㊶ 予期せぬ来客!?/“しきよく”…てなんだ???
脳髄に直接流し込まれる、甘ったるく、粘りつくような声。それは言葉ではなく「侵食」のような気がした。
「バ…バズーカ……?」
有栖乃助の腕の中に抱かれている謎の存在。 さっきまで…“ロトロト”だったその人物は…あっという間に、殺伐としたこの場を凍りつかせてしまった…。何が起こってるんだ…!?召喚の妨害が…失敗してたってこと!?
「違う…!? ────!!!!! …な…なぜ…ウフルンテ様が…此処に…」
「ウフルンテ…!? バズーカってのじゃない!?」
召喚を成功させたはずのカズータスは悲鳴に近い問いかけをしている。…なぜだ? その召喚された者は可笑しそうに微笑み、けれど慈しむように受け止めている。
バズーカじゃない…?どういうこと…?頭が大混乱だぞ…!?有栖乃助の腕の中に収まったまま、まるで極上のソファーでくつろぐ王女のような不気味さを醸し出している…。
「■■■■!■■■■〜…!!この子の■■を使ってぇ!来たんだよ!!」
瞬間、空気がバチバチと弾けた。
おれの耳には、それは声じゃなくて機械がバグったみたいな電子ノイズのような不快な音が響いた。
「なんだ…今の声…何もわかんない…」
おれのパニック姿が気に入ったのか…その戸惑いを見て…、女… ───ウフルンテってやつは猫なで声で笑った。
「あっ!ごめんごめん!! ポカンとしてたね〜! 今のちょっと可愛かったよぉ〜? …えとね!術譜をちょっとイジイジしてぇ…アタシが“このコ”を依代にぃ…来たってすんぽーだよっっ!!」
姿形はあのロトロトだけど…ナニカが決定的に違う… 無意識なのかわかんないけど…放っている“圧”も不気味すぎる。さっきの言葉もだ。
有栖乃助は黙っている…。最強なこの男の腕…がわずかに…本当にわずかに硬直している。
石化とかじゃない…不快感でいっぱいって表情だ。
「…なるほど… しかし、バズーカ様は…このことを…──
「あのね〜? もしもバズちんが来てたらぁ、呼び出したキミと〜? “このコ”…ブチ殺されてたよ〜!! だ〜か〜ら〜?アタシに感謝してほしいくらいだよ〜!」
カズータスを遮るように、女は甘い声でまた話し始めた。 この謎の女、ウフルンテは有栖乃助の首に腕を回し、さらに甘えるように顔を寄せている…。
この戦場が、彼女の発言の一つ一つで…「ウフルンテのステージ」に塗り替えられていく…。
「…なるほど、確かに…六幻を呼び出したことには変わりはないようだ」
「有栖乃助… それって、どーいうこと…!?」
「…このレディは“色欲”のコンプレックス───ウフルンテ。 今、世界中が血眼で探している存在の1柱だ」
「べ…別のタブラチュア…!?!? …“しきよく”…!?」
この女の人も六幻ーー!?!? なんかエライことになってきたぞ…“しきよく”もよくわかんないし…
それにだ…有栖乃助はウフルンテを腕に抱えたまま、一歩も動かない…。いや、動けない…のか? だとしたら…悪い夢だよ…。 物凄く困る…アンタはおれの中では最強の保安長なんだから…
「うふフフ…博識な色男さん♡ それに“レディ”ってえ〜…アタシは両性具有だよぉ〜? またひとつ…知識が増えたねぇ♡」
りょ…りょーせーぐゆー…??
また何かの肩書きかなんかだろうか…?
彼女は有栖乃助の見えない表情を確認するかのように、うっとりと頬を寄せる。
その光景はあまりに奇妙で、殺意の在り処は分からない。だけどおれは全くもって動けなかった…。 アイツはあんな隙だらけなのに、コッチには殺意すら飛ばしてもないのに、カラダが動かない。
もしも、一歩踏み出せばソレだけであっという間に意識が無くなって即死────もあり得るからだ……。
使う言葉にも…気を最大限に遣わなくちゃいけない……かいた汗が落ちていく…無限のような時間に感じる………
生きた心地がない………
「なるほど、正に名が体を表しているな。 それで、貴女はなぜこのような場所に?」
「……!! あーそうそう!! バズちんが探してるぅ〜緑髪の男…!! アイツぅ〜詳しく教えてくれないもんだからさぁ…?逆に〜?気になってさぁ♡ ソレで〜?召喚されかけてたバズちんに割り込んでコッチに来たの!! どんなのかなぁ〜…ッと思ってね!」
割り込むって…どうやら想像通りのとんでもない存在のようだ…
それに狙いは『緑髪の男』
あはは……それって…
「────キミがそうだよね? チマキくん…♡」
……!!!!!!!?
一瞬にして、ウフルンテはおれの目と鼻の先に移動していた…。
───有栖乃助の腕の中から…おれの至近距離へ…!!
その間、音も、幽気の揺らぎも、予兆すらなかった…
おれはこの一瞬の出来事に、カラダが完っっ全に硬直してしまった…。
「さっきも聞いたと思うけどぉ、アタシは“色欲”のコンプレックスやってるんだ〜! 坊やのキミにも…アタシの『色香』は効くのかなぁ?」
ウフルンテの吐息が、おれの顔にかかる。
それは果物のような甘ったるい匂いで…しつこくて…おれの存在をドロドロに溶かしていくような、不快なナニカを帯びている…。
「よ…よよく、分かんないけど… 絵とか…描く…コンプレックス……さん?」
余りの恐怖に声が裏返ってビビってる…自分でも意味わかんないコト言ってる自信がある…しっかりしろ───!!気を抜いたら確実にやられる…まあ、気を抜くのが“怠惰”そのものなんだけどさ、今はそんなコト言ってる場合じゃない。
まずいまずいまずいまずいまずい…今なら簡単に殺される距離だ……
「………ぷっ…」
「…え?」
「あはははははーーーーーーっっ!!! ちょっと…ぶぷっ…たははははは!!!! …待ってよ〜!!可愛すぎっっーーー!!! 今の…最高!!」
………………。
目の前でなぜかいきなり大笑いしだすこのコンプレックスに緊張感が崩される…回答を間違えたっぽい。
この女の考えてることといいペースも理解できない。それが怖すぎて、腰が抜けそうだ…。
「ふぅー…失敬失敬!!! んー…なら〜…坊やのキミにも分かりやすく話してあげる!! キミのね?無地なキャンバスをね? 『アタシ色』に染めてもいいかな〜〜…? ───って聞いてみる…!うんうん!どう!?」
「それは……困るかも……」
「あれ?キライ〜? アタシのこと…んーー?」
ウフルンテの両目が…虹色のグラデーションで輝き出した…!? 絵の具をパレットの上で激しくかき混ぜたみたいな、グルグルな蛍光色の光みたいだ…。
その瞬間…気のせいかな?
なんかまた…空気の質が変わった…気がする。
ポワンポワンしているその魔法みたいな目を見てたら思わず本音が出てしまった。
「うわぁ…… キレイな目……!!」
「…………はっ…!?!?」
あれ?グルグルの光が消えちゃった?
ウフルンテはビクッと肩を跳ねたあと、力の抜けたような…あられもない声を上げて数歩後ずさった。
まさか……『懈』が発動してる!?
「そんな……ピュアな……ずる…」
ウフルンテの顔がまるで風邪でも引いたぐらいに赤くなってる。さっきは虹のグルグル…今度は真っ赤…よく分かんない…怒らせた…!?
どういう原理なんだ…?これもステレオ能力…?おれが休ませた…?いや、多分違う気もする…
「…どういうこと……効いてない…? っていうか…アタシに効いてるーーー!? えーーーどうしよどうしよ………いや、アタシはそんなに安くないぞ…!!ぷんぷん!! 胸が痛い……あーーー!!カズータス!! アタシに『心臓破り』使ってないよね!?ねね!?」
「い、いえ……そのようなことは、間違ってもしません……」
カズータスが、困惑と恐怖の混ざった顔で首を振る。
ウフルンテは自分の胸を強く押さえ、信じられないものを見る目でおれを凝視した。
……な、なんか…忙しいコンプレックスだなぁ…
「……うそ…なんでこんなに…魂がズキズキするんだろ…」
なんだか…オトナみたいな顔をしているウフルンテ。顔がさっきよりもずっと赤い…どうしたんだろ…?
敵意はない…のかな?
「えーっと…ウフルンテ…様? おれを殺しに来たんじゃないの?」
「…はははっ!…違うよ〜? でもね〜?…今…!! 決めたことがあるよっ!!」
───!!!!
殺しに…来たんじゃない!?わざわざ召喚に割り込んでココに来たのに?
────もしかして…ホントに
バズーカ…ってのが来るよりも、大当たりを引いたんじゃ…!!
って、決めたことって…?
「チマキくんを持って帰ることにしたの…♡」
「……はいーー!?」




