第81話 追っ手
「……っ」
ルミ姉とアーリーのおかげでなんとか不時着することが出来た。
身体中がヒリヒリする。恐らく光の玉が放った炎球のせいだろう。
「そうだ、ルミ姉……っ!?」
「……」
ルミ姉の翼が両方共黒く焦げていた。更に根元に近い部分に穴が空いており、赤くただれていた。
意識を失い、苦痛に顔を歪ませるルミ姉。
「ルミ姉!」
すると、ルミ姉は僅かに瞼を上げた。
「……和樹。あたし達、生きてるのね」
「あぁそうだ。ルミ姉とアーリーのおかげで助かった。……ごめん、ルミ姉俺……」
「いいわよ……あたしが勝手に……やったことなんだから……っ」
そう言い、ゆっくりと身体を起こす。
「ルミ姉、まだ無理は……」
「そうも言ってられないわよ……」
そう言い、指さすルミ姉。その方向には無数の魔物。
ゆっくり俺達の方へと向かってくる。
「逃げるわよ……」
よろめくルミ姉。
「ルミ姉」
「大丈夫よ、さっきよりは歩けるわ」
俺たちは必死に逃げる。ここで戦えば数の暴力で魔物の餌食になるからだ。
ましてや怪我を負ったルミ姉もいる。ルミ姉を庇いながら戦うなんて無理だ。
逃げ回った末に広い庭へと飛び出た。
「ここは確か……入口に繋がる魔法陣!」
偶然にも俺達が飛び出た先の庭には青白く光る魔法陣があった。この魔法陣は来た時に一度乗っている。これなら脱出出来る。
「ルミ姉、あの魔法陣から……っ……」
そういや、あの魔法陣って確か入る時と出る時に招待状がいるってエルシィが言ってたような……
途中で言葉を止める俺にルミ姉は笑いかける。
「大丈夫よ。あたしは別の方法で出られるから。この魔法陣の性質上そもそも出られないんだったらここにいないわよ」
「あっ、確かに」
馬鹿丸出しの発言をした俺は恥ずかしくなった。
「ん? ならルミ姉はどうやって入ったんだ?」
「んー強いていえば神の力ってとこかしら?」
いいのかそれ……まるで職……いや、やめとこう。
そうこうしているうちにいつの間にか魔法陣付近まで近づいていた。
おかしい。何が。
やけに辺りが静かなこの状況だ。
魔物が一匹もいない。
「っ、和樹! 魔法陣から離れなさい!」
「っ! うおっ!?」
突然発したルミ姉の大きな声に思わず退く。
その退いた地面から先が尖った鉄の塊のようなものが飛び出す。
穴が開き、それは徐々に広がっていく。
「なんだあれは……?」
俺とルミ姉はその場から距離をとり、広がる穴の光景を見る。
徐々に鉄の塊は地上に現れ、やがて鉄の塊は一気に地面から飛び出た。
「ギャオオオオオォォン!」
俺達の前に現れたのは巨大な機械だった。それもただの機械じゃない。魔物だった。足には車輪のようなものがついていて額にはなんでもぶった切れそうな鋭利で巨大な角。尖った鉄の塊のようなものはその魔物の腕だった。
「はっ!?」
突然の魔物の出現とそのデカさに開いた口が塞がらない。
「……どうやら私達をここから逃がす気はなさそうね」
ため息をつくルミ姉。
「ルミ姉がさっき言ってた神の力でここから出よう」
「無理よ」
え? 即答?
「神の力と言ってもあの魔法陣を通る時に受付の子を言いくるめて、強引に魔法陣を通り抜けただけよ? あの魔法陣に乗れないならどうしようもないわ」
「えぇっ!?」
「しょうがないじゃない! これしか思いつかなかったのよ! とにかく逃げ……痛っ」
「ルミ姉!」
「……先に行きなさい」
「え? いや、そんなこと言ってる場合じゃ……」
傷だらけで翼に火傷を負って飛べないのに。
「一緒に……」
次の瞬間、魔物は車輪を走らせ、ルミ姉の背後に周り、角を振り下ろす。
「グオッ!?」
魔物は驚いていた。なぜか。それはいつの間にか魔物が少し後ろへ吹っ飛ばされていたからだ。胴体にはほんの少しだけ凹みが出来ている。
ルミ姉が拳で魔物を殴ったのだ。
「囮になると思ってる? 違うわ。確かに足止めだけど最終的にはあなたの後を追うわ。だから先に行きなさい!」
「大丈夫なのか……?」
俺の言葉にルミ姉はニヤリと笑みを浮かべる。
「あたしを誰だと思ってるのよ。神様よ? また後で合流するわよ和樹」
「っ……分かった!」
俺は魔法陣の元へと走り急ぐ。
「ノガサン……」
そう呟き、魔物は4本の手足を地面に突き刺す。
途端、俺の足元が光り出す。
「和樹! っ!?」
視界がぐにゃりとねじ曲がる。酔いそうなぐらいに。だがそれはすぐに治まった。
「ここは……」
けど、俺が見た光景は全く別のものになっていた。
建物の中? いや、ここは……
「まさかあの会場の中?」
でもどうして……
「どうやら転移させられたようね……」
俺の疑問をルミ姉の言葉が解決した。そういうことか!
「オマエタチ、イレギュラー。パージェンサマに仇なす存在……」
そう言い、目の前に青い円を出現させる。嫌な予感がした俺は咄嗟にギロを召喚する。
「ギロ! 障壁を貼れ!」
「了解」
ギロが障壁を貼ると同時に青い円から光線が放たれた。
光線は地面を抉り、障壁へ直撃するが、障壁はヒビが少し入った程度で済んだ。
「主、次はもう防げん。気をつけろ」
「ありがとうギロ」
「イレギュラー排除すべシ……」
魔物は両腕を構え、近づいてくる。
まずい、後ろは行き止まりだ。焦りを感じたその時ーー、
「いぃぃやあぁ!」
魔物の背後に巨大な大剣が現れ、魔物の頭を真っ二つ……とはいかなかったが、ゴンという鈍い音と共に魔物の足が地面にめり込んだ。
この大剣、まさか……
そう思っていると二人の姿が魔物の後ろから現れる。
「……助けにきた」
「大丈夫ですか!?」
俺達の元に駆けつけてきたのはツィーとオルフェに憑依したルーシャ様だった。
「……ここは任せて」
「二人は見てて下さい」
「グオォ……マタ、イレギュラーが現れた……排除しなけれバ」
地面から抜け出し、腕を構える魔物。
その目は赤く光り、俺達を睨んでいた。




