第69話 狙われた鎧騎士
ネルイはその後も、立ち塞がる魔物達をほぼ一撃で倒していく。
一撃で倒せなかったのは巨大な毒蛇ぐらいだ。
それでも三、四撃目で倒していたが。
さらに奥へ進むと、辺りの空気はこれまでと全く異なる雰囲気を醸し出していた。
そこは大広間で、これまでネルイ達が入った部屋よりも広い。その中央にはーー、
「やっと見つけたわ。……たく。どこまで手間をかけさせる気?」
「すまぬな。ここまで来て貰ったのには少し訳があってな」
そう言い頭をかく金髪の男。ネルイから見るとそれはかなりわざとらしく見える。
あまりにも不自然で少し思考するネルイ。だが、すぐに考えるのをやめた。
「……まぁいいわ。それよりすぐ戦いましょ。こっちはうずうずしてるの」
「まぁ待て。その前に話を……っ!」
男は斬りかかってきたネルイの剣を反射で後ろに下がって避ける。
「ふん。聞く気は無いか」
ため息をつく男。しかしそれは男にとっては想定内のことだった。ウィルムと襲撃した際、彼女の変化に知らないふりをしていたが男は見ていた。目の前の女の変わり様を。
それを見ていた男はあることを思いついた。だが、それをあの王国で行うのは人目などを考えると状況的に悪い。
だから男は彼女をここまで"誘導"した。
「はあっ!」
ネルイはその場で剣を構えると、一気に男との間合いを詰める。
「っ! ぐおっ!?」
男は剣でネルイの攻撃を防ぐ。だが途中で"敢えて"手を抜いた。
力に押し負け、男は後ろへ吹っ飛ばされる。
「もう終わりかしら? 随分と呆気ないわね」
そう言い男に近づいてくるネルイ。気づかないうちに紫色の円の上に乗り、男は笑みを浮かべた。
「……何その笑み? まだ何か隠してるわね」
「くくく……その通りだっ!」
途端、男は立ち上がり、両手を広げる。ネルイは一気に決着を付けようと男に斬りかかる。だがその時、足元の地面が光りだした。
「何っ!?」
「ネルイ!」
この状況を見ていたテルンはネルイの元へと駆けつけようとした。だが、紫色の円の中へ入ろうとするとバチッ!という音と共に身体が吹っ飛ばされる。
「くっ……!」
紫色の円が光ると共にネルイに目眩が降り掛かってきた。耐えようと歯をくいしばるがやがて彼女は意識を失った。
☆☆☆
「……ここは?」
気がつくとネルイは真っ暗な空間にいた。それでいて静寂な雰囲気が漂う。
「気がついたか」
先程の金髪の男が目の前に現れる。ネルイは瞬時に男に斬りかかろうとするが剣がなかった。それならばと拳で男に殴りかかるが男に触れる直前、見えない壁のようなものにぶち当たった。
「無駄だ。ここは我の作り出した空間。故にお前が我に害を与えることは不可能」
「っ……何が目的?」
「そう身構えるでない。我はお前の密かな望みを叶えてやろうと思ってな」
そう言う口の端が釣り上がっている。ネルイは油断せず男の動きを見る。
男はそんなネルイの様子を気にせず言い続ける。
「その身体、二人いては面倒だとは思わないか?」
「っ……何のことかしらね」
「とぼけても無駄だ。我らの襲撃時からこれまでのお前を見たがほぼ間違いない。それを我がなんとかしてやろうというわけだ」
「っ……?」
何故こんな話をするのかネルイには理解できない。だが、聞き流すには惜しい話だった。
「今のお前は二人で一つの存在……そして力もまた二人で半分に分けている。嫌だとは思わないか?」
「くっ……」
確かにそれはネルイも思ったことがある。自分の力のはずなのにそれを自分の知らない誰かに勝手に取られているというのは。
今の状態が改善されればこんな男などすぐに倒せる。そして更なる力を得ることが出来る。もっと強くなれる。強いやつと戦える。
「……欲しい。もっと力が欲しい」
この時、すでにネルイには冷静な思考能力が失われていた。
ネルイの言葉を聞いた男は怪しげな笑みを浮かべる。
「くく……そうだろう? それを我が解放してやろう!」
次の瞬間、男の目が紫色に光る。
「沈められし二つの魂よ……今こそ互いをわかつ時! 魂分離!」
「っ!? うぐっ!」
ネルイは心臓を抑えた。
痛い。それでいて物凄く身体が熱い。これまでに感じたことの無い感覚が一気にネルイを襲う。
「あああああああっ!」
突如降りかかる壮絶な激痛にネルイは絶叫する。
そしてネルイの身体が光り出す。
☆☆☆
「ネルイっ!」
テルンが円の中に消えたネルイの名を叫ぶ。
こうしてはいれない。隊長に連絡を……
「……何故だ?」
隊長と連絡が取れない。それにンドネアも。いったい何が起きている?
「っ、それよりトルメ達に……」
隊長達の音信不通を含めてテルンは通信魔石を起動する。
そんな彼の前に円の中から紫色の鎧騎士が現れる。
「っ! ネル……イ?」
そこに現れたのはネルイだけではなかった。桃色の鎧騎士ーー、
「イルネ!?」
「少ししくじったな」
そう言い金髪の男も円の上に現れた。
「何をした!」
激昂するテルン。その手には彼の愛用する青い槍が強く握られている。
だが、男はそんなテルンを見向きもせず倒れているネルイを肩に担ぐ。
「……少し調整するか」
「おいっ待て!」
テルンは気絶している二人を見ていてもたってもいられず男に突進する。
「くく……また後で会おう。楽しみにしているがいい」
だが、テルンが辿り着く前に男は消えてしまった。ネルイと共に。
「くそっ!」
テルンは槍を捨て拳を地面に叩きつける。それはネルイを守れなかった自分に対しての怒りだった。
「うっ……」
「イルネ!?」
こんなことをしている場合じゃない。テルンはイルネの元へと駆けつけた。
「大丈夫かイルネ」
するとイルネはうっすらと目を開ける。
「その、声は……テルンね?これが、大丈夫……にみ、える?」
途切れ途切れに言うイルネ。見るからに状態は深刻だった。
「っ? あれ、は……?」
イルネが指さした方向をテルンが見る。そこには大量の魔物がテルン達を目指して歩いていた。
「ちっ……!」
顔を歪めるテルン。
「テルン……」
「なんだ?」
「逃げて……」
「っ! ふざけるな!」
イルネの言葉に怒りを表すテルン。
「ふざ、けてなんか……ないよ。このまま、だと……二人、とも死んじゃう……」
そう言うイルネの身体は少しずつ透明に変化していた。
「っ!? 何故だ!? 何故イルネの身体が……まさか!」
テルンはこの時気づいた。イルネの魔力はネルイにほとんど持ってかれてしまったことに。
だが今すぐにネルイを追うことは出来ない。イルネを助けないと。あの魔物達がこちらにやってくる。
「私はいいから……ほら、腕もなんでか分から、ないけどこんなんだし……」
イルネの両腕には鎧が着いておらず、桃色の光で出来た腕が剥き出しだった。
「っ……」
テルンはほんの少しだけ考えた。そして彼は何を思ったのかイルネを背中に担ぎ、魔物達から反対の道へと一気に走り出した。
「テ、ルン……?」
「僕は君を置いていけない。一緒に逃げるぞ」
「な、んで……」
背中から聞こえる微かな声にテルンは答える。
「僕達は仲間だ。これまでの経緯はどうであれ僕達は同じ存在。だから絶対に仲間を見捨てたりなんかしない。それに……」
テルンはボソッと小さな声で呟く。その顔は少し赤い。
「顔や姿を見たことは無いけど僕は君のことが好きだから。君の真面目な所とちょっと抜けてる所が特に……」
「っ……あり……」
何か言おうとするイルネ。だがそれが叶うことはなかった。
しばらく走ると階段が見えてきた。
「イルネ、今から階段登るから少し揺れるけど我慢してな」
だが、返事は帰ってこない。
おかしい。まだ身体は完全に消えていないはずなのに。
「っ!? イルネ!?」
イルネを見る。消えかかってはいるがまだ彼女の身体は残っている。
だが、彼女に生気はなかった。
そう。既に死んでいた。
しかし、その表情はどこか嬉しそうだった。
「イルネーーーー、」
この後、テルンの絶叫が辺りの空間に響き渡った。




