240. 銀翼の消息を新聞に求める
ギルドに帰ったら、とりあえず行水であるよ。
最近はパットが『間違って』男行水場に入って来たがるので、施錠はがっちりと。
キャンピング馬車にも簡易行水場があるんだけど、展開が面倒だし、一人しか入れないしで、ギルドに居る時は、ギルド宿舎の行水場を借りているのだ。
ふうう、サッパリした。
温風魔法で身体を乾かして、魔法袋からパジャマを出して着込む。
異世界生活も長くなってきて、普段着から礼服まで、魔法袋には完備されている。
これで、魔法袋がなかったらタンスが必要な所だった、魔法袋は大事。
ギルドの廊下をプラブラ歩く。
誰もいないギルドは、すこしさびしい感じ。
おっと、そうだ、ロビーで新聞を借りてこよう。
銀翼のみんなの消息をたどるのだ。
まあ、別れたの三日前だから、たいした変化はないだろうけどね。
シーナさんがいくら記事を書くのが早いと言っても、やっぱり限界があるので、たぶん、記事は三日四日遅れているはず、ひょっとすると舞踏会の記事かもしれないね。
暗くなったロビーで、ランタンを灯して新聞を探す。
なんか夜盗と間違えられそう。
おっと、世界樹日報があった、メリリンさんの記事も読むかな。
連邦日報も発見した、見出しを見ると、『銀翼の新しい仲間、白馬ゲンキ』とあった。
ああ、勲章の副賞の軍馬君か。
なになに?
『銀翼の新しい仲間、白馬ゲンキ』
キルーク市の空港足で、ヒダカ・ゲンキ隊長を、我々銀翼動甲冑騎士団は見送った。
だんだんと小さくなっていく銀竜を追って、みな自然に駆け出し、追っていた。
私たちの隊長、小さくて元気でやさしかったあの人を、私たちは追っていた。
「たいちょ~っ!! たいちょ~!!」
アリア少尉が泣き声で、ゲンキ隊長の名を呼ぶ。
その声は、みなの心の代弁であった。
一週間にも満たない間だったが、我々がどれだけ、ゲンキ隊長を愛しはじめていたのか、どれだけ大切に思っていたのか、思い知らされた気がする。
もう、戦場の宿舎に帰っても、ゲンキ隊長の笑顔には会えない。
気さくに食事を作ってくれた、あの美味しさにも会えない。
ふんわり笑うアヤメさんや、厳しく指導してくれたオッド師にも会うことができない。
ああ、なんだか、我々は我が家を失ったような気がする。
「銀翼動甲冑騎士団っ!! 整列っ!!」
セレナ新隊長の元で、我々は整列をした。
「さあ、戦線に帰ろう、ゲンキ隊長の名を汚さぬように、訓練に励み、栄光を勝ち取ろう!」
「「「「はいっ!!」」」
我々はキルーク城に戻り、帰営の準備を始めた。
魔導機を動かし、竜車に乗せていく。
ゲンキ隊長の一号機は、ケーミン中尉がなんとか動かした。
魔導師のケーミン中尉であっても、一号機は歩かせるのがやっとらしい、ホバー機能は異世界人の魔導力の高さあっての仕組みだという。
この燃費の悪い一号機で、ゲンキ隊長は戦場を縦横にかけぬけ、ミルコゲールを投げ飛ばした。
凄まじき英傑と言わざるをえまい。
動く一号機を見て、アリア少尉が、また涙ぐんだ。
それを見たリリアン少尉が、アリア少尉を叱った、だが、彼女の目にも涙が光っていたのを、小職は見逃さなかった。
真っ白な白馬が、殺風景な城の中庭に現れた。
連合軍の式典官セドリック大尉が白馬の背にのっていた。
「これは、勇者ゲンキの勲章の副賞の軍馬です。セレナ隊長、お受け取りください」
「はいっ」
とても綺麗な馬だった。
どこまでも真っ白で、なにやら、ゲンキ隊長のような優しい目をしているようにも思える。
「ゲンキ、君の名は、ゲンキ号だ」
アリア少尉が、愛おしそうに白馬ゲンキ号の首に抱きついて頬ずりをした。
大人しい性質なのか、嫌がりもせずにゲンキ号はアリア少尉の頭にアゴをすりつけた。
「うわあっ、よだれがついたっ、ゲンキめー」
中庭に花が咲くように笑いの輪が広がった。
アリア少尉は、相変わらずである。
「セドリック大尉、ありがとうございます。大事にします」
「うむ、ゲンキ殿の名がついた馬ならば、みんな大事にしてくれそうだね」
我々は、新しい仲間、白馬ゲンキと共に、竜車に揺られて戦線へ戻ったのだった。
そして、着いた先は、魔王軍に占領されていた中原城塞であった。
我々には、新しい宿舎が与えられたのだが、これが、とてつもない代物であった。
次回は、我々がいかにして宿舎を過ごしやすく改造したのか、その苦労と結果を語ろうと思う。
(連載記事:戦場からの手紙 第8回 シーナ・カミストル)
……。
アリアさんは相変わらずだなあ。
ああ、でも、目に見えるようだね。
なんだか、みんなに会いたくなってしまったよ。
白馬ゲンキ号かあ、良い馬っぽいね。
僕は新聞を持って、キャンピング馬車に戻った。
馬車の中では、オッドちゃんとあやめちゃんと、カタリナちゃんとクルツがお茶を飲んでいた。
あやめちゃんとオッドちゃんも行水すませて来たようだね。
「そいじゃ、あんちゃん、俺はカタリナを送って帰るから」
「うん、気を付けて、カタリナちゃんはどこにすんでるの?」
「連合国門と連邦国門の間ぐらいの下町ですよ」
「わ、結構降りるね。気を付けてね」
「はい、勇者さん、オッド師、アヤメさん、おやすみなさい」
「おやすみ、また明日ね」
「おやすみなんだよ」
クルツとカタリナちゃんが馬車から出ていった。
「あ、それ、連邦日報?」
「そう、シーナさんの記事読んだよ、良かった」
「よませてよませて」
「私も読むわ」
二人が競って連邦日報を一緒に読みはじめた。
「あはは、ゲンキ号だって」
「もう、アリアはちっとも変わらないわね」
僕は、世界樹日報の方を開いた。
なになに。
お、メリリンさんの総族長へのインタビュー記事が載っている。
ふむふむ。
総族長は、一部の人種が他の人種を支配するような主義には反対で、それは共和国の理念に反する事だと語っていた。
自分の老化が始まった今、早急に後継の総族長を選ぶ選挙をしなければならないのだが、それも、共和国にはびこるエルフ至上主義者の撲滅をすませた後でやるつもりらしい。
エルフの能力が行政、政治向きではあるが、他の人種、ドワーフ、ハーフリング、人間の総族長候補も押し立てて行きたい、多様な人種の理念を摺り合わせて共和していくのが、われわれの国の理念であるから、だそうだ。
理想的で、綺麗であるけど、やっぱり難しいよね。
どうしても、エルフの能力の高さに、他の人種は助けられる感じになるし。
それぞれに、持ち味が違うから、上手く行けば良いけど、下手をすれば、エルフの逆差別になりかねないし。
とりあえず、僕としては、がんばって、としか言えない。
他の世界の政治には、クチバシを突っ込めないしなあ。
覇王なんかになる気もないし。
「ぶっ!」
「ん? どうしたの?」
「な、なんでもない」
メリリンさんの、次の総族長候補で一押しは誰ですか、という質問に、カタリーナさんは、「勇者ゲンキですね」とか言ってやがる。
奥ゆかしい方なので、固辞されましたが、人族の代表として、再考ねがいたい、とか言ってる。
いやざます。
一国の元首になって、国民の幸せの責任をとるとか、そんなのまっぴらだね。
はやく、オッドちゃんのコミュ障を直して、日本に帰って、漫画とゲームざんまいのオタクライフに戻りたい物です。
しかし、共和国の総族長に僕がなったら、獣人連合国の戦挙にでて、大統領を兼任、そのあと、神聖人類帝国の皇帝と政治戦をして、勝ったら、皇帝も兼任、ほぼ世界征服に王手がかかるね。
諸王国連邦の構造は連邦国なんだから、併合すれば、盟主兼任している僕の方が強い……。
そのあと、ひとまとめにした人類連合軍で、魔王領に攻め込んで、魔王城を征服すれば、世界統一皇帝の出来上がりだ。
あやめちゃんをお后さまにして、大陸を統治、お子様が二代目として擁立……。
これは……。
一代で滅びる帝国だね。
僕が死んだら、世界が麻のように乱れ、また乱世に逆戻りだ。
そして、また、オッドちゃんは一人になり、魔王も居ない世界で、ひとりとぼとぼと旅をするんだ。
みんなが死んでしまった世界で。
ぼくらの思い出だけを抱いて。
ゲンキが生きていた頃は楽しかったわ。
でも、死んだら、世界はこの通りだわ。
私は、また何も変わらないで。
また、旅をするのだわ。
とか、言いながら。
そういう、辛いのは駄目だな。
うん、覇王、駄目、絶対。
【次回予告】
メイリンに戻ったげんきの朝はランニングから始まる。
だが、体力がついた分、鬼コーチ、パトリシアのコース取りも過酷になっていく。
走れげんき! セリヌンティウスが待っている!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第241話
げんきの朝はランニングから始まる




