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REALIZE2  作者: しんた☆
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第6章 2 領地経営

今日は一段と遅い時間に掲載しております。



 驚く男たちを残して馬車は走り出した。馬車を見送ってお頭が袋を確かめると、小屋を建てるのに十分なお金が入っていた。袋の紋章にももちろん見覚えがあった。国旗に描かれている剣と魔術師の杖のマークだ。



「あの人たち、うまくやっていけるかなぁ」


 馬車に揺られながらヒカルがぽつりとつぶやくと、ハワードは外の景色を眺めながらほほ笑んで答えた。


「たぶん、大丈夫でしょう。あれだけ意見が言い合えるグループなら、誰かのいいなりと言うこともないでしょうし。」

「そうですよね。大人が興味を示さないというのは、逆に言えば自分たちでやり切ってしまえるチャンスってことですもんね。大人の都合で振り回されるのは、いつだって子どもだもの。いい機会になるといいな」


 最後は独り言のようにつぶやく顔は、王女ではなく、心細げな少女のようだった。向いに座っていたハワードは、そっと席を移ってヒカルの隣に座ると、「心細い時は、いつでも私を頼ってください」と細い肩に手を伸ばしかけて、微笑むだけに留めた。


 西の果て、ライオネル子爵領に到着したのは、陽がだいぶ傾いたころだった。街中には人があふれ、みな一斉に自宅へと向かっている。この領地は、ビジネス街と住宅街が切り離されており、朝夕の混雑は平日の定番の様だ。

 ハワードは早々に宿を見つけて馬車を止めると、みんなを促してレストランに向かうことにした。宿を出ると、さっきまで街中にいた人々が嘘のように消え去り、レストランも閑散としている。


「平日に外食する人は少ないからね」


 店長が朗らかに笑っている。この辺りはライオネル子爵が開発した移動装置や通信機器の製造が主な産業だ。多くの人が会社勤めなので、平日の夕方はいつもこんな感じだと言う。


「お客さん、週末じゃなくてラッキーだよ。週末はとんでもない混雑ぶりだし、よその土地の人には冷たい土地だから飯にありつけないところだったよ」


 眉を下げて笑いながら言う店長は、やはりほかの土地からきた人間だった。


 翌朝、外が騒がしいので窓から覗いてみると、街中で号外が配られていた。宿の人間に聞くと、ライオネル子爵令嬢が婚約したという。


「あら。先日あった時はそんなこと言ってなかったですのに」

「お祝いがてら挨拶に行ってみましょうよ」


 不満げなベスもヒカルに言われると承諾するしかない。 すぐにライオネル子爵家に連絡を入れると、先日会った老執事が歓迎するという。

 ハワードにお使いを頼んで、ベスには身支度を手伝ってもらい、早々にライオネル子爵邸を訪ねたヒカルたちは、調度品のない会議室のような広い部屋に通された。例の老執事がやってきて恐縮した様子で対応する。


「主は先ほど工場で何かトラブルが発生したということで、帰ってくることが出来ないようです。本当に本当に失礼な事とは存じますが、お許しください。じき、フレイヤ様がお見えになります。」


 執事が退室してしばらくすると、フレイヤがやってきた。眉間に深いしわを寄せてばつの悪い表情を浮かべている。


「この前は、失礼しましたわ。ちょっとタイミングが悪かったのですわ」


 言い訳するフレイヤの傍で、執事が柔らかく微笑みながらみなに紅茶を配っていた。ベスは呆れたような盛大なため息をついている。そんな様子を楽しげに見ていたヒカルが、そっとフレイヤに歩み寄ってその手を取った。


「おめでとうございます。街で号外が出ていましたよ。婚約されたのでしょ?」


 笑顔のヒカルに大きな花束を渡されて、フレイヤは目を見開いて驚いていた。


「あら、あの…嫌味を言いに来たのだと思っていましたのに」

「ほほほ、何を言ってるの。おめでとうを言いに来たのよ。相手はどんな方なの?」


 ベスが笑って言うと、柄にもなく恥ずかしそうな顔をしたフレイヤが、こまごまと説明する。そのしぐさや表情が乙女らしくて、4人は思わずニヤニヤしてしまうのだった。


「もう、笑い事ではないですわよ!次はあなたの番でしょ?」


 フレイヤがベスに突っかかると、ベスも少し頬を赤らめて「そうね」と肯定した。後ろでリッキーがむせている。ヒカルとハワードは思わず声を出して笑ってしまった。


それにしても、とフレイヤは不思議そうにヒカルを見る。


「こんな少人数でお忍び旅とはどういうことなのですか?こんなところに来てもなにもありませんわよ」


父親は研究ばかりに夢中で、領土については専門の執事が取り仕切っているから、面白みのない領土になっているという。自分が貴族らしい服装や振る舞いをするたび、無駄遣いだと文句を言うのだとも。


「フレイヤさん、ご結婚されたら是非、領土の管理はあなたがやるべきだと思います。その前には、私のように、少しお忍びで領土内を散策されることをお勧めします。普段見えていないことがきっと見えてきますよ」


ヒカルの言葉には実感がこもっている。つんとそっぽを向くかと思われたフレイヤは、意外にも真剣に聞いている。


「実は、私も領土経営については気になっていたのです。いろいろ父には声を掛けてみるのですが、専門家にまかせておけ、の一点張りで。せっかくなので、彼と相談してみますわ」

「領土経営は領民との信頼関係も重要よ。いつぞやのパーティーの時みたいな真似はやめるべきね。」


 ベスの一言に、バツの悪いフレイヤは横を向いた。ヒカルたちが異世界日本からこちらの世界にきた帰還パーティーでは、王女の控室まで乗り込んできて、ベスより自分の方が侍女に相応しいと豪語したという黒歴史を持っている。


「だけど、あの行動力は認めましてよ」

「恐縮ですわ。また…、相談に乗っていただけないかしら。フォリナー侯爵様の手腕はこちらにもとどろいていますわ。私もお手本にしたいですもの」


帰還パーティーの頃からは考えられないほど、フレイヤは大人になっていた。



フレイヤたちに見送られ、ヒカルは馬車に乗り込んだ。馬車の中は華やかなホワイトローズの香りが満ちている。


「わぁ、いい香り」

「お気に召しましたか? フレイヤさんへのプレゼントのついでに、こちらにも少し買ってみました。ヒカルが喜んでくださるなら、何よりです」


 ホワイトローズに負けない甘い微笑みを浮かべたハワードが、満足げに言う。予定していた行先がほぼ終了して、少し余裕が出てきたのかもしれない。


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