表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/750

236. セシリアの容体

 錠の掛かった鉄格子の扉を抜ける。

 廊下が水色に塗られていた。

 閉鎖病棟だね。


 叫声を上げる人とか居たらやだなあ、とか思っていたけど、閉鎖病棟は静かな所であった。

 奥の部屋を院長先生がノックをすると、綺麗な声で「どうぞ」と返事があった。


 部屋の中に入ると、セシリアちゃんがベットの上で上体を起こして、こちらを大きな目で見ていた。


「セシリアちゃん、こちらは勇者の方、おぼえてますか?」

「……はい、おぼえています」

「こんにちわ」

「良くなったみたいなんだよ」

「はい、その、あの時はありがとうございました。勇者さんと女勇者さんがいなかったら、私は……」

「気にしない気にしない、人を助けるのが勇者の仕事なので」

「ほんとうにありがとうございました」


 セシリアちゃんはぺったりと上体を折り、毛布に顔を埋めてお辞儀をした。


「メリッサは封じたんだけど、変わりはあった?」

「あ……。そのせいですか。それで圧迫感が消えたんですね」

「圧迫感?」

「なんだか、心をぎゅっと誰かに握られて、ぎゅうぎゅう潰されるような、そんな感じが、ずっとあったんですけど、五日ぐらい前から、それが、すっと消えました」

「それは何よりだったんだよ」

「いまは大分落ち着きました、その、前の事を、思い出すと……」


 セシリアちゃんの片目がびくびくと痙攣した。


「まだ、無理に思い出してはいけないよ」


 院長先生が、優しくセシリアちゃんの肩を抱いてたしなめた。


「は、はい、怖い夢も、あまり見なくなりました。勇者さん、ありがとうございました……」

「うん、だんだんと良くなっていけば良いと思うよ。無理しないでね」

「でも、治療費が……」

「そういう事は気にしちゃだめなんだよ。気を楽にして、のんびりするのが、良いと思うな」

「はい、ありがとうございます」


 セシリアちゃんの表情が辛そうに見えたので、僕らは、病室をおいとまする事にした。


「あの……」

「はい」

「ま、また来てくださいますか?」

「うん、またくるよ。何か欲しい物はある?」

「え……」

「本でも買ってくるんだよ」

「あ、その、パンの本を……」

「セシリアちゃんは、将来はパン屋さんになりたいんだったね、うん、探してくるよ」

「わ、わがままを言って、ごめんなさい」

「大丈夫大丈夫、へいきだよ」


 あやめちゃんが、優しくセシリアちゃんの頭を撫でた。

 手が頭に触れた瞬間、ビクンッと身体がはねた。


「大丈夫大丈夫」


 呪文のように言いながら、あやめちゃんが頭を撫でると、セシリアちゃんの身体から力が抜けていった。


 僕らは病室からでた。


「日に日に良くなっていますね。謝罪の方は、二三日様子をみてからにしましょう」

「はい、責任者に伝えておきますね。治療費の方は?」

「今の所、市の方が立て替えてくれています」

「共和国政府が、謝罪と賠償をしてくれるそうなので、伝票をいただけますか?」

「明日までに用意しておきますね」

「ありがとうございます、院長先生」

「ところで、メリッサは滅びたのですか?」

「ミシリラ様が火山に封印したようです、世界の闇を固めた存在ですから、無くしてしまう訳にはいかないそうなのです。散らして、遠ざける、以外の対策が無いそうです」

「闇もまた、世界の一部、という事ですか、世界は楽園にはなれないのですね」

「残念ながら、そのようです」


 何か世界のことわりのような物なんだろうね。

 たぶん、闇を撲滅させるために動くと、闇に飲まれて偉いことになるのだろう。

 深淵を見つめると、深淵もまた、君を見つめている。ような事か。


 闇に対抗するのは、光、ではないようだ。

 闇を消そうとして、強い光を作ると、闇がますます濃くなるような感じだ。

 意外な事に、武道の高い境地、だと、意識が明晰になり、闇と対抗できるようだ。

 武道も力で煎じ詰めると暴力で、闇よりの物なのだけど、そこから出て来た明鏡止水な境地は、悟りみたいな物で、闇をはじき飛ばす事もできる気がする。

 善でも悪でもない、なんか清浄な境地だな。

 うむむ、銭の花は泥の中で咲く、その花は白い、みたいな物か。


 面白い事に、騎士道とか武士道とかの戦いの美意識という物は、世界でも、激戦の地域の、ヨーロッパと日本にしか発生していない。

 血と血を洗い、暴力に暴力を重ねる事で、不思議な境地が発生するのは、なんだか皮肉な事だなあ。

 言葉ではなく、行動での暴力は、重ねる事で変質するのかもしれない。

 一流の暴力なのかね。


 そんな事を考えながら、ケストナ治療院をおいとました。

 また、明日、本でも持ってお見舞いにこよう。


 ふう、と、あやめちゃんが空を見上げて息をついた。

 昼の八をすぎて、空はだんだんと暗くなり始めている。

 地球時間で四時頃ね。


「ジーナさんのお店が近いから、挨拶していこうかな」

「いいですな、我が君」

「ジーねえちゃん、きっと待ってるぜ、いこういこう」

「あ、お土産を渡すんだよ」

「そうだね」


 僕らは、上廻り横路ストリートを歩き出した。


 途中、パットが酒屋で、自分とオッドちゃんとエルザさんのお酒を買った。

 リターナーさんの好みは解らないので、買わなかったそうだ。

 あんたたちは良く飲むからねえ。


 横路ストリートのお店をひやかしながら、僕らはゆるゆると歩く。

 ああ、のんびりするなあ。

 共和国では、休みもなく働きすぎたよ。

 一日ぐらい、銀翼動甲冑騎士団の娘たちを連れて、キルークに遊びに行けばよかったなあ。

 まあ、でも、ミルコゲール対策に時間が無かったからなあ。

 なんだか、無駄でどうでもいい、こういう時間が、とても大切な感じがする。

 しばらく、魔王軍とか、ミルコゲールとか、蜘蛛とか考えないでブラブラ暮らしたいね。


 ミルコゲールの故障が、なかなか治りませんように~。

 ベルナデットの傷が、なかなか治りませんように~。

 僕は共和国の方を向いて祈った。


 ジーナさんのお店が見えてきた。

 ドアをあけて中に入ると、いつものようにジーナさんが無言で薬の調合をしていた。

 調合の途中で気が抜けないので、終わるまで返事ができないらしいんだよね。


 ぽわりと、緑色の煙が試験管から上がって、調合は終わったようだ。


「失礼しました、いらっしゃ……、あ、勇者さんっ! お帰りなさいっ」

「ただいまです、ジーナさん。お変わりないですか」

「はい、クルツちゃんたちと一緒に、二十五階に蜘蛛の毒腺を取りにいったぐらいですよ」

「トマスくんが、その新薬で快方に向かってるみたいですね、ありがとうございました」

「いえ、もう少し早く思いつければ良かったんですが、エリーちゃんは間に合わなくて、ごめんなさい」

「ジーナさんがあやまる事じゃないんだよ」

「そうだよ、ジー姉は良くやってるぜ」

「トマスは助かったから、感謝しているぞ、ジーナ」

「あ、ありがとうございます。近日中にダンジョンアタックですか?」

「はい、落ち着いたら、潜りに行きますよ。目標は五十三階です」

「俺も、地図を覚えてる途中だぜ、四十九階のフロアボスがやっかいだけど、あんちゃんと、オッド師が居れば楽勝だと思うぜ」

「フロアボスは、三十九階と、四十九階か」


 二十九階のミノさんは、リターナーさんが入ったから、なんとかなるでしょう。

 未知のフロアボスとか、魔物とかが怖いな。


「三十九階は、クラウドドラゴン、中型の竜だな。四十九階は、レッサーデーモンだよ。魔法攻撃してくる」

「結構むずかしそうだね」

「三十九階を抜けると、罠も大部分生きてるし、魔物は多いしで、結構大変だぜ」

「未知の薬効のある魔物も居そうですね。楽しみです」

「また、オッドちゃんと契約をギルドで結んでくださいね。クルツもね」

「契約とかめんどくさいし、いいのに」

「だめだよ、きちんとしないと」

「解りました」

「あ、あと、晩ご飯をみんなで食べませんか?」

「あら、良いですね」

「え、どこに連れていってくれるんだ?」

「どこに行こうかな、エルフ料理以外だね」

「菜っ葉はなあ」

「獣人連合国料理のお店にいきたいんだよ」

「最近、ウイルウイルは新聞で紹介されちまって、混んでるらしいぜ。俺は行ったことないけどさ」

「あー、そりゃ客は来るよなあ。あの値段で、あの味だから」

「そうですね、我が君。良いお店は混むのが難点ですね」

「メイリンに帰った記念の晩ご飯だから、トロワの車輪亭にでも行こうか?」

「げっ、塔路の冒険者酒場じゃないか、あんちゃん、あそこは馬鹿高いぜ」

「共和国で、ちょっと儲けたんで、大丈夫、おごるよ」

あんちゃん太っ腹だなあ」

黒い幽霊団ブラックゴーストも連れて来たかったらいいよ」

「ややっ、無理無理、みんなビビルって、少年冒険者団の奴が、あんな一流処の行く店とか、ありえねえよっ」

「白翼遊撃団さんたちは戻ってきてる?」

「ああ、九十七階まで到達して帰ってきたよ。お宝を沢山掘り出してきたって」

「今日、あそこの酒場に行けば、白翼さんに会えるかもなんだよ」

「お知り合いなんですか」

「はい、一度一緒に飲んだ事がありますよ」


 僕とあやめちゃんは飲んでないけどね。


「やっぱ、あんちゃんたちはすげえなあ」


 まあ、そうでもないよ。

 あの酒場に入れたのも、オッドちゃんがいたからだしね。

【次回予告】

晩ご飯に、みんなを連れて、トロワの車輪亭へいくげんき。

ひさしぶりに会った、白翼遊撃団のめんめんと、乾杯を重ねる。

楽しい夜を過ごす!


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第237話

夜の酒場で大騒ぎ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ