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241. げんきの朝はランニングから始まる

 どやどやと、酒場でしこたま飲んだ酔っ払い組の四人が帰って来た。

 なんだかパットがまた潰れておる。


「エルザさん、パットにあんまり飲ませないでよ」

「えー、ガキじゃねえんだ、人の飲み方にケチとかつけねえよ、普通」

「わ、わらしはだいじょうぶれすっ、わがきみっ」


 あやめちゃんがミニキッチンからお水を汲んで、パットに飲ませた。


「まあ、歩いてられる内は悪酔いには入りやせんよ」

「リターナーさんの悪酔いがどんなのか知りたくもないなあ」


 あやめちゃんが、パットの甲冑を緩めたりして、お世話をやいていた。

 やれやれだなあ。


「私は寝るから、騒がないでちょうだい」


 マイペースなオッドちゃんが、口に手をあててあくびをしながら、上段ベットの方へ消えていった。


「あたいはどこに寝ればいいんだ?」

「下段で、パットと一緒でおねがいしたいんだよ」

「まあ、あたいは小さいからどこでも寝れるけどな」

「あっしは? どこで」

「向かいのソファーを使って下さい」

「毛布を持ってくるんだよ」


 あやめちゃんが、下段のベットに行って、毛布と枕を二つ持って来てくれた。


「寝間着に着替えるから、男衆は外にしばらく出ていて欲しいんだよ」

「水でも浴びてきやすか」

「リターナーさん、寝間着は?」

「特にありやせんよ。ダンジョンでは着たきりで寝やすから」

「地上でも?」

「まあ、癖になってやしてね、地上でも寝間着は着てやせん」

「明日買いましょう」

「ええ、いりやせんよ」

「疲れの取れ方が違いますよ」

「そういうもんすかね?」


 冒険者は冒険者で悪擦れして、なんか着たきり雀で暮らしているようだ。

 無精な大学生じゃないんだから、ずっとジャージ的なアタック着で居てはいけない。


 男衆は馬車の外に出された、リターナーさんは行水場へ、僕は……。

 星でも見るか。


 パンゲリアの空は異世界なので、知ってる星座とかがまったくない。

 天文学の本とか読んで、星座をおぼえようかなあ。

 大気の綺麗さは、地球の比ではないので、本当に満天の星だ。

 神さまが宝石箱をひっくり返したように、色とりどりの沢山の星が頭上に広がっている。

 そして、二つの黄色い月と赤い月は、二つとも細くなっている。

 だいたい四十五日周期で、連動して満ちかけするのだという。

 大きい黄色い月が出てから、追いかけるように赤い月が出てくる。

 月の神話とかありそうだな。

 カートン教授に今度あったら教えてもらおうか。


「げんきくん、おまたせ。なにしてるの?」

「星を見てたんだ」

「この世界の星、怖いぐらい綺麗だよね」


 あ、天頂あたりから、星が流れた。

 オッドちゃんのコミュ障が治りますように。

 オッドちゃんのコミュ……。

 三回は無理か。


 僕は馬車に乗り込んだ。

 あやめちゃんも、エルザさんもパジャマだ。

 エルザさんのパジャマ姿が珍しくて見てたら、しかめっ面をされた。

 紺色のパジャマで、可愛い感じだなあ。

 ギョロ目をやめればいいのに。


 ソファーを倒して寝台にする。

 リターナーさんの方も倒してあげる。


「おお、そうなってるのか、すげえ。結構広いな」

「寝心地も良いですよ」

「テーブルをかたづけると、合体させてダブルベットにもできるんだよ。でも、わたしたちのパーティだと、あまり意味がないんだよ」

「新婚さんとかには良いが、まあ、あんま意味はねえな。六人パーティで同衾始められたらかなわないだろう」

「無駄機能であるね」


 リターナーさんと同衾とか、あまりぞっとしない。

 僕はベットに潜り込み毛布にくるまった。


「おやすみなさい、げんきくん」

「おやすみ」

「んじゃねる、おやすみ」


 あやめちゃんとエルザさんが、下段ベットの方へ降りていった。

 しばらくすると、石鹸の匂いをさせたリターナーさんが、帰って来た。


「あっしの寝床は、おお、ここでやすか、なかなか上等でやすね」

「すごく寝心地は良いよ」

「ダンジョンで、良いベットで寝れると、アタックが楽になりそうでやすね。これはいい」


 リターナーさんが、ベットに潜り込んだ。

 僕は、戸口にある魔導スイッチを押して、魔導灯を消した。

 おやすみなさい。


 ……。

 …………。


 ベルナデットの夢を見た。

 彼女は、僕らに与えられた痛手を森の中で癒やしている。

 僕らを激しく憎んでいるのかと思ったら、そうでもない。

 なんか、狩りをして、水を飲み、糸を木々に張り、眠る。

 あまり、思考をする癖がないようだ。

 森の中の民なんだな。アラクネ族は。

 四本ある腕の一つを落とされたので、バランスが狂っているようで、ときどき斬撃糸の狙いが狂って獲物を逃したりする。

 それでも、淡々と、狩りをして、水を飲み、糸を木々に張り、寝ている。

 視点は、ベルナデットの目から、外から見た姿にと、くるくると変わる。

 仲間は居ないのかな。

 社会を築いて生活をすると言ってたから、故郷に家族や友達が居るのだろう。

 戦闘種だから、孤独も平気なのかな。

 アラクネの村にも行って見たいなあ。

 お食事になる恐れがなければだけどね。


 …………。

 ……。


 目が覚めた。

 むむ、なんでベルナデットの夢とか見るんだろう。

 うーん。

 なんか、あれは現実の今のベルナデットの姿のような気がする。

 あれかな、キルコゲールがマークを付けたから、僕の所まで逆流してきたのかな。

 ときどき、キルコの中の人は、僕に夢を見せてるようだし。


 ……。


 え? どんな夢?

 そんな記憶は無いのだが……。

 うむむ、なんだろう。

 なんか、矛盾した考えが沸いた気がする。


 まあいいや。


 僕はベットの上で伸びをした。


 馬車の窓のカーテンを開けると、外はすっかり明るくなっていた。

 さあ、ランニングをするかな。

 しかし、パットは大丈夫かね。

 また、二日酔いではないだろうか。


 もの凄いしかめっ面で、寝間着のパットさんが起き出してきた。


「お”は”よ”う”ござい”ま”ず、わ”がぎみ”」

「すごい、がらがら声だね……」

「あ、頭が痛いのです……」

「無茶呑みすっからだ、適量をわきまえろ」


 先に起き出してきたエルザさんが、ミニキッチンで歯を磨きながら毒づいた。


「まことにもうしわけなく」

「パットちゃん、寝てたら?」

「ランニングに、行きます、這ってでも!」

「這われたら困るなあ」

「がんばりますっ」


 ぐきぐきと首を鳴らしながら、リターナーさんが起き出してきた。


「おはようございやす」


 今日はどこかで、リターナーさんの寝間着を買って、プレゼントしよう。

 オッドちゃんは、まだ寝ているようだ。


 さて、ランニングだ。


「わ、我が君、我が君も体力が付いてきたので、この街にある四本の主道アベニューを全て網羅して、走りましょう」

「……、僕は良いけど、パットは持つの?」

「が、がんばりますっ!」

「いいけどね、無理しちゃだめだよ」


 僕は運動着に着替えて、馬車の外に出た。

 今日はよく晴れて良い天気になりそう。


 そういや、マイカル様はどこに住んでるのかな、宿舎かな?

 ちょっと中庭の方に行って覗いたら、柔道場のど真ん中でマイカル様が高いびきをかいてらっしゃった。

 屋根はつきましたが、壁は無いのに。

 神さまが風雨にさらされていらっしゃる。

 ……。


 まあ、いいや。


 馬車の方に戻ると、運動着のあやめちゃんと、青い顔をした、甲冑のパットがいた。


「運動着を着なさいよっ」

「いえ、聖騎士たるもの、いついかなる時でも甲冑を身体から離すべからずと、決められているのです」

「そうなの?」

「はいっ」


 まあ、決められているならしかたが無いですね。

 さて、ランニングランニング。


 ギルドを出て、塔路を連邦口主道アベニューに当たるまで走る。

 わっせわっせ。


 連邦口主道アベニューに曲がって、どんどんどんどん、坂を下りていく。

 わっせわっせ。

 共和国の方角は、少し霧がかかって、幽玄の森な感じ。

 あの中で、ベルナデットは傷を癒やしているのだろうね。


 連邦口主道アベニューをどんどん下りる。

 朝早い職業の人達が、僕らを見かけて「おはよう」と挨拶をくれる。

 僕らも元気に「おはようございます」と返す。

 挨拶は大事だ。

 古事記にも書いてある。

 わっせわっせ。


 あっという間に上廻り横路ストリートの交差点に到着。

 さらに下り、ライサンダーさんの居る、馬屋さん、黄金の拍車の前を通りすぎる。

 朝早いから、まだやってないみたい。

 店の中では、厩舎員の人達が、くるくると働いていた。

 わっせわっせ。


 どんどん、下りて行く、下りるに従って、店の格式は下がり、庶民的な街になっていく。

 連邦口門前広場に到着。

 まだ入管は始まってないので、静かな物です。

 わっせわっせ。


 下周り横路ストリートを通って、北上していく。

 なんというか、北に行くほど、街が貧しくなるね。

 御下劣なお店も多い。

 わっせわっせ。


 市営孤児院の前を通りがかる。

 ませ子が僕らをめざとく見つけて、門ごしに手をふってきた。


「おお、ませ子早いね」

「ませ子じゃないわよ、ノンノよっ! また走ってるの、バカじゃ無いの?」

「走ると良い事がいっぱいなので走っているのだよ」

「どんなの?」

「うーん、毒を掛けられても、倒れないで済むとか?」

「毒をよけなさいよっ」

「それもそうだね」

「また、遊びにきなさいよね、みんな喜ぶし」

「わかった、うんうん、ませ子がデレたね」

「みごとにデレたんだよ」

「デレってなによっ、キーっ!」


 ませ子は怒って孤児院の方へ走って行った。

 そしてふり返ると、体中を使って、手を振った。


「ませ子は良い子だなあ。将来は売女とか考え無ければいいのに」

「なかなか、この世界では職業に就くのも難しいと思うんだよ」

「基本的に子どもは親の職業を継ぐのが普通ですね。過当競争を防ぐために、各職業はギルドを取っていて、職業に就くには株がいるのです」

「うむむ、孤児院卒業の子どもの進路とかも、考え無いとだめかなあ」

「いや、我が君がそこまでお世話する事は無いかと思いますよ」

「でも、心配なんだよ」


 心配だが、まあ、考えていてもしかたが無い。

 ランニングを続けよう。

 わっせわっせ。


 口なし主道アベニューの登り口が見えてきた。

 折れて、坂道を駆け上がる。

 わっせ、わっせ。


 あ、結構きつい。

 でも、まあ、登れる。

 うむ。

 継続ってすごいなあ。

 わっせわっせ。


 口なし主道アベニューをどんどん上がって行く。

 だんだんと、家や店が豪華になっていく。

 魔導具工房カバランの前を通りすぎる。

 早く純晶水を手に入れて、転移の球を直しに出さないとなあ。

 えらく遠回りをしたものだ。

 わっせわっせ。


 わっせわっせと、上廻り横路ストリートの交差点に着。

 ふうふう、凄い汗。

 わっせわっせと、行政塔に向けて、坂を駆け上がる。

 昔はこれくらいで、へろへろになっていたけど、いまは、結構余力がある。

 わっせわっせ。

 体力がついたなあ。

 それと同時に、足の筋肉とか、腕の筋肉とかが、太くなってきた。

 力こぶとか、げんきくんの肉体の歴史で初めて出たよ。

 わっせわっせ。


 オッドちゃんがよくお菓子を買っているお店の前を通りすぎ、どんどん上がる。

 前は、ランニング中に死舞手しまいての人がよく襲って来たけど、いまはもうそんな事は無い。

 わっせわっせ。


 わっせわっせと塔路着。

 登り切ったぜーっ。

 ちょっと、足がだるい感じかな。

 これをもう一セットか。

 うむむ。

 だりーなー。

 でも、やめるとパットが怒りそうだな。

 しかたがない。

 泣く子とパットには勝てない。


 塔路を右に折れて走る。

 ホテルカルビンの前の道を折れて、共和国口主道アベニューに入る。

 下りる下りる。

 下り坂は速度がでるけど、制動に筋肉を使うので、そんなには楽じゃないね。

 わっせわっせ。


 どんどん下りて、また上廻り横路ストリートに行き当たる。

 そのまま下りて、エルフの八百屋さんの前を通りすぎる。

 エルフのお姉さんは、もう店を開けていて、芋を樽の中で洗っていた。


「おはようございまーす」

「あら、勇者さん、あんた、良く共和国を救ってくれたねえ、私は実家が共和国なんだよ、ありがとうねえ」


 まあ、エルフの人と、ドワーフの人、ハーフリングの人の故郷は、普通共和国だよね。


「これ、たべとくれ、ほんのお礼だよっ」


 なんだか、凄く消え去りそうに綺麗な女性なのに、しゃべり方がおばちゃんくさい八百屋さんから、ミカンみたいな果物を沢山貰った。


「うわ、良いんですか」

「いいっていいって、本当にお礼だよ。この街のエルフやドワーフ、ハーフリングはみんな喜んでいるよ」

「ありがたくいただきます」

「また、買いにきとくれ、おばちゃん、オマケするよ」

「はい、また来ますね」


 魔法袋に、ミカンっぽい果実をほうりこむ。

 エルフのお姉さんに手をふって、また走り始める。


「なんだか、有名人になっちゃったんだよ」

「新聞作戦は、大成功すぎたね」

「シーナの記事は良い物ですから」


 わっせわっせと、共和国口主道アベニューを降りて行く。

 こちら方向でも、下に行くほど家が安物になっていく。

 上流と中流の境界線は、上廻り横路ストリートだね。

 キルークの商業足みたいなものか。

 わっせわっせ。


 どんどん下りて、共和国口広場までついた。

 早起きのエルフさんとかが、僕らに挨拶をしてくれる。


「勇者さん、ありがとう」

「恩にきますよ」

「いえいえ、そんなそんな」


 ハーフリングさんやドワーフさんも笑顔で手を振ってくれる。

 その中を僕らは走る。

 わっせわっせ。


 下周り横路ストリートを連合国口目指して走る。

 だんだんと獣人さんが増えてくる。

 あやめちゃんの、もふもふアイが怪しく光る。

 だんだん、エスニックなスパイスの匂いがしてくる。

 わっせわっせ。


 よし、連合国口前広場に到着。

 いつ見ても、この広場は雑然としてるなあ。

 朝ご飯の屋台から、良い匂いがしてくる。

 こんど、ここらへんで朝ご飯したいな。

 カタリナちゃんにお勧めのお店を聞いてみようか。

 わっせわっせ。


 さあ、最後の坂、連合口主道アベニューだ。

 サイマルさんの占いのお店の屋根を下に見ながら、坂を上がって行く。

 ぜいはあ。

 結構、長く走ったから息が切れるね。

 わっせわっせ。


 どんどん上がって行く。

 わっせわっせ。

 まだ、体力タンクは空になってない。

 まだ、走れる。

 ぜいはあ。

 身体は熱い、汗がわっさわっさ出る。

 でも、走れる。

 わっせわっせ。


 どえりゃあと、上廻り横路ストリートに着く。

 よしよし、あと、一踏ん張りだ。

 交差点を抜けて、坂を上がって行く。

 わっせわっせ。


 目の前が開けて、カイルベル山塊が見え始める。

 ああ、いつ見ても良い山々だなあ。

 雲もかかってなくて、くっきり山が見えた。

 わっせわっせ。


 やっぱり、メイリンはアップダウンがあるから、キルークよりも走っていて楽しいね。

 世界樹の街は、空気は綺麗なんだけど、木が多くて、見通しが悪いし。

 いろいろと街の個性があって、良いね。

 獣人連合国の街とか、帝国の街とかも行ってみたいなあ。

 いろいろと不思議な景色があるんだろうなあ。

 わっせわっせ。


 どんどん上がって、いつもあやめちゃんとカタリナちゃんが勉強してるという、市立図書館の建物が見えてきた。

 僕も行って、本を読んでみたいなあ。

 午後から行ってみようかな。

 どっちにしろ、今日はまだ、ダンジョンアタックの準備だから。


 そうか、今日は午後から休日にしてしまおうか。

 ずっと、働きづめだったしね。

 一日ぐらい休んでもバチはあたるまい。

 そうだそうだ。

 わっせわっせ。


 そして、僕は休む事無く、塔路まで到着した。

 ロッキーのように手を上げて、僕は、うおおおおおと吠えながら塔路に足を踏み入れた。


 ふうふう、と立ち止まる。


「すばらしいです、我が君」

「体力ついたねー、げんきくん」

「うん、ここまでになってるとは思わなかったよ」

「あとは、ギルドで筋トレをいたしましょう」

「……はい」


 トレーニングに終わりなど無いのであった。


【次回予告】

午前の日課は、ギルドでの柔道講義である。

マイカル様を交えて、何倍も増えた生徒に講義をしていくげんき。

そして、乱取りに名乗り出る凶眼のエルザ。


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第242話

見えないエルザと乱取り

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