99学園祭当日7演劇男装騎士は月夜に夢を見る5
99学園祭当日7演劇男装騎士は月夜に夢を見る5
フエゴ視点
なんとなくやることもなくて夜に外をぶらついて、ふと見上げた月が綺麗だったから、何となくもっと近くで見たくなって木に登った。
衝動的なもので他意はなかったんだ。
登った先にシャルルの部屋があったのは本当に偶然だった。
ましてや、物憂げなシャルルがバルコニーで1人佇んでいるのを木の上から見つけてしまったのも偶然以外何物でもない。
「何してんだ?」
思わず声をかけてしまった。
「お前が何してんだ?」
いや、そう返されるのも無理はないだろう。
夜中に木の上から声をかけたんだから。
凄く呆れた顔をしたシャルルの間抜けヅラも仕方のないことだ。
「月が綺麗だったから近くで見ようと思って木に登っていたんだよ。」
正直に答えたのだが、
「いや、馬鹿か?」
と突っ込まれてしまった。
まあ、正直自分でも馬鹿だと思うが。
そんなに呆れなくても良いと思う。
「木に登ってたらシャルルが見えて声をかけようと思ったら、お前が思い詰めていたような顔して、なんか考え込んでいたから声をかけようか迷っていた。」
いつまでも木にぶら下がっているのもあれなんでバルコニーに飛び移った。
「はぁ…………。フエゴは悩みがなさそうでいいな。」
なんだそりゃ。
俺を馬鹿にした親友はさっきまで思い詰めたような顔をしたのに笑い出した。
「何笑ってんだよ?」
いきなり笑い出したシャルルに怒りながら内心ではホッとしていた。
さっきまでの思い詰めた表情は霧散し、笑顔になってくれたのだから。
とはいえ、あまりにも笑い続けるシャルルに、お前笑いすぎだろ。と思うと、やっぱりイラッとさせられたのだが。
ラファル視点
「ラファル先生、私って騎士以外になれますかね?」
シャルル君が変な事を言い出した。
この学校に通っていて騎士になる以外の選択肢を考えるなんて普通の学生ではありえない。
王国騎士団学校を卒業すれば、大半の生徒は王国騎士団に入団できる。ましてや、シャルル君は優秀な学生だ。
「シャルル君なら〜王国騎士団には入れないってことはまずないと思うけど〜?」
まさか、自分が王国騎士団に入れないと思っているのだろうか?彼の成績ならトップで入れるはずなので、自己評価が低いのだろうか?
「いえ、ここだけの話、王国騎士団に入っていいものか迷っておりまして。」
まさかの迷い。
若者ならではの気の迷いだとしてもこれはまたとない機会だ。
「魔術師団!魔術師団においでよ、シャルル!僕も団長だから口きいてあげれるから!前から騎士団に入るのは勿体無いと思っていたんだ!!」
王国魔術師団への入団は実際のところ騎士団よりも狭き門で、採用人員は非常に少ない。そもそも魔術の資質がある人員が少ない上に、入団希望者が多い。
でも、魔術は強力な武力になり得るからこそ王国魔術師団は人員を厳選している。
魔術の資質があるだけではダメで、人格も重視しているから入団できる者が少なすぎて、国からはチクチクお小言を言われている。
シャルル君なら資質も人格も問題ない。
というか、一緒に働けるなんて素晴らしい!
この後、魔術師団について色々解説したりアピールしたりしたんだけど、いまいち良さが伝わっていなそうだった。おかしいなあ。
第二王女視点
「ようこそお越しくださいました。」
私は貼り付けたと悟られないような満面の笑みで彼を出迎えました。
隣国の第二王子、テール様。
彼の国は我が国よりも大国で、決して機嫌を損ねてはいけない方。
そんな方が、前置きもなく我が国に訪問、長期間滞在するという意志を国王に伝えられて、どういうことかと国内重鎮皆で戦々恐々としておりましたところ、テール様から私に面会の意が示されました。
父上である王ではなく、私への面会。
どういった意図があるのか、家族会議状態の王族会議でも、順当に考えれば私への婚約申込みなのではないか、という話になりました。
でも、それなら私個人ではなく先に王への打診となるはずです。彼の国では本人重視なのか?と訝しんで隣国の文化も探りましたが、隣国でも高位貴族や王族ならやはり爵位持ちの父親に伺いを立てるようです。
婚約の話ではないなら、王位継承権もそれほど高くない私に何の用があるのか?と皆で頭を悩ませているうちにとうとうテール様がお越しになる日になりました。
用件を聞いてから皆でまた考えよう、という何の対策も打てないまま当日を迎えたのでございます。
「あー、突然の御国への滞在になってすまない。」
いきなりの謝罪に私は固まってしまいました。
テール様の国は大国で、彼の国が本気で攻めれば我が国は一夜にして滅ぼされてしまうでしょう。
そんな大国の王子が我が国に滞在する、という些事で頭を下げたのですから。
謝罪の次に、どんな用件を伝えられるのかと、緊張が抑えきれません。
「少し聞きたいことがあり、時間をとってもらった。」
ごくり、と自分が唾を飲み込む音が妙に大きく感じられました。
真剣な顔をされたテール王子の緊張が伝わり、何か大事を告げられると思ったのです。
「先日のパーティーで、貴女の護衛をしていた御令嬢の素性を知りたいのだが。」
「は?」
「!!申し訳ございません!」
つい、素で返してしまいました!
どれほどの大事か、と気を張っていたのに。
よりにもよって、大国の王子に対して、は?
などと!
走馬灯のように過去の家庭教師の顔が頭に浮かびます!なんたる不作法!家庭教師の皆様、申し訳ございません!!全く王女らしくない態度が出てしまいました!
「いや、すまない。不躾な質問だった。」
内心焦りまくって顔を青ざめさせていただろう私には気付かず、照れ臭そうにテール様はおっしゃいます。
ご気分を害されていないようで心底安堵致しました。
テール様が気付かれていないようですので落ち着いて対応いたします。
「申し訳ございません、あの者の素性は私にも隠されておりまして、存じ上げないのです。」
あの女性は護衛として紹介された際にはヴォルスナー家の遠縁の女性、とされておりました。私の護衛につく者として、ヴォルスナー家当主の言を鵜呑みにするのではなく、身元調査が行われております。
まず間違いなく、ヴォルスナー家嫡男シャルルとの調査結果でした。
ヴォルスナー家の遠縁に、あの日来た女性の年齢、外見に該当する人物がいなかったのです。
嘆かわしいことですが、我が国では嫡男が生まれなかった際に、嫡男として女児が生まれたら男子として育てる風習があります。
年代、外見共に嫡男シャルルで間違いない、と調査員からの報告が上がっており、ほぼ確信に至っております。
とはいえ、今まで私に聞きに来た方々にも、これから聞きに来られる方々にもそれは決して話すつもりはありません。
「嘘ですね。護衛に付く人物を調べなかったはずがない。私に嘘をつく、という意味をご存知ないとは言わせない。」
そうおっしゃるテール様は、表情はあくまでもにこやかなのに目の奥で怒りを見せている。
ああ、この目の前の人物は恐ろしい人だ。
私ごときが逆らえる人物ではない。
私はどうすれば良いのか。
「私の一存ではお話できないのです。後日お伝えさせていただけないでしょうか?」
声を震わせないように自制しながら、それだけ言うのがやっとでした。
恥ずかしながら、私だけで判断できる領域を超えていると感じたのです。
「ありがとうございます。ご配慮感謝いたします。」
そうおっしゃられたテール様の笑顔は私には恐ろしく感じました。
テール様との面談を受け、テール様のご関心は私ではなくあのパーティーで護衛を受けた女性であるとわかった後はあっという間に対策が決まりました。
疑惑を確定させるため、ヴォルスナー家当主、及び嫡男シャルルを王城に呼び寄せ、罪を問わない代わりに私達の手駒として動いてもらう事にしました。
シャルルには、私の護衛、という形でテール様に会って頂くことにしました。
生贄のような形で申し訳ないのですが、国の安寧のためなのです。
ごめんなさい、シャルル。




