㉜ 決着と縫合…!/『大切』
降り注ぐ瓦礫と、真っ赤なオーラを切り裂いて現れたのは、巨大な翼を広げたおれの腹心。
「───チマキ殿。 遅れて心から、誠に申し訳ない!!」
ヒューク。
その着地の衝撃だけで、ユーリが作り上げた「舞台」がミシミシと悲鳴を上げて崩れていく。
「な、なんだ……この重圧……カラダが……圧されて……」
立体化した「重力の風」によって、ユーリが苦しそうに、跪く体勢になっている。まるで、誰かに忠誠を誓うかのような姿だ。流石だぞ、ヒューク!
「……ヒューク……!!!!! 待ってたぞ!!!!」
「これは中々……───穏やかじゃないな、この建物自体が能力のようだ……。─── チマキ殿……!!! なんと…損傷しておるではないかっっ!!!」
ヒュークの鷲のような目が、おれの欠損した右手に止まる。その瞳が、怒りで黄金色に燃え上がった。
「ちょっとグロいけど……痛みは不思議と無くてさ〜……ははは」
「なにが可笑しいか!チマキ殿!!それはアドレナリン……いや!! 怠惰の存在力によるその場しのぎのものだ!! ダメージが消えたわけでは無いのだぞ!? ……あの“防御の力”はどうしたのだっ!?」
「ヒューク、そんな怒んないでよ。水月ねーちゃんを守りたかったんだ、おれ。……『我が身可愛さ』も、振り切っちゃった。怒られちゃうね…」
「……やはり、とんでもない流霊よ。 御主は」
ヒュークは呆れたように、けれど深く感動したように頭を下げた。
そして、ゆっくりと顔を上げ、震えている赤いウサギを……ゴミを見るような目で見据えている。
「ヒューク……あの……『忠誠心のヒューク』……だと……!? な、なんで上位存在がこんなトコに……いや、何故チマキ…に……!?」
「黙れ。……我が主を傷つけた罪、その身をもって永遠に悔いるが良い」
「まっ、まて…ヒューク…さ…」
そういうとユーリは、懐に隠していたあの辞書のような大きな本をヒュークに悟られぬように取り出した。
ナニカを書き込むのか…!?まさか、また『台本』を…
しかし、それを見逃さなかったヒュークは一瞬にして、その本をカマイタチのような幽気で細切れにした。
それと同時に、この立体化したフザケた劇場もモヤになって消えていった。どうやら、あれがステレオ能力の本体だったらしい。───あの広場の中心に戻ってきた…。出れた…外に!!
「あ、ああ…オレの…『パレス』が…」
「三流役者が、フィナーレだ。 ───『業翼』 遥か彼方へ往くがいい」
轟音と共に突風がユーリ目掛けて飛んでいく。
雲を突き破り、ユーリは見たこともないスピードでぶっ飛ばされていく。ウサギのようなシルエットから人型に戻り、その光景は、化けの皮が剥がされたみたいだった。
「こんな…こんな…コト…が!!チマキぃい…!!!クソぉおおおお!!!!!!覚えていろ……いつか…必ず…またお前と出会ってやる……また…『勇姿』をぉおおおおおおおお…ハハハハハッッッ!!!!」
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ユーリは地平線の向こう側まで吹っ飛んで行った。これが、ヒュークの本当の力か…凄過ぎるな…。
「チマキ殿、無事…ではないか…。水月殿も、深刻なダメージのようだな…」
「ああ!!そうだ!!水月ねーちゃん!!!!生きてる!?大丈夫!!!?」
少し後ろにいる、水月ねーちゃんに振り向うとした。しかし、視界がグラつく。…地面が近づいてくる。あ、おれ…両足、折れてたのか。マズイ…転んでしまう…。
その時
「…お前…また死にかけてんじゃねーか」
「……風月…!水月ねーちゃんが…!!!」
咄嗟に風月が支えてくれた。
さっきぶりだ、なんだか物凄く頼もしく見えるや。
ってアレ…広場にあんだけ人がいたのに、おれらしか居なくなってる。おれがキョロキョロしていると
「チマキ殿、すまない。ワタシが現れてしまってから霊たちは皆、退避してしまった。 医術を心得た者が居たかもしれんというのに…」
「大丈夫だよ、ヒューク。 ヒュークが来てくれて良かった…!」
確かに…今の姿のヒューク見たら皆ビビるよな…おれはもう慣れたもんだけど。
「その言葉は嬉しいが…。ワタシの幽気は人間霊である水月殿には譲渡できんのだ…。恐らく拒否反応を起こすだろう。…半分コンプレックスであるチマキ殿には可能なのだが…」
「そゆことか…前も貰ったしね! …ならヤバくなったら頼むよ!ヒューク!」
「チマキ殿…もう十分、今でもヤバそうなのだが…」
ヒュークは、不甲斐なくなんかない。おれたちを守ってくれた英雄なんだぞ?なんで、自分でわかんないかなあ、もう! もっと自分を讃えなよ。
そう思ってると風月が重く口を開いた。
「なにもかも私の責任だ…クソッ…3人で行動していれば…お前も、水月も…」
風月…怒りと悔しさが混ざったような表情だ。
おれは、なにも言えなかった。風月はおれの身体をゆっくり支えて、水月ねーちゃんの目の前に座らせてくれた。
風月も妹を心配する姉の顔付きになっていた。
「止血してある…このケガで…どうやってだ…?」
「セカキューの力で、血が出るのをサボらせてるんだ。でも治せてるワケじゃない…早く…!!」
「…なるほど、怠惰の存在力か…考えたな。取り敢えず今はソレで応急処置だ、私も幽気を練り込む。…チッ…こりゃ動かすと傷が開いちまうな…クソ…」
おれは震える左手を、ねーちゃんの額に重ねる。
おれの魂を削り、ありったけの『存在力』を流し込む。
呼吸が段々と一定になってきたぞ。頑張れ、頑張れ…。絶対に助ける…。助ける助ける助ける助ける助ける…助ける!!!
しかしその時、───来てしまった。
「な…なんか……。ものすごく……ダルく…なって…きた……ぞ……?」
「お、おい…茅蒔?大丈夫か…まさか…眠くなってきたのか……!?」
甘い、猛烈な睡魔。
瀕死の身体が、怠惰に引っ張られて『休息』を求めて眠ろうとしている…。視界が真っ白になってきた。今、寝たら……この供給が止まったら、ねーちゃんが死ぬ…。イヤだ…それだけは。
「チマキ殿…!! 御主の『指』!! 各々に散らばっておった…!! 5本全て!今、持ってきた…!!肉体から分離し、今にも無に帰すトコロだが……どうする…?」
その時、ヒュークが拾い集めてきたおれの「5本の指」が目に入った。砂のように崩れかけている、おれの欠片。わざわざ、見つけてくれたんだね。
「そ、それ…茅蒔、お前の指か……」
「そう…あいつの攻撃で、全部吹っ飛んじゃった…まさか形が残ってるとは思わなかったけど…はは」
「お前も重症じゃねーか…!!!! …ったく、どいつもこいつも…クソッ…。 速く縫合しないと…」
…おれは良いことを思いついちゃった。
「……ヒューク……。それ、ちょうど……いいや、ありがとう。───風月…これ、くっつけれる…かな? …風月さ…器用でしょ……?」
「…正気か!? 魂の縫合を、この状態でか…!?………針も、麻酔も無いんだぞッ!?」
「“だから良い”んだよ……。 麻酔なんて邪魔だ…。おれ……もう寝ちゃいそうなんだ。…痛みで…おれの意識を……ここに……釘付けにしなきゃ……」
おれの声に、言葉に、風月が顔を歪めている…。
風月にまた迷惑かけてるよな…ごめんね。
「お前…『存在力』を自分に一切、使わないつもりだな……? 水月のために……水月だけのために……痛みを全部、背負うのか……?」
「よくさ、大切な人がさ…風邪…引いちゃった時とか…“代わってあげれるなら、代わってあげたい。”───とか言うじゃんか……今の気持ち、それ」
おれは残ってる幽気を自分が生きれる分だけ、そして…『我が身可愛さ』が発動しないギリギリまで、水月ねーちゃんにあげることにした。 『縫合』が“危険”と判定されるかもしれないから…。───次第に、怠惰による麻酔が右手から薄くなっていくのが伝わってくる…。こわい。
……今から…痛みがやってくる……こわい…死ぬほど怖い……。でも…そんなコト言ってられない。ちゃんと、また水月ねーちゃんと…手を繋ぎたいから…!!
「…お前、漢だぞ茅蒔。 分かった…その気持ち応えてやる…」
そう言うと、風月の指先に小さな風が灯った。
「『鉄風』─── コレでお前の右手の断面と指を貫きながら、血を凝固させて糸代わりにして縫合する。 それはそれは、地獄の痛みだろう…いいな?」
「地獄かぁ……。ま、水月ねーちゃんが死ぬよかは大したことないよ。…もう、眠い……はやく…」
「死ぬなよ…茅蒔」
風月の小さな『鉄風』が、おれの剥き出しの神経に突き刺さる。
睡魔が、一瞬でどこかへ行った。




