第54話 屋敷の異変
バルへイムについた後、アレスとユーフィはギルドへ、エルシィはバルへイム王の元へ向かい、俺はフィアスと一緒にアストレイン家へと向かっていた。
なぜ俺も彼女の家に向かっているかというと……
「フィアス、やっぱり迷惑かけるから俺は宿屋で寝るよ」
俺がそう言い、宿屋の方へ歩こうとするとーー、
ガシッ。
俺の腕をフィアスが両手で掴みーー、
「駄目です。和樹さんはまだ体調が良くありません。宿屋なんかより私の家に泊まった方が早く回復できます。さぁ来てください」
俺を自身の家へと引っ張って行く。
やがて茶色に色塗られた大きな屋敷が見えた。ここに来るとフィアスはやっぱりお嬢様なんだなって再認識するな。
と、フィアスは何故か扉の前で立ち止まる。
「あれ? 何か忘れているような……まぁ、大丈夫ですよね。さ、入って下さい」
そう言い、ドアノブを引いて扉を開けた次の瞬間ーー、
「お嬢様ぁーーーーーーーっ! ぐほっ!」
家の中から白髪の老人がまるで弾丸のようなスピードで飛び出してきた。そして両手でフィアスを抱きしめようとするも、彼女はサッと横に避け、老人は花壇へ頭から突っ込んだ。
「っ……和樹さん、どうぞ入って下さい」
何事も無かったかのように振る舞うフィアス。この人、なんかどこかで……あっ!
「ブローゼン……さん?」
俺が声を漏らすと、聞こえていたのか、老人は花壇に頭を突っ込んだままグッドサインを出した。とりあえず、助けてあげようよ……
「あれ? フィアスじゃない! シェルカ姉さんーー!」
次に家の中から出てきたのは前にフィアスと出かけた時に出会った女性、リシェットさんだった。
彼女はフィアスを見るや姉の名前を呼んだ。
だが、返事が帰ってこない。
「あれ? さっきシェルカ姉さん1階のリビングに居たはずなんだけど……まぁいいわ、2人とも入って。あ、あと執事さんも」
途端、花壇に頭を突っ込んでいた老人はシュタっとその場に立つ。頭に土を被って。
「かしこまりましたリシェットお嬢様! それとフィアスお嬢様、おかえりなさい! 爺はとても、とても心配でしたぞおおおお!」
やはりブローゼンさんだった。
中へ入るとまず目に入ったのが長い廊下。その上には茶色とベージュが混ざった高そうな絨毯が敷かれており、天井には間隔をあけてシャンデリアが設置されている。
お嬢様ってすげぇ……元の世界でも1人こんな家の奴いたなぁ。
長い廊下の両サイドにはこれもまた間隔をあけて幾つもの扉があり、まるで迷路のようだ。
リシェットさんはそのうちの1つの扉を開けた。
「シェルカ姉さん、フィアスとお友達さんが帰ってきたよーって、あれ?」
丸いテーブルを囲むようにして4つ椅子が置かれており、その近くには白いソファがいくつかある。
けど、そこには誰もいない。
「おかしいなぁ……シェルカ姉さんもいないしさっきいたお手伝いさんもいなくなっちゃってるし」
その時、ガチャッとリビングに繋がる奥の扉が開いた。
そこから白衣を着た男が現れる。
「あっ、料理長! シェルカ姉見なかった?」
「……」
料理長と呼ばれた男は何も答えずリシェット姉さんに近づいてくる。
「リシェットお嬢様、引き下がって下さい。様子がおかしいです」
ブローゼンせんはリシェットさんを後ろに下がらせ、鋭い目で白衣を着た男を見る。
「っ……」
すると男はニヤリと笑みを浮かべる。
「っ! むんっ!」
次の瞬間、男は懐から数本のナイフを投げてきた。ブローゼンさんは自信が隠し持っていたナイフを取り出し、全て地面に叩き落とした。
「……誰の命令でこんなことをしている?」
ブローゼンさんがいつもと違い、まるでこれから戦地へ赴くような表情と低い声で言う。
だが、男は何も答えない。
「っ……!」
男は壁を利用し、斜め上からブローゼンさんへ拳を向ける。
「っ! ふんっ! 甘いわ!」
「ごはっ……」
ブローゼンさんは男の拳をいとも容易く受け止め、男の鳩尾を思い切り殴る。
男は唾液を垂らしながらその場に倒れた。
「爺、何が起きているの……?」
「分かりません……ただ、この屋敷に何か異変が起きているのは確かです。お嬢様、リシェットお嬢様、和樹殿、ここは1度逃げた方がよろしいかもしれません」
「分かったわ。ひとまずここからでましょう」
そう言い、廊下への扉を開けるが、そこはたくさんの本棚がある部屋だった。
「……どういうことだ?」
「部屋が変わってる……?」
「お嬢様、和樹殿、決してはぐれてはなりませぬ! その扉も全員同じ部屋に入るまでは閉めてはなりませぬ!」
ひとまず全員本棚の部屋へと入る。
「何が起きているの……」
「移動する事に変わる部屋……お嬢様、これは思ったより事態が深刻かも知れません。通信魔石でギルドに連絡して警備隊に頼んだ方がよろしいかと思われます」
「分かったわ。……あれ? 繋がらない。どうして……」
ブローゼンさんに言われ、リシェットさんは通信魔石をポケットから取り出し、連絡を取ろうとするも繋がらない。
「っ……てことは妨害電波も施されているようですな。さっきまでは何も無かったのにこの短時間で一体何が起きている……?」
「きゃっ! 上に何かが……」
フィアスの声に上を見上げると本が羽を生やして飛んでいた。
「くそ、魔物まで入り込ん……」
「ブローゼンさん、むしろ本が魔物化してませんか?」
俺はブローゼンさんに意見を出す。
見た感じ本棚に入っていた本がいくつか空きがある。てことは本自体が魔物化した可能性が高い。
「和樹殿の言う通りですな。和樹殿、私一人ではお嬢様2人をお守りすることが出来ません。加勢していただけますかな?」
「もちろんです。ならフィアスは俺が守ります」
気づいたら俺はそう口にしていた。特に意識してではなく。
「ふぇっ?」
「なぬ! フィアスお嬢様は私が……と、言いたいところですがそうしましょう。2人は大変仲がよろしいですしな」
ブローゼンさんの含みのある言い方にフィアスがボンッと顔を赤くする。あまり言うとフィアスが恥ずかしがって可哀想だから言い過ぎないでくれよ……ちなみに俺も恥ずかしい。
『アーリー、いけるか?』
『主、状況は大体把握しております。いつでもどうぞ!』
『分かった! トレース・オン!』
途端、力がみなぎってくるのを身体で感じた。気づくと俺は黒の外套に身を纏い、右手に細長い剣、左手に楕円の形をした黒い盾を持っていた。
『アーリー、この剣と盾は……』
『以前は初めてだったので私の力も未熟で見た目しか生成出来ませんでしたが今回は完璧にトレース出来たので剣に加えて盾を生成しました! どうですか?』
アーリーに言われ、剣と盾を見る。
俺に気を使ってか、両方とも軽く、それでいて斬れ味も頑丈さも申し分なさそうだ。
『ちょうどいいと思う。ありがとうなアーリー!』
『はい! お役に立てて光栄です!』
「私も和樹さんを守ります!」
そう言うと青い双剣を両手に持つフィアス。
「きゃー、お互いを守り合うってなんかいいよね! お姉ちゃん嬉しいよ!」
リシェット姉さん、恥ずかしいからいちいち言わないで。
その後、俺達は次々と扉を開けて駆け抜けた。その度に出会う屋敷内の人間や魔物は全員俺達に敵対していた。
敵対する使用人達を気絶させ、魔物化した家具を切り伏せていく中、風呂場の魔物を一掃した所でブローゼンさんが口を開いた。
「お嬢様、和樹殿、これは恐らく誰かが屋敷内の者達を操っている可能性が高いと思われます」
ブローゼンさんの話にリシェット姉さんが賛同する。
「私もそう思うわ。使用人たちの様子がおかしい所を見る限り上から誰かが操っているわ。でも、あの短時間でどうやって……」
「もしかしたら元からこうなることを想定して内部の誰か、もしくは何者かが事前にこの屋敷を支配していたかもしれません。お姉様や爺にはいつも通りの顔を見せといて」
「俺もそう思うな」
フィアスの話は合っている気がする。警備的に俺達が入った玄関から以外は結界がはられていて屋敷内のものでない限り入れないし何らかの方法で乗り込まれたとしてもリシェット姉さんが出迎えるあの短時間でやったとは考えにくい。
この陰謀を立てたのが屋敷内の人間なら前者は別だが。
屋敷内を駆け抜け、俺達はようやく2階への階段を見つける。
だが、階段を上り詰めた先に白いロングの髪の女性が仁王立ちしていた。
「っ……シェルカ姉様?」
「っ! シェルカ姉さん!」
「シェルカお嬢様!」
俺以外の3人が彼女の元へ駆けつけようとするが俺は嫌な予感がした。
「……電撃」
するとロングの女性は手のひらを地面へ向け、足元に電撃を放った。3人の足元を電撃が走りかける。
「っ! シールド!」
命中する直前に俺が割り込み、盾で防いだ。
「シェルカ姉さん……」
「どうやらシェルカお嬢も敵の手に落ちているようですな……」
シェルカ姉さんと呼ばれた女性はこちらをじっと見る。悲しそうな表情で言う。
「……フィ、アス……逃げ……て」
そう呟くと女性は手を挙げ、電撃を放ってきた。
「くっ……ぬおおおおお!」
「爺!?」
ブローゼンさんは拳を振るうこともなく、彼女の電撃を身体で受け止めた。
「申し訳ありませんお嬢様、和樹殿、私は彼女の相手をします。和樹殿、リシェットお嬢様とフィアスお嬢様をどうか守って下され! むんっ!」
次の瞬間、ブローゼンさんはシェルカ姉さんの近くの地面をありったけの力で殴りつけた。途端、シェルカ姉さんとブローゼンさんが乗る地面が崩壊し、1階へと落ちていく。
「爺っ!?」
「ブローゼンさん!?」
「3人は先に行ってくだされ! あとは任せましたぞ!」
最後にそう聞こえ、ブローゼンさんはシェルカ姉さんと姿を消した。




