第70話 再会
「っ……まずいな」
今、俺達の逃げる少し先には赤く燃え盛る魔物がまるで獲物を探すかのように辺りを歩いていた。
その魔物は牛のような外見をしており、まるでミノタウロスだ。かなりの巨体を持ち合わせており、もし見つかればタダでは済まないだろう。
しかも身体に炎を纏っているため、近づくのですら危険だ。
「和樹、後ろから来てる」
『それもかなりの数です』
オルフェとシロがそう言う。今走っている道は一本道でありこのままでは挟み撃ちだ。
片方は大量の魔物。もう片方の道は炎を纏った巨大なミノタウロス。正直どっちも行ける気がしない。
「くそ……最悪ランチェルで追いかけてきてる奴らを一網打尽に……いや、そんなことしたらあいつが気づくか……」
苦渋の決断に頭を悩ませていると何かが崩れるような音が辺りに響きわたる。その音の主はミノタウロスがいる方向から聞こえる。
「なんだ?」
そう思った次の瞬間ーー、ミノタウロスがいる場所の壁が突然崩れだした。
「なっ……!?」
「いいいやああああっ!」
それと共に水色の鎧騎士が崩れた壁から現れる。その手に持つ物はとても物騒な武器だった。
ミノタウロスに劣らないぐらいの大きさの大剣。普通の剣の何百倍もあり、なんでも斬れそうだ。
水色の鎧騎士が持つ巨大な大剣は崩れた壁を越えてそのまま地面に向かって振り下ろされ、ズシーン! という音が響き渡った。
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
辺りの地面が揺れる。威力やばすぎだろあの剣……!
「グゥ? ウガアァァッ!」
「やべ!」
だな、ミノタウロスにはギリギリ直撃していなかった。
大きな音にさすがのミノタウロスも後ろを振り向き、そこに敵がいるのを見つけたミノタウロスは雄叫びをあげる。それによって身体の炎が更に激しく燃え盛る。
更に運の悪いことに緑色の鎧騎士が水色の鎧騎士に続いて壁の中から出てくる。彼女達が危ない。
「っ! 泥拡散弾!」
俺は水色の鎧騎士に向かって突進するミノタウロスに向かって泥の玉を放つ。これで少しでも時間を稼げれば……
だがそんな心配は全て杞憂だった。
「っ!」
ミノタウロスの存在に気付いた水色の髪の鎧騎士は大剣を握り直し、ミノタウロスに向かって振り払う。
「ヌガアアアッ!」
炎が更に激しく燃え盛るが水色の鎧騎士が振り払った大剣にその炎が移ることはなくミノタウロスの胴体をズバッと半分に斬った。
途端、ミノタウロスの身体の炎が収まる。そして半分に斬られた身体は崩れ落ち、地面に倒れた。
「すげぇ……」
「そこの君たち! 早くこっちに来て! そっちから大量の魔物が来てる!」
呆気に取られていると緑色の鎧騎士が俺達に声をかけてきた。
「あ、あぁ! 行くぞオルフェ! シロ!」
「う、うん」
『了解です!』
☆☆☆
曲がり角や分かれ道などを駆使してしばらく走り続け、俺達はなんとか追っ手をまくことが出来た。
「はぁ……はぁ……なんとかまくことが出来たみたいだね。……にしてもツィー、いきなり壁ぶっ壊すとか何考えてるの!?」
「でも新しい道が見つかった」
「そうだけど! うう、まぁいいよ……あっ、ごめん。まだ自己紹介がまだだったね」
俺達の方を向き、胸に手を当てる緑色の鎧騎士。
「僕の名前はトルメ。んでこっちの水色の鎧騎士が……」
「ツィー。よろしく」
「えと、俺はカズキ=サイトウ。この魔物はシロんでこっちが……」
「私はオルフェナ・フローズン・ナインド」
「「っ!?」」
二人の鎧騎士は名乗ったオルフェを見た瞬間、驚いた様子をみせる。
「つ、ツィー、もしかして……」
「う、うん。この魔力の気配は……」
そのままオルフェに近づき、問いかける。
「……ルーシャ、さま?」
「え?」
「この感覚、少し違うけど以前のルーシャ様に似てる。ほぼ間違いないと思う」
ルーシャに似ている? どういうことだ? そう思っているとツィーはオルフェに向き直る。
「ルーシャ様、お会いできて嬉しいですツィーです。でこちらが……」
「トルメです。ルーシャ様、よくぞご無事で……」
トルメとツィーという鎧騎士は顔は見えないが再会して喜んでいるように見える。
けど、オルフェは……
「……えと、どちら様ですか?」
「「っ!?」」
初めて会った人に対するような反応をするオルフェ。予想外だったのか2人とも驚いた声を上げる。
「……ツィー、まさか……」
「……うん。恐らくだけどルーシャ様が以前言ってたことが起きてる。記憶を失っているか、あるいはルーシャ様だけどルーシャ様ではない別の誰かになってる」
「っ……」
悔しそうに歯を噛み締めるトルメ。そんな彼らを見た俺は思わずオルフェに訊ねる。
「いったいどういうことだ? オルフェ、何か知ってるか?」
「ううん、分からない……」
「……ここまで来た以上、やれるとこまでやるしかなさそうだね。ツィー、ここは僕らの判断で動こう。和樹、ちょっと聞いてもらえるかい? 君も気になるだろ? 急に現れた僕達と彼女について」
「あぁ、聞かせてくれ」
トルメが主に説明し、ツィーが細かい部分を補足するといった感じで話が進む。
その話は俺達も他人事ではなかった。
彼らは六人の騎士で構成されておりそのグループの名をクインテット騎兵と呼ぶ。これはマッドレインでアレス達が聞いた名前と一致するため、彼らは同じグループに所属しているということが分かる。
彼らの目的は二つ。一つは闇の王とその配下たちを倒す。その理由はアレス達から少し聞いていた。昔、闇の王が起こした騒動を。
そしてもう一つはこのアルヘイム大陸のどこかにいるある人を捜す。
「そのある人というのがオルフェってことか?」
「そう。この子は闇の王にとって邪魔な存在。だから復活と共に奴らはこの子を狙う。その前に私達はこの子を見つけ出し、保護しようとした」
だが、それはかなり難しく、困難を極めたとトルメは言う。説明が難しいがルーシャはまず、死ぬ間際に転生という能力を使い、別の存在で自身の復活に挑戦したそうだ。
だが、それが成功する確率は極めて低く、失敗すればそのまま彼女は消える。成功しても彼女自身の身体が復活することはなく、別の身体での復活、もしくは記憶を失った状態での復活など様々なリスクが予想された。
更に生まれ変わったとしてその彼女の居場所がどこで産まれるのか完全に予測不可能だった。ただ、いくつかヒントはあった。一つはこのアルヘイム大陸のどこかで産まれるということ。そしてある程度成長した時に魔力を外に発するようになると。
ルーシャはその魔力の気配をツィーや他の騎士に目印として伝えた。
それからはツィーが魔力検知の道具を開発し、アルヘイム大陸中を駆け回っていたと言う。
もし、失敗したり彼女が諦めていればトルメ達は今頃なんの成果も得られずに永遠と捜していたであろう。だが、今ここにいるオルフェが彼女の生まれ変わりであることから彼女は失敗せず、諦めなかったとトルメとツィーは断言する。だが、彼女は記憶を失ったかあるいはルーシャではない別の存在へとなってしまった。
それはある意味ルーシャという存在は死んだのではないか。そのことを言いかけたが嬉しそうな様子の二人を見ると言えなかった。
彼らは更に話した。自分達は人間ではなく、ルーシャによって生まれ変わった別の存在だと。
彼らは皆事前にルーシャに頼まれていた。それはこうなることを想定してのことだったらしい。どうして引き受けたのか聞くと彼らにとってルーシャというのは恩人だからだそうだ。
「よく話に出てくるけどルーシャって何者なんだ?」
「ルーシャ様は……いや、君なら信じてくれそうだから話そう。ルーシャ様は自然を司る女神。昔は自然神ルーシャと呼ばれていた」
「神様……」
それを聞いてこれまで出会ったことのある神様の顔が思い浮かぶ。酒神ミラシィ、恋愛神ガイシア、未来神ルミ、そしてこの世界の創造神スティヴィア。
「……信じるわその話。俺もいくつか体験したことがあるからな」
俺も彼らに話す。俺は別の世界から神様の手違いでこの世界へと連れてこられた人間だと。
そして、これまで複数の神様と夢の中のような空間で出会ったこと。
そしてここまで来た経緯も含めて話す。
「……なるほど。物凄く信じ難い話だけど僕らも似たようなことをやってるから否定は出来ないね」
そう言うとトルメは俺に手を差し伸べてきた。
「君には感謝しないとね。ルーシャを……いや、オルフェ様を保護してくれてありがとう」
「お、おうどうも……」
俺は少し照れつつその手を握る。ここまで素直に感謝されるとなんか照れるな。
「よく分かんない……けどさっき二人は助けてくれた。ありがとう」
「ん」
その近くでオルフェとツィーが互いに握手する。
「とりあえずここから出よう」
トルメがそう言うが、
「待ってくれ。まだここからは出れない」
「どうしてだい?」
「オルフェのお母さんとお姉さんが魔物に連れ去られたんだ。その魔物は多分だけどこの空間にいる。追いかけた時に急にそいつが消えてそのすぐ側にこの空間に通じる穴があったから」
「……なるほど。ならここから僕達も君達と共に行動しよう」
「あぁ、ありがとう二人とも。だけどいいのか? その、隊長とか他の奴らは……」
鎧騎士は人々の間ではあまりいい評判はない。むしろ悪い話ばかりだ。けどこの二人は違う。少なくともあの黒い鎧騎士とは。
「隊長には今連絡しておくよ。あっ、君達のことは伏せておくから大丈夫だよ」
そう言い、丸い石を取り出して耳にあてた。その石は緑色に光っている。なんか魔石みたいな石だな。
しばらく待っているとトルメの表情が変わる。
「ん?変だな……」
「どうしたの?」
「隊長と連絡が取れない」
「副隊長は?」
ツィーに言われ、トルメは再度耳に魔石を当てる。
「……ダメだ。連絡が取れない」
「……何か問題が起きたのか、もしくくは今手が離せない状況の可能性がある」
「だね。みんな、ここから急ぐよ。まずい状況かもしれない」
俺達はそう言うトルメに頷き、彼女について行った。




