239. 酒場の夜は更けていく
「そういえば、エルザさんもダンジョンアタックに参加してくれるんですか?」
エルザさんは、豚肉を噛み切りながら、うむうむとうなずいた。
「ゲンキには借りがあるからな、付き合うぜ。そういや、メリッサにやられた子はどうなった?」
「セシリアちゃんは元気になってましたよ、二三日様子を見るって院長先生が言ってました」
「わかった、面会出来るようになったら言ってくれ」
「セシリアちゃんに謝罪したら、共和国に帰るんですか?」
「ああ、悪いが、総族長の残り時間が少ないんでな、なるべく一緒に居てあげたい」
「そうですね。その方が良いと思います」
「あと、鳥の悪さの後始末があるからな、マルゴットが一手に引き受けてアップアップしてそうだ」
「そうでしょうね、結構根深く食い込んでいたみたいですから、大変ですね」
「まあ、エルフ至上主義者をパージすれは、だいぶ風通しが良くなると思うが、問題は隠れた主義者たちだよな。まったく頭がいてえぜ」
「あら、エルザ帰っちゃうの、なんだか、そのギョロ目がパーティにいるのに慣れてきた所なのに」
「言ってろ、オッドめ」
エルザさんは苦笑して、ブランデーをくいっとあおった。
「あ、そうか、駄目だ、コルキスをぶっ殺さねえと、帰れねえや」
「忘れてたな。誰かに伝言を頼まないと……。蜘蛛?」
「蜘蛛か、ううむ。魔王領とは国交無いからなあ」
「そのうち、本人がじれてやってきそうではありやすけどね」
「まあ、しばらく待ちだ、のんびりさせてもらうぜ」
「せっかくだから、ジュードーをおぼえたいでやすね」
「だなあ、明日、勝負だ、ゲンキ」
「ええ、嫌ですよ、エルザさんムキになるから」
「いいやがったな、こいつ」
エルザさんが、笑いながら、手を伸ばして、僕の頭をぐりぐりと撫でた。
ははは、なんだかね。
なんだか、エルザさんとも仲良くなったなあ。
初対面の時には考えられなかった状況だね。
エルザさんと僕は、色々と考え方の底が違う感じだけど、尊敬出来るプロの人だと思う。
夢見がちでポワポワしている僕たちと違って、リアルな軍人ぽい判断が出来る人だ。
人は付き合ってみないと本当の価値は解らないね。
グラタンっぽい見た目の料理が来た。
だれよ、これ頼んだの?
誰かはしらないが、ちょっと取り皿によそって食べる。
ああ、ジャガイモ系のチーズ焼きというか、すごく美味い。
おいしいおいしい。
あまりに美味しいので、あやめちゃんとオッドちゃんとパットによそってあげる。
「あつあつあつ、熱いけど、おいしいわね」
「ジャガイモグラタンっぽいものなんだよ」
「はふはふ、美味しいですねっ、我が君!」
「ニーナも食べなさい」
「あ、あたしは猫舌にゃっ、って、あつあつあつっ! あ、でもおいしいにゃ!」
「ここの飯は美味いな」
酒の席は、どんどん乱れていく。
大騒ぎである。
あちこちで、歌が歌われ、フロアで踊り出す人達もいる。
うおお、ニーナさんダンス上手いなあ。
まあ、お茶を飲んでいる、僕ら子ども組は冷静な感じで、パクパク料理を食べているんですけどね。
「もりあがってるざますね」
「おー、良い酒場であるな」
ギルドマスターのマダームが、マイカル様を連れて入って来た。
「ザマス、マイカル、こっちに来なさいよ」
「おじゃまするざますわ」
「うむ、邪魔をするぞ」
「う、うわさの神さまがきたにゃっ!!」
「うむ、降臨した、本物の、拳闘レスリングの神、マイカルであるっ!!」
「神さま、お酒をのみやすか?」
「お、なかなか良い身体の持ち主よのう、どうだ、拳闘レスリングを始めぬかっ!」
「へい、メイリンに居る間は、ゲンキ殿にジュードーを教えてもらいやすので、拳闘レスリングも教えてくださいやし」
「よかろうよかろう、明日の朝、道場に来い!」
「へい」
なんか、リターナーさんが、バリバリ強くなっていきそうであるね。
今でもスキルを得て強くなったんだけど、あんまり劇的に凄くなったようには見えないね。
元々強い人にはスキルは効きにくいのかな?
僕みたいな、まったく素養がない所にスキルだと、凄い補正だけど、素養がある人に補正が掛かっても目立たないのかもしれない。
ちょっと残念かもしれないなあ。
剣聖みたいになるのかと思ってたのに。
マイカルさまに、オッドちゃんがスピリッツを注いであげている。
マダームには、ジーナさんがワインを注いでいた。
「ギルマスは、今まで、マイカル様と練習でしたか?」
「みっちり修業したざます。面白い技を沢山おぼえたざますよ」
「これ以上強くなってどうするんですか」
「武の道は死ぬまで修練ざます。これでよい、と思った瞬間に武は死ぬざます」
「魔法もそうよ、カタリナ、ミランダ、一生勉強よっ」
「はいっ、オッド師!」
「そ、そうね」
マイカル様は、スピリッツをがぶがぶ飲み、フライをガリガリかみ砕いた。
蟹の殻まで食べてはいけませんよ、神さま。
「ふむ、美酒、美味、良い酒場よのっ!」
「神さまって、天界でなにしてるんですか」
「ぶらぶらしておるっ!」
「なんか、意味のある仕事とかしてないんですか? 縁結びとか」
「そんな面倒な事をする神はおらんっ! 邪神ぐらいだ、人に関わるのは」
「邪神って、メリッサだけじゃあないんですか?」
「人の悪徳の数だけ、邪神は居る! 善神が皆、怠惰であるのに、邪神は働き者だっ! 始終なにかしておるっ!」
「それって、やる気があると、邪神になってしまうのでは?」
「さよう、なんであろうと、神が介入すると、大げさな事になり、人は堕落するっ! 怠惰こそが善神の資格よっ!!」
「なんだかなあ」
この世界の神さま事情に、がっかりだよ。
というか、神さまが怠惰だからいいのか。
あんまり率先して善を行うのもいけないのか。
理想世界っていうのは、人が努力して作るべき物なのかな。
「あたしにも、武道教えてほしいにゃ、神さま!」
「よし、明日の朝、こい、猫よ! もんでやろう!」
「そういえば、勇者くんが帰ったということは、ジュードーを教えてくれるのかい?」
「ええ、明日から、再開しますよ。なんだか凄い道場ができていてビックリしました」
「ほほほ、タタミを聖堂都市から輸入したざます。ジュードー人気がすごいざます」
「僕らが迷宮から戻って来たら、ジュードーブームで、悔しい思いをしたんだ。明日、行ってもいいかい?」
「ええ、かまいませんよ、セストルさん」
「わたしも行くわよ、ゲンキちゃんと組み合っちゃう」
「えー、シルビア姐さんも来るのかよー」
「あら、クルツちゃん、不満なのっ」
「いや、まあ、良いけどさ」
「うむむ、ジュードーは人気じゃな、やはり、投げと固めに限定して、覚えやすいのが良いのか!」
「あとは、ウケミざますよ。倒れ方って技術は盲点ざましたわ。実用性がありましてよ」
「あれ、良いですよね、ギルマス、俺も前の迷宮行きで、アタックドックに体当たりして転がったんだけど、とっさにウケミが出て、反撃できましたもん」
クルツが興奮ぎみに、ウケミの実用性を力説した。
というか、ジュードーがさっそく役にたっていたのか、よかったなあ。
さて、お腹も一杯になったから、帰るかな。
「オッドちゃん、パット、エルザさん、リターナーさん、ジーナさんは、まだ飲んでる?」
「私はまだ飲んでいます、我が君」
「私は帰るわ、楽しかったわ、みんな」
「あたいも飲み足りねえな、先に帰ってろ」
「あっしも、もうすこし話をしていやす」
「わたしも、みんなのお話しを聞いていたいですね」
ジーナさんが、白翼の僧侶のマリアさんと目を合わせて、にっこり微笑んだ。
回復職同士で話が合うのかな。
「じゃ、帰ろうか」
「あいよ、兄ちゃん。カタリナ、送っていくよ」
「あ、うん、おねがいねクルツ」
「帰ろうなのだ」
あやめちゃんが今生のなごりのように、ニーナさんの尻尾をもふもふした。
「また、飲もうにゃ、勇者二人」
「うん、たのしかった、みなさん、ありがとう、では」
みんなのじゃあなという別れの言葉に送られて、僕らは酒場を後にした。
外に出ると、あたりはとっぷりと暮れて暗い。
オッドちゃんが、光球をぽかりと出して前方の道を照らしてくれた。
「いやあ、白翼遊撃団の人達が、あんなに気さくだったとは思わなかったぜ」
「なに言ってるの、あれはオッド師と勇者さんが居たからよ」
「そりゃまあ、そうだよな。でも嬉しかったなあ。憧れだもんな、タリムムうらやましがるだろうなあ」
「そうね、リーダーは白翼ファンだから」
「連れてくれば良かったのに」
「えー、でもだってなあ」
「白翼と言ったら、もう、雲の上に居るような凄い人達なので、そんな人達の居る場所には、なかなか行く勇気ないですよ。オッド師が連れて来てくれなかったら、私も勇気がでなかったですよ。ありがとうございます、オッド師」
「うん、それは良かったわね」
オッドちゃんは、なんだか、凄く良い笑顔でドヤ顔をした。
そういえば、エルザさんと初めて会ったのも、酒場から帰りの道だったなあ。
道を照らす二つの月は、月齢を重ねて細くなってるけど。
今日の夜道は、平和な物で、僕らはゆっくりゆっくり塔路を歩いて、冒険者ギルドに戻った。
【次回予告】
ギルドに戻ったげんきは、ロビーで連邦日報を読みふける。
ジーナが書いた、銀翼動甲冑騎士団の動静を彼は知ることとなる。
そこに書かれていた事実とはっ!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第240話
銀翼の消息を新聞に求める




