第85話 最後の試練
「思い出した!?」
そうだ三つ目の試練! あれ確か場所がナインドにいる魔物って言ってたはず!!
「しまったぁ……」
俺は思わず頭を抱える。今いる場所はバルへイム王国のミール街の宿屋。
そしてナインド王国は西の方に位置する。ナインドに行くにはその手前にあるヴェスト高山をこえなければならない。
この高山は地図上で見ると縦に長く連なっている。標高が高く、ゴツゴツとした岩が多いため険しい道程となっている。
更にダイナバードと呼ばれる鳥の魔物やジヘッドと呼ばれる岩石型の魔物がこの高山に住み着いているため、その難易度は跳ね上がる。
ダイナバードは図体が2メートルを超える大型の魔物で自分より小さくて動くもの全てに攻撃をしかける攻撃的な魔物だ。
対してジヘッドは基本的には縄張りに近づかなければ何もしてこないのだが、その姿が自然にある岩石に擬態しているため、判別が付きにくい厄介な魔物だ。
更に、自信がピンチになると自爆するという特性もある。
という話をナインドに向かう際、エルシィから聞いた。
あの時はパーディリオンに乗っていたから楽だったが……
「あぁどうしよ……」
エルシィに頼んでパーディリオンに乗せてもらえばすぐなんだろうがそれはなんか申し訳ないなぁ……
そう思っていた時だった。辺りの視界が突如変化した。
約九十年前、この世界では神々の戦争が起きた。
現在存在する神、未来神、慈愛神、酒神達はこのことをほとんど知らない。彼女達はその後に神へと昇進したから。知っているのはその後に起きたこと。
あの戦争は悲惨なものだった。と、旧創造神は娘が自身の地位を引き継いで創造神になった時、語っていた。
それぞれの神が互いに騙し合い、殺し合う。好意、愛情、仲間、希望などあらゆるものを利用し、相手の足元をすくう卑劣で醜いものだった。
そもそも神々が何故争うようになってしまったのか。それはふと魔が差し、開けてはいけない箱を開け、闇に取り憑かれ、邪神に堕ちてしまった哀れな神によるものだった。
何故その箱を開けてはならなかったのか。
その箱はこの世界が創られてからこれまでずっと世界の人々の負を吸い取っていた箱だったからだ。
何故その箱が作られたのか。それは度々戦争が起きているという話を他の世界の世界神や創造神達から聞いた旧創造神が自分が作った世界で戦争を起こして欲しくないという願いからだった。
だが、一つ想定外の事態が起きた。その負の箱は増幅し、やがて黒い塊……闇へと変わっていったのだ。
箱の危険性に気付いた旧創造神は上位の神々にこのことを伝え、下級神にも開けないようにすることを指示した。
ただ、下級神は理由を聞かされていなかった。ただ、開けてはならない、と。
これは情報が漏れることを恐れた旧創造神の采配であったが逆にそれが悲劇を起こしてしまった。
結果、邪神は神々が協力し、殺した。無論、多数の犠牲が出てしまった。
しかしこれで終わりではなかった。邪神は死ぬ間際に闇をばらまいた。
その事により各地の生物達が闇に侵されてしまった。特にその影響を受けたのは穏やかに暮らす竜や精霊達。
それにより大量の精霊が死亡。
竜はもっと悲惨だった。
我を失う竜、混乱する竜、そして、
変貌する竜。
特に血の気が多い竜が変貌した。
そしてほんの一部の竜は新たな進化を遂げてしまった。
邪神龍へと。
邪神龍達は暴れようと動き、それを見た神々が止めに入る。
第二次戦争と言っても過言ではなかった。
幸いこの世界の調和を守る世界龍達は降りかかった闇が浅く、無事だった。一匹の龍を除いて。
無属性の龍王、ギラーフだけが姿を消した。死んだかどうかすらわからない。
無属性以外の世界龍は世界の危機を感じ、神々に手を貸した。結果邪神龍を食い止めることが出来た。
いや、食い止めることしか出来なかった。あまりにも彼らが強大な力を持つ故に……
現在は各地に封印されている。それがどこなのか、封印した神々とそれを見ていた世界龍にしか分からない。
そして、神々はあるルールを作り出した。神々はこの世界に過剰に干渉してはならないと。邪神龍だけでなく、神々もまた、強大な力を持っていたための措置だ。
その後、事は終わったかに思えた。
けれど、悲しいことに悲劇はまだ続く。
残った闇が集まり、闇の王が誕生してしまった。
けど、その時は侵食することもなくただ密かに暮らしていたため、彼らはいずれ害がないと判断し、放置した。
それが過ちだった。
闇の王はいつしか様子がおかしくなり、自分を制御出来なくなっていた。
しかし、ルールがある故に動き出せない神々。
そんな彼らに痺れを切らした神がいた。
自然神ルーシャ。ルールを顧みず、闇の王に立ち向かった勇気ある女神。
けど、それは相打ちになり、終わってしまった。
それでも闇はまだ終わらない。闇の王は死んでも月日が流れれば再び復活する。もはや不死身だった。
時が経ち、再び復活した闇の王。どうすれば終止符を打てるのだろうか。
分からない。
しかも闇の王が存在するかしないかで世界の様子が変化してしまうことが分かってしまった。
言葉にすると難しい。
闇の王が存在すると、喧嘩や諍いはあるものの、大事には至らない。大きな問題が起きない。
けれど、闇の王がいない時彼らは喧嘩や諍いの数が増え、その度合いは大きくなる。そして最悪の場合殺し合う。
もしかして、闇の王はこの世界の負をコントロールするあの箱と同じ役目を果たしているのではないか。そう考えるようになった。闇に感情がある分、箱の時より厄介だ。
今回はパージェンによって闇の王は倒されたがまたいつか闇の王は蘇る……
「っ……こんなこと思い出している場合じゃない」
力を使うために目を閉じていたはずが、いつの間にか目を開いてしまっていた。きっと昔のことを思い出したからだ。
どうして昔のことを思い出してしまったのだろうか。今はスティヴィア様に命じられたことを遂行しなければいけないのに。
まぁいい。それよりも彼をここに呼ばなければ。
私はもう一度めを閉じた。
宿屋の部屋の茶色く塗られた壁から一転。
辺りが白い景色一面になる。
この景色、まさか……
「ようこそ、私の世界へ」
どこかから女性の声が聞こえる。
そしてパッと辺りが光に包まれた。思わず瞬きすると、いつの間にか目の前には椅子に腰掛けた女性がいた。
水色の髪を後ろに束ねたポニーテール。瞳はどこか眠そうにしている。
「あなたは……?」
「私? 私はシェアト。スティヴィア様に変わってあなたに会いに来た」
「スティヴィア様の変わり……?」
「そう、あなたの最後の試練について。スティヴィア様の話だとナインドにいる魔物を倒す……だったかな? それが少し変わったの」
「えっ?」
「こほん。あなたに最後の試練を言います。最後の試練、それは……」
俺はゴクリと唾を飲み込む。何となく嫌な予感がするからだ。討伐とかじゃなくて別の何か……
「私と手合わせして。今のあなたの力を見せてもらう」
「分かりました……え?」
「じゃあ、始める」
ポニーテールの女性、シェアトは指を俺に差し向ける。
「サンダーボルト」
バツ印の形をしたイナズマが一直線に飛んでくる。
「っ!? ギロ!」
俺は咄嗟にギロを召喚する。
ギロは右手を構え、丸い障壁を作り出す。
イナズマは障壁に弾かれ、地面に分散した。
「っ、アーリーをトレース!」
アーリーのトレーススキル武装展開。
一瞬のうちに黒い外套に身を包む。考えろ。今俺に何が出来るか。
「ファイヤボール」
シェアトの指から今度は炎の球が放たれる。俺は即座にシロのカードを握る。
「召喚! 炎を消してくれ!」
『お任せ下さい!』
シロの口から冷気が放たれ、炎の球はかき消される。
「っ!」
シェアトは指をおろし、俺との間合いを一気に詰める。その際、右手に剣を持ち、シロが吐いた冷気を剣にまきつけ、氷の剣へと変化させる。
無茶苦茶だ!
ガキンッ!
俺はアーリーの剣で迎え撃つ。
「っ! 氷がこっちに……!」
重なった剣先から伝ってアーリーの剣が凍りついていく。
ランチェルのフラッシュで目くらましをさせたいが両手で剣を持ち、シェアトの剣を受け止めている俺にはランチェルを召喚出来ない。
しかもジリジリと押し込まれていく。シェアトは片手しか使っていないにもかかわらず。
俺の筋力が完全に負けている。まぁ、平均以下だが……
「ぐっ……!」
俺はシェアトに押され負け、後ろに突き飛ばされた。
「勝負あり。これで試練は終わりです」
「へ?」
「スティヴィア様に伝えておくので準備が出来たらミール平野にある石像の前に来て」
「あ、はい」
淡々と話が進むことに俺は戸惑いを隠せない。
「……その前に一つ私から」
俺は立ち上がり、シェアトを見る。
「あなた、弱すぎ。特に近接系が弱い」
「うっ……」
そりゃそうだよな……思いっきり力負けしたし……
「それに判断力も良くない。適当にやり過ぎ。いきなりの攻撃とはいえあそこであの対処はない」
今まで眠そうにしていた彼女の瞳がキリッと真剣な表情になる。
「あなた、このままこの世界にいたら遅かれ早かれ死んでた。まぁもう元の世界に帰るから関係ないけど」
そう言うとシェアトは指を俺の後ろに指し、呪文を唱えた。
俺の後方に白い扉が現れる。
「そこから出られるよ」
「……分かった」
俺は複雑な表情のまま白い扉に近づき、ドアノブを握る。
「……迅速に動くのは大事だけどもっとよく考えて動いて。あと、あなたはそのカードの手数を増やす。あとは……その腕や足を鍛える。そうすればあなたはもっと強くなる」
「は、はい……」
今のはアドバイスだろうか?
すごく的確だった。しっかり心に留めておこう。
そして俺は元いた宿屋に戻った。
夜、俺は嬉しさのあまりなかなか寝付けなかった。
やっとだ。やっと元の世界に帰れる。
明日、俺は元の世界に帰る。




