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C/W(ツーシーター)  作者: 道具屋
流霊奮闘編
31/44

㉛ ■■■■■/逆襲(アドリブ)





「おまえ…今、…自分の意思で喋ったか…?

しかも…“この世のものではない言葉”を……」



 ユーリの顔が引き攣っている。

 そんなアホ面を横に おれは身体中───全身全霊の幽気を水月ねーちゃんに捧げた。



()()は上級のコンプレックスのみが発音できる言語だぞ……? おい、聞けよ …なぜ台本(ルール)()()できている…?どういうことだ…」



 幸いなことに、まだ死んじゃいない。

 あれだけのオーラを受けてまだ、ヒトの形を保ってる。流石だよ、水月ねーちゃん。

 ごめんね、おれ、死ぬほど情けないや。

 出血はかなり酷い。けど、今なら治せる。

 余裕だ。



「『(アイドル)』」



 緑色に光輝く幽気が、水月ねーちゃんを包んでいる。

 操っている能力を眠らせた。

 出血をサボらせた。

 震える身体を温かくした。

 幽体を休ませた。

 次第に呼吸のリズムがゆっくりと整っていく。



「答えろ……答えろガキ!!!!!」


「ユーリ、お前のこのお遊戯会。おれが眠らせてやる」


「ふざけろ……!!!勝手にアドリブかましやがって……!!!! 喰らえッッッ さっきの5倍だッッッ!!!! そのメスに幽気を与えたことを後悔しろッッッ!!! 二人、まとめて死に晒せッッッ!!!!」


 ステージが、バカが作り出した真っ赤なオーラで妖しく禍々しく照らされる。

 牙を剥き出しにして荒々しく吠えている。額の石もさっきよりも強く輝き始めた。

 でも…5倍だのなんだの言ってるが、なんとなくわかる。

 逆情したコイツは「勇気」に逆らっている。

 “勇気”の概念生物から、かけ離れすぎている行動だ。もちろん威力も弱まる。

 今度はおれが守る。両手を翳して受け止めてやる。

 今度こそは「おれの意思」だ。




「────……、?」



 翳していた両手が、おれの心とは裏腹にガタガタと奇妙な挙動を始めた。

 両足もなぜか、勝手に後ろへと下がろうとしている。

 まるで水月ねーちゃんを、この場に置いて逃げるかのように。

 

 そうだ…。おれの体には、セカキューが貸してくれた最強の守護者がいる。

 『我が身可愛さビューティフルターゲット

 

 あの子は、おれの命を守るために必死に「逃げろ」って命令してるんだ。

 あの子にとって、おれの体以外はどうなってもいい。おれが死ぬ確率が1%でもあるなら、この手を下ろさせ、この足を逃走させなきゃいけない。

 それが あの子の「正義」だから。



「……ごめん…『我が身可愛さビューティフルターゲット』さん。───ちょっとだけ、ワガママさせて?」



 おれは、自分自身の「生存本能」に喧嘩を売った。

 バキバキと、後ろへ逃げようとする足を自分の意志で無理やり前に踏みとどまらせる。

 ミシミシと、身体中の腱や筋が逆方向の命令に引き裂かれて悲鳴を上げる。

 

 「逃げろ」という本能と、「守る」という意志が、おれの体の中で真っ正面からぶつかり合っている。

 ドロドロと、耳や口から生温い血が流れた。

 血管が、神経が、本能という名のプログラムに逆らったペナルティで、内側から壊れていく。



「ち……ハァ……ち……ちまき……く……ん……?」



 背後からボロボロになった水月ねーちゃんが、おれの異変に気づいて震える声を絞り出した。

 全身を刺されるような激痛。でも、不思議と怖くない。

 


「大丈夫! 死なないし、死なせないっ!」



 おれは、『我が身可愛さ(あの子)』の制止を力ずくで振り切って、真っ赤な光を正面から睨みつけた。

 翡翠色の幽気が、苦痛に歪むおれの体を包み込んでいく。


 

 ───真っ赤な濁流が、おれの全存在を削り取っていく。



 折れた左手で、折れた右手を支え、

 肺が焼けるような呼吸を繰り返しながら、おれは右手に『(アイドル)』を全開放した。


 ───足元のステージ床がその「圧」で砕ける。

 踏ん張る両足の感覚が冷たい。しかし、これ以上後ろには進めない…!!!進んでたまるか───。

 耐えきれない圧力が限界を超えた瞬間、嫌な音が響いた。

 ユーリの波動を受け止めていた右手の指───

 5本すべてが…弾けるように千切れて吹っ飛ぶ。

 流霊体の破片が、劇場のライトに照らされてキラキラと虚しく舞った。

 同時に、『(アイドル)』によってユーリのオーラ弾は、風船のように弾けてステージに舞った。まるでそんな演出のように。





「まさか……防いだのか……無謀すぎる……」


「…それを美化した言葉が…『勇気』……だろ? コンプレックス……!!」





 ユーリが呆然と呟く。おれは血で真っ赤に染まりきった右手の断面を見つめながら、少し笑えた。

 この防御───、死ぬ気でいたんだ。

 でも、 指の5本だけで済んだ。



「なんだ、意外と大したことないな。…生きてんだからね」


「ち……ちまき……くん……なんで…」



 水月ねーちゃんが、おれの欠損を見て絶望に顔を歪める。

 でも、不思議と熱くない。痛くない。

 セカキューの力が、おれの脳に届くはずの「痛み」さえもサボらせているのかな。


「ハッ……ハハハハハハ!!!!! 『勇気』……オレに向かって……ホンモノの……!!!! やっぱりキミは素晴らしい……!!! でも……まだあと、一発……!!! 今度は両手ごと吹き飛ばしてやる!! もう二度とその女を抱きしめられないよ!? ハハハハハ!!! 死ぬ気を魅せろッッッ!!!!」


「…まだ…手はあるぞ…!!」


 おれは、自分でも制御できない「無謀」の熱に浮かされていた。

 指がなかろうが、腕がなかろうが、水月ねーちゃんを守る。


 ユーリがさっきと一緒くらい…いや、それ以上の一撃を解き放つ。

 赤い絶望が迫る中、おれは迷わず感覚のない左腕を口で咥え、強引に固定した。

 ───両手が使えないなら、全身全霊(すべて)を盾にすればいい。

 迫りくる赤い波動を、真正面から睨みつけた。

 ───その、瞬間だった。






「 『業翼(アクロブラスト)』────!!!!」



 悪趣味な劇場の天井が、上空からの圧倒的な衝撃によって粉砕された。


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