第4話 一夜明け、小さな少女は答える
夜が明け、窓から太陽の光が差し込む。
その光で和樹は目を覚ました。
「っ……もう朝か」
和樹は目をこすり、身体を起こす。その際、腰辺りで何かに引っ張られているような感覚を感じた。
引っ張られている方を見ると……
「すぅ……」
小さな少女が和樹の服の裾を掴んで眠っていた。
寝ているところ申し訳ないが和樹はそっと自分の服からラキナの手を離そうとする。
しかし、和樹がラキナの手に触れたところで少女は目を覚ました。それと同時に和樹はラキナの手から離れる。
慌てて起きたラキナは和樹を見てホッとする。
「おはようラキナ」
そう言って和樹は少女に笑いかける。
「おはよう、かずき」
ラキナはそう言い、小さく微笑む。ほんの少しだがその笑顔が可愛い。
ふと、ラキナの髪に目をやる。綺麗な白銀の髪だがその形は寝起きのせいか少しぼさついていた。
「ラキナ、後ろ向いてくれないか?」
「うしろ?」
「あぁ、髪がぼさってなってるからな」
そう言い和樹は棚の上に置いてある箱からクシを取り出し、ラキナに見せた。
それを見たラキナは察したのか素直に後ろを向いて和樹に背を見せた。
和樹はラキナの髪をクシですく。
ぼさっとしていた髪が整い、艶やかになっていく。
そしてラキナの髪を普段妹が使っていないヘアゴムでポニーテール状に結んだ。
「よし、出来たぞ」
部屋のタンスの裏から縦長の鏡を取り出し、ラキナの前に立て掛けた。
「わぁ……!」
身体を左右に動かし、揺れる髪を見て喜ぶラキナ。
「かずき、すごい」
「姉ちゃんに教えられたからな」
和樹が何故女の子の髪をすいて結ぶことが出来るのか。それは彼の姉の教えによるものだった。
小さい頃の妹の髪を毎日結んでいたのは姉だが、なぜか和樹も教えられた。
(まぁそれは姉ちゃんが忙しくて出来ない時に代わりに俺にやってもらおうという考えなのはすぐに分かったが……でも姉ちゃんの髪を俺に結ばせるのは謎だった……)
慣れない手つきで姉の髪をすいて、必死に髪を結ぶ和樹を見て姉はよく笑っていた。
「わたしも、ラグねぇにかみ、よくむすんでもらってた」
そう言い、はにかんだ笑顔を見せるラキナ。
そこで和樹はハッと思い出す。ラキナに聞かないといけない。
ラキナがなぜ、あんな状態でついてきたのか。そもそもなぜあんなところにいたのか。この子のことはまだ名前しか知らない。色々と聞かなければならない。
だが、焦ってはいけない。あの時、出会う前のラキナになにがあったのか和樹は知らない。ラキナにとって思い出したくないことがあるかもしれない。ここは慎重に聞くべきだ。
「……ラキナ、実は聞きたいことがあるんだ」
するとラキナは頭に?マークを浮かべた様子で首をかしげる。
「……わたしに?」
「あぁ。けど、思い出したくなかったり話したくないことは無理して言わなくていい」
「……」
「出会ったばかりの俺を信じられないかもしれない。でも、知りたいんだラキナのこと。ラキナの力になりたいんだ」
我ながらくさい言葉を言っているなと和樹は内心苦笑する。
でも、聞かないといけない。これからのためにも。この子のためにも。
「……かずきのこと、しんようできる」
ラキナはスカートの裾をギュッと握りながら言う。
「だってかずき、しらないわたしのことたすけてくれた」
ラキナは和樹の目を見る。その瞳は幼いながらも真剣さを感じさせる。
「……分かった。けど、言いたくないことは無理して答えなくていいからな?」
和樹の言葉にラキナは頷く。
「まずは……そうだな、ラキナに家族はいるか?」
「かぞく?」
再び首をかしげるラキナ。そもそも家族とはどういうものかをこの子は知らないかもしれない。そう考え、口を開こうとしたが、途中でつぐんだ。
「……えと、おかーさんとラグねぇとヴェルにぃとドラにぃがいる」
ラキナの言葉の端から姉がいることをなんとなく察していたがラキナに家族がいることに和樹は内心ホッとした。ラキナは一人ぼっちじゃないということが分かったからだ。
「そっか。なら、帰る場所はあるな。次は……ラキナの種族を教えて欲しい」
種族には多くの種族が存在する。見たところ最も当てはまりそうなのは魔人族。理由は単純だが頭に角があるからだ。彼らは魔力の扱いに長け、人族の倍以上の時を生きる種族である。
この子を見る限りないとは思うがもし、ラキナが海人族や妖族などであれば今の状況は危うくなる。
ラノベで知った知識だが海人族は陸と海の両方で生活することが出来る種族だが適度に水につかる必要がある。それは生まれつきエラや腕、足などにもつマナというものが適度に水を摂取するからだ。常に陸にあがり、水を摂取しない時間が長くなればなるほどマナは乾き、やがて脱水症状を引き起こす。最悪の場合、呼吸困難になり命を落とす。
対して妖族は暗い場所を中心に生きる。だが、夜行性というわけではない。家や屋根などの日陰があれば彼らは人族と変わらない生活を送る。注意すべきことは常に直射日光の当たる所にでないことだ。人族でいう生命力が彼らの場合、妖気というものと同等である。そんな妖気は太陽に弱い。まるでアンデットと言われるかもしれないがある程度の時間なら直射日光でも問題ないとこから彼らとは違う。
最後にまとめるとつまり、ここでラキナの種族を把握しておく必要があるということである。
「ラキナのしゅぞく? ラキナ、しってるよ。らぐねぇからおしえてもらったこと、ある。りゅーじんぞく? っていうのだよ」
「りゅーじんぞく? 竜人族のことか?」
「うん」
魔族だと思っていた和樹は内心驚いた。
それと同時に和樹はふと疑問に思った。
(竜人族? なら、なんでラキナの背中や腰に竜人族ならあるはずの翼や尻尾がないんだ?)
途中で斬られたような跡もなく、まるで元からなかったかのように綺麗だ。
もしかしたら竜人族は元からそういう姿をしており、竜化した時だけ本来の姿が現れるのかもしれない。自分の疑問は気のせいかもしれない。そう思う和樹。
それに、ここで無用心に聞けばラキナを傷つけてしまう恐れがある。そう思った和樹はここでは何も問わなかった。
和樹は次にラキナが自分と会う前に何があったのかを聞いた。
だが、ラキナは首を横に振った。
「わからない……きがついたら、あのもりにいて……あるいてたらカズキをみつけた」
そう言うとラキナはスカートの裾を握り、うつむく。
「ごめんなさい……こわかった……ずっとあそこにいたらいつかしんじゃうって、でも、カズキをみつけて、カズキならたすけてくれるかもって、そうおもって……!」
少女は青い瞳から涙をぽろぽろと溢れさせていた。
「ラキナ……」
「めいわくかけてごめんなさいっ……!」
「っ!」
和樹は昨日のことを思い出す。
(確かめんどくせぇとか言ってたな昨日の俺……しかもこの子の前で)
もしかしたらそのことを気にしているのかもしれない。
最初は迷惑だった。そう思っていたことは否定しない。だが、今はそんな風には思っていない。
逆にあの子と自分の立場が逆だったと考える。大雨の中、家族とはぐれ、一人で森の中をさまよう。その場合ほぼ間違いなく自分もあの子と同じ行動に出るだろう。
一人でというものは少しでも希望があればそれにすがってしまうものだ。
「気にしなくていい」
ラキナの頭を撫で、優しく言う和樹。
「最初は確かにラキナに迷惑してた」
「っ!」
「けど、今はそんなこと思っていない。さっき言っただろ? ラキナの力になりたいって。それに俺がラキナと同じ状況になってたら俺もラキナと同じ行動をとると思う」
「ひっぐ……」
その言葉を聞いたラキナは更に泣き出し、和樹はそれを宥めようと必死になるのであった。




