㊷ 有栖乃助の本気…!/VSウフルンテ!
「それはこの僕の前では許されないし、許さない」
その時、有栖乃助が一歩前に出た。
いつもどこか他人事みたいに冷めてるあの男が、初めて「怒り」とは違う、鋭い刃物みたいな空気を出し始めたんだ。さっきまであの怪物の女をお姫様抱っこしていた男とは思えないかっこいい台詞だ。
「縦須賀よ…この御方にその様な態度は取らないほうがいいぞ…」
カズータスが背後で忠告をする。これから先の行為はタダでは済まない…そんな風に聞こえた。正直、仲間であるおれ自身も有栖乃助の強さのレベルがまだ全然わかんない。
「ふ〜ん…タテスカぁ…? ────!!! 縦須賀…有栖乃助…!! たしかぁ…『暫定機動保安長』さん…だよねぇ!! 世界をウロチョロしてる、3人の最強のお巡りさん…だったかな!? アナタがそのひとりだったんだね!!」
「有栖乃助みたいなのがあと2人も居るのか…」
暫定機動って3人しかいないんだ…いや、ひょっとしたら3人もなのかな?このウフルンテにさえ知られているビッグネームってことは何となく痛感したけども。有栖乃助の名を聞いてウフルンテは少し興奮気味だ。
未知数な暫定機動保安長の肩書きを持つ男と、今まで出会った中で最強のコンプレックス……六幻…
どっちが…勝つんだろうか…
「その通りだレディ。君を拘束する」
「やめといたら〜? ウフちゃんね? 結構つよいよぉ〜?」
「奇遇だね、僕もそこそこなんだ」
「面白い男は好きだよ…!」
2人が睨み合った…いや、前髪で目は見えないけどさ… 確かに、視線はぶつかり合っている。
そして一瞬、────音が消えた。
………!!!!
まばたきをしたその隙間に…!!二人の姿が消えた!!
「どこ……っ!? どこに行ったの……!?」
おれが必死に目をこらした瞬間、空中で火花が散った。いや、火花じゃない。幽気がぶつかり合って、空がひび割れてるみたいに震えている…!!戦ってるのか…!?目を凝らせ…見るんだ…!!あの怪物たちの戦いを!
「ウフフ…やるね! これはどーかな? 『篝火群』───!!」
聞こえた!!! 見えたっっ…!!
ウフルンテが空中で優雅に弓を引くポーズをするのが…僅かにだけど…!
そこから放たれたのは、毒々しい紫色の燃え盛る幽気…!!
なんて…幽気の圧だよッ!?離れてるのにコッチまでヤケドしそうだ…!!!
「────速っすぎる……!!!有栖乃助ーー!!!!」
避ける暇なんてないぞ…!?大丈夫なの?! 矢が有栖乃助に直撃したと思った瞬間、ドォォォォン!! と耳がぶっ壊れそうな爆発音が響いた。 地面がめくれ上がって、引火して火の海だぞ…。 呑気に傍観していたおれは爆風で飛ばされそうになる。 すると背中に柔らかい壁が現れた。
「茅蒔くん!!受け止めたっ!!!」
「す…水月ねーちゃん!!!」
「頼りないかもしれないけど…加勢しに来たよ!」
「…ううん、すっごい安心したよ」
このウフルンテのカラダの持ち主、ロトロトと激闘を終えて疲労しているであろう水月ねーちゃんがおれの小さな体をキャッチしていた。 久々に抱きしめられて、その顔を見てると…なんだかセカキューの力以上に安心しちゃった。 そのもっと背後に視線を移すと瓦礫の影で風月がくたびれて寝ているのが見えた。まあ…なんか、血液をかなり代償に使ったっぽいし…当然だろう。それにしても風月はウフルンテの存在を理解してるのかな?目を覚ましたらきっとビビるんだろうなあ…。ロトロト以上の者が憑依して現在自由気ままにおれたちを制圧している事実に。
「ウフフ…だからぁ言ったのにぃ〜!」
そんなコト考えているとウフルンテの相変わらずの声が聞こえてくる。そうだ…あの炎の矢…!!
……あんなの、人間が受けて生きてるわけない。パラパラと土が頭に降ってくる。けど、その泥の中から、低くて静かな声が聞こえた。
「────『石つ罪』」
この場が、一瞬で凍りついたみたいに止まった。
そこからゆっくり歩いてきたのは……おれが知ってる有栖乃助じゃなかった…。
「へぇ〜…イケメンさんだったんだぁ〜!! すご〜〜〜い!!!」
「あ…有栖乃助……なの!?」
おれは、馬鹿みたいに口を開けたまま固まってしまった。
そこに立っていたのは、全身が宝石に変わったみたいな、キラキラと輝く男…。
彼の黒髪は、根本から毛先にかけて絵を描くように変質している…。それは、もはや髪というよりかは光を乱反射させる半透明のガラスのような束だった。
そして、その自慢の透き通った前髪の奥には深い海よりもずっと神秘的で、まるで吸い込まれるような青い眼が見えている…。
「僕を“水晶”に石化させた…… 4月が誕生月なものでね。 この状態時、僕の幽気は大幅に増幅する────」
その言葉は嘘じゃないのが分かる…水晶のカラダから漏れ出している幽気の圧が、味方であるおれにさえも痛いほど感じる。
これが、縦須賀有栖乃助…の本気の姿…って!ぜんっぜんイメージがガラッと変わったな…
でも…今の有栖乃助からは、どんな攻撃も跳ね返してこの場のみんなを絶対に守ってくれるっていう、強い力を感じた。
「…すごい…まるでパワーストーンだね…」
「あ、水月ねーちゃんのその例え…めっちゃ合ってるかも…!」
そうだ、まさにパワーストーンみたいだ。有栖乃助がその姿になった途端、おれでも分かるくらいにも力の変わりようが分かったんだから。これが有栖乃助という“霊”の力か…。なんだか物凄い存在がこっちの味方に憑いてて超ラッキーって感じだよなあ…。実際、有栖乃助がもし居なかったらと思うと…って考えてしまう。
「宝石人間かぁ〜!すっごくロマンチストだねえ〜!ちょっとドキッとしたよ…久々に!なら…続きやろうか…?」
「勿論」
ウフルンテが妖しく、楽しそうに笑っている。まるで好きな人でも見ている時のような顔だ。
でも正直おれも興奮してる…あの有栖乃助が本気モードになったんだ。目の色も変えて…まあ、そもそもこの男の“目”自体初めて見たんだけどさ…。 そんな有栖乃助から輝くような幽気が満ち溢れている。まさか…本当に六幻に勝てる…?セカキューレベルの…怪物に…?




