第7章 2 弟
今回はハワードさんのご実家回です。
カリフォルニア、行ったことないけど。。。
翌朝、早速転移省に出向いたハワードは、担当者から水晶玉を受け取り、転移室へと移動する。長い廊下を歩いていると、後ろからトトトと軽い足音が近づいて来た。
「おはようございます、ハワードさん。もう出発されるのですか?」
「王女様!おはようございます。 はい、数日、旅人として故郷を見て回る予定です」
涼し気な水色のドレスは、ハワードの瞳と同じ色だ。そっと差し出された手に小さな石を通したブレスレットが二つ乗っている。
「これを。一つはハワードさんの旅のお守りとして、もう一つは弟さんに。もし会ってお話出来たらお渡しください。お守り石を紐に通しているものです。」
ハワードは一つをその場で腕に通し、もう一つを胸のポケットに入れてほほ笑んだ。
「ありがとうございます。これ、以前にリッキーを助けたというあのお守り石ですか?」
「どうかしら。あの時のお守り石が消えていたのだとしたら、少しは役に立っていたのかも。」
自信なさげに微笑むヒカルに頷いて、「それでは」とハワードは踵を返した。
「いってらっしゃい。よい報告を待っています」
「王女様、王妃様が陛下の執務室でお待ちです。参りましょう」
侍女に急かされて、ヒカルはその場を後にした。今日はベスが休暇を取っている。
王族関係の主要なメンバーが、改めてヒカルから地方の問題や出来事について話を聞いた。地方の問題点も明らかになり、クランツ首相は早速領主から事情を聴くという。ガウェインとシルベスタは、鎮魂碑を建てることに大いに賛成した。
「ヒカル、以前の王国の人々に心を砕いてくれて、ありがとう。私からも礼を言う」
「そうだよね。本当なら、僕たちが気づいて真っ先にやらなければいけなかったことだ。でも、次の世代だからこそ、気が付いてくれたのかもしれないな。僕たちは、国を維持することに必死だったから」
二人からの言葉に、ヒカルは恐縮した。大人たちはみな一様に満足気だ。多くの出来事に触れ、人々に触れ、ヒカルは明らかに大人になった。
公務を抱えている王子やその護衛達は、ヒカルと一緒に退室し、執務室はいつもの3人になった。
「きっと何か進展があったのね。あの子の瞳に艶っぽさが見られたわ。ふふ。これからが楽しみね」
ソフィアは終始ご機嫌だ。
「まあ、途中で発破をかけたからね。ハワードは真面目過ぎるんだよ。旅先でぐらいちょっとは積極的になればいいのに」
「おい、まさかお前、何か仕掛けたんじゃないだろうな」
眉間にしわを深めたガウェインに、シルベスタはにんまりと笑って見せた。
「あ~、これはやらかしているわね。シルベスタ、白状なさい」
「やらかしたとは失礼だな。幸福の鐘を二人に鳴らしてほしかったんだよ。それだけだよ。あの土地はいわゆるパワースポットなんだよ。土地からのエネルギーを受け取って、地形的にも下から風が吹きあがってくる感じでね。高揚感とか幸福感を味わうにはピッタリなんだ」
それを聞いてソフィアが呆れたように言う。
「じゃあ、ヒカルが言ってた宿の隣の部屋の旅人って、あなただったの?」
「ん、気づいてもらえると思ってたんだけど、どうもそれどころじゃない雰囲気だったからさ。あの時のハワードの顔は見ものだったよ。クックック。だけど、あと一押しが足りないんだなぁ。やっぱりあの手で行くか…」
ガウェインとソフィアは盛大なため息をついた。
「まったく…。アランが聞いたら卒倒するぞ」
「そうだ。アランの結婚式にジュード先生を招待するのはどうだろう。せっかくヒカルたちが見つけてくれたんだ、これを機会に王政のアドバイザーになってもらうっていうのもいいんじゃない?」
諫めるガウェインの言葉をものともせず、シルベスタが提案する。「ヒカルの報告会」は、そのまま「今後の王政について」へと議題が替わり、夜遅くまで続いた。
その頃ハワードは、カリフォルニアの住宅エリアに来ていた。観光客の多い道路を避け、細い路地を抜けて長い坂道を登っていくと、緑の屋根のこじんまりした家がある。門の前までくると、スミスと書かれたウェルカムボードが置かれているのが目についた。
「懐かしいなぁ」
そっとウェルカムボードに触れた後、庭を覗いてみると、子どもの頃遊んだブランコが未だ健在だった。
「リチャード、リンダがお庭に行きたいんだって、少し付き合ってあげて。今手が離せないの」
家の中から若い女性の声がした。そのまま庭を通り過ぎて様子を見ていると、明るい金髪を短く刈り上げた男性が、同じく明るい金髪の巻き毛を愛らしく編み込んだ幼女を連れて出てきた。
「よーし、今日は天気がいいからブランコしようか。リンダ、ここにすわってごらん」
楽しそうに笑い声をあげる子どもと、目じりを下げたリチャードがブランコで遊んでいる。ああ、子どもの頃はあいつともあんな風に遊んだなぁ。ハワードは懐かしさを抑えて通り過ぎ、少し離れたところから懐かしい我が家を眺めることにした。
その時、家の中からリチャードを呼ぶ声がした。
「リチャード、電話よ」
「ああ、リンダ。ちょっとだけ待っててね」
リチャードが急いで家の中に入ってしまった。リンダはしばらくゆらゆらとブランコに揺られていた。お天気が良く庭でのんびりするにはぴったりの休日だ。
ハワードは、もし自分に子供が生まれたら、あんな感じなのだろうかと少し離れた場所からぼんやりと眺めていた。ヒカルの薄茶の巻き毛も捨てがたいなぁ。などと考えていると、家の裏側から不審な動きをする男が現れた。ハワードが反射的に自宅に駆け戻ると、リンダが口元を抑えられているところだった。
ハワードは夢中で庭に飛び込むと、男を蹴散らした。飛び込んだ拍子に、目深にかぶっていた帽子がふわっと転げ落ちる。突然やってきたハワードにひるんだ男は慌てて逃げ去った。ハワードは男を追いかけず、ベソをかいている幼い少女に近づいた。そして、胸ポケットにあるブレスレットを取り出して、リンダに差し出した。
「怖かったね。もう大丈夫だよ。これはお守り石が入ったブレスレットなんだ。良かったら持っててね」
「おにいちゃん、だぁれ?」
リンダはまだまるい頬に涙の粒をつけたままブレスレットを受け取ると、ハワードを見つめてはっとした。
「パパとおんなじお目目」
それには答えずに微笑み返すと、「じゃあね」と立ち上がり、帽子を拾って再び目深にかぶると、そのまま庭の柵を超えて去っていった。
「リンダ、どうした?大丈夫か?」
物音を聞いてやってきたリチャードに、リンダは嬉しそうにブレスレットを見せた。
「あのね。怖い人が来たの。お口をぎゅってされたのよ。そしたらね、かっこいい王子様が来たの。パパとおんなじお目目の人だったよ。悪い人をやっつけてくれたの。怖かったねぇって言って、お守りだよって。」
「え? 王子様だって? おんなじお目目って…まさか兄さん?」
リチャードはすぐさま道路に飛び出して辺りを探したが、ハワードの姿を見つけることはできなかった。その頃ハワードは、すでに撮影スタジオに向かっていた。手にはリンダのふわふわした柔らかな感触が残っている。ヒカルとはまた違った愛しさを覚える。
「元気に大きくなってね。」
リチャードがちゃんと父親として暮らしている姿を見られたのが何よりもうれしかった。
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