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この世界は好きですか?  作者: ふう♪
第1章元の世界
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第1話 小さな子供



 元の世界に戻った和樹の部屋にずぶ濡れの子供がいた。


「なんでこんな所に子供が……」


 そのずぶ濡れ姿を見て彼はすぐにある疑問を抱く。


「まさか……あの世界の子供か?」


 あの時、一緒についてきていたのか?


 そう考えると、石像の前にいた時に聞いた不自然な音や魔法陣の上に乗った直後に感じた背中の感触も納得出来る。まさかこの世界の子供が鍵付きの部屋に侵入するとは思えない。それに外の天気は雨雲一つすらない快晴だ。


 疑問はほぼ確信へと変わる。しかし、新たな疑問が浮かぶ。


 なぜこの子供は自分についてきたのか。そもそもなぜあんな場所にいたのか。俺を元の世界に戻してくれた創造神はこのことに気づいてないのか?


 最後の疑問は元の世界に帰った今、向こうからこない限り解決することは出来ない。


「はぁ……めんどくせぇ……」


 約二週間ほどの異世界生活だったとはいえ俺にとってはやっと元の世界に帰ってきたのだからさっさと風呂に入って早く布団に潜り込みたい。ゆっくり寝たい。


 だが、それ以前にこのすぶ濡れの子供をなんとかしないと部屋がどんどん濡れていく。和樹も人のことはいえないくらい濡れているが自分のことは棚に上げていた。


 和樹は両手を構え、子供に近づく。


「……とりあえず風呂に入れるか」


 それにこのままだと子供は間違いなく風邪を引いてしまうだろう。さすがにこのまま放置するのは和樹としても二つの理由からしてありえない。まずは風呂に入れるのが先決だと判断した。


「ひぅ!?」


 子供は両手を構えた和樹を見るとビクッと怯えながら声を上げ、逃げ出した。怖いものから逃げるかのように必死だ。


 ドアを乱暴に開け、ドタドタドタッ!という音を鳴らしながら階段を降りていく。


「あっ、おい!」


 和樹は子供の後を追う。

 その際、チラッと見えただけだが、子供はピンと真っ直ぐに伸びた形状の白い角を側頭部に有していたことに気づいた。


「あれは……魔人?」


 この時点で断言は出来ないが角を有しているところを見る限りそう思えた。


「って、考えてる場合じゃねぇ!」


 あのずぶ濡れの状態で歩き回られると家の中がどんどん濡れていく。それにまだ、この家に誰もいないことを確認していない。もし誰かが家にいたら色々とまずいという焦りから彼は子供を追いかける。


「ちょっ、待て! うおっ!?」


 和樹自身も全身ずぶ濡れのせいでなおかつあの子供が先に通った道は元々がフローリングの床で更にその床が濡れているため非常に滑りやすくなっていた。


 急いで階段を降りるのはやめ、慎重に下りていく。衣類が重いせいで動きも鈍くなっている。


 一階にはリビングや風呂場、居間やトイレなどがある。和樹の家は二階建ての一軒家で部屋の数が多く割と広いため、隠れんぼに適してる。逆に考えるとどこかへ隠れられると見つけるのが難しいというわけだ。この時、雨でずぶ濡れになっていたことが逆に子供がどこへ行ったのかを地面に一定間隔で落ちている雨水が示してくれていた。


 和樹はフローリングに続く足跡をたどる。どうやらリビングへと続いているようだ。


 リビングに入り、辺りを見渡すが子供の姿は見えない。足跡も色んな方向についているためこのリビングのどこに隠れているのか分からない。恐らくここでどこに隠れるか迷ったのだろう。


 なんとなくテーブルの下を見る。兄妹で隠れんぼをしていた時、妹がよくこのテーブルの下に隠れていたからだ。もしかしたらここにいるかもしれない。


 ベージュに色塗られたテーブルの下。そこは薄暗い。椅子をどけ、覗いてみるとそこで子供と目が合った。子供は青色の瞳をうるうるとさせる。


「っーーー!?」


 子供は悲鳴に似た声を上げ、和樹と反対方向に抜け出す。


「あぁくそっ待て!」


 和樹と子供はテーブルの周りをグルグルと走りまくる。まるで鬼ごっこだ。


 このままではキリがない。そう判断した彼は途中で急に走る向きを変え、反対方向に追いかけたり、少し立ち止まったりして一周してきた子供を捕まえようとしたが面倒臭いことにこの子は割と賢そうだ。


 必死に逃げながらも和樹の行動を見ており、それに合わせて行動している。


 そんな子供の様子に和樹はため息をつく。


 何度このテーブルの周りを走っただろうか。突然子供はリビングから逃げ出した。


 和樹も跡を追う。リビングを出て右を曲がり、その先にいる子供を見てやっとこの追いかけっこが終わる。そう確信した。


 その先は玄関だった。和樹の家は上と下に鍵という二重に鍵がかかっており、たとえ下の鍵を開けられたとしても上の鍵がしまっているためドアは開かない。そして上の鍵はこの子供の身長では届かない。


 やっと追い詰めた。ジリジリと距離を詰めていく。そこで和樹はようやくあることに気づいた。


「ひっく……ぐすっ……」


 子供が泣いていた。目を腫らし、それでも泣き続ける。彼はここでようやく気がつく。


 この子に何をやっていたか。


 気づかないうちにこの子を怖がらせてしまっていた。彼はもう17歳で体格は細い慎重は割と伸びている。そんな大きな男に急に声をあげながら追いかけられたら泣かずにいられる子供はそういない。


 面倒臭いからさっさと捕まえて風呂に入れて着替えさせたらすぐに警察に出そう。彼はそう思っていた。


 やってしまった。彼はため息をつく。怖がらせるつもりはなかった。けど、さっさとなんとかしたいという想いが顔と行動に出てしまっていた。


 和樹は子供の目線と合わせるためにしゃがみこむ。すると、子供は恐る恐る彼の目を見た。


「ごめんな、急に追いかけ回したりして。怖かったよな。ごめん」


 和樹は頭を下げて謝る。しばらくして地面に彼とは違う別の影がさす。顔を上げると目の前に子供がいた。


「……ごめんなさい」


 子供も申し訳なさそうな表情で頭を下げた。

 和樹はそこで今度は面倒臭がらずにちゃんと伝えたいことを言う。


「うん、分かった。けど、そんな濡れた状態で走り回るのはダメだからな? 危ないし、何より君の身体がどんどん冷えていく。俺の腕を触ってみ?」


 和樹は自分の右腕を子供に差し出す。子供は小さな手で恐る恐る彼の腕に触れる。


「……つめたい」


「だろ? このままだと俺も君も風邪をひいちゃう。とりあえず今からするべきことはお風呂に入って身体を洗って暖まること。分かったか?」


 和樹の言葉に子供はコクリと頷く。ちゃんと分かってくれている。まだ7、8歳くらいに見えるのに聞き分けが良い。


「よし、じゃあ行くか」


 和樹は立ち上がり、ふと考え、少し屈んだ状態で子供に手を差し伸べた。


 子供は和樹を見上げ、彼の目をじっと見つめる。しばらく待っていると遠慮がちに彼の手を掴んだ。

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