第84話 終わる光
『……』
暴れた末に球体はボロボロになった翼と共に地面に墜落した。
球体からは光が失われ、まるで電力が無くなった電球のように暗くなっていた。
「……終わった、のか?」
黒い鎧騎士、クロードが呟く。
『……ぐっ、ま、まだおわらぬ……終わらせぬ……』
クロードの呟きに反応したのか、球体は僅かに光を取り戻し、点滅を繰り返す。
「……まだ生きていたのか」
クロードは剣を構え、球体に近づく。
「待ってください!」
そんな彼に声をかけたのはルーシャだった。
「ルーシャ様……?」
ルーシャは身体の動きを止めたクロードの横を通り過ぎ、球体の元に駆けつけた。
『……なん、だ』
球体はルーシャを見て反応する。
「……どうしてこんなことをしたのですか?」
『……』
球体はルーシャの問いに沈黙する。
「あなたはさっき、あの者達の思いを……と呟いていました。あなたはかつての戦争で命を失っていった戦士や生き物たちの想いが集まった集合体、そうではありませんか?」
『……』
「私はかつて闇の王と戦った際、感じました。死んでいった者達の苦しみや憎しみなどの負の感情を。あなたはそれと対で似ているんです。あれが闇なら、あなたは光……」
『……そう、だ』
ルーシャの問に初めて応えた球体。
『我は……彼らの集合体。この世界を救って欲しい……調和を守って欲しい……そういった願いたちの末に生まれた存在だ。我は……あの者達の想いに応えたかった……』
『……我の集合体の記憶の中にこんなものがあった。本来存在しえないものが存在すると未来は大きく変わってしまうと……またかつてのように戦争が起こり、多くの命が散る。そう予感した我は闇の王、そしてお前達を排除しようとした。だが……失敗だ』
そう言うと、球体の点滅の感覚が開き、更に暗さを増す。
『……我にはもはや何も出来ぬ、好きにするがいい。だが、これだけは言っておこう……今後、世界は大きく変わる……闇の王がいなくなった今、尚更に……』
その言葉を最後に球体は全ての輝きを失った。更にーー、
「っ!? 地面が揺れてる!?」
「恐らくこの球体が創り出した空間が失われようとしています! 早くここから脱出しましょう!」
球体の様子を確認したルーシャが叫ぶ。
「でもどうやって脱出するんだ? 間に合わんぞ!」
テルンが焦りの声をあげる。
「……大丈夫、任せて。ロア、お願い」
「シャー?」
ツィーが懐から魚のようなものを出した。それを見たトルメ以外の鎧騎士は疑問をうかべる。
「ツィー、なんですかそれ?」
見た目は魚だがそれにしてはどこか機械っぽい見た目をしていることに気づいたイルネはツィーに問う。
「……この子はロア。ハゲのおじさんからパクって私が個人的に改造した子。みんな、これに乗って」
「これに乗れって言われても……」
「……物体変化」
ツィーの呪文と共に改造魚ロアの身体が数十倍にも大きくなる。
「おおっ! クソでかいであるな!」
「……みんな、早く乗って」
ツィーの声にルーシャ、ルミ、和樹、他の鎧騎士達が次々とロアの背に乗る。
「……みんな乗った? んじゃ、レッツゴー」
『えっ!?』
ツィーの掛け声と共にツィー以外の全員が驚愕する。
ロアに乗る時、確かにみんな疑問に思っていた。どうやってここから脱出するのか。
「シャー!」
『えぇーーーーーーー!?』
なんとロアは両サイドにあるヒレを使って空を飛んでいた。
「なんじゃこりゃあ!?」
「……燃料で飛んでる。ここにくるまでの道中で拾った分しかないからあんまり長くは飛べないけど」
なるほど、つまり飛行機みたいな感じか? と和樹は思った。
しかしそれは燃料を使う部分しか合っていなかった。
闇の王の空間を乗っ取り、球体が新たに創り出した空間が主を失ったことで次々と崩れていく。宮殿、柱、階段、足場なども例外ではない。
「なんだなんだ!?」
ナインド王国の騎士団隊長が野太い声を上げる。
「隊長! この空間、物凄い速さで崩壊を始めております!」
「な、なにいぃぃぃ!? 全軍撤退だ! 速やかにここから脱出せよ!」
『はっ!』
それは兵士だけでなく、冒険者達も例外ではなかった。というか脱出しないと間違いなく崩壊した建物や空間に潰されるだろう。
「フィアス!」
「何が起こってるか分からないけどとにかく脱出するわよ! パーディリオン!」
「キュアッ!」
その後、兵士、冒険者、和樹達は無事に世界の調律者が創り出した空間から脱出することが出来た。
「……むぅ、鎧騎士達は行方をくらましたか」
「はい。ただ、我々の成すべきことは終わった。もうお前達を害することはないとリーダー格らしき鎧騎士が言っておりました」
「なるほど……」
ナインド王国に現れた無数の魔物達は兵士や冒険者が帰ってくる時にはすでにいなくなっていた。
その後、魔物を束ねる親玉を捜したが、謎の空間も全て消えており、結局は見つからなかった。
正直、消化不良な状況だ。だが、ナインド国王の妻、娘達は見つかった。兵士によると、受付会場付近で発見されたようだ。
オルフェだけは意識があり、二人を看ていたとのこと。
ナインド王国は城や人的被害も多数あり、しばらくは復興に時間がかかりそうだった。
そのことにナインド国王はため息をつくが、帰ってきた妻と娘たちを見て小さく微笑んだ。
話は和樹達が脱出した後に遡る。
「……っ」
「どうしたの? ルーシャ」
ルーシャの異変にルミが気づく。
「……そろそろ時間のようですね。オルフェにこの身体を返さないといけません」
「ルーシャ……」
「ルーシャ様っ……!」
ルミと鎧騎士達がルーシャに駆け寄る。
「……私のわがままでこれまであなた達に辛い使命を与えてごめんなさい。私のことを見つけれてありがとう。これからはもう自分の為に生きてください」
すると、黒い鎧騎士が反発する。
「そんなこと言わないでください!! 自分はこれからの人生もあなたのために捧げるつもりです!」
「……ありがとう。でも、この身体は私のものではありません。故に、私があなた達の前に現れることはよほどのことがない限りありえません。それにクロード、あなたには大切な娘さんが待っているでしょう?」
「それは……」
「勝手に生き返らせといて言うのもおこがましいですがこれからは自分のために生きてほしい。私はそう願っています。クロード、その兜を外してみて下さい」
「……?」
クロードは疑問を抱きつつも両手で兜を外す。そこにはーー、
「!? クロード、君の顔……」
「……!?」
日に焼けた顔に厳つい目。左頬には斜めの切り傷。
そこには、無いはずの自分の顔が確かにあった。そういえば鎧を着込んでる感覚もある。まさか……
「うぇ!? 隊長、僕らも肉体があるよ!?」
「がはは! 俺はこんなにごつい顔だったのか!」
「……普通かな」
「わぁ……」
鎧騎士全員が兜を脱いだり、ブーツを脱いだりして、自分の身体を確かめていた。
「これは私からのささやかなお礼です」
そう言うと、今度はルミの前に立つ。
「ルミ、今までありがとう。あなたには色々と苦労をかけてごめんなさい」
「っ……いいのよそれくらい。またこうしてあんたと会えただけでもあたしは……それよりまたいつか会えるわよね?」
「……そうですね。頻繁にというのは難しいですが、またいつか会えるでしょう」
「絶対よ?」
「はい。いつか絶対、会いましょう」
そう言うと彼女は最後に和樹の前に立った。
「……あなたには色々と苦労をかけましたね。ごめんなさい。そしてありがとうございます」
「いや、俺は特に何もしてないですよ?」
和樹はエルシィの付き添いと試練のことがあってナインドに来て、今回の事態に巻き込まれた。いわば被害者だ。ルーシャを助けるために来たわけでもなく、ただ巻き込まれてここまで来たにすぎない。
「それでもあなたがいなかったらこの未来はなかったかもしれません。本当にありがとうございます」
和樹はルーシャの丁寧な礼を受け取った。
「っ……ではそろそろお別れですね」
ルーシャはみんなの方へ向き直る。
その瞳からは涙が溢れ出ていた。
「皆さん、本当にありがとう……どうか、これからのあなた達に幸あらんことを……
『ルーシャ様!』
みんなが彼女の名を呼ぶ。特に鎧騎士達は気持ちがこもっており、いかに彼女に慕われているかが分かる。
「ありがとう……」
こうして、オルフェに宿っていたルーシャの魂は消えた。正確に言うと、ルフェの中に隠れたのが正しいが。
その後、戻ってきたオルフェをイルネが送っていった。その場所は母親と姉が倒れている所だ。
「じゃあね和樹」
「ん、またいつか」
「あぁ、またなトルメ、ツィー」
鎧騎士達に別れを告げる和樹。
だが、あの二人以外の鎧騎士には何も言わなかった。イルネはオルフェを送っていたため、仕方がないが他の三人はいた。
和樹はクロードという男を恐れていた。メルザナであんなことがあったから当然といえばそうだが。他の二人も雰囲気的にやめた。
他にはもう……いや、まだ一人いた。
「ルミ姉、ありがとう」
「……どうしたのよ急に改まって」
「いや、ここで言っておかないともう言えない気がしたから……」
ルミ姉は納得の表情をした。
「そういうことね。確かに、あたしもひとまず天界に戻らないといけないし、一理あるわね。和樹、こちらこそルーシャを見つけてくれてありがとう。あなたがオルフェと出会っていなければ見つけるのが遅れていたわ。本当にありがとう」
そう言うルミ姉の笑顔はまるで太陽のように綺麗だった。
その後、和樹はエルシィ、フィアスと再会した。
「和樹!」
「無事だったのね!」
「あぁ。色々あったけどな」
二人は俺の言葉を聞くとホッとした顔をした。
結構心配かけたみたいだな。
「これって、全部終わったの?」
「あぁ、終わった。闇の王も……まぁここに魔物達がいないのがその証拠だろ」
「そうね。とりあえず……これ以上パーティは困難みたいだし、私達はバルへイム王国に戻ろっか」
「そうだな」
俺達はパーディリオンの背に乗り、バルへイム王国へと帰還した。
ん? そういえば何か忘れているような……




