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C/W(ツーシーター)  作者: 道具屋
流霊奮闘編
30/44

㉚ 最低で最低な脚本家/赤いウサギ…!?


 ユーリがパチンと指を鳴らした。

 その瞬間、足元の地面からドロドロした、絵の具を混ぜたみたいな変な煙が噴き出してきた。

 ガギギ、 バギバギ──と、目の前で、信じられない速さで「何か」が組み立てられていく。

 それは、すっごく豪華で、でも見てるだけで頭が痛くなるような、ギラギラしたサーカスのステージ。

 おれと水月ねーちゃんを閉じ込めるみたいに、高い壁がどんどん伸びて、空まで真っ赤な幕で覆われちゃった。


 おれは思わず構えた…いや、、構えようとした。だけど身体の芯が、何かに「縛られる」ような感覚に襲われた。

 これは……ただの立体化じゃない!!

 言葉を発したいのに、喉が熱くなって、言葉がうまく出ない…。



「終わりは『完成』された……。ようこそ、オレの最高のステージへ!

────ステレオ能力……『劇的な作劇の劇場(カーバンクルパレス)』!!」



 ステージの真ん中で、ユーリの姿が変わっていく。

 人間の皮がベリベリ剥がれて、中から出てきたのは……真っ赤な毛並みの、ウサギみたいな耳が生えたヘンな生き物。手には辞書のような書物を持っている。

 子どもみたいに小さいのに、口には鋭い八重歯が生えてて、おまけに額には、血が固まったみたいな真っ赤な石が埋まってる。

 周りのライトが、その額の石でギラギラと乱反射している。眩しすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。


「この劇場の中では、オレこそが唯一無二の脚本家。そしてキミたちは……オレの描くシナリオを彩る、最高に輝かしい『キャスト』なんだよ!!」


「なんか…色々と訳わかんないことになってきたぞ…」


「あのウサギが…あの子の()()…」


 脚本……キャスト……? 何それ、意味わかんない。

 でも、その時──おれの足が、おれの意志とは関係なく、勝手に一歩前に出た。


「───えっ!? カラダが……勝手に……!?」


 『我が身可愛さビューティフルターゲット』が守ろうとしてくれてる。でも、筋肉が……骨が、おれの言うことを聞いてくれない。まるで見えない糸で、操り人形みたいに引っ張られてるみたいだ…。


「さあ、第一幕の始まりだ!! 」


 赤いウサギが叫ぶ、持っていた本がパラパラと自動でめくられていく。

 おれの右手は勝手に剣をギュッと握りしめた。

 ナニかが始まったらしい…。

 …これは『我が身可愛さビューティフルターゲット』の力じゃない。あいつの能力による力。

 「自動防御」を押し退けれるほどの…強制力。

 今までいっぱいカラダを操作されてきたけど、コレほどの不快感はない…! 『我が身可愛さ(あのコ)』はこんなに痛いくらい乱暴におれのカラダを動かしたりしない…!


 周りの人たちも、まるでおれらを囲むようにエキストラとして配役されている…。さっきまで逃げてたくせに「がんばれー!」とか「やっちゃえー!」とか、勝手なことばっかり叫んでる。

 その声を聞くたびに、心臓がバクバクいって、頭が熱くなって──。


「……ッ、うぉおおおおおおおおッッッ!!!!」


 おれの口から、おれの声じゃないみたいにカッコつけた叫び声が出た。

 なんだコレ…怖い。本当はすっごく怖いのに、頭の中には「あいつを倒さなきゃ」っていう熱い気持ちだけが、ドロドロ流し込まれてくる。


「《“勇者” チマキは走った。愛しの巫女姫──水月を取り戻すため───。そして、ユーリを討つために。それが、無謀でもあるに関わらず…》」


「ユーリ!!水月を返してもらう!!降りてこい!!」


 頭の片隅は冷え切っているのに、喉の筋肉が勝手に震えて、おれの知らない「声」を絞り出す。

 よりによって、水月ねーちゃんを呼び捨て……!?

 恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。顔が火が出るくらい熱いのに、それさえも「怒りに震える勇者」の演出に利用されているみたいで、めちゃくちゃに気持ち悪い……!!

 やめろ……! 止まれ……!! 水月ねーちゃん、違うんだ、これおれじゃないんだ!!

 心の中でどれだけ叫んでも、足は止まらない。

 むしろ、地面を蹴る力がどんどん強くなっていく。


 『我が身可愛さビューティフルターゲット』が、おれの意識を守ろうとして必死に剣を構えているけれど、肝心のおれの体がユーリの「台本」に完全に乗っ取られている。

 コレールの自滅させる力といい…操らせてくる力ってのはホントにウザい…。くそッ…。

 無理やり勇気を流し込まれて、恐怖が消えていく。

 でも、その代わりに「自分じゃなくなる」っていう、もっと得体の知れない絶望がおれを飲み込んでいく。

 この強制力……ちょっと、いや、かなり対策しないとマズイな…。

 このままじゃ、おれはユーリを倒す前に、恥ずかしさと無謀な突撃でボロボロになっちゃう……!!


「《ああ、なんという健気な勇姿だろうか! 絶望的な力の差を前にしても、彼は愛のために立ち向かう!》」


「助けてぇ!!茅蒔さま!!!」


 お、おれもだけど…水月ねーちゃんもすんごい顔が赤くなってる…震えてもいる。

 あんなことホントは言いたくないだろうな。おれが…どうにかしてやらなきゃ。

 操られてるとはいえ、おれは初めて「攻撃」として剣を振るった。

 途端、ユーリはそれを立体化させた幽気の剣であしらう。

 そんな攻防が数分続いた───。

 わざとだ、わざと幽気と体力を追い込むかのように、持久戦に持ち込んでやがる…。

 もうバテてきてるのに無理矢理動かされる手足、そこでユーリの台本なのだろう。 「提案」が始まった。


「チマキ…中々やるね!だけど、コレはどうかな?」


 ユーリは天に一本、指を翳すと禍々しい程のオーラの玉を作り始めた。

 まさか…それをぶつける気じゃねーだろうな…。流石に今は…ヤバいぞ!?というか、まだそんな力持ってたのか!

 ガチガチに縛られている腕を必死に振り解こうとした…で、できない…!!

 ヤバい…ホントに当たる…!!!


「覚醒しろ…───、勇姿を魅せてくれ!!チマキ!!!」


 ユーリは指をピッとおれに振りかぶる。当然、そのオーラ弾はこっちに飛んできた。

 その時だった。とんでもない言葉が「0メートル」から聞こえてきたんだ。



「こんなもの!!この身ひとつで受け止めてやる!!こい!ユーリ!!」



 おれは、なぜか剣を投げ捨てて吠えている。

 ───終わった…。

 すべてこいつのシナリオ通りか…


「《勇者チマキは、その心の内では死を覚悟していた。目の前の宿敵に手も足もでなかったのだから。───しかし、救いの手が…慈愛の存在が飛び込んできた。》」


 なっ…救いの手だって…!!?

 まさか……


「───── 茅蒔くん…ッッッ!!!」


 幽気も何もまとっていない水月ねーちゃんが、その攻撃から、おれを庇うように飛んできた。その顔、表情は…操られているんだろうけど、演技にはとても見えなかった…。

 本当の…姿だ…。 





────────────────────





 オーラの玉が炸裂し、目の前が真っ白に染まる。

 

 おれの大好きな人が弾け飛んだのが見えた。


 チープでふざけた演出の光の渦の中心で、

 ボロボロの体がライトアップされて曝されている。


 カスの悦びに満ちたナレーションがステージに響く。





「《ああ!なんという悲劇だ! … 愛する者を失った勇者は、今ここに────




「…■■■■■」




「───……は? なに勝手に喋ってんの?」



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