学園祭後日談
学園祭後日談
学園祭は無事に終了した。
学園祭は夜まで催しがあったらしいが、ベアトリスを寮に送ったまま、自室に戻ってしまったので俺はその後は参加しなかったから夜の部については聞きかじりだけだ。
ダンスパーティーやら、花火やらがあったらしいので、来年はベアトリスと参加したいな。
フエゴ、ラファル、テールに聞いたが、3人ともやはり演劇が終わった後どこを歩いても演劇の話をされたり、遠巻きに見られたりと落ち着かない状態だったらしい。
3人とも、すぐに帰寮したそうだ。
それから暫くの期間、授業中でも学園祭の演劇の話をされるとあって皆げんなりしていた。
やはり俺には誰も直接話しかけてこなかったが、多くの視線がいつも以上に向かってくるのを感じて辛い期間を過ごした。
その視線から逃げる訳ではないが、学園祭の準備期間も含めてご無沙汰していたスルス先生の研究室に行くことにした。
「人気俳優、いや、女優がこんな所に来て良いのか?」
研究室に入室した途端、スルス先生から言われた。
暫くこなかったからの嫌味だろうか。
「……………………勘弁してください。まさか、劇見てないですよね?」
「もちろん見に行ったとも。講師席は確保されていたからな。一般席は入れなかったという声をたくさん聞いたぞ。」
マジか。確かに舞台から見下ろすと客席は満席で、立ち見も居たのがわかったが、それでも入れないなんて、どれだけ人気なのだ、あの小説は。
「あの演劇の話は無しでお願いします。」
「そうか?良くまとまっていたと思うが。ラストシーンはいただけなかったがな。」
「あれは原作の小説が終わってないからの苦肉の策だったそうで。…………いや、やめましょう。」
「女装のドレス姿もさまになっていた。舞踏会のシーンでも違和感なかったな。」
「あれは周りの俳優を高身長の者から選出して少しでも小柄にみえるように工夫したそうです。そのせいで舞踏会出席者と騎士団員と役が被ってしまったのはバレてないと思いますが…………って先生!!勘弁してください!」
その後も暫くイジられた。
楽しそうで何よりだ。
結構しっかり見られていたのだな。
黒歴史、、、。
「ところで、暫く劇に集中していたようだがちゃんと勉強はしていたのか?」
「………………はい、勿論です。」
やっとイジリが止んだとホッとした。
「本当かね?それでは復習も兼ねて、基礎的な魔法陣の書き写しを手伝ってもらおうか。」
「………………いや、先生、これ、どうみても基礎的なレベルじゃありませんが。」
「君や私にとっては初級レベルだろう?」
物はいいようだな、と思いながらどう見ても複雑な魔法陣の書き取りを手伝ったのだった。
学園祭から1週間、2週間と経ったあたりでようやく熱気が落ち着いてきた。
ベアトリスからおずおずと来年の話が出たが、俺たちは全員「保留」とさせてもらった。
劇は「続く」として引っ張って終わったので、来年続きをやらないと顰蹙を買うとはわかるのだが、生徒達からの目線やらコソコソ話やらのダメージは大きく、また来年この状態になるかと思うとげんなりさせられたのだ。
来年になるころには、皆この熱気を忘れてくれているはずなので、このままなかったことにしたいというのが本音だ。
学生の本分は勉強である。
学園祭準備だけでなく、その後にまで影響があるなら勉強にも差し障りがあるのだ。
そんな俺たちの様子がわかり、言い出しにくそうにしているベアトリスの様子を見ているとつい頷いてしまいたくなるが、3人の「絶対に受けるなよ」という目線と、俺自身辟易したので、この話題は禁句となった。
演劇を見に来ていた人達の後日談
「ふわあ、お兄様素敵でした。お兄様はお姉様だったのですね。」
「シャルロッテ、あれは演劇の中の話なのよ。」
「今度からお兄様と呼べばいいのか、お姉様と呼べば良いのかわかりません!」
「アンリ、お兄様だよ。確かに劇中では女性役だったが、お前のお兄様は男性だよ。」
シャルルの弟妹は混乱して、両親は暫くそれを正すのに大変だったようです。
「学生生活を楽しんでいるようで何よりだな。」
温かい目で見守る20代後半と思われる茶色の髪の男性は演劇終了後、誰に語りかけるでもなく温かい声で囁いた。
傍に控える侍従が、自分に語られた訳ではないその一言に満足そうに頷く。
「国にいらっしゃった時の彼の方であれば、こういった催しものに参加することはなかったでしょうな。きっと良い出会いがあったのでしょう。」
「そうだろうな。授業もろくに参加していないと当初報告があった時は私に気を使っていることはわかった。あいつには、余計な心配をしなくても良いと伝えたが聞く耳を持っていなかった。その後、学友を得たと報告があったが、こんな劇にまで参加して。楽しんでいるようで良かった。」
まるで親が我が子を見守るような温かい眼差しに侍従の瞳が潤んだ。
この兄弟は、とても仲が良い。殺伐とした国内の争いとは離れた場所での弟への思いやりに溢れた様子に侍従も嬉しくなった。
「さて、帰るか。」
「お会いにならないので?」
「ああ、あいつにはここに来ていることも知らせてはいない。わたしはあくまでも卒業生としてただ立ち寄ったにすぎぬ。弟との過度な接触は他の弟妹を無駄に刺激してしまうからな。」
アカサンドリアでの王位継承権争いは熾烈なものだ。
他の王妃に子供を産ませた現王に苦々しい気持ちを抱きつつ、侍従は涼しい顔を取り繕い、
「かしこまりました。」
と頷く。
この仲の良い兄弟が、早く堂々と会えるようになる日を祈るばかりである。




