第68話 魂の喪失
あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします<(_ _*)>
「……ここね」
茶色い髪の女性は黒い穴の前で呟く。
あの子を見つけられない以上、彼女は目標を切り替えた。それは闇の王を倒すことだ。
もし、あの子がルーシャの生まれ変わりだと闇の王が知れば真っ先にあの子が殺されてしまう。それだけは避けなければいけない。そしてーー、
"あの悲劇を繰り返しては行けない"
「今の闇の王は以前より遥かに弱い。強くなってしまう前に闇の王を倒す……!」
そう決意し、ルミは黒い穴の中へと入っていった。
☆☆☆
クロード達とンドネアは相手の隙を狙っているのか互いに黙り合い、しばらくの間沈黙が続く。
だが、先に赤黒いコートを着た男がその沈黙を破った。
「っ!」
「っ! 早い! ぬごっ!?」
「ンドネア!」
男は一気に間合いを詰め、ンドネアを殴り飛ばした。
「くそっ、っ!」
クロードが剣を抜き、男に斬りかかる。だが男はそれを右手で受け止める。
「っ!」
クロードは足払いを仕掛けた。だが、それを見越していたのか、男は大きく後ろへ飛び下がる。そして地面に着地すると同時に手のひらから緑色の球体を放つ。
「くっ……!」
クロードは緑色の球体を真っ二つに切り裂く。途端球体は弾け、緑色の液体が辺りに飛び散る。
クロードの剣や身体に緑色の液体が付着する。それを見た男は一気にクロードとの間合いを詰めてきた。
男はクロードの心臓目がけて一直線に剣を放つ。
「っ! ぐっ!?」
男の剣が迫る直前、クロードは剣で受け止めようとするが、後ろへ突き飛ばされた。
本来、今の攻撃は防ぎきれた。だが、緑の液体によってそれは出来なかった。なぜならあれは相手の防御力を一時的に下げる液体でクロードの身体に付着したことにより彼の防御力が下がっていたからである。
男はクロードが立ち上がる隙を与えず、一気に走る。
がーー、
「させないである!」
男の視界に拳が飛び込む。男は咄嗟にそれを剣腹で受け止めた。
ジュワッ! まるで、熱い鉄が冷たいものに冷やされるかのような音が鳴り響く。
「何っ!?」
「ただの拳ではないである」
そう言いンドネアが笑みを浮かべる。
「ちっ……火属性か」
みるみるうちに剣が溶けていく。男は舌打ちし、剣を捨てる。
ンドネアから距離を取ろうとするが、
「逃がさないである! 爆滅拳!」
ンドネアが地面に拳を叩きつける。それも、燃え盛る炎の拳だ。
拳自体は男に当たらなかった。だが、ンドネアの拳が地面を叩きつけた瞬間、拳から五本の赤い線が男目がけて放たれる。
「っ……小賢しい! 水爆弾」
男は迫り来る赤い線にシャボン玉のようなものを複数放つ。
そのシャボン玉は赤い線に触れた途端、破裂し、水をまき散らした。
そしてジュワワワンッ! と五本全て消化させる。
「ふんっ!」
「っ!」
男はふと後ろに気配を感じ、真横に飛び下がる。その直後、コンマの差で復帰したクロードの剣が男のいた位置に斜めに振り下ろされた。
その時、男のフードの頭が切り裂かれ、布切れがヒラヒラと地面に落ちた。
「なっ!?」
「首が……!?」
クロードとンドネアは目を見開く。フードが切り裂かれ、男の顔が顕になった。
かのように思えた。だが、切り裂かれたフードの中に男の頭はなかった。
男の正体。それは、デュラハンだった。男の正体を知ったンドネアは笑みを浮かべる。
「……っ」
男はフードが切り裂かれても動きを止めることはなく、剣を振り下ろしたクロードを蹴り飛ばす。
「がっ……」
続いてンドネアに近づき、拳を構えーー、
「なっ!? ぐああああぁっ!」
突如男は手で目を隠し、苦しむ。その男の目の前には明るく光る拳。
「ほう。やはりアンデッド族にはこの属性が効くであるか」
そう言うとンドネアは男に歩み寄り、
「光拳! である!」
パアァッ! と光り輝く拳を男の心臓にめり込ませた。
「がっ……がはっ!?」
ンドネアの拳はどんどん男の身体にめり込みーー、
メキメキィ……
その直後、鈍い音が鳴り響き、ンドネアの拳は男の心臓を貫通した。
「なっ……おのれぇ鎧、騎士……!」
男はそう言いビクンビクンと身体を跳ねさせた後、動かなくなった。
男が完全に動かなくなったのを確認した後、クロードがンドネアの元へ近づく。
「流石だンドネア」
「いやぁ、たまたまであるよ隊長」
と、彼が言うのも実はンドネア、以前は光属性の攻撃技を持っていなかった。
だが、あのお方を捜すに辺り、いつかアンデッド族と戦う時が来るかもしれない。そんな時のために一つだけ覚えておいたのがあの技だ。
ンドネアとしてはアンデッド族に光属性の攻撃技がよく効くのは知っていたがまさかここまで効くとは思っておらず、内心驚いている。
「それでもお前のおかげで早く倒せたのは間違いない。……どうやら辺りの空気も落ち着いたようだな」
デュラハンを倒したことで、辺りの重苦しい雰囲気は消えていた。
「隊長、早く進むである」
「うむ」
二人は更に奥へと走っていった。
しばらくすると、先ほどと同じように大広間へと出た。
辺りは薄暗く、先ほどと同じように重苦しい雰囲気が出ている。灯はと言えば両サイドに三つずつ並ぶ紫色の炎くらいだ。
「っ……隊長! 誰か倒れているである!」
大広間の中央には人が倒れていた。それも一人ではない。たくさんの人が倒れている。
その中に、クロードにとって見覚えのある金髪の女性がいた。
「っ!? ルーシャ様!?」
ルーシャ。彼にとっては恩人とも言える女性だった。
☆☆☆
かつて、クロードはクロスという名の冒険者だった。
剣士という役職で数多くの依頼をこなし、それなりの名声を上げた人物だ。
家族は娘との二人暮らし。妻は病気で亡くなり、両親は訳あって絶縁状態。
それでも、クロスは幸せだった。それは、家に帰れば愛する10歳の娘が待っていてくれたからだ。
おかえりなさいパパ。そんな言葉を楽しみにその日もクロスは依頼をこなし、家に帰った。
だが、家の中はまるで地震でも起きたのか家具や電球が地面に落ち、壊れたもので散乱していた。
「なんだこれは……! クロネ!」
クロスは地面に落ちている割れたガラスなど気にせず必死に部屋の奥へと足を踏み入れる。
家の居間。そこにはーー、
「あ? なんだてめぇ」
見知らぬ複数の男が何かを取り囲んでいた。そのうちの一人が呆けた様子でクロスを見る。
男達の手には時計や指輪、銀貨などがあり、明らかに盗賊だった。
そんな男達の隙間からあるものが目に飛び込む。
そこには愛する娘が血塗れになって倒れていた。
次の瞬間、クロスの頭の何かがプツンと切れた。
その後、クロスには意識が一切なかった。気がつくと、男達がみんな倒れていた。
その人数は四人。
そして、自身の身体にはいくつもの切り傷、そして腹部に複数のナイフや剣が刺さっていた。
「が……っ……だこれ」
クロスは地面に倒れる。
なんでこんなことになってしまったのだろうか。
自分は……娘は何も悪いことをしていないのに。
なぜ。
……そうだ。
あいつらが悪い。
全てあいつらのせいだ。
アイツらがこんなことをしなければ……
あぁ憎い。殺したというのに復讐の心は消えない。
恐らくまだ一人、殺していないやつがいるからだ。
けど、晴らしたくても晴らせない。
もう自分は動けないから。
憎い……人間が……
と、その時ーー、
「けほっ……ぱ、ぱ……」
「っ!? く、クロネ……」
まだ娘の意識はある。助けなれければ。だが、身体が動かない。
クロネ……ごめんな。パパ、守れなかった。
それを最後にクロスの意識はなくなった。
次に目を覚ますと、そこは白い空間だった。
「っ……」
目の前には謎の金髪の女。
「……誰だ」
すると金髪の女はにこりと微笑む。
「えと……簡単に言うと自然神ルーシャ。神様です」
訳がわからん。ここは天国か? もういい。こんなとこ早く出て眠りにつきたい。お前の顔なんか見たくない
「待ってください、話を聞いて欲しいんです。大切なお話です」
女は俺に話をした。これから闇という軍勢がくること。それに対し女は立ち向かうこと。
それにあたってある保険をかけたいとのこと。
そのために、俺の手を貸してほしいと。俺はもちろん断った。だが、女は俺の心を見透かしているのか、こんなことを言ってきた。
対価として娘の命を救うと。更に、俺の命を人間としてではないが別の存在として生き返らせると。だが、俺は信じられなかった。そもそもこの状況が信じ難い。夢ではないかと疑ったからだ。
だが、女はそれをやってのけた。気がつくと、俺は居間に戻されておりクロネは服こそ血だらけで真っ赤に染っているが生きていた。そして俺の身体はいつの間にか黒い鎧を着ていた。中身を確認したが少なくとも人間の身体ではなかった。
その後、俺は女、いや、ルーシャ様の力になることを約束した。
その内容はこうだった。来たるべき時に私、いや、私じゃないかもしれないけど私を見つけ、保護して欲しいと。
最初は何を言っているのか全く理解できなかった。
だが、ルーシャ様の説明を聞いて理解した。そして、見つけるためのヒントとしてルーシャ様の魔力の気配を教えられた。温かくて優しい魔力だ。これと同じ魔力が感じ取れればその子はルーシャ様の言う保護対象の子らしい。
また、来たるべき時にはこれから戦う闇の王とその配下が復活し、ルーシャ様を狙う可能性があるらしい。
その可能性を絶つ、またはその復活を防ぐ為にもその闇の王の配下達を倒して欲しいと頼まれた。
俺一人ではなく、似たように死に、復活を果たした他の五人と共に。
☆☆☆
「ルーシャ様っ!」
「隊長! 待つである!」
制止するンドネア。だがクロードは一目散にルーシャの元へと駆けつける。
「ルーシャ様! 私です、クロードです!」
「ん、クロード……?」
クロードがルーシャを抱き抱え、声をかけるとルーシャは目を覚ました。
「そうです! クロードですルーシャ様! 助けに来ました!」
「っ……ありがとう」
ルーシャの言葉に微笑むクロード。外野の声など全く聞こえない。
「さっ、早くここから脱出しましょう」
そう言い、ルーシャを背負うクロード。
「うん……でもその前に……」
ザシュッ。
「……へ?」
クロードの首に激痛が走る。そして首から光の霧のようなものが溢れ出す。
「……る、ルーシャ、さま?」
驚いた表情でそう呟き、クロードはその場に倒れた。
「た、隊長おおおおおおぉ!」
その様子を見たルーシャは思わず笑いをこぼす。
「あはっ、あはははははは! 哀れね、鎧騎士さん?」
次の瞬間、ルーシャは黒い煙に包まれる。
少ししてその煙の中から漆黒の翼が姿を現す。その正体はーー、
「逢魔竜!?」
上半身は人間、下半身は竜という身体を持つ魔物。逢魔竜ルビアナ。なんと彼女はルーシャに化けていたのだ。
「そう、正解。アデンが負けたからあなた達をここで待ち伏せていたの」
ルビアナは笑みを浮かべる。
「それにしてもこんな簡単にあたしの化け術に引っかかるなんて馬鹿にもほどがあるわ、あははははは!」
「くっ……」
ンドネアは唇を噛み締める。拳はこれまでにないくらい強く握られていた。
「っ! 光拳!」
ダンッ! と地面に拳を叩きつける。その拳の周囲からルビアナに向かって光の線が放たれる。
「ふふ、はあっ!」
途端、笑みを浮かべていたルビアナから表情が消え、手に持っていた黒い槍のようなものを迫り来る光の線に突き刺した。
光の線は黒い槍によってたちまち消える。
「っ! うおおおおおおぉ!」
一気にルビアナとの間合いを詰めるンドネア。
「……愚かね」
それだけ言い、黒い槍を放つ。途端、赤い衝撃波が黒い槍に纏う。
ガキンッ! ンドネアの拳とルビアナの槍がぶつかり合う。だが、次の瞬間、ンドネアの拳にあるガントレットが破壊された。
「なっ……! がっ!」
驚くンドネアにルビアナの尻尾が飛んでくる。ンドネアはそれをかわせず、横に吹っ飛ばされた。
「く……」
起き上がろうとするンドネア。その鎧の胴体は先程の衝撃により少し凹んでいる。早く隊長を助けないと。そんな想いが彼を立ち上がらせる。
だがーー、そんな彼の身体を漆黒の槍が貫いた。
「がっ……!?」
「無駄よ。だってあの男はもう死んでいるのだから」
そう言いンドネアから槍を抜くルビアナ。腹部に穴が開き、大量の光が溢れ出す。
「そ、んな……」
クロードの身体はすでにほとんどの光が放出されており、身体が消えかかっていた。
そして、ンドネア自身の体もまた同じように。
普通の人間と違い、肉体が存在せず、魂だけがそこにある。鎧という器の中に。その鎧が損傷した今、魂が溢れ出す。
「た、隊長……すまない」
ンドネアはそう言うと意識を失った。腹部に開いた穴による魂の喪失が早かったのだ。
やがてンドネアの魂はどこかへと消えた。その場に残されたのはンドネアが着ていた鎧だけであった。
そのタイミングと同時にクロードの魂もどこかへと消えてしまった。




