第82話 かつての敵
「ハイジョスル」
魔物の体が突如変化する。二本の前足を引っ込め、代わりに大砲のようなものを出す。
ガシャン! という音を立て、ツィー達に向ける。
「キエロ」
一直線に放たれる青い光。
「ルーシャ様! 後ろへ!」
ツィーがルーシャ様の前に立ち、大剣を構える。
「……武器変化。ギガンティックソード」
大剣が約五メートルほどの大きさに変化する。
ツィーは両手で大剣を握り、そのまま前に振り下ろす。
「やあぁぁぁぁ!」
「ナッ!?」
ツィー達に向かって一直線に放たれた青い光は真っ二つにぶった斬られた。
魔物が動揺してる隙にルーシャ様が前に飛び出す。
「光よ……悪しき魔物を元のあるべき姿に浄化せよ。浄化波」
魔物の周囲を囲むかのように白く光る円が現れる。
「ナンダコレハッ!?」
抜け出そうとするが、バチッという音と共に弾かれる。
パッと円の中から光が溢れ出す。その光は巨大な魔物の体ごと包み込む。
「ヤ、ヤメロオオオォォ! ガアァァァァ!」
やがて溢れ出した光は白く光る円ごと消えた。
その中から現れたのは、バラバラになった魔物だった。
机や椅子、シャンデリア、金庫やネジなどこの城の中にあったと思われるものが魔物がいた場所に散乱していた。
「……どうやらこれが原因のようですね」
そう言い、ルーシャ様は魔物の頭の中から何やら光るものを取り出した。
それは丸く、まるでビー玉のように小さい。
「それがこいつを操っていたってわけね」
ルミ姉が納得の顔をする。
「それはそうとルーシャ、あなたどうやってここに?」
「あのあと、私達も羽を生やした魔物に襲われたんです。エニッタさん達とははぐれてしまいました」
「そう……とにかく早くここから脱出しないといけないわね」
ルミ姉がそう言った直後、俺達のいる部屋がグラグラと揺れ出す。
「え、何?」
「これは……」
俺は視界の端で異変が起きていることに気づいた。
「あれはなんだ?」
三人とも俺の言葉に反応し、同じ方向を見る。
そこには、先程まで壁だったはずが、上へと続く階段が出現していた。それと同時に、他の部屋への入口に壁が現れ、全て閉ざされてしまった。
「……どうやら逃がすつもりはないようですね」
「……ルーシャ様。この壁、壊そうと思えば壊せるよ?」
「たとえ壊しても今回のようにまたどこかで妨害してくるはずです。それなら……」
ルーシャ様は階段がある方へと足を進める。
「こちらから行ってあの魔物の真意を聞くべきです。この階段はむしろ私達に来いと言っているかもしれません」
「分かったわ。なら行きましょう」
「でもルミ、その怪我じゃ……」
「大丈夫よ。自然治癒能力でほんの少しずつだけど回復してるわ。和樹、肩を貸してくれる?」
「あぁ、もちろんだ」
「……ルーシャ様、先陣は私が行く。その間休憩してて」
「……そうですね。お願いします」
ツィーが戦闘、次に俺とルミ姉、最後にルーシャ様の順に進んでいくことになった。
階段の先には一筋の光の道が遠くまで広がっていた。
その他には何も無い真っ白の世界。
だが、行先で次々と魔物が姿を現した。
それも弱い魔物ばかりではない。中にはボス級の魔物も現れ、俺たちの行く手を遮る。
あれから何度足を止め、魔物と戦っただろうか。もう分からない。
ただ、これだけは言える。
「……なぁルミ。なんか倒す魔物にすごく見覚えがあるんだが……」
「奇遇ね和樹。あたしもそう思っていたところよ」
これまでにこの光の道で倒した魔物達を挙げる。
マッドレイン帝国周辺の村に現れた蜘蛛型の魔物、赤黒いコートを羽織った謎の男、巨大な魔獣ニブルヘイド、トカゲの魔物や牛の魔物、背中から煙のようなものを吹き出す人形の魔物などほとんどの魔物に見覚えがあった。
「……倒した敵が復活した?」
ツィーの呟きに全員が反応する。
確かに、その可能性はある。
「……もしかしたらあの翼を生やした魔物が闇の王の創り出した空間を乗っ取って彼らをなんらかの方法で復活させた可能性がありますね」
「っ!?」
ツィーは突然足を歩めた。それは少し先に人影が現れたからだ。
「……! オベリスク……?」
「……ルーシャの言ったこと、当たってるかもしれないわね」
そこにはツィーが倒したはずの機天使オベリスクが待ち構えていた。
「……オベリスク?」
「……」
「っ!?」
何も言葉を発さず、剣でツィーに斬り掛かるオベリスク。
その目にはどこか光を失っていた。
「操られている……?」
「っ!」
俺の呟きにツィーが反応する。
「私のせいで……!」
オベリスクと剣を混じり合わせ、火花を散らす。
その横からルミ姉が拳でオベリスクを殴り飛ばした。
それでも立ち上がるオベリスク。
「……どうやら死者を操っているようね」
「……!」
ツィーは立ち上がったオベリスクに斬り掛かる。
オベリスクはそれを剣でいなす。
オベリスクの剣がツィーの心臓を狙うーー、
「シャークロア」
ガキン!
機械型のサメがツィーの懐から飛び出し、剣を加えて受け止めた。
その隙にツィーはオベリスクの心臓を貫く。
血は出なかった。オベリスクの心臓に穴が開き、その穴から光の粒子が溢れ出す。
「……」
オベリスクはその場に倒れ、光の粒子と共にどこかへと消えていった。
「……行こうみんな」
「早く来ないと置いていくわよ?」
呆気に取られていた俺とルーシャ様はハッと気づき、慌てて彼女達について行く。
「……」
次に現れたのはかつての闇の王だった。
その姿はかつてのように禍々しくなく、むしろ光輝いていた。
「っ……ここは私がやります」
ルーシャ様が前に出る。
闇の王は無言で無数の手を放つ。
ルーシャ様は無数の手の襲撃を次々と避けていく。
「光槍」
闇の王の目を光の槍が貫く。やはり血が流れることはなく、光の粒子が溢れ出す。
「っ!」
更に地に落ちた無数の手を一つずつ貫いていく。
その度に光の粒子が溢れ出し、拡散する。
闇の王は全て光の粒子となり、オベリスクと同じように消えていった。
「……ごめんなさい。闇の王」
なぜルーシャ様が謝ったのか、俺には分からない。けど、彼女は冗談ではなく本気で謝っていた。
彼女の真意を俺は後に知ることとなる。
更に光の道を進み、階段を駆け上がり、辿り着く。
翼を生やした魔物の元に。




