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C/W(ツーシーター)  作者: 道具屋
流霊奮闘編
35/44

㉟ スーパーナルシスト!?/新たな信徒…!



「ココが…幽眉笛(かすみぶえ)さんって人がいる街…?なんか治安悪そう…全然人いなくない?」


址塔街(シトウガイ)…大陸の外れの街。別名『大ハズレの街』だ」


「うわ〜…なんかイヤ〜な名前…」



 風月が語ったこの地は正に名前勝ちするくらいの過疎化した街であった…。

 人っ子一人も居ないけど…ホントに大丈夫かなあ…こうなったらもう、“養子勧誘”なんて期待できない。ホントのホントにその、幽眉笛って人頼みだねこりゃ。ここで人生最大の「大当たり」を引かなければならない…。


「……うわ〜……。ホントにここ、人が住んでるの? 街っていうか、巨大な空き地じゃん……」


 おれは、足元に転がっていた空き缶をウッカリ蹴っ飛ばしてしまった。そのくらい、ゴミが散乱しているのである。

 カランカラン、と乾いた音が、静まり返った通りに不自然なほど大きく響く。

 風月は無言で周囲を警戒し、水月ねーちゃんはおれの頭をなでて落ち着かせようとしてくれている。

 ヒュークも小鳥モードで辺りをギラギラと眺めている。

 ──と、その時であった。廃墟の屋根から一つの声。



「動くな。……『不法投棄』および『騒音公害』。それから……『あまりに田舎臭(ダサ)い割烹着着用』!!!…の罪で、君を拘束するっ!異論は認めんっっ!!」


「はえっ!!?」


 幽霊街のような寂れた街に“人”が居た。妙に気取った、けれど芯の通った男の声。

 声の先に視線を飛ばすと、ひらりと群青色の長いコートをビシッと翻した男が立っていた。


「……誰!? っていうか、そんなんで捕まってたまるかーーっっ!!!」


 男は軽やかに地面に飛び降りると、長い前髪を指先で整えながら、こちらへ歩み寄ってきた。

 スラっとしたスタイル、オマケに顔の半分がその自慢の前髪で隠れていて表情が全く読めない…。見た目は風月と同じくらいのお兄さんって感じの年齢っぽいけど。



「僕は──現・址塔街(シトウガイ)第8区特殊暫定機動(ざんていきどう)保安長……

 『縦須賀(たてすか) 有栖乃助(ありすのすけ)』───…だっっ!!!

()()、“暫定機動”として…!この『大ハズレの街』の法、そして僕自身の美学を守る者…っっ!!」



 一瞬にして、このゴーストタウンに煌びやかな…風が吹いた気がした…。

 ビシィッ! と効果音が聞こえてきそうなポーズを決めた有栖乃助…と名乗る男の背後で、なぜか無人の廃墟からキラキラした粒子が舞った…気がした。

 いや待って……気のせいじゃない! この人…自分の幽気を無駄遣いして、セルフ演出してるんだ……

 

 存在がうるさい…。勝手にキラキラしてるし…保安長…まさか、お巡りさんなの!?

 この街は寂れてて怖かったけど…なんか和らいだかも。微妙な心境だよ…


「ザンテーキドー…!? は、はぁ…おまわりさんなんだ…。派手だなぁ〜…名前も格好も…」


「臨機応変に現場をパトロールする…それがこの僕さ…っ」


「臨機応変っていうか…ただ自由奔放に活動してるような…」


 有栖乃助と名乗った男は、おれの目の前でピタッと小綺麗に足を止めると、前髪の奥からじっとおれを観察し始めた。…見えてるのか?それ…


「ふ〜む。まさかまさかの巫女様もご同行か。ところで…緑のボウヤ。 君の小さな背中のその()()()()刀。 目立ち過ぎだ…っ! この僕よりも目立ってるじゃーないか!!」


「別に悪さはしてないよ!ただこの街に少し用があるだけで!」


「隠しても無駄だよ?僕の霊感の前では、『事情』の香りさえテイスチングできるからね……。……あ、そうだそうだ。ルーチンである珈琲タイムを過ぎていた…。失敬──」


 自由すぎるなあ…どこからともなくティーセットを出して飲み始めた…。しかも物凄い量の角砂糖だ…。この縦須賀という男、つかめないな…


「……ねえ、風月。この人、なんかすごそうだけどさ、話が通じなさそうなんだけど……」


「こんなやつ数年前には居なかったんだが臨時の派遣か? …無視して進むぞ、自分の世界に浸ってるだけだ」


 風月が呆れて歩き出そうとすると、有栖乃助の雰囲気が一瞬で変わった。


「待ちたまえ淑女(レディ)。……君たちが探しているのは、『幽眉笛(かすみぶえ)』という男だろう? 」


「なんだ話が早いじゃないか、お巡りさんよ」


「ココから先は…行かせるわけには行かないのだよ」


「そのウザたらしい前髪…伐採してやろうか?」


 有栖乃助の雰囲気が一変し、空気が冷たく張り詰める。その前髪の奥の瞳は、一体どんな目で風月を見ているのか…想像もつかない。

 って、おいおい…お巡りさんに喧嘩売るなっての…!!タダでさえ面倒くさそうな人なんだから!!


 しかし、───

 そんな一触即発の空気を切り裂いたのは、瓦礫の上から響いた、粘りつくような女の声だった。






「ツンツンしてるあの巫女ちゃん…カワイイ〜〜〜♡ ちょっと手出そうかな……どう思う?カズータスぅ?」


「……知らん。──それよりもアレだ、コレールの残した記録の『緑髪(りゅーはつ)の男』ってのは。 男というよりかは、子どものようだが」


「ハァーぁ……これだからマグロ男は…つまんないねぇ〜…」


 ピンク色の髪を指先で弄りながら、ネットリとした視線を風月に向ける女と、その隣には岩のように動かない日に焼けた肌の男…。

 “りゅーはつ”って…おれのことかな…?

 いや…それよりも…!!『コレール』って言ってた…!!確かに!!!

 なんとなく状況を理解して来たぞ…まさか、敵討ちにわざわざおれたちを追いかけてきたっての…!?


「……有栖乃助さん。あの二人、普通の人間じゃない…おれが前に出会ったコレールってやつの仲間……『信徒(シント)』だ!!」


 おれが身構えると有栖乃助は表情の見えない顔で、手に持ったコーヒーカップをゆっくりと下げた。


「あの“センスの無い”装束。わざわざ、この辺鄙な地まで来るとはね。……緑のボウヤ、君…一体何をしでかしたんだい?」


「……倒した!」


「…ひゅー、やるねぇ〜」


「まぁ…おれの力じゃないけどね〜…」


 ナルシストな彼にしては珍しく、皮肉ではない純粋な感心の響き。

 けれどおれは照れる暇もなく、目の前の“敵”に自分の右手をグッと握りしめた。

 すると、肩から小さな声がヒョコッと聞こえる。


「チマキ殿───。あの者たち…ワタシが出るか?」


「いや…ヒューク…すんごい有難いけど、ちょっと状況をさらに混乱させちゃうかも。お巡りさんもいるし…コレール絡みだ。ヒュークの立場がマズくなる」


「敵城視察というわけだな?…であれば、悟られぬよう出来る限りのサポートはしよう。それだけはさせてもらう。よいな?」


「うん…!ありがとうヒューク。おれをよく理解してくれてて頼もしいよ」



 ヒュークをツインテールの影に隠して行動しよう…。

 あのピンクの女に探りを入れてみるか。


「ピンクのお姉さん。もしかしてコレールの敵討ちなの?」


「ん〜?ただの同僚だよ〜?そんなことよりさ!ウチの名はロトロト…♡ てか、むしろぉ?陰気でキライなやつが消えたからぁ…どちらかっていうとキミの方が仲間に近いかもね♡」


「なるほど…そういう系ね」


 コレールのことはどうでもいいって感じか…。だけど誰がこの二人を差し向けたんだろう?

 …もしかして、あの『バズーカ』…っていう、まだ名前しか知らないヤバそうなコンプレックスかな…?

 …うーん。なんか本格的に狙われてきたな…うーん、マズイなぁ、忘れてたよそんなこと。


「ねえねえ、そこの黒髪の巫女さん? 一緒に遊ばない? ウチ、気持ちいいコト…色々知ってるんだぁ…♡  女子同士でお話しましょ?」


「……きもい。私に話しかけるな」


「お姉ちゃん…この(ひと)…。普通の幽気じゃない…警戒、しっかりね?」


 風月は眉一つ動かさず、冷徹に言い放った。

 けれど、このロトロト…と名乗る女の瞳の奥に宿る、どろりとした狂気は風月の言葉の刃を撥ね返してさらに深くこちらを侵食してくる。


「あら〜嫌われちゃったぁ? でも、そんな子ほど、()()()()()可愛くなるんだよね~♡」


 ロトロトは、また自身の髪を指に絡め、うっとりとした表情で風月を……いや、『巫女』としての神聖さを舐めるように見つめている…。怖い…初めて会うタイプの怖さだ。


「それに、『巫女さん』ならぁ……そういうこと……知らないでしょう?  フフフ…ウチの専門分野だから安心して……?」


「はぁ……巫女狩りめ……。用があるのは、あの緑髪(りゅーはつ)だ。 その後、楽しめばいい」


 相棒の男ですら、ロトロトに心底嫌気がさしたように吐き捨てた。

 でも…実際、男の幽体から放たれる威圧感よりも、ロトロトが放つ「執着」の方が、毒のように空気へと溶け込んでいく。

 それとやっぱり狙いはおれか〜…。まあ、そうだよね。やっぱ、イザとなったらヒュークに加勢を…

 ───そんなことを思い巡らせていると、あの男が口を開いた。



「ほう……『巫女狩り』か。僕の前でそんな(よこしま)な趣向を披露しようなんて、よほど自分の美的感覚に自信があるのか……それとも、ただの狂人か。どちらにせよ、ナンセンスだ」




 有栖乃助(ありすのすけ)が、冷めた手つきで前髪を整えた。…チャッチャッと…。

 彼の『美学』にとっても、ロトロトの存在は「汚物」に近いものとしてテイスチングされたようだ。

 正直、最初このお巡りさんは掴みどころがない変な人認定してたんだけど、コッチの方が遥かに良いや…。まだ常識が光ってる。


「……茅蒔、下がれ。この女、ただの信徒じゃない。言葉の一つ一つに、相手の精神を腐らせる毒が混ざってる」


「確かに…これはある意味、毒かもしれない…。風月…気をつけてよ?」


 風月が鋭い視線でロトロトを射抜く。

 けれどロトロトは、その警戒心さえも「ご馳走」であるかのように、クスクスと肩を揺らした。


「あははっ! 怖いお顔ぉ〜。でも大丈夫、すぐにその“凛とした”仮面を剥いで、ボロボロに…アンアンしてあげるからねぇ……? さあ、カズータス、緑髪(りゅーはつ)の方は任せたよ?  ウチは……あの高飛車な、お巫女さんを貰うから…♡」


「水月…お前は下がってろ。まだ病み上がりだ、あの女は私の相手だ」


「お姉ちゃん…わたしもサポートする!!いつまでも守られてらんないからっ…!」


「キャーー!! 逆指名されちゃったぁ!? そっちの巫女さんも高身長で童顔でぇタイプ〜〜♡ ふたりとも貰うか……」


 ロトロトの背後から、毒々しいピンク色の幽気が、触手のようにゆらりと伸び上がった…。

 ステレオ能力の性質がわからない…また、操ってくる系かもしれない。もちろん、水月ねーちゃんもだけど…風月もしっかりと守らなきゃ…。

 …相棒の男がそれを許してくれそうにもないけど…!!この、有栖乃助って人にも協力してもらわないと…!!



「有栖乃助さん、どっちに手を差し伸べるかは…カッコいいお巡りさんのあなたなら…分かるよね…?」



 おれは迫りくるこの、カズータスという男の重圧を感じながら、隣で余裕そうにキメてる保安長に必死に声をかけた。

 この「大ハズレの街」で、唯一の正義(美学)を司るこの縦須賀(たてすか) 有栖乃助(ありすのすけ)が味方になってくれれば…まだ勝機はある。

 みんなを…バラバラにしたくない。



「うーむ…僕が眉目秀麗なのは公然の事実だが…───名は、何といったかな? 緑の少年。」


「『茅蒔(ちまき)』!! 手を貸してくれるんだね!?」



「茅蒔───か、中々良い名だ。 まぁ…僕のフルネームの画数と文字面には及ばないが…ね!!」




 少し、取っ付き難いナルシストだけど…

 底の見えない『正義』が味方に憑いた!!


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