくよく考える時間もあった。考えが変わっていても俺は咎めることはない。
本心を聞かせて欲しい。」
くすりと微笑み、ベアトリスはなんでもないことのように言う。
「私の気持ちは変わっておりませんわ。
私はシャルル様が1人で危険な目にあっている時に自分がそこにいないことの方が怖いです
あのパーティーで申し上げた気持ちは嘘偽りや気の迷いではなく私の本心です。」
艶やかに微笑むベアトリス。
「貴女が俺の婚約者でよかったよ。」
テーブルに乗せられたベアトリスの両手をさりげなく掌で包み込む。
本心からそう思う。
両手を掴まれて赤くなり、見開いた紫色の目で俺を見るベアトリス。
俺は優しく彼女を見つめ返す。
「今日はフェルディナンドもいないし、もう少し話ができるかな。」
と悪戯っぽくベアトリスに微笑みかける。
手は握ったままだ。
「俺たちは会って間もない。今日は貴女のことをもっと知りたい。好きなこと、何でもいいが、本、宝飾物、花、過ごし方なんかを聞いてみたい」
握った手が震えている。スキンシップが過剰だったのかな。もっと触れたいのだけれど、話しづらそうなので手を離してあげる。
「本は小説を好んでおります、、、。ここ数年、あまり外に出なかったので、空想の世界の話の本をよく読んでおりました。
宝飾物は、外出することが少ないため、メイドに選んでもらっており自分では選ぶことがありませんでした。本日も、、、」
と言い淀むベアトリスが付けている宝飾物はどれも豪華だ。でも俺からすると豪華すぎて、彼女の良さを消してしまっている。
「確かに、あまり合っていないね」
失言だった。
顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「ごめん、そう言う意味ではなく、ベアトリスの良さを消してしまっているように感じてしまって。
ベアトリスはギラギラした宝飾物よりも、落ち着いた色合いの物が似合うと思う。
俺が送っても良いかな?」
異性に宝飾物を送るというのは特別な意味を持つ、というのは前世でも今世でも同じだ。
こくりと頷くベアトリス。
なんか良いな。女性に宝飾品を送り、好みな感じに育てる、というのは光源氏のようだ。
「あの、シャルル様は宝飾品などでお好みはあられますでしょうか?」
逆にベアトリスからきいてくれる。
「うーん。多分ベアトリス以上に興味がないな。
俺は容姿に関して無頓着な方だ。」
後ろからデリアのため息が聞こえるような気がする。だいぶ離れているので聞こえるはずはないのだが。
「あと、お花はどのお花でも好きです。
個人的には薬草など、効能を気にしてみてしまうのですが、咲いているお花はどれも美しいので、特に好みはございません。
過ごし方は、、、ずっと屋敷にいるだけでしたので、本と刺繍くらいです。」
ベアトリスは俺の質問に全て答えきって少し満足気にみえる。
「家にずっといたなら行ってみたいところはあるかな?」
「外ですか、、、。申し訳ありません、ぜんぜん外の世界を存じ上げなくて。
こうやって城内に入らせていただき、こちらのお庭や庭園にお邪魔でいて嬉しく存じます。」
ふむ、もっと外に連れ出してあげても良いかもしれない。
とはいえ、俺もベアトリスほどではないものの外に出ることは少ない身分だ。
「お互い、自由の身とはいかないが、2人で色々と出かけられるとよいな。」
「!は、はい!」
元気よく返事をしてくれた。
「ベアトリス」
俺は向かい合っていた席を彼女の横に移動して改まった口調で囁きかける。
「は、はい。」こちらの方を見て欲しいのだけれど、俯いたまま返事をするベアトリス。
「俺たちは両親同士が決め、国として相応しい、と想われている婚約者同士だ。」
ぱっとこちらを見上げるベアトリス。
「お前は親に決められたこの婚約は仕方がない、と思っているかもしれない。」
貴族同士の結婚は当事者の意見は関係ないのが常識だ。
「だが俺は、お前と婚約できてよかったと思っているし、これからも良好な関係を築いていければと考えている。」
じっとこちらを見つめるベアトリスに語るように言葉をかけていく。
もう一度そのか細い手を俺の手で包み込む。
ベアトリスは包み込まれた手に視線を落とす。
目線が外れた隙に耳元近くに口を寄せ、耳元で優しく名を呼ぶ。
「ベアトリス」
明らかにぞわっと震えるベアトリス。
顔を真っ赤にして俯いたままのベアトリスの耳元に躊躇なく囁きを落としていく。
「愛しても、良いか?」
俺の手で包み込んだ彼女の手を見つつ、顔を上げずに真っ赤な顔をしているベアトリス。
聞こえてはいるのだろうが、返事はない。
一度片手を外し、後ろから手を回し抱きしめる形でもう一度彼女の両手を囲う。
「聞こえなかったか?」
回した腕で抱きしめながら耳元で囁く。
「ベアトリス、お前のことを愛しても良いか?」
びくっと体を震わせ、目を瞑るベアトリス。
許容範囲をオーバーしたとばかりに真っ赤になり、震えが伝わる。
「ベアトリス?」
と、もう一度耳元な囁くと観念したのか首だけで頷いてくれた。
「ありがとう。大事にする。」
と言い、俺は強くベアトリスを抱きしめた。
小さく細く、柔らかい肢体は女性らしさを感じられた。ベアトリスにくっついていると、心の底に居心地の良さを感じ、相性のようなものが合っている感覚を覚えた。
許容量を超えてしまったみたいで、
その後は真っ赤になったベアトリスがポンコツのように、何をきいても俯いたままだったのでこれ以上の会話は諦めた。
これからも時間はあるのでゆっくり仲を深めていければと思う。
俺の言葉で赤くなるベアトリスが愛おしくて、もっと困らせたい、という気持ちになってしまうのは何故なのだろうか。




