第83話 世界の調律者
「……」
光の玉は見下ろす。
その視線の先には四人の人影があった。
「……」
光の玉は彼らを見て確信する。
今自らが創り出した空間の中を自由に動く彼らがこの世界の理を外れた異端者だということを。
闇の王は倒した。
当分の平和が約束されるであろう。だが、闇はこれだけではない。まだこの世界の各地に散らばっている。それが増幅すればまた今回のような事態を引き起こすだろう。しかし、それまでに闇の欠片を見つけ、早めに潰せば良いだけのこと。時間はある。今回のようにはさせない。
問題はもう一つある。今地上から自分を見上げる異端者のことだ。あれは非常にまずい。理を大きく外れた存在がこの世界にいることで未来が大きく変わってしまう危険がある。
かつて、多くの生きとし生ける者達を失った。その爪痕は世代が変わるほどの月日が流れたとはいえまだまだ深い。
あんな悲劇を繰り返してはならない。
繰り返させない。
未来を大きく変えるなどさせない。
だからーー、
世界の調律者パージェンはーー、
"異端者を排除する"
それが自分を生み出した彼らの願いなのだから……
「……っ、前より大きくなってるわね」
ルミ姉の言葉の通り確かに前より大きくなっている気がする。
前に見た時はサッカーボールほどだった球体が今は人間一人分の大きさまで成長していた。
「……あなたはなぜ、私達をここに誘導したんですか?」
ルーシャ様が問う理由。それは光の道を進む所々に壊れた橋や階段、道などがあったのだが、それに出くわす度になぜか元通りに修正され、進めるようになっていたからだ。
まるで俺達がこちらに来るのを手助けしているかのように。
だとしたらなぜ球体の魔物は現れた際、俺達に攻撃したのか?
そこが分からない。
しかも、今俺達がいる場所は闇の王の空間ではない。巨大な円の上に立っており、空は真っ暗だった。以前の場所と違う。
これも球体の魔物にとって何か理由があるのだろうか?
ルーシャの問いの後、沈黙が訪れた。耳に聞こえるのは生暖かい風が吹く音のみ。
『……異端者』
「「「「っ!」」」」
初めて球体の魔物が言葉を発する。
『異端者の生命力を測り、その結果……直接排除が必要と判断した』
「っ……!」
俺達はその言葉を聞いて身構える。
『消えるが良い。全てはこの世界の未来のため……』
球体の魔物がそう言った直後、俺達の周りに大量の魔物が出現する。
「っ!」
「やあぁぁぁぁ!」
出現した直後、
ルーシャ様目掛けて突進する魔物。それをツィーが真横からぶった斬る。
「ツィー、ありがとう」
「……ルーシャ様は私がサポートする」
そう言い俺の方を見る。ルミ姉を頼む、ということか。
「和樹、あの球体の元へ行くわよ。サポート頼めるかしら?」
「分かった。無理はするなよ?」
「もちろんよ! はあぁっ!」
翼を負傷し、飛べないルミ姉は魔物大群へと突っ込む。拳にオーラをまとって。
その後を俺が追いかける。
「っ!」
ルミ姉の拳が振るわれる事に炎が放たれ、魔物達は次々と焼き尽くされていく。
「いいぃ、やぁぁぁぁ!」
「光よ……悪しきものを浄化せよ。ネメシス!」
ツィーの大剣を振り回す攻撃に魔物達は次々と斬られ、地面に伏せる。
だが、ルーシャ様の地面から放たれた光の柱はあまり魔物には効いてないように見えた。
魔物自体が光属性だからか……?
「くっ!」
ガキンッ! たまにルミ姉の炎から漏れた人形が俺やルミ姉に斬り掛かってくる。油断は出来ないな。
『……足掻いても無駄だ。この大陸にいるお前達以外の者達の時間は我の力により止まっている。対して我ら光の軍勢は闇の王の軍勢を乗っ取り、ほぼ無限大。故にお前達はいずれ力尽き、敗北する』
「なっ……!」
時間が止まっている? じゃあなんで俺達は動いて……
そうか、だから異端者なのか。
あの球体の魔物が時を止めている中で俺達は自由に動けているから。
けどそもそもなんで俺達は動くことが出来るんだ?
「はあぁっ!」
そうこうしているうちにルミ姉のおかげでついに球体の近くまで辿り着く。
「和樹、急ぐわよ!」
「あぁ!」
剣を持ち、ルミ姉と共に走り出す。
『無駄だと言っている』
球体の魔物がそう言った直後、二体の魔物が俺達の前に立ちはだかる。他の魔物と比べて1.5倍くらいの大きさがある。
左に剣をもった魔物。右に盾を持った魔物。
だが、それに構わず走る勢いのままルミ姉は右の魔物、俺は左の魔物に剣を振るう。
「はあぁぁっ!」
「うおぉぉっ!」
右にいる魔物は盾で受け止めた。ルミ姉がそれを見て目を見開く。
俺も同じ反応だった。左にいる魔物は俺の剣を容易く自身の剣で受け止めていた。
これで俺は確信する。ルミ姉はともかく俺は剣だと一応戦えるがかなり弱いことを。
「ぐっ……!」
「があっ!」
俺とルミ姉は二体の魔物に突き飛ばされる。
「ルミ! 和樹さん! くっ……!」
「ルーシャ様! よそ見はダメです!」
あちらの二人も苦戦しているようだった。
まずい。囲まれた。
前方には他の魔物より強い二体の魔物。後方には力は弱いが大量の魔物がこっちにゆっくりと向かってきている。
逃げ場はない。助けも期待できない。
どうすればーー、
『……愚かな。殺れ』
正面にいる魔物が少しずつ俺に近づき、剣を上にあげる。
その時だった。
俺の目の前に突如青白い魔法陣が出現した。それも複数。
「っ!?」
「ふん。相変わらず腑抜けた顔をしている」
「がはは。久しいな少年よ。む? 黒髪の少年は初対面か」
「……またここにくることになるとはな」
黒い鎧騎士、茶色い鎧騎士、緑色の鎧騎士、青い鎧騎士、桃色の鎧騎士の計五人の鎧騎士が魔法陣から姿を現した。そしてそのうち三人の鎧騎士が近くにいる魔物と戦い始めた。
「久しぶりだね和樹」
そんな中、そう俺に言うのは緑色の鎧騎士トルメだった。
「トルメ……生きていたのか?」
するとトルメは頬を膨らませた。
「もうっ、勝手に僕を殺さないでよ! 確かに死んだけどね。なんで生き返ったのかは僕には分からないけどね」
「む? 我々は死んでも再び生き返るぞ? 少々時間はかかるがな」
「っ!?」
鎧騎士達と俺は驚く。
「どういうことであるか?」
「もし、我々鎧騎士が命を落とした場合、鎧を一部でも身につけていてなおかつ魂そのものが傷ついていない場合のみ、一定時間経過後に再生することをルーシャ様から聞いていた」
「隊長ーーーーーーーーーー!」
「お前達に話しても良かったんだが、だからと言って簡単に命を捨てられたり、裏切り者に悪用されると困るから話さなかった。ただそれだけだ」
「そうだけど……」
「まぁまぁ。みんな無事だったんだからいいでしょ。それよりも……」
トルメは球体の魔物を指差す。
「あれが原因なのは間違いなさそうだね」
俺は球体の魔物を見て不安になる。勝てるのだろうか。あんな化け物に。
「大丈夫」
そんな俺の表情を見てトルメは言う。
「僕達は負けない」
兜で表情は見えないがどこか確信めいた言葉だった。
「ルミ様、大丈夫ですか?」
「えぇ……なんとかね」
桃色の鎧騎士はルミ姉に手を貸し、立ち上がらせる。
「ルーシャ様もご無事のようですね」
「ツィーのおかげよ。あの子強過ぎるわ」
「ふふ。私達からも一目置かれていますからね」
「……トルメ、私達も行くよ」
「うん。和樹、君はどうする? まだやれるかい?」
トルメの問いに頷く。
「なら君はその剣を使い、全力であの球体に攻撃するんだ」
「分かった!」
「よし、決まりだね。……じゃあ行くよ!」
「ルミ様はルーシャ様とツィーと合流して下さい!」
「分かったわ!」
それぞれ向かうべき方向へ行く。
背中に背負う剣を右手に握り、走り出す。まなんだか力がみなぎってくる感じがする。
「和樹、僕らは雑魚の魔物に構わなくていい。あいつらは隊長達が相手してくれる。僕達は親玉を叩くぞ」
「分かった!」
『……また異端者が増えただと……? 有り得ぬ……だが、たった五人増えたところで結末は変わらない……』
俺達はそう呟く球体の魔物の元へ辿り着く。
『人間、我が直々に相手してやろう……』
球体の魔物は八枚の翼を球体の周囲に纏う。
そのうち三枚の翼が球体から離れ、ドリルのような形へと変化する。
ドリルと化した翼は回転し、一つは一直線に。他の二つは追尾弾のように俺とトルメに襲いかかる。
「っ! バーサーカー!」
斧剣を縦に構え、叫ぶトルメ。
「風よ……あれ狂え。暴風」
トルメは回転するドリルに向かって風を放つ。ドリルは回転を止め、球体の方へバラバラに吹き飛ばされる。
「土よ……槍となれ。土槍飛」
迫ってくるドリルに地面から槍を放ち、串刺しのように貫く。
「うおぉぉっ!」
動けないドリルに対しそのまま剣を振り下ろす。ドリルだったそれは半分に切られると元の翼の形に戻るが、再生したり暴れたりすることもなくそのまま地面に落ちた。
『小癪な……』
球体を纏う翼は二枚減り、残り六枚。
球体は輝きを放ち、五つに増える。そしてそれぞれの球体から火球を放つ。
「二人共私の近くに来てください。魔障壁!」
俺とトルメは桃色の鎧騎士に駆け寄る。桃色の鎧騎士の呪文と共に青色の障壁が全体に展開される。
「っ!」
ゴウッ! と次々に降り注ぐ火球。しかし、鎧騎士が張った障壁を破ることは叶わない。
魔力が枯渇したのか、球体は一つに戻る。
「今よ!」
「雷よ……サンダーボルト!」
「うおおぉぉっ!」
トルメが雷を光線のように放ち、俺は球体に直接斬り掛かる。
だが瞬時に六枚の翼が立ちはだかり、ガッチリ防がれた。
「やはりあの翼をなんとかしないとだめか」
『空爆』
「「「っ!?」」」
あちこちに十字が刻まれた白い球体が出現する。
それは俺達以外の所にもだ。
「気をつけてください! 爆弾が至る所に設置されてます!」
桃色の鎧騎士が叫ぶがーー、
次の瞬間、爆弾は次々と爆発した。
「みんなっ……!」
そんな桃色の鎧騎士の背後に一枚の翼が襲いかかる。危ない。
俺は間に割って入り、翼に斬り掛かる。うおっ、さっきのドリルより硬いぞこれ!?
「あぁぁぁっ!」
バキイィィィィン!
俺は顔を真っ赤にし、力づくで叩き斬った。俺は多分このカードの力が無かったら間違いなく斬れていないだろう。
「あ、ありがとう……」
「いや、こちらこそさっきはありがとう」
互いに礼を述べ、球体を見る。
球体の周囲にはトルメが斬ったのか、すでに三枚の翼しか残っていなかった。
「……イルネ、大丈夫?」
そこへツィーとルーシャ様、ルミ姉が姿を現す。
「みんな無事だったんですね」
「……あれくらい平気。問題なし」
「といっても私の障壁なんですけどね……」
胸を貼るツィーに苦笑するルーシャ様。
「多分あっちも全員生きてると思うわよ。あの爆弾そんなに威力がないから」
『……おのれ異端者め』
すると、ルミ姉が少し怒った表情で球体の方を見た。
「異端者異端者って勝手に決めつけないでもらえるかしら? 言っとくけどこっちは神が二人もいるからね? スティヴィア様に言えばあんたの勝手な行動どう言われるかしらね?」
『……なんだと? だが、我はこの世界の調律者……』
「世界の調律者とか言ってるけど、あんたの名前、聞いたこともない。そんなのいるならスティヴィア様から聞いてるはずだわ」
『……知らなくて当然だ。我は神に造られし存在ではない』
「……? じゃああんたはどうやって……少なくともあんたがやっていることは自己満よ」
『……』
途端、なぜか球体はしばし黙り、ぼそっと呟く。
『違う……我はただ……』
その声はさっきまでの威勢はなくなり、どこか弱々しかった。
『あの者達の思いを……ぐっ!?』
「……これ以上お前の好きにはさせん」
球体の背後から、黒い鎧騎士、茶色い鎧騎士、青い鎧騎士が現れた。それぞれ残りの二枚の翼、そして本体である球体を貫いていた。
球体は力づくで剣から抜け出し、二枚の翼をちぎって空にあがり、暴れ出す。
そして暴れた末に球体はボロボロになった翼と共に地面に落下した。




