第6章 1 宝石の原石
今日はちょっと早めに投稿できました!v
再びいつもの服装に戻って、4人は旅を再開する。次は西の領土へと向かうのだ。西の果てまでは5日を要する。小川のほとりで休憩したり、木の実を取ったりしながら進んでいく。この辺りは人家のないエリアだが、食べられる果実が多く生っている
「それにしても、ヒカルったら、ずいぶん言うようになったわね」
「言い方はアレだけど、言ってる内容はなかなかいいアイデアだったんじゃないか?」
馬車の御者席でリッキーとベスが話している。
「確かにね。なんだかとってもヒカルらしくて面白かったわ。それに、確かにあの領地経営ではだめよね。身分に固執している割に将来設計がなってないのよ。どんどん先細りして、そのうち爵位返還もありそうよね。」
「はぁ、俺もがんばらないとなぁ。」
「あら、リッキーには私が付いているでしょ?」
二人は顔を見合わせて笑った。シュルツ侯爵領での出来事は、ベスの心配事を吹き飛ばすに余りあった。そうよ。爵位になんてこだわる必要はないわ。シュルツ侯爵を見ていて気が付いた。自分の両親はあんな考えをしていない。きっと分かってくれる。
そのころ馬車の中ではお説教が続いていた。
「ヒカルは自分の立場が分かっていますか?あなたはミト・コーモンじゃないんですよ!」
「ミトコーって、なに?」
「あれ?知らないのですか?日本の有名な時代劇ですよ。偉い人が身分を隠して旅をしてその先々で事件を解決する奴ですよ。ほら、スケサン、カクサンとか、カザグルマノヤヒチとか出てくるのです」
「知らない…」
ハワードは自分が相当な日本マニアであることに気付いていなかった。
「そ、それは失礼しました。だけど、もし逆恨みされて御身が狙われでもしたら大変です」
「分かったわ。じゃあ、おとなしくしています。だけどさ、シルベスタ様は私の自由にしていいんだよって、言ってくださったのよ」
下を向いて口をとがらせているヒカルはまだまだ納得できていない。その時、急に馬車が止まった。外で荒っぽい男の声がしている。
「命が惜しかったら、そのまま馬車を置いて立ち去れ!」
「盗賊か」
リッキーが馬車を降りて身構える。ベスが馬車の扉の前に立ちはだかって二人に事情を伝えた。
「ほう」
最前線にいる男が、リッキーの構えを見てにやりと笑う。その後ろで腰が引けたようになっている男が心配そうに言う。
「お頭、こいつ、騎士なんじゃ…」
「バカ言え、こんなところに騎士なんぞ来るはずがない。それに俺より背が低い」
リッキーはばかばかしくなって、構えていた剣を下ろして言う。
「お前たち、どういう了見でこんなことをしている?」
凄みの利いた声に、お頭以外はみんなすっかり怖気づいてしまった。リッキーは早々に剣を鞘に戻してため息をついた。
「おい、お前たち、ビビッてんじゃねぇ!」
啖呵を切ったところで隙だらけのお頭の腕をひねり上げ、剣を落としてリッキーがすごむ。
「お前ら、いつもこんなことをやっているのか? ほかにやることはないのか?」
「な、なんだよ。頭のいい奴ばっかり良い思いしやがって。俺たちだって普通の人間なんだ。仕事をもらえないなら、こうやってでも生きていくしかないだろう」
年若いお頭は、手を離されたとたん座り込んですねたようにぼやく。他の者たちもしょぼくれた様子で座り込んでいた。 外の様子が落ち着いたので、ヒカルたちが顔を出した。
「ねえ、この辺りはどこの領土になるの?」
「ここらあたりはヴァンサン男爵の領土だよ」
後ろで座り込んでいた一人が答えると、お頭が拳骨を食らわせた。
「言うなよ!」
「なんだよ。いいじゃないか。本当の事だもん。こいつはヴァンサン男爵の次男なんだ」
内輪もめを黙って聞いていたベスが不思議そうに尋ねた。
「ねえ、ヴァンサン男爵って、科学の研究が熱心だって聞いてたけど、そうじゃないの?」
男たちは顔を見合わせて「そうだ」とそれぞれ頷いている。
「じゃあ、それを手伝えばいいんじゃないの? 自分の親の領地でこんなことしたらまずいでしょう?」
「ああ、もう!悪かったな!俺は兄貴みたいに賢くないから、役に立たないんだとさ」
「僕たちは、ライオネル子爵の試験に落ちたんだ。試験に合格した者だけが仕事に就ける。あとの人間は自分たちでなんとかしろって」
「大人の人たちは、あなたたちのしていることを咎めないの?」
ヒカルの質問にお頭がふっと笑った。大人は仕事が忙しくて誰も出来の悪い子供に興味がないのだという。
「ま、そのおかげで自由気ままにやってるけどな。ここの森には食べられる果物がたくさんあるし、川魚もうまい」
「これ、あげるよ。さっき採ってきた山ぶどうさ」
後ろにいた幼さの残る少年が山ぶどうを差し出した。リッキーが用心深く受け取り、一粒毒見をして、ヒカルに渡す。
「大丈夫だ」
「じゃあ、みんなで味見させてもらうね」
ヒカルはベスやハワードにも分けて、山ぶどうを堪能した。
「こんなにおいしいものが採れるなら、よその領地に売りに行ってみたらどうですか? 今まで巡ってきたどこの領土にもこんなにおいしい山ブドウはなかったですよ」
「そうよね。他には何が採れるの?」
おいしそうに山ぶどうを食べながらヒカルが問う。
「オレンジが採れる時期もあるし、あけびやほかの木の実も採れるよ」
「もうちょっとしたらニジマスが釣れるんだ。あれを焼いたのが最高にうまいんだ」
「山の奥の方に行ったらすももの木もあるよ」
気が付くと、みんなヒカルたちを囲んで、近くの地べたに座り込んでわいわい話し出す。
「なあ、それならさぁ。この辺りに休憩所でも作って、果物や焼いた魚を売るっていうのはどうだ? この峠って、西に行くのに必ず通る街道だろ? 俺だったら、この辺りで休憩をはさみたいなぁって思っていたから食べ物や果物が売られていたら嬉しいけどなぁ」
「ふふ。リッキーは食いしん坊ね」
「それはいいですねぇ。近くに小川があるなら、馬の水飲み場を用意してもらえたら、旅人にはありがたいですよ。」
リッキーの提案にハワードもすっかり乗り気になってきた。それを聞いていた男たちも、そうだそうだとにぎわいだした。机とイスを用意しよう。雨の日には屋根がいるなぁ。などと、いろんなアイデアが出てすっかり盛り上がっていた。
「では、私たちは失礼しますね。皆さんの健闘を祈ります」
ハワードが立ち上がると、リッキーも御者席に向かう。
「待って、これを」
ヒカルは小さな袋に自分の紋章をしたため、食事代を入れてお頭に渡した。
「おいしい山ぶどうをありがとうございました。もし、なにか困ったことがあったら、これを持って王城に来てください。少しはお役に立てるかもしれません。それでは、ご機嫌よう」
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