第5話 小さな少女とお出かけ
約4ヶ月ぶりの投稿です。
こちらの事情で今後も投稿は不定期ですがよろしければ引き続きご覧下さい。
しばらく和樹が宥めたのもあってかラキナは落ち着いた。少し腫れていた目も元に戻っている。
と、グギュルルルル〜という音が和樹の部屋で鳴り響いた。
「っ〜!」
ラキナは恥ずかしそうにお腹を押さえる。それを見た和樹は思わず笑いそうになるがなんとか堪えた。
「ラキナ、昼ご飯にするか。朝ご飯は過ぎてしまったし、今腹が減るのは仕方ない」
「ひるごはん? でも、かずきのいえ、なにもないよ?」
「ちゃんと見てたのか……」
恐らく昨日、冷蔵庫を開けた時に見られたのだろう。それと昨日の晩ご飯の内容から家に何も無いことを悟ったのだろう。高い観察力に和樹は内心驚く。
「まぁ、確かに家には何も無い。けどないならないで外に出て食べ物や材料を買ったり、店に行って食べたりすればいいだけのことだ」
「ラキナしってる。スピア? をだしてかうんだよね?」
「うーん、ちょっと違うがそれで合ってるぞ。んで、今から買い物と店に行って食べる、両方の目的で外に出ようと思ってるんだけどラキナはどうする?」
「行く。ラキナも行きたい」
少女が乗り気であることに和樹はホッとした。
(一人で家に置いとくのだけはまずいからな……)
とはいえ、外に出なければ食べ物を調達することも出来ない。
和樹は私服に着替え、ラキナも小さい頃の妹の服に着せ替える。白い水玉模様が描かれた水色のワンピースだ。
(ほんと、うちの妹が服を残してて助かった)
ちなみに小さい頃の服があるのは和樹の妹が整理整頓が大の苦手で中々衣類を処分しないからである。
また、整理整頓に限らず部屋の掃除も苦手とする。
「さてと、金は持ったしあとは……その角をどうにかしないとなぁ」
外出するにあたって一番の問題がラキナの白い角だ。異世界なら問題なかったがこの世界で角を晒しながら外を出歩くのは相当まずい。コスプレだと思われたら良いが(仮にコスプレでもそもそも小さい子供が角をつけていることはまずない)不審に思う者もいるかもしれない。特に警察はまずい。和樹とラキナは本来血筋もない、親戚の子でもない。見知らぬ同士の子だ。もし、呼び止められて身元を調べられたりでもしたら……
「……ラキナのつの、よくない?」
不安げに角を庇うラキナ。
「いや、むしろ綺麗でいいと思うぞ」
和樹がそう言うとラキナは少し顔を赤くした。照れているのだろう。
「けど、この世界では角を他の人に見せたりしちゃダメなんだ。この世界には人間しかいないから」
「このせかい……?」
「そう言っても難しいよなぁ……とにかく、俺以外の人に角を見せないこと」
「うん、わかった」
聞き分けのいい子で助かったと和樹は安心する。
ラキナに理解してもらったところで和樹は妹の部屋に行き、タンスの中からある物を探す。
「かずき?」
見上げるラキナの視線の先には和樹が右手に持つ白い帽子。
和樹はそれをポフッとラキナの頭に被せた。
「ふぇ?」
「うん、これなら大丈夫だな」
白い帽子は中の奥行きが深く、ラキナの角もすっぽりと収まった。夏だから日焼け対策にもなるし、違和感がない。
なにより可愛い。
「よし、行くかラキナ」
「うん!」
こうして、青年と小さな少女の初めてのおでかけが始まった。
「わぁ……!」
ラキナの目がキラキラと輝いている。家や公園、通り過ぎる自転車や車、自身が踏みしめる地面など色んなものに興味津々のようだ。
(ラキナ、楽しそうだな)
和樹が異世界に行った時の反応と完全に真逆である。そんな少女が少し羨ましいと思った和樹だった。
「かずき!まもの!」
ラキナが指さす先にはアサガオの周りを飛びまわる蝶がいた。
迷わず魔物! と叫んだラキナに和樹は思わず苦笑した。
「ラキナ、これは魔物じゃないぞ。これはただの虫だ」
「むし? でも、ラキナのいたところにもこういうのいたよ?」
和樹はラキナの方を向く。
「うーん、なんて言えばいいかな。魔物っていうのはそもそも人や動物を遙かに上回る生命力、身体能力、それに魔力を持つ生物の総称だ。この虫にはそもそも人や動物を上回る能力や魔力を持たない。例えばこの蝶には羽がある。だから空を飛べる。こんな感じでちゃんと原理がある。だから魔物じゃない」
と、ラキナに説明したが実はこれ、ラノベで得た知識だ。
「わかった」
なんとか納得してくれてホッとする和樹だった。
「まぁ、この子みたいに今ラキナがいるところに出てくるのはみんな魔物じゃないから大丈夫だ。ちなみにこの虫の名前はアゲハチョウだ」
「あげはちょう?きれいななまえだね」
「あぁ、そうだな」
再びアサガオの方を見ると、アゲハチョウはどこかへと消えてしまっていた。
「わぁ……!」
細長い迷路のような通路に動く階段、そして通路に並ぶ様々な品物にラキナは目を輝かせる。
そんなラキナの様子に和樹は微笑む。
(嬉しそうだなぁ……)
妹もかつてこんなふうだったと懐かしむ和樹。
魚や肉、野菜、果物をどんどんカゴの中に入れていく。
そんな和樹の行動をマジマジとみつめるラキナ。
「買い物は初めてか?」
和樹が聞くとラキナは首を横に振る。
「ううん、らぐねえやおかーさんとよくいくよ」
「そっか、ならなんとなく分かるか」
「でもこのくろいかいだんははじめて」
そう言い、エレベーターを指さすラキナ。
(あれはまぁ流石にあっちの世界にはないだろなぁ)
「ラキナ、これがお金だ」
スーパーのレジに並ぶ和樹は財布から硬貨や札を取り出し、ラキナに見せる。
「このかみもおかねなの?」
「そうだ。しかもこれはこの硬貨より価値が高い」
「へ〜ラキナ、初めて見た」
「可愛らしい子ですね。姪っ子さんですか?」
「そうです。姉の娘です」
若い店員さんにそう言われ、無難に答える和樹。内心冷や汗が流れる。
(怪しい男が小さな女の子を連れ回してるとか思われなくてよかった……)
家に帰り、和樹は料理をした。献立は肉じゃがと鯖の煮付け。そしてご飯と味噌汁だ。料理の腕は普通といったところだ。
ラキナが途中ジャガイモの皮むきや皿運びなどを手伝ってくれたおかげでスムーズに出来た。
風呂はラキナが嫌そうな顔をするのでシャワーの使い方やシャンプーの使い方などを教えた。
まだ小さいから一人で入らせることに不安を感じた和樹だったがラキナは何か問題を起こすこともなく一人で風呂に入り、しばらくして上がってきた。
これなら一人で寝ることもできると思った和樹が今日も布団を二つ用意して寝ようとしたのだが……
「ひとりでねるのはいや」
と言われてしまい、結局今日も和樹はラキナにしがみつかれたまま寝ることになった。




