シャルル 婚約の儀の1日
今日はようやくベアトリスとの婚約の儀を結ぶことになった。
数年前から俺の婚約者については両親とベルナールで秘密裏に話し合われていたそうだ。
ベルナールは自分の娘を推すことには遠慮があったようだが、条件上最も優れているのがベアトリスであるのは客観的にみても間違いがなく、第一候補としていた。
後々両親に聞くと、念のためベアトリス以外にも数人の候補がいたらしい。
あのパーティーで、俺たちの様子を見て、問題ないと判断し、あの場で発表を決めたらしい。
本来は神殿に婚約契約書を提出して正式な婚約を行い、その後にお披露目、と言う流れのはずだが、先に発表してしまったので後日正式な婚約となったそうだ。王族が率先して流れを変えるのはどうかと思う。
とにかく、今日は正式な婚約の儀を行うのだ。
王族が誰かを待つ、という状況はほとんどない、というか俺のこの世での10年間で初めてだ。
両親と俺、妹のシャルロッテ王女、弟のアンリ第二王子と家族総出でベアトリスの親族であるドアバック家を待つ。
パーティーではシャルロッテとアンリはまだ出席できる歳ではなかったのでベアトリスとは初対面だ。
「お姉さまができるなんて嬉しいです。」
と楽しみにしてくれている。
2人ともとても可愛い。
ドアバック家の面々が入ってくる。
にこやかな顔の両親と、フェルディナンドの苦虫を噛み潰したような顔の対比が面白い。
最後にベアトリスが入ってくる。やはり緊張しているようだ。
ちらりと妹弟を見るとキラキラした目でベアトリスを見ている。
君たちのお姉さまになるんだよ、と心の中で思いながら温かい目でみる。
形式的な挨拶が終わり神殿に移動する。
俺とベアトリスは神官から婚約契約書の中身を説明されてサインをする。
この契約は精霊の元に行うものである。
破棄するためにはサインした2人だけでなく、今日見守る全ての人間と精霊の許可も必要になる。
というのが大まかな内容だった。
ゲームの中では簡単に婚約破棄していたが、そんなに簡単なことではなかったんだな、とチラリと思う。
精霊が関わる内容だと知り、俺は精霊を見えるようにしてみた。
「わ、、、」
神殿の祭壇部分に立つ俺らの周りに無数の光の玉が浮かんでいる。
これだけの数の精霊に見守られて誓う婚約。
婚約破棄など、ゲームの中のように軽々しく行うものではないと実感する。
「シャルル様、どうされました?」
何もない空間を見渡しているように見えるであろう俺を不思議そうに見るベアトリス。
彼女はまだ精霊が見えないのだろう。
初めて会った5歳の時と同じように、俺だけでなく彼女の周りにも尋常ではない数の精霊たちが浮遊しているのに。
「精霊達が私達の婚約を祝福してくださっている様子を見ているのです。」
と、正式な場での言葉遣いでベアトリスに告げる。
見えていないだろうにきょろきょろとあたりを見回しているのが愛らしい。
「沢山の精霊が私達を祝福してくださってますよ。
ベアトリス、精霊達を裏切らないよう、仲睦まじく過ごしましょうね。」
と言って微笑む。
真っ赤な顔でこくこくと頷くベアトリス。
無事に俺たちの婚約の儀は終わった。
昼食の場
俺の両親とベルナール夫妻は和やかに話をしている。
俺たちの婚約を邪魔したい、と考える貴族達は本当に存在したようで、今日の婚約の儀が終わってホッとした、という内容が主のようだ。
フェルディナンドは元から威圧感のある鋭い瞳を座らせているため、話しかけづらい。
子供達の場が異様な雰囲気になりそうなところ、シャルロッテがベアトリスに話しかけてくれた。
「あの、ベアトリス様。お姉さまとお呼びしてもよろしいかしら?」
「まあ、有難いことです。私は兄と2人だけの兄妹ですので、こんなにお可愛いらしい妹様ができることがとても嬉しいんですのよ。」
「それでは、私も姉上とお呼びしても?」
とアンリが続くと
「もちろんですわ。とても嬉しいです。」
ベアトリスと妹弟との関係はうまくいきそうだ。
問題はこの男だけだろう、と思いあえて挑発してみる。
「フェルディナンド、それでは私も兄上とお呼びしても?」
ぐぐぐという声が聞こえてきそうだ。
「御免被る」
断られた。
「お兄様!」
思わずベアトリスからフェルディナンド様に叱責する声。
「いいんだよ、フェルディナンドがベアトリスを大事に思っている事は知っている。まだ大事な妹が嫁に行くことに反対したい気持ちも理解できる。結婚するまでは兄上と呼ぶことを待つつもりだ」
つまり、シスコンめ拗らせやがって、俺の方が立場も上だし大人だからシスコンのお前を許容してやろう、結婚しちまえば関係ないけどな、という強烈な煽りである。
ベアトリスは俺の態度を謙虚に引き下がった、という風に理解して、申し訳なく思いつつホッとしているようだ。
フェルディナンドは正確に俺の意図を理解しつつも流石にこの場では言い返せないようだ。ざまあ。
とはいえ、これ以上煽るとフェルディナンドも切れそうなので昼食の場ではここまでにしておいてやった。
俺の妹と弟は初めてできた姉に興味津々で話しかけていて、和やかな会となった。
*******
「今後王宮に頻繁にお越しになるベアトリスのための案内なのですが」
「大事な妹が快適に過ごせるか、兄である私が確認する必要があるのだ」
この男は本当に面倒くさい。
俺の侍女長を務めるデリアに、王宮の主要な施設をベアトリスに紹介するというのにフェルディナンドも同行するというのだ。
「フェルディナンドが同行するというのなら俺も」
と、心配になり申し出たところ
「ユアン様がお待ちです」
と侍女長のデリアに言われてしまい、魔法の鍛錬にむかった。
まあ、デリアであればうまくやってくれるだろうから後で色々と確認しよう、と思ったのだった。
*******
「おや、ずいぶんと遅かったですね」と、ユアンが迎えてくれる。
「すまん、昼食の時間が押してしまってな」
と言い訳する。
追求されないことに安堵の息を吐く。
「お疲れのようですが、本日はまた新しい呪文の詠唱の勉強です。」
とにこにこと笑いながら書物を開いて俺に渡す。
簡単なものから難しいものまで、順序立てて教えるのが魔法の基本だ。
先日シャインオーラとシャインヒールを実践で行い、その効果や範囲について驚いた顔で聞いていたユアンは、俺のカリキュラムを見直したそうだ。
ユアンの魔物よけの魔法と同じく、俺の魔法の範囲も通常よりかなり広いらしい。
精霊からの愛され度により、範囲や効果に影響が出るとのことで、ユアンは俺の話を聞きながら目を輝かせていた。
俺と同等の精霊付きのベアトリスの魔法がどの程度なのか、早く知りたいと思うのだが、まだ彼女は魔法の勉強を始めたばかりだろうからゆくゆく考えていこう。
「そういえば、お前の息子のラファルはどうしている?」
パーティーで顔を合わしてからもう2週間程経っている。
そろそろ連れてきてくれないものか。
「ラファルは先日精霊の泉に訪問したところです。
座学は数年前から教えていますので、1ヶ月以内にはこちらに連れて来れるでしょう。」
こちらの世界では基本的に10歳から魔法を教育する。俺が異例すぎて忘れてしまいがちだが、流石にすぐに連れてくることはできないらしい。
「ユアン、ラファルと共にベアトリスにも教育してくれないか?」
思い切ってきいてみる。
ベアトリスも10歳になったばかりで、まだ魔法の勉強はしていないだろう。
2人を育ててくれるとありがたいのだが。
ユアンは少し戸惑った様子で
「もちろん構いませんが、将来王妃になられる方にそこまで魔法が必要とは思いませんが」
と俺の真意を尋ねる。
「俺は王妃であろうと、戦えるものを望んでいる」
と端的に返す。
将来ドラゴンが攻めてくるぞ、という荒唐無稽な話をしたところで呆れられることはわかっているのだ。
「仰せのままに。」
ユアンは空気が読める男なので異論は言わない。
「すみません!!」
なぜか突然フエゴが入ってくる。今日は剣の鍛錬はなかったはずなのだが。
「俺にも、いえ、私にも魔法を教えてください!!」
マジか。
フエゴは脳筋キャラだから俺の中でも最初から魔法を勉強するイメージがなかった。
ただ、間違いなく魔力量が高いフエゴ。魔法が使えた方が戦い方に幅が出るだろう。
「ユアン、彼は俺と剣を一緒に学んでいるフエゴだ。一緒に教えてくれないか?」
「はあ、2人も3人も構いませんよ。この甥っ子が魔法に興味を持つとは思いませんでしたが。」
そうだった。フエゴの父アランの姉イフリータがユアンの妻。
パーティーでも顔を合わせていたのに2人の関係性を失念していた。
「頑張るぜ!ありがとうな!」
と、叔父に対して気さくに話しかけるフエゴ。
イフリータも気さくな感じだったからユアンは慣れているのだろう。
その後も俺の魔法の鍛錬は進まなかった。
フエゴとベアトリスが精霊の泉に行く話になり、そこから俺やユアンの話が掘り返されて話している間に時間が来てしまったのだ。
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夕食後、自室にお茶を持ってきてもらい、午後にベアトリスと同行し王宮内の案内をしたデリアに彼女の印象を確認した。
俺から見る印象と他者の印象では違うかもしれない。
男子学生に多大な人気を誇るクラスのアイドルが女子にはものすごく嫌われている、ということもよくあることだ。
デリアからの報告は俺が見ている彼女と相違なく、王妃としても、この王宮で暮らす女性としても問題なさそうだ。
彼女の容姿の話で俺まで褒められてしまい赤くなってしまった。もちろん、鏡もあるし、前世の俺とは比べるべくもない美形だという認識はあるのだが、毎日鏡で見ていると美形であることを、忘れてしまうのだ。
そして、やはりデリアもフェルディナンドの厄介さに気づいていたようだ。
侍女長であるデリアが協力してくれるなら今後ベアトリスが王宮に来る際にフェルディナンドが邪魔をしてくることはないだろう。
俺は安心して眠りにつくのだった。
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