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C/W(ツーシーター)  作者: 道具屋
流霊奮闘編
37/44

㊲ “世界休め”がバレた…!?/エゴイストの美学!


「…有栖乃助 アンタの能力、やっぱり性格出てるよ。 自分だけキラキラして自分だけ絶対に傷つかないなんてさ!」


「……汚した手の回数の方が多いがね」



 有栖乃助の言葉に、言葉が詰まった。

 冗談を言っているようには聞こえなかったから。



「電撃は効かんと言ったな、縦須賀。 ではコレはどうだろうか」


「む、また何か仕掛けてくるな。懲りんヤツだ」


「有栖乃助!気を付けてよ!信徒(シント)ってのは借りた能力とは別に自分のステレオ能力も持ってるはずだから!!」


「ふむ、器用貧乏というやつだな」


 カズータスがなにかを唱えている…。

 禍々しいオーラが辺りを蝕む。

 



「悶え苦しめ───『心臓破(しんぞうやぶ)りの(じゅつ)』…!!!」



 カズータスの瞳が、さっきの『雷撃(ギラ)』の時とは違う不気味な暗赤色に変化した。

 直後、空に異変が起きた。



「イテッ…うわっ!!鳥…?!鳥が落ちてきたぞ…!?」




 ボトッ、ボトボトッ、と。

 さっきまで青空を自由に舞っていた鳥たちが、石ころのように地面に叩きつけられる。

 どの鳥も外傷はない。だが、その小さな胸元だけが、狂った時計の振子のように激しく、不自然に波打っていた。

 ────!!!?


「……ッ、ぐ、うう……!!」


 他人事じゃない…!!

 おれの胸の奥が、熱い鉄を流し込まれたみたいにズキズキと痛み出す。

 ドクン、ドクン、ドクンドクンドクン──!!

 早まる鼓動が、全身の血を沸騰させ、視界がチカチカする…!!!

 これがカズータスのステレオ能力…!!!


「む、これは───」


 有栖乃助が自分の胸元に軽く手を当てた。

 彼は動揺することなく、落ちてきた一羽の鳥を石英化した指先で検査するように見つめる。


「あの術、恐らく心拍数を操作しているな。鼓動を加速させているのか」


「流石は暫定機動保安長、頭のキレる男だ。だがもう遅い」


 カズータスが歪んだ笑みを浮かべる。

 おれは膝をつき、必死に自分の胸を押さえた。



「心拍数を倍に…さらに倍に…さらに倍に加速させる…これがこのカズータスのステレオ能力よ。 どうやら…縦須賀、君はその心臓ごと石化させているようだがな」


「御名答。まあ、僕が鼓動を速める時は鏡を見ている時くらいだがね」


 心臓を石化って……マジで何でもアリだ。やっぱりこの男…規格外すぎる…!!

 不機嫌そうなカズータスの指先が不規則なリズムを刻む。

 空を舞っていた鳥たちは、もはや一羽も残っておらず地面は動かなくなった小さな命で埋め尽くされている…最悪の光景だ。

 おれの胸は爆発しそうなエンジンみたいに熱くて、喉元まで心臓がせり上がってくる感覚に襲われた。


「他人に僕の五臓六腑をどうにかしようなど、僕の美学に反する。 ところで、茅蒔はもう限界か。取り敢えず君も部分的に石化させるとしよう」


「ハァ…ハァ…、…だ、大丈夫…!!!」


「大丈夫だと?緑髪(りゅーはつ)の子どもよ。 背伸びは辞めたらどうだ?」


 有栖乃助の銀色の瞳が、冷徹にこっちを見定める。

 おれの視界は真っ赤に染まり、心臓は今にも胸を突き破って飛び出しそうだ。

 加速、加速、加速───。

 なら、おれがやることは一つしかない。


「ハァーーー…、『(アイドル)』…。休め…おれの心臓…!!!」


「む…!!?」



 緩やかに…おれのバクバクした心臓が元のリズムに戻っていくのが分かる。

 少しまだ、フラフラするけど…!これで対抗策は分かった!!



「ふぅ~〜〜〜…あー…、死ぬかと思った!!」


 久々の感覚だ。究極のリラックス能力。

 カズータスの術がどれだけ「加速しろ」と命じても、おれの心臓は「お休み」とその呪いをすり抜けていく。

 マジで川が見えかけたよ…これからはあんまり出し惜しみはしないようにしないと。


「……バカな。オレの『心臓破り』を……自分の意思で無視しただと!?このような子どもに…!!?」


「そんな“このような子ども”を捕らえようとしてたんじゃないのかい? まあ…僕も予想を覆されたひとりだがね…」


 カズータスが戦慄する。有栖乃助もちょっとだけ驚いてるっぽい。

 物理的な防御でも、石のような固定でもない。

 ただただ、「やる気を無くす」という力だけで、最強の殺し技を無力化してしまったんだ。ヘヘ、どーだ!


「……フッ、ハハハ! なるほど、これぞ『世界休め』の真髄か。……面白いぞ緑髪(りゅーはつ)!! 君のその“怠惰”…。コレールが討ち取れない訳だ」


「む…“怠惰”…? ───『世界休め』…だと…?」



 あ、そうか。

 このキャラで忘れかけてたけど、有栖乃助は保安長…おまわりさんなんだった。

 今、聞かされた おれがコンプレックスという事実…半分だけど…。

 あれ? ちょーっと、マズイ展開…??おれ逮捕されるんじゃ…

 そして、有栖乃助が重く口を開いた。




「茅蒔。今の話は真実か?」


「───…うん。カズータスの言った通り…おれは、ちょっと訳ありの霊なんだ」


 おれは本当のことを話した。

 おまわりさんに嘘付いたら色々とマズくなるし…今は目の前の、風月と水月ねーちゃんの命のことで精一杯だ。ロトロトの能力もまだ分かってない…!



「なるほど。 “怠惰”の罪を背負う者、でもあるという訳か」


 有栖乃助が冷たくおれを見下ろしている。


「有栖乃助…あの巫女さんふたりが無事にこの街を出れたらさ。 おれ、アンタに捕まるから。 だから今だけは…力を貸して?」



「───断るね」



「…そんな…」


 有栖乃助は突き放すように、そう言い放った。



「僕は誰の指図も受けない。 君らは既に僕の保護対象だ」



「やっぱそうだよね…。  …はぇっ?」



 色々と子どもなりに、覚悟を決めていたおれは、拍子抜けして情けない声を漏らした。

 有栖乃助は依然として冷徹な圧を放っている。だが、その圧は「罪人」を測るものではなく、希少な「原石」を吟味するような、奇妙な熱を帯びていた。


「子どもの君がなぜ…()()()()を飼い慣らしているのか…今、理解が追いついた。 君はその背負った“罪”で、色々な魂を救ってきたのだろうな」


「…この()()のこと、気づいてたんだ…。はは、やっぱりアンタ凄いや」


 おれの肩に止まっていたヒュークが警戒はしているものの、頷くように小さく鳴く。

 有栖乃助は、石英(クォーツ)化した指先をスッとヒュークに向けた。攻撃の意思はない。ただ、このヒュークを確かめるような所作。


「世界休め─── 万物を停滞させる最悪の災厄と聞く。 しかし、君のそれは凍りついた孤独を癒やすための不器用な『子守唄』に聞こえるよ」


 彼はフッと、いつものナルシストじみた笑みを口元に浮かべた。


「法の条文には載っていないがね。……美しくない魂を裁くのが僕の仕事なら、(いびつ)ながらも輝こうとする魂を守るのも、僕の勝手(エゴ)だ。……視野を広く持ちたまえ、茅蒔。 僕は君が思っているほど立派なおまわりさんじゃないのさ」


「なるほど…正に暫定機動(ざんていきどう)保安長! 困ってる市民を自由奔放に守るおまわりさん!! 立派じゃん!」


「“臨機応変”に…!!だっっ!! 安心するといい茅蒔。 僕の物差しには君の精神は“美しい”と出ている。僕ほどではないがね」


 さっきまでの、魂を凍りつかせるような執行官の冷気はどこへやら。

 だが、その正義の輝きは、以前よりもずっと力強く、まぶしい。



「あ〜…はいはい! じゃあ!ちゃっちゃっと攻略していこう!ヤラレっぱなしじゃ悔しいしね!!」


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