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233. 拳闘レスリングの神様、マイカル

「我の社なぞは、もう大陸に一つも無い! 三百年ほど前に絶えてしまっているっ! だが、このたび、メイリンに我の祠が新設されて、毎日のように若人の祈りが、我に届いてきたのだっ! 我は嬉しくなり、五百年ぶりぐらいに下界に降臨したのであるっ!!」

「はあ」

「聞けば、そもじ、勇者ゲンキが提唱して祠が出来たと聞くではないかっ! そもじを褒め讃えるために、我はここで待っていたのだっ!!」

「はあ」

「武道の神への畏敬の念、まっこと天晴れであるっ!! 偉いぞっ、勇者ゲンキ!!」

「そうですか」


 沈黙が柔道場に落ちた。

 というか、この神様、早く帰ってくれないかなあ。天界とかに。


「そ、それだけかね?」

「お褒めにあずかり恐縮です」

「も、もっとこう、わあ、なんという光栄でありますかーっ!!! とか、びっくりせんのか?」


 なんか、マイカルさまは残念そうであるよ。

 でも、別に、武道の神様だったら誰でも良かったしなあ。

 でも、せっかく喜んでいるマイカル様に、そういう事を言うのも悪いしなあ。


 よいしょ。

 僕は柔道場で、マイカル様と向かい合って正座した。


「あまりの光栄な出来事で、しばし、心が飛んでおりましたっ! 師父よりも尊いマイカル神のご降臨に心が震える思いでありますっ!!」

「そうかそうか、よっしゃよっしゃ!」


 マイカル様、すっごく嬉しそう。

 神様も、ちょろいね。


「その心意気、気に入ったぞ、勇者ゲンキ。どれ、一手指南してやろうっ!」

「うお、マジですか!」


 神様から直接指導かあ。

 なにげに凄いな。


「マイカル様は、どんな武道を使われるのですか?」

「うむ、拳闘レスリングである。無手にて、中距離では打撃、近距離では投げ、固め、締めであるっ!!」

「柔術みたいですねっ」

「うむ、柔道の前身じゃな、たしかに似ておるが、基本的な哲学が違う、そもじの世界でのコマンドサンボに近いな!」


 さすがは神様だ、こっちの世界の事も知ってるし、柔道の発音も完璧だな!


 マイカル様はするりと立ち上がると、身体を半身にした構えを取った。

 僕も立ち上がり、その構えを真似る。

 ちょっと猫足立ち気味かな。

 手は握らないで、軽く開く感じで。


「では、いくぞっ!」


 パッシューーンッ!!


 神速で投げられていた。

 おおおおおっ!


 僕は無意識に畳を叩いて受け身を取っていた。


「拳闘レスリングの奥義、光速投げじゃっ!」

「どう投げたのですかっ!?」

「光速で近づき、投げる、こうしてこうしてこうじゃっ!」


 パッシューーンッ!!


「……。光速出せないんですけど」

「な、なにいっ! 鍛練不足じゃっ!!」


 無理言うなし。


「人は光速だせませんよ」

「そ、それもそうだったのう、すまぬすまぬ。では、こうじゃっ!」


 バッキョオオオン!!


「音速で動き、投げる、奥義、音速投げじゃっ!」


 というか、音速越えられるなら、ソニックウェーブで攻撃できますがなっ。

 鞭のぱあんっていう風切り音は、ソニックウェーブらしいけどね。


「音速もちょっと……」

「ぐぬぬ、まったく人とはやっかいな物よの」

「あんたはいつもそうやって、信者に無理言うから、流行らないのよっ」

「ぬううっ! オッドではないかっ! 五百年ぶりかのうっ!」

「ゲンキ、あんた、マイカルみたいな奴の社立てたの?」

「武道場には焦点みたいな、神様棚が必要だったんだ」

「え、我を見こんで、じゃ、ないの?」


 あ、マイカル様、しょんぼりしてしまった。

 いかんいかん。


「今現在! この世界で柔道に一番近い武道は、拳闘レスリングでありますっ!! その神祖である、マイカル様の降臨は、とてつもない機会!! ぜひ、人の身で使える技を、伝授して、いただきたいっ!!」

「その意気や良しっ!! 良かろう、身体能力を人の域まで下げ、そこで使える技を全て、勇者ゲンキに叩きこんでやろうぞっ!!」

「お願いしますっ!! 師神!」


 ちょっとよいしょしすぎかもたかもしれない。


 それでも、僕はマイカル様と組み合って、色々と技を教えてもらった。

 ふむ、たしかにコマンドサンボっぽい技が多いね。

 さすがは神さまなので、技量は本当に計り知れないほど上だ。

 というか、神さまが弱かったら困るよね。


 スパンスパン投げられ、打撃を受け、関節技を掛けられる。

 そして、スパンスパン投げて、打撃を加え、関節を掛ける。

 ほうほう、色々な技があるなあ。

 面白い面白い。


 僕のスキル【徒手格闘】の補正があるのか、掛けられた技は、すぐ覚えられる。

 光速、音速投げも、投げ方は解った。

 そんな速度が出せない……。

 あれ?

 キルコゲールでなら出る?

 あれの反応速度は、もう人を超えてる感じがするから、レベルが上がると、キルコゲールでなら出せるかも。


 光速や音速での投げ技なんか、誰にも避けられないぞ。

 これは、チートだなあ。


「そろそろお昼ざます。ゲンキさン、ランチをたべるざますよ。神さンも」

「ふむ、もうそんな時間か」

「師神、ありがとうございましたっ!」

「うむ、そもじは覚えが良いな! さて飯にしようではないかっ!!」


 僕は立ち上がり、神さまと一緒にギルドの食堂へ向かった。


「マイカルさまは、いつまでここにいらっしゃるのですか?」

「ずっとおる」


 帰れよっ!


「天界は良い所だが、平和すぎて退屈なのだっ! しばらくこの地で皆に武道を教え、飽きたら大陸を放浪しようと思っておる。世界には、謎な武道、怪しい武道、かずかずの武道がある、それを見て歩くのも楽しいだろうよ!」


 神さまって、みんなニートみたいだなあ。


 食堂に行くと、みんなそろって席に着いていた、僕らが最後みたいだね。


 今日のギルドランチは、鳥のローストと黄色トマトのスープみたいだ。

 並んで、カウンターで料理を受け取る。

 マイカルさまも普通に並んでいるのが少し微笑ましい。


 席に着いて、いただきますと言って食べ始める。


「午後も、色々と教えてやるぞっ!」


 あー。

 あやめちゃんの方を見る。

 ちょっと、まだ沈んでいるね。


「午後は、ちょっと、お墓参りに行かねばなりませんので」

「そうか、残念じゃな」

「神さンのお相手は、わたくしがいたしますざますわ」

「うむ、おんしも才能があるからな、基本がレティア姉の武道というのが気に喰わんが」

「わたくしが武道を覚え始めたときには、神さンはいらっしゃらなかったざます」

「それもそうかっ! 我が拳闘レスリングも、廃れてしまっておって、がっかりしたわいっ、ここ、メイリンを新しい、拳闘レスリングの聖地にするぞっ!」

「武道を覚えたい冒険者は多くおります、良いお考えざますわ」


 マダームは、神さまを乗せて、武道ブームを作ろうとしているな。

 まあ、神さまが居れば、その流派は流行るよね。


「午後は、お墓参りにいくの? げんきくん」

「うん、ニーナちゃんにお土産を渡さないとね。その後、トマスくんのお見舞いにいこう」

「うん」


 あ、そういえば、僕は向かいの席にいるクルツに、魔法袋から短剣を出して渡した。


「うお、良い短剣、これ、なに?」

「キルークで買った、クルツへのお土産、使ってよ」

「ええっ!! マジかっ!! この前、一本貰ってるじゃんよっ!」

「僕の世界の文化で、旅行に行ったら、友達や家族に、なにかプレゼントを買ってあげるんだ」

「うれしいぜ、あんちゃん、これ、大事にするよっ!!」


 人から何か貰うと嬉しいものだからなあ。

 僕は、自分のピカピカのブーツを見て、しみじみとそう思う。

 ああ、銀翼動甲冑騎士団の子たちは今ごろ何してるかなあ。

 あとで、新聞のシーナさんの記事を読もう。


「トマスくんのお見舞いに行ったら、治療院でセシリアちゃんの具合を聞いてきます」

「……おう」

「具合が良かったら、明日にでも謝罪に行きましょう」

「わかった」

「エルザさん、午後はお暇でしたら、一緒にメイリンダンジョンを偵察にいきやせんか?」

「いっぺん見ておくのも手だな。付き合うぜ」

「パットはどうする?」

「もちろん、お墓参りに行き、トマスに会いにいきますよ、我が君」

「俺が、墓を案内するよ。葬式にも行ったんだ」

「そうか、クルツありがとう」

「何言ってんだ、あんちゃんが居ない時は、俺が勇者の名代だからさ、いろいろと駆け回ったぜ。孤児院のがきどもとも仲良くなったしよ」

「そっか、偉いぞ」


 僕が褒めると、クルツはニッパリ笑った。


「オッドちゃんは?」

「馬車で寝てるわ。お墓なんか辛気くさい」


 あいかわらずだなあ。

【次回予告】

メイリンの街外れに、その墓地はあった。

幸薄かった幼子のお墓に、お土産をささげる、あやめ。

空は真っ青に晴れ、悲しみだけが天頂へ登っていく気がする。


なろう連載:オッドちゃん(略

次回 第234話

ニーナちゃんのお墓参り

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