第53話 鎧騎士の思惑
桃色の騎士は自分の胸に手を当てる。
「私の名はイルネ。んでこのゴツイのがンドネアです」
「ゴツイとは失礼な……あと指を指すでない。とりあえず2人ともよろしくである」
そう言い、アレスに手を差し出す。が、アレスはなにか罠があるかもしれないと思いその手を握れない。
すると、ンドネアの方からアレスの手を握った。
「はっはっは! そなたたちは我々を警戒しているようだがそれは無意味だ。我々は必要に応じて邪魔者を排除するが別にそなたたちと戦う気はない」
「怪しいって顔していますね。まぁ無理もないです。現に隊長が負傷者を出してますから。話が逸れたので戻します。私達はある集団に属しており、この鉄とミスリルで出来た特殊な鎧を着ている私達はクインテット騎士団と呼ばれています」
そう言うとイルネは指を2本立てながら話す。
「私達の目的は2つあります。軽く話しますが1つ目は私達クインテット騎士団はある人を捜しています。そのためにこうして各地を渡り歩いています。2つ目は……そうですね、少しおとぎ話をしてあげましょう」
「あなた達の曾祖父様辺りだったと思います。そう遠くはない昔、大陸の各地が次々と謎の軍勢に支配される事件が起きました。最初は誰もが原因を知らず、不安な毎日を過ごしていました。けどそんなある日、その元凶が姿を現しました。その正体は闇の王。この世界に生きる生物達の苦しみ、憎しみ、憎悪、復讐など、ありとあらゆる負の集合体から出来たと生き残った者達からそう言われています」
「闇の王が次々と大陸の各地を支配していく中、そんな闇の王に対抗する者が現れました。長くなるため、内容は省略させてもらいますがその者は不思議な力を使い、激闘の末闇の王の身体をバラバラにしました。その後、その時代の世界は再び平和になりました。ですが近頃、各地で闇の王の配下と呼ばれる魔物が各地に姿を現しました。さっきあなた達の前に現れたあの魔物も闇の王の配下と呼ばれる魔物です。配下達は大なり小なり闇の王と同じ黒いオーラを放つためすぐに分かります」
そう言うとイルネは2つ目の指を下ろす。
「そしてここが私達の2つ目の目的。闇の王達の始末。彼らは決してこの世界にいてはならない存在。だから私達は1つ目の目的と同時に闇の王の配下を始末しています。そして最終的には闇の王を打ち倒す。……私達がこれまで倒してきた配下の数からして恐らく闇の王は復活……いえ、復活しようとしている可能性が高いです。昔の話でも"バラバラにした"という言葉はありますが"倒した"という言葉はない……以上が私からの話です」
「以上って言われても話が膨大で理解が追いつかねぇ……最初の目的はいいとして2つ目は俺達にも関係があることなんじゃないのか? その……闇の王がもし復活してたらあんた達クインテット騎士団でも大変だろ」
「必要ありません。現状闇の王の姿は見えません。だからあなた達がわざわざ闇の王の配下を倒す必要もないですしそれは私達がするべき役目です」
するとここで今まで黙っていたユーフィが口を挟む。
「なんであんた達の役目なの?」
「それは私達の1つ目の目的に繋がるため言えません。ただ、余計な手出しはしないで欲しいという意味です。もし邪魔をするのであれば……」
その時、イルネの鎧に変化が起きた。鎧の色が兜を含めどんどん暗くなり、紫色へと変化しようとしている。
「なんだあれは?」
「っ!? 何が起きてるの……?」
すると、近くでイルネを見ていたンドネアが口を開いた。
「2人に忠告するである。彼女と戦いたくなければ一刻も早くここから立ち去るが良い。彼女には二重人格という2つの顔がある。1つは今のような彼女であるがもう1人の彼女は相当危険である。逃げるなら今しかないである……って、マジか……」
ンドネアが言い終えると同時に彼女の鎧はすっかり紫色の鎧へと変化していた。彼女は長い剣を鞘から取り出し、ユーフィへと向ける。
「さてと、あなた達をここで無力化しておこうかしら。あっ、あたしの名はネルイ。この子のもう1人の私よ」
笑みを浮かべるネルイ。まるでアレス達を見下しているようにも見える。
「へぇ……口が絶えない女ね……」
「おいユーフィ……」
喧嘩の売り言葉に買い言葉だろうか。ユーフィは炎を纏った拳を出し、バキバキと拳を鳴らした。
どうやらやり合うつもりのようだ。
だがーー、
「あいたっ!?」
ネルイが痛そうに頭を抑える。頭を軽く叩いたのはンドネアだ。
「やめておけネルイ。今こんなことしてる場合ではなかろう」
「っ……そう言えばそうね」
そう答えると剣を鞘に収めた。その代わり背中に背負ってた杖を取り出す。
「それなら次会う時に戦いましょ? それじゃあまたね。座標転移」
「「っ!?」」
次の瞬間、ユーフィとアレスの足元が怪しく光り出す。
「なんだこれは!」
「あなた達を強制的に転移させる魔法よ。あ、それじゃバイバーイ」
魔法が起動する直前、最後に視界に入ったのはネルイの妖艶な表情だった。
「その表情をするのはいいがネルイよ、この女はどうするのだ?」
ンドネアが指さした方を見る。そこにはユーフィが倒した女性が倒れていた。
「あ……忘れてた」
「っ……! 助けに行かないと……ぐっ!」
「駄目よ和樹」
「今は無理をしちゃ駄目です!」
俺は出ていった2人を追いかけようと身体を起こし、立ち上がるが相当魔力が枯渇しており、その場に倒れた。
それを見たエルシィとフィアスが俺に声をかける。
その時、玄関辺りに穴が出現し、その穴は輝きを放った。
「「「「「「っ!」」」」」」
その場にいた全員が眩しさに思わず目を瞑る。
「あっ! お兄ちゃんだ!」
「えっ!?」
「アレスにユーフィ……?」
輝きがおさまり、声を上げたのはチィちゃんだった。
その言葉に俺も目を開けるとそこにはアレスとユーフィ、そして見知らぬ女性の3人がいたのだ。
「ん……」
「ここは……っ! 和樹! 目を覚ましたのか!」
その後、俺は意識を失ってからの状況をみんなから教えて貰った。
アレスとユーフィがなぜここに来たのか。そして俺が魔物を倒して気を失った後、エルシィとフィアスは俺の看病を。アレスとユーフィは連れ去られた男達を連れ戻しに湖へ向かったこと。そこで例の鎧騎士に出会ったこと。俺が宿屋で見た人形もこの村に来て出会った魔物も全て闇の王の配下であったこと。
「そうですか……」
ここまでの話の中で1番凹んでいたのはペルシナさんだった。
無理もない。結局男達は魔物と共に姿を消し、旦那さんも帰ってこなかったのだから。
「結局振り出しってところよね」
「いいえ、振り出しなんかじゃありません」
エルシィの言葉をペルシナさんが否定する。
「あなた達のおかげで村の病はなくなり、チィも村長も元気になりました。それだけでも充分です。それに、これ以上あなた達を危険な目に合わせるわけにはいきません。村長、お願いします」
そう言うとペルシナさんは村長を呼んだ。すると村長は何かを抱えて扉から出てきた。
「ペルシナも言った通りそなた達には世話になった。だからこれはそのお礼じゃ」
そう言い長机の上に袋を置いた。途端、ジャラジャラという音が鳴る。
「これは……もしかしてお金ですか?」
「そうじゃ。報酬に加えてわしら村の者達の礼の気持ちの分も入っとる。皆で分けてくれ」
「……村長、私達は貰えないわ」
ユーフィがそう言う。
「私達は村の原因を解決するために来たわ。けどまだ1つ、連れ去られた男達の件が残ってるわ」
「和樹達はともかく、僕達は貰えません」
ユーフィに続き、アレスも言う。それを聞いた村長は突然笑い出した。
「はっはっは! そなた達はとても堅いのう。じゃが、これはどうしても貰って欲しいんじゃ。村のみんなの気持ちもこもっておるからな」
そう言うと、村長はフィアスの方へと近づいた。
「そこのお嬢さん、ちょいと両手を出してくれ」
「え? えと、こう……ですか?」
ジャラン。
お金の入った袋が村長からフィアスへと手渡される。
「よし、これでこの袋はそなた達の物じゃ。仲良く分けてくれ」
「えぇっ!?」
「馬鹿……」
驚くフィアスにため息をつくユーフィ。
この爺さん受け取ってくれそうな人狙って渡したな。フィアスも優しいから村長を全く疑わなかったし。
その後、俺の体調のこともあり、外も夜だったことからペルシナさんの家に泊まらせて貰った。宿屋に泊まろうと思ったのだが聞いたところ小さな村だからないと言われた。
鍛冶屋の割にペルシナさんの家は広く、特に奥行が広いので(とはいっても一部屋に数人入る形になるが)全員泊まることが出来た。
女子部屋にユーフィ、エルシィ、フィアスの3人。男子部屋に俺とアレスの2人だ。
現在、女子達は夕食を作るペルシナさんの手伝いをしている。
そんな中、男子部屋に中学生くらいのショートカットの女の子が部屋に入ってくる。それも何かを抱えて。
「お兄ちゃん見てみてー!」
そう言い、抱えていた何かを俺達に見せてくる。
「ミャー」
クリっとした目に細く白いヒゲ。頭にはフワフワの耳が2つあり、お尻には黒と白色が混じった尻尾がついている。見た感じ白黒の猫だ。
「猫……?」
アレスがそう言った次の瞬間、俺の脳内にある言葉が浮かんだ。
『アイテムボックス』
「ん? アイテムボックス……?」
とりあえずアイテムボックスを見てみる。するとカードが入った本が青白く光っていた。
開いた途端、何かが勝手に召喚された。
「うおっ!?」
「和樹、どうした? ……卵?」
「おぉー、黒髪のお兄ちゃんもお友達いるんだね!」
そこには青い翼を生やした卵がいた。相変わらずのっぺらぼうだ。それにしてもなんで……
すると突然、のっぺらぼうな顔に何かが表示された。そこには文字がある。
『シュペルマー確認。第1試練達成』
「えっ?」
この女の子が抱えてる猫がシュペルマーなのか……?
3日後、体調が万全に戻った俺はペルシナさん達と別れ、アレスとユーフィを含め、再び白銀の竜パーディリオンの背に乗ってバルへイム王国へと帰還した。
もちろん俺は酔い、ついでに空で吐いた。俺の身体弱すぎないか?
過去編終了。次話から本編へと戻ります。




