第71話 合流
「……」
テルンはこれまでの人生の中で最も落ち込んでいた。
ネルイが連れ去られ、隊長達と連絡がとれず、更に密かに好意を寄せていた女の子が死んでしまったことで。
その女の子の姿はもうどこにもない。なぜなら光の粒子となってどこかへと消え去ってしまったから。残されたのは無造作に落ちている鎧のみ。
この場にいるか迷ったが、しばらくして彼は歩き出した。あのお方を捜すため、そして彼女の仇を打つために。
「……ん? なんだあれは……?」
テルンが向かう先に複数の人影が見える。なにやら言い合っているような雰囲気だ。
更に歩みを進めると姿がハッキリと見えた。
奥の扉を背にしてブラウン色の髪の青年と漆黒の翼をもつ黒い竜のような魔竜、そして、全身に氷柱を生やした熊のような魔獣が並び立つ。
そして彼らの向かい側には茶髪の女性が一人、立っている。三対一の立ち位置だ。
テルンはひとまず壁に隠れ。様子を見守ることにした。
☆☆☆
「随分早かったみたいだね。君より前に来た子達はまだここに辿り着いてないよ?」
数歩前に出てそう言う青年。
「そう言うあなたはナルメドであたしを邪魔した魔物ね?」
「そうだよ。あの時はねぇ、君みたいな強い子がこっちに来たら面倒だったからね。ごめんね」
わざとらしく謝るしぐさをする青年。
「ふん、別にいいわ。けど、あなたがここにいるってことは……」
ルミは両手の拳を握る。
「ここになにかあるってことね?」
「さぁ? 僕には分からないなぁ。けど、ここから先には行かせないよ。僕達は命令を受けたんだ」
途端、青年の身体から黒いオーラが現れる。
「ここから先、誰も通すなってね!」
「っ!」
次の瞬間、青年は一気にルミへと近づく。その右手には漆黒の剣。
「身体強化攻!」
ガキンッ!
青年の振り下ろした剣をルミが拳で受け止める。
「なら、あなた達を全員倒して進むわ」
ルミは足払いを放つ。
青年は後ろに飛びさがり、回避する。
「っ!?」
ルミは後ろから気配を察知し、真横に逃げる。
直後、ルミがいた地面に無数の氷柱が降りかかった。
「我らを忘れては困るぞ人間」
「そうよ。これは三対一なんだから」
「っ!? ぐっ……!」
逃げた先で声が聞こえ、彼女の左斜め後ろから黒い尻尾でなぎ払われる。
なぎ払われたルミはその勢いで壁に叩きつけられた。その拍子に彼女の姿が元に戻ってしまう。
「がぁっ!」
「へぇ、君姿変えられるんだ? 前から思ってたけど何者だい?」
よろめきつつ起き上がるルミに近づく三体の魔物。
「……これは厳しいわね。でも……」
圧倒的不利な状況の中、ルミは諦めない。やっと見つけた闇の王へと繋がるかもしれない手がかり。
しばらく平和だったこの世界で少しずつ現れた異変。これまでの彼らの行動は闇の軍勢である可能性がかなり高い。彼らはあの黒いオーラを見るに恐らく闇の王の配下だ。今頃復活させ、力を蓄えているに違いない。
ならば、その力を取り戻す前に闇の王を倒す。自分はこれで神としての権限が取り上げられるがそんなの知ったことか。
ここで友人の仇を打つ。そして友人が残したものを見つけ、守る。ルミはその思いを胸に秘め、立ち上がる。
「ここで諦める訳にはいかないわ」
「根性あるねぇ。でも、いつまで持つだろうね?」
そう言うと青年の後ろにいる二体の魔物がルミに襲いかかる。
魔獣からは鋭い棘をまとった拳が放たれる。
魔竜からは口から放たれた黒い炎が降りかかる。
「っ……魔法障壁」
ルミが正面に透明な壁を展開する。その時、
「ジャストガード!」
そう言い、ルミの前に青い円型のシールドが展開され、二体の魔物の攻撃を弾いた。
「何っ!?」
「何なの!?」
「あなたは……?」
ルミの前に青い鎧を着た騎士が槍を構えて立っていた。
「話はあとです。先にこいつらを」
「え、えぇそうね」
突如現れた助っ人にルミは戸惑いながらも答える。
一方、魔物達の中で驚く者がいた。
「っ! お前は!?」
「久しぶりだな逢魔竜ルビアナ。ついでにあの時の借りを返しに来たぜ」
「はんっ! 出来るものならやってみなさい? 出来るものならね!」
魔竜は苛立ちの混じった声を上げ、手に黒い槍を生成した。
これで三対二。だが、ルミ達は数的にまだ不利だ。
しかしそんな状況を新たに現れた者達が変える。
「ふむ、仕切り直しとい……っ!?」
青年がいた背後の壁が突如破壊される。青年は咄嗟にその場から離れ、魔獣の近くに走る。
「なんだこれは!?」
崩れた壁から巨大な大剣がひょっこりとのぞく。
やがて大剣は小さくなり、崩れた壁の破片が吹き飛ばされる。空いた隙間から現れたのはーー、
「トルメ!?」
「あっ、副隊長! ここにいたんだね! ちなみに他にもいるよ」
そう言いトルメが穴が空いた壁から抜け出すとゾロゾロと人が出てくる。
「ツィー! それにお前は……」
トルメのあとに続き、ツィー、オルフェ、和樹が出てきた。この時、オルフェの顔を見たルミが一瞬だけ驚いたような表情をした。
☆☆☆
その頃、ナインド王国では大騒ぎになっていた。
ナインド王国のパーティ会場に凶悪な魔物出現。死傷者多数。そしてナインド陛下の妻と娘二人、そして他数人が行方不明。
十年前の謎の魔物襲来以来の大事件となっていた。
突如起きた大事件に慌てふためく人々。
そんな中、パーティ会場の中心に突如出現した黒い穴の前にたくさんの人だかりがあった。
その人だかりの正体は冒険者とナインド王国の兵士達だ。
彼らは主にこの穴の先に何があるのか探る、そして行方不明である三人を捜し出すために集められた。
無論、それだけではない。まだこの城のどこかにいるかもしれない貴族達や怪我を負った人達を救助するなどといった目的もある。
「いくぞお前ら! 久しぶりの大物だ! 気を引き締めていくぞ!」
大柄の男が剣を天井にかかげて叫ぶ。それに伴い、たくさんの冒険者が雄叫びをあげる。
兵士達もまた、団長の声に応え、士気を高めていた。
その後、次々と穴へと入っていく冒険者と兵士達。その中にはフィアスとエルシィもいた。周囲にバレないようフードを被っている。
「エルシィ、陛下の元に行かなくていいの?」
フィアスがそっと耳打ちする。
「大丈夫よ。お母様がなんとか言ってくれるわ。そう言うフィアスこそ大丈夫?」
「うっ……それは……分からない。けど、私も行く」
行方不明者の中には和樹も含まれていた。城内を一度捜索したあとだが、和樹や女王、王女達は未だ見つかっていない。
そしてそれとほぼ同じ時に現れたこの黒い穴。何か関係がある可能性が高い。
フィアスはともかく本来ならエルシィは冒険者ではないため待っている側だった。だが、フィアスとエルシィは和樹が行方不明なのを聞いていてもたってもいられなかった。
自分達は決めたのだ。和樹が元の世界に帰るまでついて行くと。




