232. メイリンへの帰還
メイリンの街に一歩踏み入れると、そこはいつもながらの猥雑な街であった。
ああ、街の匂いが違うね。
世界樹の街と違って、空気が悪い。
臭い。
うむむ。
はんなりのんびりエルフが歩いていた世界樹の街と違って、なんかみんな目がギラギラしておる。
今すぐ喧嘩が起こっても不思議では無い殺伐とした空気が、僕らを迎えたのだった。
ああ、メイリンだなあ。
「で、どうするのゲンキ? ホテルを決める?」
「どうしようね、冒険者ギルドにまず挨拶にいこうか」
「マダムの辛気くさい顔とか見たくないわよっ、もう死舞手は襲ってこないんだから、馬車に泊まる必要も無いし」
「ホテルかあ、リターナーさんとエルザさんはお金の方は大丈夫?」
「あっしは意外に金持ちでやすよ」
「領収証を持って行けば、経費で落とせる、が、あんま高いホテルは経理に怒られる」
エルザさんは公務員だからなあ。
「僕は、柔道の講座があるから、ギルドの馬車でいいや、オッドちゃんとかだけホテルに泊まりなよ、どうせ近所だし」
「……、そ、それはなんか仲間はずれみたいんで、嫌よ……」
「どっちにしろ、ダンジョンアタックを始めたら馬車に泊まるんだから、みんなで馬車に泊まろう」
……。
だけど泊まれるのか?
エルザさんは、パットと下のベットで、リターナーさんと僕が、ソファーのベットで泊まれば……。
あれ、ダンジョンで、クルツとジーナさんは泊まれるのか?
二人増えたから、泊まる場所が無いぞ。
テント買って積んでいくかな。
うむむ。
「とりあえず、ギルドに行って、マダームに挨拶をするんだよ。きっと心配してるよ」
「心配なんぞ、してないザマス」
うおっ、びっくりした、いつの間にかマダームが僕らの横に居た。
「ギルマス、いつのまにっ」
「ほほほ、クルツが大騒ぎしていましたのでピンときましたざます。お帰りなさい、勇者ゲンキ」
「ただいま帰りました」
「共和国で大活躍だったみたいざますね。我がレティア武闘術もお役に立てて誇らしいざますわ」
「はい、レティア武闘術無しでは、エルザさんにも、ミルコゲールにも、メリッサゲールにも勝てなかったと思います。また、色々教えてください」
僕は、マダームに頭を下げた。
「勇者ゲンキは謙虚で気持ちが良いざますね。では、明日からまた、ジュードーの方もよろしくお願いしますよ」
「はいっ」
「メガトンゴーレムの報奨金と、ポイントも確認されて、入って来たざます。あと、ミルコゲール、メリッサゲールの撃退もギルド会議で話題になって、大量のポイントを発行する事になったざます。平たく言うと、金カードへ昇格が認可されたざますよ」
「ああ、それは嬉しいです」
「なによ、金なの? 白金を出しなさいよ、ケチねえ」
オッドちゃんが、空気の読めない事を言う。
「すっげえ、兄ちゃん、ついにゴールド冒険者かよっ!」
「クルツは銀になった?」
「おうっ、三日前になったぜ、これで俺も一人前の冒険者だよっ」
「それは良かったなあ。おめでとうクルツ」
「おめでとうなんだよ」
「へへへ、兄ちゃんが帰ってくる前に昇格したかったから、黒い亡霊団のやつらとがんばったんだ」
僕は、クルツの頭をぐりぐりと撫でた。
クルツはにんまりと笑った。
「それではギルドへ行くざます。ジュードー場に、驚くような方が来ているざます」
「そうそうっ、すげえんだよっ」
「クルツさンっ、勇者が見るまで秘密ざますよ」
「お、おっと、そうでした」
「だ、誰?」
「それは見てのお楽しみざます」
驚くような人って誰だ?
ライオン大統領がいたらやだなあ。
だが、それは無かろう。
僕らは、メイリンの坂を上がり始める。
ああ、このかったるい上り道も懐かしいなあ。
さすがに、ぜいぜい言う事は無くなっている。
僕も結構、強化されてるね。
「クルツ、ジーナさんは元気?」
「ああ、問題無いぜ、この前、黒い亡霊団を雇ってくれて、二十五階まで一緒に潜ったよ。結構強いぜ、あの姉ちゃん」
「そうかー、一緒に潜る日が楽しみだなあ」
「孤児院の方はもう、建屋は建ったかしら?」
「もう、建ったぜ、オッド姉ちゃん。みんな大喜びでさ、後で行ってやんなよ」
「トランクもオッペンも、がんばったのね」
「市営孤児院が立派になって、ギルドの孤児院ももっと豪華にしなければと、予算の要求が厳しいざますよ」
「ギルドの方も大変ですね」
「ニーナちゃんと、トマスくんは元気なのかな?」
「……あー」
あやめちゃんの質問に、クルツは言葉を濁した。
「ニーナが、あのな、四日前に死んだ。トマスはちょっとずつ元気になってる、トマスは全快するかもって、先生が言ってた」
「……」
あやめちゃんが立ち止まった。
パットも目を伏せる。
ニーナちゃん、死んじゃったのか。
「後でさ、お墓まいりしようぜ、アヤメねえちゃん」
「うん……」
あやめちゃんは目を押さえて、ぽろぽろとあふれる涙をぬぐっていた。
ああ、なんだか辛いね。
パットが、あやめちゃんの肩を抱いた。
彼女の目にも涙が光る。
なんだか、黙って、静かに僕らは坂を上がる。
坂の上の雲に、ニーナちゃんが乗っているような気がする。
知ってる人が死んじゃうのは辛いね。
粛々(しゅくしゅく)と歩いて、僕らはギルドに着いた。
はあ、久しぶりに上り坂で、結構疲れるなあ。
坂の上から、共和国の方を見る。
森また森が広がっていた。
あの深い森に、傷を癒やしているベルナデットがいるんだな。
傷が治ったら、メイリンに入ってくるだろう。
……。
まあ、起こってもない事を心配してもしょうがないか。
ギルドに入ると、メルクさんが僕らを見つけて、カウンターから身を乗り出して手をふってきた。
「勇者さん~、お帰りなさいっ」
「ただいま、メルクさん」
「あんたも変わらないわね」
「アヤメさんも、オッド師も、パトリシアさんもお帰りなさい」
「メルクは毎朝、新聞を読んで、今日はゲンキさンがこんな事をした、あんな事をしたってうるさかったざますよ」
「えーっ! ギルマスだって、他に記事は無いのかとか、スクラップするざますとかうるさかったじゃないですかっ」
「やんちゃな弟子の心配をするのは、師匠の勤めざんすよ」
おお、ゲンキ先生っ、とか、またジュードー教えてくださいよ、とか、冒険者達が、口々に笑いながら僕らに声をかけてくる。
ああ、なんだか、帰って来たって実感するなあ。
「あ、あれ? 後ろの方は、もしかして、キルークの?」
「はじめやして、キルーク市のリターナーって、ケチな野郎でやす。魔王討伐隊の一員となりやして、しばらくこちらにもご厄介になりやす」
「キルークダンジョンのランキングNo1ざますか、これは大物ざますね」
「いえいえ、メイリンダンジョンの女傑、キャリーギルマスに比べれば、小物でやすよ」
「おほほ、お上手ざんすね。ポチョムキンさンはお元気でして?」
「へいっ、ポチョムキンの親父さんは、殺してもしなないお方ですから」
「ところで、勇者ゲンキ、あのギョロ目のハーフリングは……」
「あー、事情があって付いて来た共和国軍のエルザさんです」
「よろしくなっ」
「なんで、パーティに凶眼のエルザまで付いてきてるんざますか」
「色々ありまして」
「まあ、あまり聞いても頭が痛くなるだけざますから、聞きませんわ。何か色々あったんざましょう」
うむ、マダームは解ってるな。
「兄ちゃん、兄ちゃん、ジュードー場に行こうぜ、ビックリするからさ」
「あ、うん」
マダームの顔を見ると、なんかニマニマしている。
メルクさんもニマニマしている。
誰がいるの?
僕は、クルツに引っ張られるように、中庭に続く通路を歩いた。
ドアを開けると、ジュードー場に屋根が出来ていて、なんか立派な感じになっていた。
わ、マットが畳になってるぞ。
聖堂都市から輸入したのかな。
その十畳ぐらいの道場の真ん中に、しらない髭のおじさんがあぐらをかいて、こちらを見ていた。
誰!?
「お主が勇者ゲンキであるか、わしは何を隠そう、拳闘レスリングの神マイカルじゃっ!」
「は?」
なんか、神様キターーーッ!!
【次回予告】
柔道場に現れた、謎の神マイカル!
彼の目的はいったい何か!!
メイリンギルドの中庭で、神対げんきの格闘勝負が、今はじまる!!
なろう連載:オッドちゃん(略
次回 第233話
拳闘レスリングの神様、マイカル




