第60話 それぞれの気持ち
翌朝、宿の外から何やら騒ぎ声が聞こえ、俺の目は覚めた。
「ん……なんだ……?」
ドタドタッ! と誰かが階段を駆け上がる音が聞こえる。なんだなんだ?
そう思っているうちに俺の部屋のドアがバンッ! と勢いよく開いた。へ? 俺の部屋?
「和樹!」
そこにいたのは、水色のドレスを着たベージュの髪の少女だった。
「え、エルシィ!?」
なんでここにいるんだ!?
そう思っているとエルシィは部屋の中を見渡し、その中にいるあるものを見て身体が止まった。
「なにこの白い子!可愛いー!」
「ムギュ!? 痛い痛い痛いですぅー!」
シロに狙いを定め、目にも止まらぬ速さでシロを抱きしめるフィアス。
なんて速さだ……全く見えなかったぞ。
「喋るキツネちゃん!? 可愛い! ……じゃなくて早く来て! お父様が待ってるわ!」
本来の目的を思い出したのかそう言い俺の右手を引っ張りドアを出る。左腕にシロを抱えて。ん? お父様?
俺は疑問を持ちつつも、エルシィについて行く。
辿り着いた先はバルへイム城だった。以前来た時と変わらずベージュに色塗られた高く分厚い壁は威圧感がある。
門をくぐる際、兵士達に止められたが、エルシィが「お父様の急ぎの用よ!」と言うとあっさりと通された。急ぎの用?
疑問のまま城の中へ入る。
なんとなくだが今日は兵士やメイドさんの数が多い気がする。なんかあったのだろうか。少し心配だ。
2階へ上がり、長い渡り廊下を歩く。
いくつものドアが両サイドに並ぶ中、その中の1つをエルシィが開けた。
「入って」
「お、おう……お邪魔します……っ!?」
そこにはまるで家族の仇をうつかのような表情をしながら腕を組むバルへイム国王がいた。
「……そこに座りなさい。む? その白い獣は何だ? ……まぁいい見る限り害をなすものではないか。エルシィ、お前はわしの隣だ」
「は、はい……」
俺は国王様に促され、対面になる形でソファに座る。右斜め前にはエルシィがいる。
「……」
「……」
国王様もエルシィも黙ったまま口を開かない。ねぇ、これって何!?
そう思っていると国王様は深い溜息をつき、真剣な表情で口を開いた。
「……娘から少し話を聞いた。その上でお前さんに聞きたいことがある」
……あれ? なんかいつもと違う。なんか怖いぞ……
しかも急にお前さんとか言うし俺は何かやらかしたのか?
「はい……どうぞ」
すると次の瞬間、国王様は予想外の言葉を述べた。
「……和樹殿は娘のことをどう思っている?」
「……へ?」
予想だにしないことを聞かれ、戸惑う俺。
すると顔を赤くしたエルシィが国王様の頭をどこから持ってきたのか、ハリセンのようなものでバシーン! と叩いた。
「痛い!? エルシィ、親に向かって……」
「大事な話があるから和樹を呼べって言うから呼んだのにお父様は急に何を言い出すの!?」
「いや、それはお前が和樹殿の元へ向かう際に和樹殿のことを未来の……痛っ!?」
「お父様のバカっ!」
エルシィはそう叫ぶと部屋の外へと走り出てしまった。その表情はとても赤い。
そして部屋には俺と、娘に叩かれバカ! と罵られた国王様の2人だけが残った。……気まず過ぎる。
その時、まるでこのタイミングを待っていたかのようにドアが開き、女性が入ってきた。
「っ……! エルネス……」
「っ!?」
その女性の名はエルネス・リーブ・バルへイム、エルシィのお母さんだ。
彼女は俺の方を向き、手招きした。
「和樹さん、お話があるのでちょっとこちらに来て貰えますか?」
「おいエルネス、わしはまだ和樹殿と話が……」
「あなたは黙ってそこにいて下さい」
「は、はい……」
なんか力関係が垣間見えたような……
そう思いつつ、俺は部屋を出てエルネスさんについて行った。
廊下を歩き、国王様がいた部屋から2部屋ほど隣の部屋に入る。
するとそこには先程部屋を飛び出したエルシィ。更にーー、
「フィアス?」
フィアスがいた。驚いたのは俺だけでフィアスはまるで俺がここに来るのが分かっていたようだ。
「和樹」
フィアスは俺を見ると小さく微笑んだ。
「私の夫が娘にあなたを連れて来なさいと言っていたのを聞いてせっかくだしついでに私からもフィアスちゃんを交えてあなたとお話がしたかったからここに呼んだの」
と、俺の後から部屋に入ってきたエルネスさんがそう言った。
この部屋にエルネスさん、エルシィ、フィアス、俺の4人が揃った。
ちなみにシロはいまだにエルシィの腕の中だ。もはや抱きぬいぐるみみたいになっている。
エルシィからシロを取り返そうと思ったが、彼女の顔を見てやめた。その表情が不安そうにしていたからだ。
少し苦しそうにしてるけど頑張ってくれ……
エルネスさんは全員を見渡し、口を開いた。
「まず最初に和樹さん。今日は夫のせいでわざわざこちらに来ていただいてすみません」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりいいんですか? 話がまだ終わってなかったんですけど」
「それについては問題ありません。私があの人に代わって引き続き話をします。早速ですが和樹さん。娘とフィアスちゃんのことどう思っていますか?」
「っ!? どうって……えと……その……エルシィもフィアスも明るくて優しくて良い子だと思います」
「では好きか嫌いで言うとどうですか?」
好きか嫌いか?
「それでしたもちろん好きですよ?」
「「っ……!」」
「ギュゥ!?」
エルシィとフィアスは俺の言葉に少し顔を赤くし、シロはエルシィにきつく抱きしめられ、白目を向きそうになってる。
「ふふっ。それは異……いえ、今はこの辺にしておきましょう」
「はぁ……」
フィアスとエルシィの反応を見てクスクスと笑うエルネスさんの考えがよめない。
「これからも二人と仲良くしてもらえるかしら?」
「はい。ぜひこれからもよろしくお願いします」
その後、無難な話が続き、いつの間にかお開きの時間を迎え、解散となった。国王様の話はと言うと、エルネスさんが断った。絶対後で絞られるな。
「またねエルシィ」
「またなエルシィ」
「えぇ、またねフィアス、和樹。今日はありがとう」
そう言い、城の中へ戻っていった。
「……じ、じゃあ和樹、私ちょっと用事があるからここで」
「おう、またなフィアス」
「うん、またね和樹」
「……はぁ」
二人と別れたあと、俺はため息をつく。あの時のエルネスさんの問いが脳裏に浮かぶ。
では、好きか嫌いかで言うとどうですか?
なんでわざわざあんなことを聞いてきたのだろうか?
好き? それは友達としての好きじゃないのか? 俺は今までの17年間生きてきた中で恋愛関係なんてゼロだ。そのせいか全く分からない。アニメとかラノベを読んでるからこういったラブコメ系には敏感だと思ったんだけどな……
全く分からん……
頭を抱える俺はふと腕に乗る感触を思い出し、腕に抱えるシロを見た。
ぐっすりと眠っていた。そりゃそうか。ずっと誰かに抱きしめられてたからな。
エルシィに。そして途中からフィアスやエルネスさんにまで抱きしめられていた。疲れて当然だろう。俺は腕の中で眠るシロの頭を撫でた。
「……今日はありがとなシロ。ん?」
その時、妙な感覚が頭をよぎった。なんだろう、まるで誰かに見られているような……
辺りを見渡すがそこには誰もいなかった。




