表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
243/750

235. トマスの所にお見舞いにいく

 ご飯を食べて行きなさいという、院長先生のお誘いを丁寧にことわって、僕らは孤児院を出た。

 門まで付いて来たナンナに、あやめちゃんが、ヌイグルミを渡していた。


「くれるのっ! おねえちゃんっ」

「うん、大事にしてね」

「……。あ、これ、もしかしてエリーに買って来た物?」

「うん、お下がりは嫌かな?」

「ううん、そうじゃなくて、エリーは友達だったから……。いっつも咳をして辛そうだったんだ」

「そうだったんだ」

「大事にするね、エリーだと思って、ありがとう、おねえちゃんっ!」

「うん、おねがいね、ナンナちゃん」

「うんっ!」


 ませ子なら大事にしてくれそうだね。

 あやめちゃんも同意見なのか、ふわっと笑って、ナンナの頭をなでた。


 さてさて、次はケストナ治療院である。

 孤児院を出て、坂を、階段を、わっせわっせと昇るのであるよ。

 さすがに足はだるくなるけど、息が切れることは無くなった。

 わっせわっせ。

 トレーニング効果ですよな。


「ははは、あんちゃん、鍛えられたなあ、前の時より楽そうだぜ」

「あたぼうよ、伊達に毎日走り込んでないぜ」

「まあ、でも、それで普通だよなあ」

「もっと鍛えて、マッチョになります」

「マッチョなあんちゃんは想像できねーっ」

「これ、クルツ、我が君に失敬な」

「でも、俺も戦場行って、魔導機乗りたかったなあ、新聞で読んで、うわあ、行きてえって悶絶した」

「クルツが付いて来ても、魔導機には乗せなかったろうなあ、宿舎の掃除とかさせてた」

「えー、なんでだようっ」

「戦場危ないし、きついし、臭いんだぜ」

「あー、それは勘弁かも」

「クルツは元より乗れない、なぜなら、私に似てないからだ」

「あー、たしかにそれはあるな。しかし、敵の好みの女性を集めて部隊を作るなんて、あんちゃんは、やっぱ変だわ」

「効果はすごくあったんだ。可哀想なぐらいだったよ」

「ああ、相手もあんちゃんの世界の奴だっけ、変だよなあ、好みの女性だから、戦えないなんてさ」

「異世界は変な所なのだ、クルツ。だが、我が君は素晴らしい」


 パンゲリアの戦場は男女同権で、女性だからぶっ飛ばせないとかは無いのだね。

 地球のように、戦争で女性は銃後で家庭を守るという概念が無いらしい。

 普通に、女性も兵隊に出るし、勇敢に戦うとの事だ。

 男も、女性に対して遠慮無く攻撃を加える。


 昔話に、紳士的な騎士が、女騎士を手加減をして、激怒した女騎士に殺されるという物があるらしい。

 女性に手加減するのは失礼な事らしいんだね。

 だから、僕の川島くんへの作戦は、なんとなくバカっぽい物に見えていたんだって。

 勇者のお妾さん部隊の方が、よっぽど通りやすい概念らしい。

 銀翼動甲冑騎士団の何人かは、僕に夜伽を命じられる覚悟で参加していたらしい。


 うむむ、ちょっと、もったいなかったかも。


 とはいえ、夜伽なんか命じられないけどね、オッドちゃんも、あやめちゃんもいるんだし。

 目がコワイでございますよ。

 あと、パットの嫉妬もコワイでございます。


「連邦日報は、メイリンでも売ってるの?」

「最近凄い売れててさ、出るとすぐ売り切れで増産してるぜ。みんな、あんちゃんの仲間の記者の記事が目当てだよ」

「シーナさんの文章は、目の前に絵が浮かぶようで、上手なんだよ」

「面白いよな、あの記事。アリア少尉って、本当にあんななの?」

「アリアちゃんは、おおむね、あの通りなんだよ」

「僕も読まねば、どこで売ってるかな」

「ああ、ギルドで、メルクの姉ちゃんが買って、ロビーに置いてあるぜ。みんな競い合って読んでるよ」


 この世界は小等学校がある関係で、識字率がかなり高いのよね。

 新聞作戦は大成功だったけど、大失敗だったかもしれない。

 なんか、妙な人気がでてしまって、今後困るかもしれない。

 各国の盟主たちにも、なんか気に入られてしまってるし。

 なんでもするので、覇王ルートは勘弁して下さい。


 そんな事を喋りながら、坂を上がっていったら、もう上廻り横路ストリートで、ケストナ治療院の真っ白な建物が見えてきた。


 お花がいっぱいの玄関を入ると、真っ白で消毒くさい廊下が続いていた。

 なんとも、治療院だなあ。というか、病院だね。

 トマスくんの病室は二階だったっけ、と、階段に向かうと、トマスが上からちょこまか降りてきた。


「トマス王! お元気になられてっ!」

「え、あーっ!! 勇者のおにい……。こほんっ、勇者ではないか、久しいのう」

「おお、トマス、今日は具合がいいみたいだな」

「あ、クルスのおにいちゃんも、こんにちわ、ちょっと良いから、お庭を見て見ようと思ったんだ、愛馬トワイライトと共に」


 そう言って、トマスは、僕があげた木の馬を見せた。


「これはこれは、トマス王、ご壮健になられたようで、パトリシアも嬉しゅうございますぞ」

「うむ、お見舞いたいぎであるー」

「わあ、元気になったね。お肉もついたんだよ」

「勇者のおねえちゃんも、ありがとうっ。でもね、エリーは死んじゃった」

「うん、お墓参りに行ってきたよ」

「ああ、エリーは喜んだろうね。エリーはお姉ちゃん大好きだったから」

「うん、うん」


 ああ、いかん、あやめちゃんが、また涙目になっている。


「外で、座っておしゃべりしましょうか、トマス王」

「うんっ!」


 ああ、トマスは元気になったなあ。

 このまま元気になって、全快すれば良いんだけど。


 トマスと一緒に、ゆっくりゆっくり、治療院のお庭に出た。

 日が照って、暖かくて、お花がいっぱいで、夢の国のような景色だ。

 トマスはベンチにちょこんと座って、ニコニコしながら、まわりを見ていた。


「トマス王、新しい献上の品でございます」


 僕は、魔法袋から、木細工のお城を出して、トマスに渡した。


「うわあああっ! 良いの、すごいよ、お城だっ! これキルーク城?」

「そうだ、私らも、ここの塔に泊まったぞ」

「えええっ! お城に泊まったの、良いなあ、キルーク市に行ってみたいなあ」

「大人になって、行ったら良いんだよ。良い所だったよ」

「なんかね、先生が、うまくしたら病気が治って、大人になれるかも、って言ってたんだ。僕はすごく嬉しかったんだ」

「それは、よかったね、元気になろう、トマス」


 僕はトマスの頭をぐりぐりと撫でた。

 トマスはくすぐったそうに、ニッコリ微笑んだ。

 もう、ちょっと前の骸骨のような、透明な表情で笑う子どもは、ここにはいない。

 かわりに、元気になりかけて、花のように笑う年相応の子どもが、ここにはいる。


 ちょっとトマスが咳き込んだので、抱きかかえて、病室まで運ぶ。

 まだまだ軽いなあ。

 もっともっと重くなって、勇者を困らせるんだ、トマス王。


 病室に入ると、治療婦さんが、ちょうどベットを直している所で、笑ってトマスを受け取って、寝かしつけてくれた。


「じゃあね、トマス、また来るよ」

「うん、また来てね、勇者のおにいちゃん、おねえちゃん、パトリシアさん、クルツの兄ちゃん」

「またくるね」

「またくるぞ」

「また、くるからよ、じゃあな」


 みんなで手をふって、トマスの病室を出た。


「はあ、元気になってるね」

「このまま行ってほしいんだよ」

「いくさ、絶対に、トマスは元気になる」

「そうだなあ」


 一階に降りて、院長室へ挨拶にいく。

 ちょうど来客が帰る所らしく、お客を送り出しているケストナ院長が僕らを見て破顔した。


「おかえりなさい、勇者ゲンキ、勇者アヤメ。共和国では大活躍だったようですね」

「いえいえ、回りの人に助けられただけで、僕らは、たいした事はしてませんよ」

「ははは、謙遜をあまりすると嫌みと取られますよ。どうぞどうぞ」


 ケストナ院長は、院長室に僕らをいざなった。


「トマスは元気になってますね。びっくりしました」

「はい、迷宮で見つかった新しい薬を試してみたのですが、大当たりのようです。このまま行けば、全快も夢ではないでしょう」

「そうですか、それは良かった」

「ですが、エリーさんは、手立てなく、死なせてしまいました、申し訳ありません」

「頭を上げて下さい、院長先生のせいではないでしょう」

「新しい薬を試そうにも、体力が残っていませんでした、なんとも痛ましい事です」

「そうだったのですか」

「全力を尽くしていただいたようで、感謝いたします」


 僕らの世界でも、そうなんだけど、薬は毒でもあるんだよね。

 あるていど体力が無いと、即死させてしまうので、投薬すれば良い、という物でもないらしい。


「新しい薬って、値段が高いのではないのですか?」

「いえ、みなさまもご存じの薬師のジーナさんが、古文書から症例を見つけた薬でして、トマスくんの為ならと、只で提供していただきました」

「ああ、俺らが取りにいった奴かあ。へえ、あんな蜘蛛の毒腺がなあ」

「ああ、君も取りに行ってくれたのか、ありがとう、新しい治療薬で、沢山の人が助かるよ」

「え、いや、えへへ、お礼を言われるとこまっちまいますよ」


 クルツは照れて、頭をかいた。

 そうか、ジーナさんが作った新しい薬だったのか。

 なんか、嬉しいね。


「それで、ケストナ院長先生、セシリアちゃんの具合の方は」

「ええ、ええ、メリッサゲールを倒したおかげか、最近はすっかり落ち着きましたよ。勇者ゲンキ、あなたと、ミシリア様のおかげです」

「そうですか、その、セシリアちゃんのご両親を殺してしまった殺人鬼を、街に招き入れた本人が、いま、メイリンに来ていまして、謝罪をしたいと、言ってるのですが」


 エルザさんの謝罪の事を言うと、ケストナ院長の顔が曇った。


「うーむ、原因を作った人の謝罪ですか、それは、どうかなあ」

「難しいですか?」

「いま、心の傷に薄皮が張り始めた所だと思ってください、そこに強いストレスが掛かると、良く無いのです」

「どれくらい時間をおけば、良いですか?」

「なんとも言えませんね、とりあえず、勇者ゲンキが面会して見ますか、それで取り乱さないようでしたら、様子を見て、という事で」

「そうですね」


 というか、あやめちゃんの【友情】で、トラウマは治らないかな。

 ……。

 さすがに精神的な傷は治らないだろうなあ。

 もしも、治って、忘れてしまったら、それは洗脳スキルだし、無理か。


 ケストナ院長が立ち上がり、僕らを先導して、治療院の中を歩き出した。

 トマスがいる棟とは、別の棟のようだね。


【次回予告】

治療院の奥深く、閉鎖病棟に、その少女はいた。

たしかに、あの時、メリッサに取り付かれそうになっていた彼女だ。

白亜の病室で、ぽつりぽつりと恐怖の体験が語られていく。


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第236話

セシリアの容態

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ