234. エリーちゃんのお墓参り
ご飯を食べ終わったので、ギルドを出て、クルツの案内でお墓に行く。
塔路を歩いていく。
ここを歩くのも久しぶりだなあ。
クルツは、連合口主道を降りて、市立図書館のあるあたりで、北の階段を降りていく。
というか、墓地はどこにあるのかな。
メイリンは結構、ぐるぐる回ったけど、墓地らしき物は見た覚えが無い。
クルツはどんどん階段を降りていく。
「孤児院の近くにあるのかい?」
「外」
「え?」
「墓地は街の外にあるに決まってんじゃんよ。壁の中の土地たけーのに」
「あ、そりゃあまあ、そうか」
「ん? でも、北には門が無いんだよ?」
「不浄外門があるんだ、小さいのが。死者とか疫病人は、そこから出されるんだよ」
へえ、それは、面白いなあ。
パンゲリアの街の北は、結構不浄で不人気地帯らしい。
家賃も安いわけだね。
孤児院が近いなら、帰りに寄ろうかな。
その後、坂を上がって、ケストナ治療院に行けば良いし。
パン屋さんの近くの上廻り横路に出て、共和国主道に乗り換え、少し下りる。
しばらくして、また階段に乗り換えると、下周り横路に突き当たる。
街の真北の壁に、小さく鉄扉があった。
番人の人がいて、クルツが声をかけると、開けてくれた。
鉄扉の奥は、暗い通路になっていた。
シンと静まりかえった暗い通路を歩くと、突き当たりは、また鉄の扉になっていて、クルツがノックすると、開いた。
ドアの向こうは、メイリンの外で、もう墓地だった。
沢山の墓標が並んで居る。
ああ、なんか静かな所だなあ。
カーンカーンと、密やかな鐘の音が響く。
お参りをしている人も何人かいる。
家族が死んじゃった人かな。
親子づれだ。
広い墓地の、隅の方に、小さなエリーちゃんのお墓はあった。
「ほんとうはさ、孤児なんか、共同墓地に放り込まれて終わりなんだけどさ、なんか、嫌でさ、議員のダイアナさんに、なんとかならないかって聞いてみたんだ」
「ダイアナさんが」
「ああ、そうねって言って、お墓代だしてくれたよ。小さい墓なのに結構するのな」
そうか、ダイアナさんが。
思惑はどうあれ、ありがたいな。
あやめちゃんが墓標に寄って、表面を撫でていた。
「ごめんねえ、おねえちゃん、帰ってこれなくて、本当にごめんね。これ、お土産だよ。キルークで買って来たヌイグルミ。手渡し、したかった、けど……。ごめんね」
あやめちゃんは、お墓にハーフリングのヌイグルミを供えて、合掌した。
僕も合掌する。
パットは目を伏せ、手を握り合わせた。
クルツも、手を握り合わせる。
静かで、透明な感じの時間が通りすぎる。
人が死んじゃうのは辛いね。
ふう。
お線香とか、読経とか、異世界だから無いけど、お墓の感じは、日本とよく似ているね。
どこの世界でも、死んだ人をいたむ事は一緒なんだね。
「さあ、いこう、アヤメ」
「うん」
パットがあやめちゃんを、うながして立つのを手伝った。
「あ、姉ちゃん、これ」
クルツが、あやめちゃんがそなえたヌイグルミを持って、差し出した。
「お供えだよ?」
「置いといても、雨に濡れるしさ、孤児院の誰かにやんなよ」
「……そうかもしれないね」
「死んだ奴は遊べないからさ」
クルツはそう言って、ニッと笑った。
こういう割り切りも、そういう世界なんだなと、思うね。
僕らは、お墓に供えた物は、死者の物だから、手をつけたりしないけど、パンゲリアでは違うのだろう。
うん。
生きてる子が使って、遊んだ方が、エリーちゃんも喜ぶかもしれないね。
あやめちゃんは、ヌイグルミを抱きかかえて歩きはじめた。
また、隧道みたいな通路を通って、メイリン市内に入る。
なんか、異空間みたいな不思議な雰囲気の場所だなあ。
そのまま、下周り横路を歩いて、孤児院に向かう。
ここら辺は、葬儀屋さんとかが多いね。
墓地が近いからなんだろうなあ。
ひさしぶりに見た孤児院は……。
すごい、立派な建物になっていた。
屋根の上で、ドワーフのオッペンさんが、なんかしている。
トランクさんが下で指示をしているようだ。
トランクさんが僕らに気がついて、走ってきた。
「これは、勇者さんっ! お帰りなさい」
「ただいまです、トランクさん、すごい立派な建物になりましたね」
「はい、市民から寄付が集まって、資材も提供してもらって、こんなになりましたよ」
屋根の上から、オッペンさんが、おーと言いながら手を振ってきた。
と、孤児院のドアが開いて、中から孤児達が、どわーっと突進してきた。
「勇者さんだっ!!」
「お帰りなさいっ!!」
「勇者さんっ! 勇者のおねえちゃんっ!!」
「お、パトリシアのお姉ちゃんと、クルツ兄ちゃんもいるっ!!」
僕らは一瞬で、孤児達に囲まれてしまった。
結構みんな太ったなあ。
髪も綺麗に切ってあるし、小綺麗な感じになって、年相応なかわいさになっていた。
「あら、お帰り、勇者。共和国で大活躍だったみたいね」
「おお、ませ子も元気だったかい?」
「ませ子じゃないわよっ! ナンナよっ!!」
あはは、ませ子は、あいかわらずだなあ。
「勇者さん、中、中見て、すごいよ」
「トランクさんと、オッペンさんが、がんばったんだよ」
「はいはい、見よう見よう」
沢山の孤児たちに引っ張られるように、僕らは孤児院の中に入った。
ほわあ、見違えたなあ。
古い灰色な木で出来ていた、つぎはぎだらけの廊下が、匂い立つような新しいピカピカの木でできた廊下に。
雨漏りがしていた天井は、張り替えられて、煤一つついていません。
まるで、別の世界の建物のよう。
「みんなで掃除してるの、大事にするの」
「それは偉いんだよ」
女の子部屋、男の子部屋、どちらも立派な二段ベットが列び、とても暖かそう。
換気の悪かった窓は、取り替えられて、綺麗なガラスが入った窓になっています。
「窓は、特別な水晶ガラスで、保護の魔法が掛かっていて、割れにくくなってます。これにより採光が六十%もアップしました。冬は暖かく、夏は窓を開けて室温を下げる事が可能ですよ」
「高かったでしょうに」
「資材は、提供してもらいましたよ」
廊下の奥には、大きいオトイレがあった。
子どもが多いから、オトイレが沢山あるのは良いね。
「朝のオトイレ争奪戦が少なくなったのよ。お漏らしも減ったわね」
ませ子が、謎のドヤ顔をして自慢した。
「これは凄く環境が良くなりましたね」
「そうだね、パット」
トイレの向こうの扉は、行水棟に繋がる渡り廊下で、突然の雨にも大丈夫なよう、屋根がついています。
「堅牢でコストの安い、耐水木で行水場は組んでみました。男児五基、女児五基で、一度に十人が行水可能です」
「毎日、暖かいお湯で行水出来るのよ。みんな臭くなくなったわ」
立派だなあ。
うんうん。
廊下を戻って、食堂に入った。
「あら、あんたたち、お帰りなさい」
ペトラさんが、厨房から手を拭きながら出て来た。
食堂も、綺麗なテーブルが並び、けっして華美ではありませんが、シンプルで使いやすそうです。
ちなみに、ペトラさんを見て気がついたが、キルークのカーダインドレスショップのペトラさんと同名ですな。
あっちは、巨乳ドワーフさんでしたが。
「厨房も使いやすくしてもらって、本当にありがとうよ。街のみんなもね、知らなかったって、お金を寄付してくれてるんだ」
「そうですか、なによりです」
孤児に支えられて、院長のシスターアンジェラがやってきた。
「これは勇者さん、お帰りなさい」
「孤児院が見違えましたね」
「はい、みんな喜んでおります。本当にありがとうございます」
「寄付の方も増えたとか」
「はい、街のみなが寄付していただいて、運営が楽になりましよ。ペトラも常勤で雇えるようになりまして」
「あたしだけじゃないさ、孤児院上がりの奴らがみんな時々手伝ってくれるんだよ。ダイアナまでね」
「ダイアナさんもですか」
「議員になってから、お高くとまっちまって、ずっと来て無かったんだけど、勇者が孤児院を立て直したって聞いて、気が変わったんだろうね、時々やってきて、手伝ってくれているよ」
「そうですか」
ダイアナさんも考える所があったのかな。
それは何よりかもしれないね。
【次回予告】
ケストナ治療院へいった、げんきたちは、すっかりげんきになったトマスと再会する。
そして、げんきたちは、村喰いの被害者、セシリアの具合を院長に尋ねるのだった。
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第235話
トマスの所にお見舞いにいく




