第52話 逢魔竜、2人の騎士
「うっ……」
あれからどれくらいの時間がたっただろか。
「っ! 和樹!」
「和樹さん!」
目を覚ますと、エルシィとユーフィの顔が視界に入った。
「っ……ここは?」
身体を起こそうとするが力が入らない。相当疲弊しているようだ。くそ、思った以上に動けねぇ。
「ペルシナさんの家よ。フィアスがあなたをここまで運んだのよ」
「私だけじゃないです。アレスさんとユーフィさんも手伝ってくれました」
「そっか……みんなありがとう。どのくらい倒れていたんだ?」
「二時間くらいよ。原因は魔力欠乏症。やっぱりあの時のダメージが残ってるんだわ。しばらく安静にしなさい」
二時間も倒れていたのか……俺って思った以上に疲弊していたんだな。あの時のダメージ。確かにあれは精神ダメージと物理的ダメージの両方を受けていたからな……もっと考えて動かないとな……
辺りを見渡し、アレスとユーフィがいないことに気づく。
「あれ? アレス達は?」
「2人は……」
☆☆☆
その頃、ユーフィとアレスは目の前に立つ黒い敵を前に苦しい表情で地面に膝をついていた。
「くっ……」
「あらごめんなさいね。あなた達とあたしの魔力の差が桁違いなせいで瘴気に当てられているようね」
黒い敵は長い漆黒の翼を背にしまいながらそう言う。それは、人間とも竜とも言い難い別の存在のように見える。
この黒い敵がこれまでユーフィ達が戦ってきた魔物達を遥かに上回る強さを持っているという事実が辺りに振りまく黒いオーラと瘴気から分かる。
早くこの場から逃げないと。そう身体が自身に警告する。だが、降りかかる瘴気に苦しみ、身動きがとれない。
「でも、あなた達も悪いわ。あたしの玩具と可愛いペットと人形を倒しちゃったんだから。これはお仕置きが必要ね」
そう言い、ユーフィに近づく黒い敵。だがその時、アレスが前に立ちはだかった。
「アレス! 何やってるの!? 早く逃げなさい!」
「あら? 何のつもりかしら?」
「っ……ユーフィに手は出させない」
フラフラの状態で両手を広げるアレス。彼の額にはびっしりと汗が滲んでいる。
「ふーん、いい度胸ね。そういうの好きよ。なら遠慮なくあなたから潰させてもらうわ」
そう言うと手に黒い槍のようなものを手にした。そのままアレスの頭に振り下ろそうと高く上げる。
だが、その槍が振り下ろされることはなく次の瞬間、黒い槍が粉々に砕かれた。
「そこまでです。逢魔竜ルビアナ」
透き通った女の声に黒い敵もアレスとユーフィもその声の方を見る。途端、黒い敵の表情が険しくなる。
そこには桃色の鎧を着た女騎士と茶色の鎧を着た男騎士が立っていた。それぞれ女は杖を、男は拳にグローブのようなものを付けていた。
「っ……! チッ……面倒なことになりそうね。なら……」
そう呟くと黒い敵は黒い翼を勢いよく羽ばたかせ始め、空を飛んだ。
「また会いましょう。次こそあなたたちをお仕置きしてあげるわ。ついでにそこの男達は貰っていくわね」
「っ! 待て!」
黒い敵が離れたことで黒いオーラと瘴気が離れ、アレスが復活し、黒い敵を追いかけようとするがその前に彼らはまるで暗闇に紛れるかのように姿を消した。
気がつくと、辺りは真っ暗ですでに月の光がアレス達を照らしていた。
「っ……」
湖の周りにいたたくさんの男達は黒い敵によって攫われ、辺りには全く人の気配が無かった。今この場にいるのはアレスとユーフィ、アレス達をここまで案内した女性と先程ユーフィが倒した女性。そして、
少し離れたところに立つ2人の騎士だけだ。
お互い沈黙しているとしびれを切らしたのか、桃色の鎧を着た騎士がこちらに数歩歩み寄る。
綺麗な鎧。だが、顔も兜を被っており、表情は伺えない。
「早くその子を連れてここから立ち去って下さい。あなた達がいていい場所ではありません。それと、今日起こった事を忘れてくだい」
突然、桃色の鎧騎士は開け口一番そう言い放つ。女性の声だ。
「待ってくれ、それはどういう意味なんだ? あんた達はいったいなんなんだ?」
「そのままの意味です。それ以上は答えるつもりはありません」
アレスの問に応えようとしない桃色の鎧騎士。すると今度は茶色の鎧騎士が桃色の鎧騎士に歩み寄る。そして肩をポンと叩いた。
「がっはっは! 相変わらず堅すぎるぞイルネ。ここはお互いきちんと腹を割って話そうではないか」
「それはダメです! あなたも分かっているでしょう? 私達があの人に託された運命を。これは私たちの問題です」
「でもな、何も話さないと誤解を生むし、それこそ疑問に思って不審な行動を取り、どこぞの隊長さんにやられたように問答無用でやられる奴が出るかもしれないぞ?」
「っ……それは……」
桃色の鎧騎士は考え込む。
しばらくしてため息をついた。
「仕方ないですね……彼らに話をしましょうか」
そう言うと鎧騎士達はアレス達を方を向いた。
「あなた方に話してあげましょう。あの黒い敵と私達について」




