第72話 立ちはだかる者達
トルメ、ツィー二人の鎧騎士と合流した後、俺達は先へと続く白い道をひたすら走っていた。
どうやらこの空間は迷路のような作りをしており、道中落とし穴や矢が飛んでくるといったトラップや行き止まりといったものが時折出てくる。
特に行き止まりが面倒くさい。先程五本の別れ道があったがそのうち四本の道が行き止まりで俺達はその行き止まり全てに引っかかってしまった。
そのせいでかなり時間がかかっている。そんな時、戦闘を走るツィーがボソッと呟いた。
面倒くさいと。
更に何か呟いた途端、ツィーが持つ大剣が巨大化し、目の前の行き止まりの壁をぶち破った。
トルメいわく、強行突破らしい。
「いぃぃやああぁ!」
ツィーが再び大剣を振り下ろす。
もはや何度目なのかもう分からない。にしてもあの剣強過ぎるだろ!? いや、本人が強いのか?
そう思っているとツィーによって壁が破壊され、新しい道が現れた。
いや、正確には道ではなかった。広いから多分また大広間だ。
「トルメ!?」
壁の向こうからトルメを呼ぶ声が聞こえてきた。
と、先陣を切ったトルメが叫ぶ。
「あっ、副隊長! ここにいたんだね! ちなみに他にもいるよ」
俺も破壊された壁を乗り越えるとそこには複数の人影が見えた。
「ツィー! それにお前は……」
俺から見て右側に二人の人影。一人は前にマッドレインを訪れた時に一目見た青い鎧騎士。
そしてその後ろにいるのはーー、
「ルミ姉っ!?」
「っ! 和樹!? それに……」
思わず叫んだ声にルミ姉も気がついたのかこちらを見て驚く。
「っ! ここまで来るとは愚か者め!」
「っ! ニブルヘイド……!」
そう言い、魔獣は俺に向かって氷柱を放ってきた。
だがーー、
「暴風」
トルメが俺の前で風を起こし、氷柱を吹き飛ばす。
「何っ!?」
驚くニブルヘイド。更に口を開け、光を集める。
だが、それを青年が手で静止した。
「ニブルヘイド、少し待とう」
「っ! 何故だ? 今が好機だろう」
「まぁまぁ、ちょっと話がある人がいてね」
何やら言い合っている間に俺達はルミ姉達と合流する。
「和樹、どうしてここに……?」
「……話はあいつらを倒してからにしよう」
ルミ姉の疑問に答えようとするが、ツィーに止められた。そうだな。今はあいつらをなんとかしないとな。
俺は魔物達に向き直る。
すると、ブラウン髪の青年が俺達の前に出てきた。って、え?
「リブル……?」
「やぁ和樹久しぶりだね。アステムの時以来だね。フィアスは元気?」
「元気だけど……お前、どうして」
「どうしてここに? って言いたいかい? そうだね、簡単に言えばあのお方の命令だから」
「あのお方……?」
「そ、あのお方。闇の王」
「「「「「っ!?」」」」」
リブルがそう言った途端、周囲の雰囲気が一気に変わった気がする。驚く者、警戒する者と様々だ。
「ふむ、どうやらみんなあの方に用があってここに来ているみたいだね」
「母様と姉様はどこ!」
と、ここで今まで黙っていたオルフェが割って入る。その表情は怒っている。
「おや? 君は……ふむ、ニブルヘイドが連れてきた子達か。彼女達はこの奥にいるよ。ま、通すつもりは無いけどね」
「リブル、そろそろ話を畳んでもらえる? 早くこいつらを潰したいんだけど」
「そうだね。これ以上増援が来ると困るし……」
そう言うとリブルの雰囲気が変わった。先程までのおちゃらけた雰囲気はなく、無表情だ。
「……ニブルヘイド、ルビアナ、彼らを潰すよ。手段は問わない」
「ふふっ。了解〜」
「ふん、当然だ」
「「「「「っ!」」」」」
俺達の方を向くリブル達。みな殺気を放っており、俺達は気を引き締めた。
『シロ、カードの中に戻っておけ。ここからは激戦になる』
『了解です主、ご武運を』
シロは俺の肩からおり、カードの中へと戻っていった。
「あら? こないの?ならこっちからいかせてもらおうかしら!」
まず動き出したのはルビアナと呼ばれた黒い翼を持つ竜だった。単なる竜ではなく、上半身は人間の女の姿をしており、下半身は竜の身体をしている。
「はあぁっ!」
翼を広げ、空を飛ぶ。
「グガアァァァ!」
と、ニブルヘイドも続いて動き出す。
物凄い勢いで走ってくるニブルヘイド。俺達に近づき、巨大な爪を振り下ろす。
ガキンッ!
「こいつは僕が引き受けよう」
「待って、僕もやる!」
テルン、トルメがニブルヘイドの爪をそれぞれ槍と斧剣で止め、名乗りを上げる。
その傍でツィーが呟く。
「……なら私はあの空を飛んでるやつを相手する」
そう言うと大剣を握り、空を飛ぶルビアナの元へ向かう。
「なら俺は……」
「和樹、あなたはその子のそばにいて。残ったあいつはあたしがやるわ」
リブルの元へ向かうルミ姉。
「えっ? あっ、そういうことか」
俺の傍には今オルフェがいる。俺が動くと彼女を守れるやつがいなくなる。
リブル達から新手がこないとも限らないしましてや戦いの途中で狙われないとも限らない。オルフェが襲われる可能性を考えればここはオルフェを守るべきだ。
「オルフェ、端っこに移動するぞ。ここだと巻き込まれる可能性がある」
「うん、分かった」
俺とオルフェは端っこにある空洞に行き、そこからルミ姉達の戦いを見守ることにした。
☆☆☆
「ガアアアァッ!」
ニブルヘイドは少し後ろに下がると口から冷気を放った。
「炎渦!」
それに対しトルメが手のひらから炎を放つ。
ぐるぐると円を描きながら冷気へ放たれ、ぶつかり合う。
蒸発し、白い煙がたちこむ中、テルンが槍でニブルヘイドに突っ込む。
ガンッ!
だが、ニブルヘイドの左手でテルンの放った槍は止められた。
ニブルヘイドはそんなテルンに余った右手の爪を振り下ろす。
ガキンッ!
これもトルメの斧剣によって止められた。
「おのれ……!」
「トルメ、後ろに下がれ!」
「うん!」
テルンの合図とともに一気に後ろに飛び下がる。次の瞬間、ニブルヘイドが尻尾で凪払おうとしたが空振りした。
「ならこれはどうだ? ふんっ!」
ニブルヘイドは地面に向かって冷気を放つ。するとたちまち周囲の地面が凍りつく。
ニブルヘイドは凍った地面を右拳で叩き割る。途端、氷の破片が辺りにまき散る。
「くらうがよい!」
ニブルヘイドの氷破片に加え、背中から放たれた無数の氷柱がトルメ達に襲いかかる。
「ちっ! これじゃあジャストガードが使えねぇ」
ジャストガードは相手の攻撃を受けるタイミングでガードしなければ成功しない。この場合大量の氷破片や氷柱が飛んでくるため不可能だ。
「まかせて! 荒れ狂え! 炎柱!」
トルメが唱えた途端、斧剣の先端が赤く燃え盛り、地面へと降り注ぐ。
それは凍った地面を次々と溶かし、その炎はニブルヘイドへと襲いかかる。
「っ!? ぐっ……!」
慌てて飛び下がるニブルヘイド。しかし炎の熱によって身体の氷は全て溶けていた。この空間自体の温度も高くなっており、再び氷系統の技を使うことは不可能だろう。
「ならば……!」
ニブルヘイドは再び口を開ける。冷気を警戒するトルメ達だが、今度は大量の水が口から放たれた。
「ジャストガード! ぐっ……!?」
青い障壁で防ごうとするが、ニブルヘイドの放った水の水圧が強く、押される。
「はああぁっ!」
「むっ!」
テルンが水を受け止めている間、ニブルヘイドの隙をつき、横から斧剣を振るうトルメ。
「ガアッ!」
ニブルヘイドの左足に横一線の傷が入る。
ニブルヘイドは放水を止め、苦痛の声を上げ、左腕でトルメを薙ぎ払う。
「ぐっ……!」
「トルメ!」
幸いダメージは少なく、すぐに立ち上がるトルメ。
「限界突破!」
途端、トルメの鎧が緑色から黒色へと変化する。
「……なんだその力は」
ニブルヘイドは訝しげな視線をおくる。
「僕自身の力を底上げしたのさ。はあああぁっ!」
トルメは斧剣を上に掲げ、叫ぶ。
それに伴い、斧剣の周囲に赤黒いオーラがまとう。
やがてそれは巨大な玉となる。
「黒炎弾!」
ニブルヘイドに向かって赤黒い玉が放たれる。
「ふん。そんなもの、避ければ……!?」
ニブルヘイドは横に逃げようとした。だが、その足が動かなかった。場所は左足。その足にはトルメが先程つけた傷があった。
「っ……! 貴様!」
ニブルヘイドは避けるのを諦め、水を口から放つ。
赤黒い玉は水によって冷やされ、その場にゴトンと転がる。
しかし、そこからニブルヘイドが反撃することは叶わなかった。
「がっ……!」
「これで終わりだ」
いつの間にかニブルヘイドの腹部に回り込んでいたテルンが下から上へと腹部に槍をぶっ刺す。
ニブルヘイドの背中は大量の氷柱に覆われており硬いが、腹は無防備だった。テルンは隙をつき、そこを狙った。
「ガハッ……そ、んな……」
ズボッと槍が抜かれ、腹部に大穴が開く。その大穴からはとめどなく血が溢れ出す。
一気に血を失いよろめくニブルヘイド。だが、その巨体ゆえにまだ息はある。
「ぐ……お、のれ……」
ニブルヘイドは最後の足掻きなのか、地面に右手を当てる。途端、ニブルヘイドの周囲の地面に亀裂が入る。
「させない!」
グシュッ!
「ガッ……」
トルメがニブルヘイドの右手に斧剣を刺す。神経を貫かれた右手はピクリとも動かなくなる。
その間にもどんどん血を流し、大量の血を失ったニブルヘイドはその場で力尽きた。




