100学園祭当日8演劇男装騎士は月夜に夢を見る6
「は?退学!?」
フエゴが怒るのも無理はない。
一緒に王国騎士団に入団する、という夢を語った仲なのだから。
なのに、突然学校を退学し、先んじて王国騎士団に入団することになった、と打ち明けたのだから。
「第二王女殿下直々に護衛騎士への着任依頼を受けた。大出世だろ?」
だから私は明るくそう返す。
女であることがバレた云々は言う訳にはいかないが、実際のところ学校は退学しても王女の護衛騎士になるというのは大出世なのだ。
騎士団の中でも王族の護衛は花形で、名誉ある任務として誇られている。
「そりゃそうだが、卒業もしていないのに…………」
「さあな、私も詳しい事情は聞かされていない。騎士団の中に王女の護衛に適した人材がいなかったのか、王女のワガママで同年代を所望されたのか。断ることもできないからな。学校を卒業出来ないのは残念だが祝ってくれると嬉しい。」
一気に捲し立てる。
細かい事情は誰にも話せない。
だけど、フエゴとは親友のつもりだ。
祝ってほしい。
「…………そうだな。おめでとう。」
そう言ったフエゴの顔は祝うような表情ではなく悔しそうな顔で。
そんな顔を見て、衝動的に全てを話したくなって。
そんな訳にもいかなくて。
「ありがとう」
と言うだけで精一杯だった。
「………………断固抗議します。」
そういうラファル先生にどう言ってよいか困ってしまう。
私の事情を話す訳にはいかないし。
ラファル先生からしたら、王族権限で学生を退学させて護衛に付かせるっていうのは王族の暴挙に見えるだろう。
王国騎士団への引き抜きなんて話はほとんど聞かないし。まあ、稀に学生であっても特別に優秀な場合は引き抜くこともあるらしいけど。今回は不自然極まりないもの。
ラファル先生には魔術師団へ勧誘してもらっていたし、進路相談もしていたので突然の進路決定の報告には心苦しいものがあった。
私が王女護衛騎士になるため退学すると説明したら、ラファル先生から先程の言葉が出て、更にかなりのお怒りムードが出ている。普段穏やかな分、怒っているラファル先生は怖く感じてしまう。なんだか目に見える黒いオーラが出ているのはラファル先生の魔力が高いからなのだろうか?
「私は納得していますので、王族の方への抗議はご遠慮いただけますか?」
これは、私が納得しているとアピールしないと収まらない気がする。思いの外、と言っては失礼だけれど、ラファル先生は生徒思いの熱血教師のようだ。
なんとなくだけど、ラファル先生が王族の方へ苦情を言いそうな気がしてならない。
そして、本当になんとなくだけど、ラファル先生を恐れた王族の方が私の事情なんかを暴露しかねない。
普段ののほほん、とした穏やかな雰囲気のラファル先生は、王国最強とも言われる魔術師団長なのだ。
怒れるラファル先生を初めて見て、そのことを思い出さされて冷や汗をかくのだった。
「初めまして、テールと申します。」
「護衛騎士のシャルルと申します。」
今日は第二王女の護衛初日、隣国の要人との会談に護衛として同席した。
護衛任務は初めてだが、要人との面談で護衛騎士も挨拶をするものだろうか?
普通に挨拶されたから、挨拶を返したが、テール王子の護衛とは挨拶を交わしていない。
ここら辺の兼ね合いが、隣国の風習によるものか、テール王子個人の裁量によるものか、私では判断がつかない。
そのため、チラチラと事あるごとに王女の方を伺い、間違いがないか確認するが、私の視線の問いかけは一切無視を決め込まれている。
何かまずいことをすれば、王女から叱責が飛ぶだろうから、不自然にならないようテール王子に合わせることにする。
本日の面会の相手は大国の王子と聞いていたが、テール王子は護衛騎士に対しても丁寧な好人物という印象だ。我が国よりも大国の王子と聞いていたため、驕り高ぶった上から目線の人物なのでは、と勝手に予測していたが、そういった素振りはない。好人物のようだ。
とはいえ、王女との会談中にも関わらず、こちらにも話を振ってくるから気が抜けない。
王女殿下から、護衛騎士に話を振り、王女殿下の思考をかき乱す政治的揺さぶり、というところだろうか。
護衛騎士とはこんな気の使い方もしなければならないのか、と勉強になった。
テール王子との会談が進むにつれ、王女がどんどん体調を悪くされているようで、受け答えも覚束なくなってきた。
これは王女の護衛騎士としては話を切り上げて休養をとって頂くべきなのか、隣国の王子へ気を使って場を長引かせるのが正解なのか。
王女がすっかりお疲れのご様子で話さなくなったため、テール様は私にばかり話を振られる。
私も話上手な方ではないため困って辺りを見回すが、誰も助け船を出してくれない。
仕方なくテール王子の会話に付き合うしかない、気疲れする護衛任務となってしまった。
護衛は客人対応も学ぶ必要があるのだと学ばされる一件だった。
当たり障りのない薄っぺらい会話だったと思うが、何かテール王子の機嫌を損ねたり、我が国にとってマイナスなことを話してなければ良いが。




