学園祭当日13 演劇終了後
いやあ、すごかった。
演劇が終わって、学園内の何処に行ってもきゃあきゃあ言われる、という体験ができた。
あくまでも遠巻きにだが。
俺に話しかけには来ず、ある程度の距離からは誰も近づいてこないんだ。
でも、明らかにこちらを見て何かを話しながら黄色い声を挙げているのがわかる。
芸能人てこんな感じなのかな?
演劇の題目が、物凄く人気のある小説だったので、その主演を演じた俺に、小説の主人公を重ねているんだろう。
もう、見るからにうっとりした顔をしている人が多い。
女子だけならいいんだけど、男子もそういう顔でみてくるから微妙な気分だ。
何より、学生だけでなく、保護者世代の皆様もだ!
オッサンにうっとりした顔で見られたくはない!
来年はぜったいに演らないからな!!
そして、俺は本日の最大の功労者であるベアトリスの元に向かっている。
俺ら役者陣は、舞台が終わればお役御免となるが、協力してくれていたスタッフの皆は、舞台装置やら衣装やらの後片付けに奔走してくれている。
その指揮を取ってくれているのもベアトリスだ。
脚本から、全体の監督を取ってくれている彼女が1番大変だったろう。
「ベアトリス?」
舞台装置が詰め込まれた教室で解体の指揮を取っている彼女に入り口から声を掛けると、その場の全員が固まった。
作業の邪魔をするつもりはなかったのに。
俺の王族オーラが凄まじい。
「お疲れ様。
皆も大義だったな。無事成功して何よりだ。」
いやいや、皆跪かなくて良いから。やべえ、完全に邪魔してるよ。
作業してていいから!
「少しベアトリスを借りても良いかな?」
少しだけだから!ごめんなさい!
「「はっ!!」」
皆臣下のような返答で返す。アカストリア人のスタッフもいるよね?俺に頭下げなくて良いから。同じ学生だから。
「ベアトリス、ここにいると皆恐縮してしまうから少し外で話そう。」
「はい。」
そうして邪魔にならないよう、隣の教室にベアトリスを誘い出すことに成功した。
「すまないね、大事にするつもりはなかったのだけれど。」
薄々気づいてはいたけど、シャルルの王族オーラは他者を威圧するようだ。俺=シャルルだと理解しているけれど、メイン攻略対象者の威光は、俺が思っていたよりも凄いらしい。俺自身は一般庶民だったので、生まれ変わってからの皆の対応の差との落差に完全には慣れないでいる。流石に生まれた時から王族だし、皆の対応にも慣れているのだけれど、なんだか年々酷くなってきている気がする。
「大丈夫です。ご用件は?」
「そんな言い方は寂しいな。」
忙しい中での呼び出しなので申し訳ないと思ってはいるけれど。
「演劇のために時間と労力を割いてくれて、無事成功した。ベアトリスのお陰だ。本当にありがとう。そしてお疲れ様。片付けが終わるまで大変だと思うけれど、劇が終わったから労いたいと思って来たんだ。改めて、ベアトリスの顔が見たかった。」
演技指導なんかでは顔を合わすけど、こうやって一対一で顔を合わすことはなかった。
少し痩せた頬に手を添える。
「演劇が終わって、これからはゆっくりできるはずだ。しっかり食べて、しっかり寝てくれ。何事にも一生懸命な君はとても素敵だが、私が君の体調を心配してしまうことを覚えていてくれると嬉しい。」
頬を指でなぞると、やはり肉が落ちているように感じる。ただでさえ細いのに、無理をしていたのが伺える。
「!?ベアトリス!」
ベアトリスが崩れ落ちそうになったところを抱き止める。
やはり、かなり無理をしていたのだろう。
ベアトリスのことだから睡眠を削って作業に当たっていたのは想像に難くない。
気を失った彼女を、所轄お姫様抱っこというやつで抱えて、隣部屋のスタッフに声をかけてから女子寮へと運んだ。
普段なら入れないが、ベアトリスの体調不良ということで女子寮に入らせてもらった。道すがら、沢山の人に目撃されて目立ってしまった。
起きた時のベアトリスが恥ずかしい思いをすることになるのは申し訳なく思うが、一応彼女の顔は隠しながら運んだから許してほしい。
まあ、俺に運ばれていて、髪色も珍しい黒、ということで誰が運ばれているかはバレバレなのだが。
ベアトリス視点
演劇の後片付けの最中、シャルル様がお越しになり、私含め片付けのスタッフ全員が固まってしまいました。
思わず皆自然と跪いていました。
私も跪きそうになるのをなんとか堪えました。
シャルル様耐性が出来ている私でさえ、演劇の直後で、尊死しかけた直後の生シャルル様。
皆の気持ちはよくわかります。
私もできることなら跪きたいです。
シャルルさまに促され、隣の教室に移動しました。
2人きりは心臓に悪いですわ。
既に早鐘を打つような鼓動が自分でも聞こえてきそうです。
「すまないね、大事にするつもりはなかったのだけれど。」
皆が畏まってしまった件ですね。いつものことではあるのですが、演劇終了後ということもあり、皆の信仰にも似た尊みが昂っている状態だったため、より顕著な反応だったように感じます。
「大丈夫です。ご用件は?」
気になさらないよう、端的に、素っ気ない言い方をしてしまいました。
「そんな言い方は寂しいな。」
ああ、私の心臓を止めるおつもりですか?
「演劇のために時間と労力を割いてくれて、無事成功した。ベアトリスのお陰だ。本当にありがとう。そしてお疲れ様。片付けが終わるまで大変だと思うけれど、劇が終わったから労いたいと思って来たんだ。改めて、ベアトリスの顔が見たかった。」
ひゅっと息を飲んでしまいました。
ある意味自己満足の演劇に付き合わせてしまったのはこちらの方なのに。
私のことを気遣っていただいていたなんて。
そんな私の葛藤なんて気付かないのか、シャルル様の繊細な指が私の頬に当てられました。
「演劇が終わって、これからはゆっくりできるはずだ。しっかり食べて、しっかり寝てくれ。何事にも一生懸命な君はとても素敵だが、私が君の体調を心配してしまうことを覚えていてくれると嬉しい。」
シャルル様の指が私の頬を撫でている。
私を気遣って、心配そうにしていただいて、微笑みかけていただけて。
そこで私の意識は途絶えました。
ええ、そこからは語るまでもないでしょう。
翌日、学校で皆から、私がシャルル様にお姫様抱っこで運ばれていったと聞かされ、どれほど恥ずかしい思いをしたかなど、、、。
片付けの指揮を取らなければならなかったのに、倒れてしまった私に皆気にしないようにおっしゃってくださり、とても有り難かったのですが、目線の生温さに居た堪れない気持ちになりました。




