第3話 小さな少女
結果的にラキナは焼きそばを食べることが出来た。口に合ってなによりと和樹はホッとした。
少し残った納豆飯と半分以上残った焼きそばは全て和樹が食べた。
食べ終わると、ラキナは眠そうに目を擦る。
「眠いか?」
そう言い和樹はラキナの頭を優しく撫でた。小さい頃妹にしてたことと同じように。
「っ!」
ラキナの身体がビクッと跳ね上がる。和樹としては出来るだけ角を避けて撫でたつもりだった。
「ごめん、ラキナ。驚いたか?」
ラキナは和樹の言葉に頷く。正直に答えられて思わず苦笑する。
すぐにラキナはいつもの表情に戻った。目を擦り、眠そうにしている。
「本当はラキナの話を聞きたいところだが……起きてからにするか。疲れただろうしな」
和樹はラキナの座っている席まで歩き、しゃがんでから手を広げる。
「ラキナ、そろそろ寝るか」
すると、ラキナはじっと和樹の目を見つめる。
(こんなに見つめられるとちょっと恥ずかしいな。そういえば風呂に入る前にもあったような……)
ほんと、可愛らしい子だ。
しばらくの間、和樹とラキナは見つめ合った。やがてラキナは満足したのか、椅子から降り、和樹の傍に近づく。
「うん、ねる」
和樹はラキナを抱き上げた。するとラキナはどこか遠慮がちに彼の首に腕を回した。
「もっとしっかりしがみついていいぞ。むしろそうしないと落ちちゃうぞ」
「っ!」
それを聞いて落ちる恐怖を感じたのか今度はしっかりと腕に力を込めた。和樹はリビングを出て階段を登る。
「うおっ!? あっぶねぇ……」
(そういえば家の中まだびちゃびちゃだったこと忘れてた……あとで拭かないとな……)
濡れた階段をゆっくりと上がり、自分の部屋に入る。
「ラキナ、ここが寝る部屋だ」
「ねるへや?」
「あぁそうだ」
和樹はラキナを下ろし、たたんで放置してた自分の布団をどける。
押し入れに行き、その中からお客さん用の布団を取り出す。押し入れは基本物置だが、彼の部屋の押し入れは布団が置いてある。
(まさか俺の布団で寝させる訳にはいかないからな。しかもしばらく居なかったせいでホコリが溜まってるし)
「ラキナ、こっちこっち」
和樹は布団をポンポン叩き、ラキナを招く。
意味を何となく悟ったラキナはゆっくりと和樹の元へ来る。
「ここでねていいの?」
「あぁ、寝ていいよ」
ゆっくりと布団に入る。彼はその上から毛布をかけた。
しばらくしないうちにラキナは寝息をたてる。
「……やっぱり疲れてたんだな」
和樹はラキナが完全に眠りについたのを見計らってこっそりと部屋を出た。
ラキナが寝ている間に自分の部屋と出口のフローリング、階段、リビング、玄関付近を雑巾で拭いた。
ふと窓を見ると外はいつの間にか夜になっていた。ラキナを家に一人でおいていくわけにはいかないため今日はもう買い出しは諦めるしかない。
和樹は風呂場に行き、脱衣所に置いてあるカゴを漁る。服の内ポケットからカードケースを取り出した。
「やべっ、これもびしょびしょなんじゃ……」
慌ててカードケースから中身を取り出すが、彼の心配は杞憂に終わった。全部無事だ。そのことに和樹はほっとする。
「あれ?」
あることに気づく。このカード、向こうの世界にいた時と同じ状態のままだ。
No.1〜4、No.37だけ、名前やイラストがあり、それ以外のカードは全て白紙のままだった。
(なんで元に戻らないんだ?)
このカード達は向こうの世界にいる時だけ存在出来て元の世界に戻ると、在るべき元のカードに戻ると思っていた和樹。
疑問が解消しないまま、和樹はラキナがいる部屋へと戻った。
「っ……?」
和樹が部屋に入ると上半身を起こし、目を擦るラキナ。
(あー起こしちゃったか。)
そう思っていたが違った。
ラキナの顔がみるみるうちに真っ青になる。
「かずき、もれそう……!」
「っ!」
和樹は即座にラキナを抱え、部屋を出て左にあるトイレへと連れていった。
(危ねぇ……トイレの場所教えるの忘れてた)
もうあとは大丈夫だろう。今日中に教えておかないといけないことはないはず。
トイレから出てきたラキナはほっとした表情をしていた。この表情もまた可愛い。
「ラキナ、言い忘れてたけどトイレはここな」
「うん」
部屋に戻ってラキナを布団に寝かせ、和樹も自分の布団を敷いて寝転がる。
ふとラキナを見ると少女は既に夢の世界だった。
(かなり疲れてたんだな)
「……おやすみ、ラキナ」
和樹はラキナを起こさないよう小さな声で言い、電気を消した。
しばらくして和樹は近くに人の気配を感じて目を覚ました。
「っ……?」
ラキナがいる布団を見るがそこに少女はいなかった。次に自分の布団をめくると和樹の身体にしがみつくラキナがいた。
「らぐねぇ……」
そう言い、顔を強ばらせるラキナ。起きているわけではなく、ラキナは寝ている。夢でも見ているんだろうか。
そうだとするとこれは怖い夢だろう。
と、ここで和樹はある疑問が浮かぶ。
(姉がいるのか?)
家族としての姉なのかラキナにとっての姉的存在なのかそこまでの判断はつかない。
けど、これだけは分かる。
ラキナは一人ぼっちではないと。
「……といっても、どうしようもないよな」
この子は向こうの世界の子で間違いない。だが、なんとかしてあげようにもいる世界が違うという有り得ない状況だ。
この世界に戻ってから神様とは一度も会っていない。もう二度と会えないかもしれない。そうなるとこの子は元の世界に帰れない。
「っ……」
考えても何も思い浮かばない。当然だ。話の次元が違う。今、これからのことを考えてもしかたない。
(先のことよりも今をどうするか……だな)
どちらにせよ、ラキナと話さなければ先には進めない。
まずはラキナのことを知ることが先決だ。
そう考えた和樹はラキナを隣の布団に移動させてから寝ようとしたが、強くしがみついて寝るラキナを見て諦めた。
その後の話だが、幼女にしがみつかれながら寝るというありえないシチュエーションのせいか和樹はなかなか眠れなかった。




